第九十七話:戦略の深度と最終準備への移行
ー/ー BPI強化プロジェクトが完了し、六龍姫、六天将をはじめとする盟約軍の主要戦力が大幅な能力増強を果たした。その成功は、司令部全体に、魔王軍という最大の脅威に立ち向かう熱狂的な自信をもたらしていた。
紅蓮の激情竜姫レヴィアは、玉座に座るヒカルの隣で、炎の髪を揺らしながら歓喜の声を上げる。
「夫よ! 私の炎のBPIは、誰もが恐れるBPI 1200の領域よ! 魔王軍など、この激情の矛で一瞬にして焼き尽くせるわ! 王の最大の矛である我の愛が、最強だと証明されたわね!」
レヴィアのBPI 1200は、単なる火力ではない。ヒカルの心臓が発する一拍の猶予だ。彼女の力そのものが、ヒカルの生存確率を各段に上げるのだ。
蒼玉の理性竜姫アクアは、冷静な瞳に満足の色を宿す。
「王よ。感情的な興奮は非効率ですが、私のBPIは約600です。BPI強化がユニゾンにもたらす安定性は、論理的に見て魔王軍の非合理な力に対抗しうる最高の知恵の盾となりました。我々は、優位な戦場を構築できます」
(レヴィアのBPI 1200、ヴァルキリアのBPI 1050…この数値が統合されれば、魔王軍四天王にも対抗可能となる。しかし、油断はできない)
闇の特務機関長ヴァルキリアと、その補佐漆黒の工作師シェイドだけは、厳しい表情を崩さなかった。
ヴァルキリアは、闇の魔力を解放し、司令部全体に冷たい緊張感を広げた。
「契約者。これは単なる残党の活動ではありません。魔王軍の『瘴気』です。その魔力は、世界の理を歪ませる、原初的な憎悪の音色を放っています。我々のBPI強化ですら、飲み込まれかねない巨大な脅威です」
シェイドが、静かに玉座の前に進み出て、警告を重ねる。
「ヒカル王。戦いは、遅くとも数か月以内に始まるでしょう。早ければ、一ヶ月以内に、魔王軍の尖兵がこの統一領に侵入します。我々は、BPIという矛だけでなく、知恵という盾の全容を急ぎ決定せねばなりません」
◇◆◇◆◇
魔王軍という巨大な脅威を前に、ヒカルの「戦場の視覚化」は、BPI強化だけでは世界を護りきれないという、冷徹な現実に直面した。
ヒカルは、BPI強化プロジェクトの技術統括であったアウラ、エルダー・ソフスに、技術統合の最終確認を命じた。
「アウラ、ソフス。魔王軍の非合理な憎悪の魔術に対抗できる、知恵の盾は完成したか?」
アウラが冷静に報告する。
「王よ。人類側のDSW応用技術と、ルーナ王妃の調律の光を融合させることで、魔王軍の瘴気を一時的に中和するバリアの開発は完了しました。しかし、魔王軍四天王クラスの攻撃を継続的に防御することは、論理的に不可能です。技術開発は、更なるマナ資源と、人類側の天才の協力を必要とします」
ヒカルは、BPI強化という「矛」だけでは世界を護りきれないという、冷徹な現実に直面した。
(優しさが最強の力だと証明するには、武力だけでなく、戦略の深度が不可欠だ。愛する者たちとこの世界を護るため、俺は王として、孤独な知恵の決断を下さねばならない)
◇◆◇◆◇
ヒカルは、最高戦略官アクア、人類側の知恵を代表する元聖女候補シルヴィア、そして旧帝国皇族の血を引くレオーネ皇女の三者を招集し、緊急戦略会議を開いた。
「魔王軍との最終決戦において、我々のBPIは優位性を得た。しかし、これは竜族の戦力のみの話だ。アクア、シルヴィア、レオーネ。全人類の知恵を統合するにあたり、他に打てる手はないか。一ヶ月の猶予で、全ての可能性を潰す」
蒼玉の理性竜姫アクアが、即座に論理的な現状分析を提示する。
