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第四十八話:古王軍残党の編入と土と光の抱擁

ー/ー



 古王討伐から数日。盟約軍は、ギルティアの財務監査を受け入れつつも、依然として燻る軍事的な火種に直面していた。

 それは、古王に最後まで忠誠を誓ったユグドラ率いる約800の残党兵だった。彼らは古城の北に位置する山岳地帯に篭もり、ヒカルの王権を認めることなく、反抗の機会を窺っていた。彼らは古王の恐怖によってではなく、武人としての誇りによって動く、最も厄介な勢力だった。

 ヒカルは城の最上階で、眼下の荒野を見つめていた。ユグドラの陣営は、岩山を背にした天然の要害にあり、その配置は鉄壁の将であった古王軍の土属性部隊の指揮官らしい、堅牢なものだった。

「王よ。ユグドラ軍は、交渉を拒否しています」

 後方戦略総司令官のシエルが、戦略盤に新たな魔力分布図を表示した。

「彼らは我々の物資補給路を断つ位置に布陣しており、放置はできません。古王軍の中でも精鋭の防御部隊であり、強行突破は兵力とユニゾンの大きな消耗を招きます。王の御判断を」

 ヒカルはユグドラの魔力図を凝視した。それはレヴィアの激情のような派手さはないが、大地のように硬質で、動かない武人の誇りの音色を放っていた。ヒカルの目的は、この硬い誇りを破壊することではない。

 ヒカルが視線を移すと、隣には蒼玉の理性竜姫アクアが控えていた。そして、磐石の守護龍テラ、純白の調和聖女ルーナが並び立つ。後方司令部にはシエルやレヴィアが残された。

「ユグドラの防御戦術は、テラに匹敵する。テラとルーナ、お前たちの力を貸してくれ。武力による討伐は最後の手段だ。俺の目的は殲滅ではない。共存だ」

 アクアは冷静に、しかし強い意志を込めて進言した。

「王。論理的には、ユグドラ軍の士気を削ぐには、彼らの感情を揺さぶる必要があります。最小限の布陣で、ユニゾンによる創造の力を示す。これが彼らの武人の誇りを尊重しつつ、戦意を喪失させる唯一の合理的戦略でしょう」

 ルーナは一歩前に進み出た。

「ヒカル様。私の光の力は、憎悪を愛で調律するためにあります。ユグドラ殿の誇りは、必ず貴方の優しさに響く。どうか、安寧の光を信じて」

 ヒカルの言葉に応じ、テラとルーナが優雅な衣装を翻し、ヒカルとアクアと共に最前線へと進む。盟約軍の最高司令官ヒカルと、三人の姫という最小限の布陣は、ユグドラ軍に対する最大の侮辱と最大の慈悲という二つの意味を持っていた。

 ◇◆◇◆◇

 ユグドラが率いる残党軍の前にヒカルたちが姿を現すと、ユグドラは激昂した。

「馬鹿にするな、人間よ! わずかな護衛と姫たちだけで、我々800の武人に相対するとは! 我らは古王に最後まで忠誠を誓った武人。貴様の偽りの優しさに屈することはない!」

「ユグドラ。貴方の忠誠心は美しい。だが、古王の支配は兵士の命を蔑ろにした。真の王は、力を破壊ではなく創造に使う」

 ヒカルの言葉に応じ、テラとルーナが同時に魔力を解放した。

「大地と光の浄化(光土ユニゾン)、発動!」

 テラの重厚なチェロの低音と、ルーナの調律を司るホルンの静謐な響きが融合。姫たちのみに許されたユニゾンは、破壊的なブレスではなく、温かい生命の光を放ちながら、ユグドラ軍の陣営全体を包み込んだ。

 その光は、長期間にわたる消耗を強いられた兵士たちの肉体の疲弊と、古王の恐怖による心の傷を、音を立てて癒やし始めた。兵士たちの戦意は急速に低下していく。それは、古王への恐怖から解放され、安寧という感情に心が満たされることで、戦う理由そのものを失うからだった。