「王よ。打つべき手は三つ。第一に人類側の全勢力の統合、第二に継戦能力の確保、第三に外交的な防波堤の構築です。エルフ、ドワーフとの交渉(外交的防波堤)は、あくまで保険です。真の鍵は、人類側の知恵と兵力の統合にあります」
元聖女候補シルヴィアが、信仰と人心掌握の観点から意見を述べる。
「ヒカル王。人類側では、旧ドラゴンスレイヤー教団の残存勢力への対応が急務です。彼らの信仰の力は無視できません。教団の技術者や兵士を、王の優しさの理念のもとで再編成し、BPI強化技術の恩恵を人類側にも広げることで、彼らの憎悪を忠誠へと変えることが可能です。人員の確保は、ここにあります」
旧帝国皇女レオーネが、行政と政治の観点から外交戦略を提案する。
「シルヴィア殿の意見は理にかなっています。さらに、辺境連合と通商連合への根回しも急ぐべきです。辺境連合の持つゲリラ戦術の知恵と、通商連合の持つ広大な物流ネットワーク(ゼファーの管轄外の闇ルート)は、魔王軍が国境を破った際の継戦能力を左右します。特に通商連合の裏の顔を、闇の特務機関と連携させ、魔王軍の情報戦を攪乱すべきです」
ヒカルは、三者の深く、そして愛の形に裏打ちされた戦略に満足した。
「分かった。アクア、お前は引き続きエルフ・ドワーフへの秘密交渉を主導し、最終的な防波堤を築け。シルヴィアは、教団残存勢力への懐柔とBPI強化技術の開示を命じる。レオーネ、お前の任務を更に明確にする」
レオーネは、ヒカルの言葉を受け、深く、しかし迅速な確認を求めた。
「ヒカル王。恐縮ですが、確認させてください。人類側の戦略実行は、レオナルド摂政の正式な権限を伴います。全てを円滑に進めるため、連携先について、一つずつ確認させてください」
「流石はレオーネ皇女だ。よろしい。確認せよ」
ヒカルは、レオーネの聡明さに満足げな笑みを浮かべた。
「人類側の兵力の連携については、お前の兄、摂政レオナルドとの連携を最優先とし、人類軍の即応体制を確保せよ」
「辺境連合への根回しは、土の竜姫テラの防御基盤と連携を図る。この連携は、テラ王妃の母性的な献身が最も響くと考えてよろしいでしょうか?」
「その通りだ。テラの母性こそ、人類の兵士の心を安堵させる最高の防御だ」
「通商連合への根回しは、空虚の斥候王ゼファーと、物流・貿易次官ウィンド・ランナーの物流網と統合し、継戦能力を最大化する。この指示は、闇の特務機関(ヴァルキリアとシェイド)の諜報サポートを最優先と理解してよろしいでしょうか?」
「そうだ。通商連合の裏の顔は、闇の忠誠が最も論理的に処理できる」
「たしかに、ヴァルキリア様とシェイド様が最適と私も考えます」
レオーネは、一つひとつ丁寧に確認していく。続いて、そのうえでの防衛戦略について確認が進められた。
「そして、この全ての財政面、特に闇ルートを含めた経済防衛戦略については、金の竜姫ギルティアの最終的な判断を仰げ。技術開発については、DSW応用技術の更なる進化のため、全軍のBPIデータをアウラに集中させ、対魔族戦用の新兵器の開発を最優先とする」
「かしこまりました。仰せのままに……」
ヒカルは、円卓を見渡し、静かなる王の宣言を行った。その瞳には、すでに戦場の全景が見えているようだった。
「全軍の準備は、今日からフェーズ・アルファへ移行する。愛のユニゾンが、憎悪という名の魔王の支配を打ち砕くことを、世界に証明する」
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