「馬鹿な…………! これは、治癒の力!? なぜ、破壊のために力を尽くさない! 兵士たちよ、剣を振るえ! 戦意を維持しろ!」

 ユグドラは、その場に大剣を突き立て、膝をついた。

「…………ヒカル王。我々の敗北だ。この命を以て、古王への忠誠を貫く。どうか、私を殺せ」

 ユグドラの言葉は武人としての最後の矜持を示していた。ヒカルは、ユグドラの頭上に愛の指揮棒をかざすと、静かに諭した。

「ユグドラ。貴方の忠誠心は、古王が亡き今、この国を統一するために不可欠な誇りだ。これ以上の犠牲は、不要だ。貴方は、敵ではない。共にこの国を作るべきだ。貴方の力は、俺の優しさのために使え」

 ルーナが静かに一歩前に進み出た。彼女の純白の神官服は、慈愛の光を増幅させる。

「ユグドラ殿。貴方の命は、もはや貴方だけのものではありません。大地を耕し、命を育むテラの愛と、安寧の光を布教する私の愛は、貴方たち全員の未来を護るためにあります」

 ユグドラは、自らの命を捨てることの非合理性と、残党兵への責任感、そしてヒカルの度量を悟った。

「……ヒカル王。このユグドラ、貴方の度量に心から忠誠を誓います」

 ヒカルは、ユグドラを【古王軍編入部隊 総司令官】としてシエルと並ぶ共同参謀の役割に登用することを宣言。この大胆な人事は、旧古王軍の兵士たちに王の度量と信頼を示す、最高の政治的ユニゾンとなった。

 テラは、ユグドラの登用に心から喜び、彼の献身的な愛を具現化する。

「主(あるじ)の兵が増えたのですから、わらわの義務も増えます。ユグドラ殿、ご苦労様でした」

 テラは、自ら古城に戻ると、徹夜で愛情料理を大量に振る舞った。彼女は、ユグドラ軍の800の残党兵一人一人に、薬草入りの温かいシチューを手渡し、「あなたたちは、今日からヒカル様の家族です」と優しく語りかけた。

 テラはこの献身的な功績をヒカルに報告する際、王妃の座を賭けた愛の報酬を独占的に要求した。

「テラ。よくやった。MVPは、お前だ」

 ヒカルの裁定に、テラは至福の笑みを浮かべた。しかし、その時、純白の調和聖女ルーナが、静かに不満を漏らした。

「ヒカル様…………! 大地を浄化し、兵士たちの心を癒やしたのは、テラ姉さまと私の光土ユニゾンの貢献あってこそです。精神的な安寧への貢献度も、評価していただきたいわ」

 ルーナの言葉は、テラの肉体的な独占という愛の形に対し、精神的な独占という形で対抗する静かな宣戦布告だった。

 ヒカルは、テラとルーナの献身的な愛が、それぞれ肉体と精神という最も重要な二つの安寧を巡って愛の競争を始めたことを察知。疲弊したヒカルは、テラの肉体的な独占とルーナの精神的な独占という二つの愛の義務を同時に負い、愛の奔流に晒されることになった。

「分かった、ルーナ。お前たちの愛は、どちらもこの王に不可欠な義務だ。今夜は、二人まとめて、この王に最高の安寧を与えてくれ。この王の体力が持てば、な」

 ヒカルの疲弊した裁定に、テラとルーナは満足げに微笑んだ。こうして、ヒカルの肉体的な安寧を巡る競争は、新たな局面を迎えることになった。



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 古王討伐から数日。盟約軍は、ギルティアの財務監査を受け入れつつも、依然として燻る軍事的な火種に直面していた。
 それは、古王に最後まで忠誠を誓ったユグドラ率いる約800の残党兵だった。彼らは古城の北に位置する山岳地帯に篭もり、ヒカルの王権を認めることなく、反抗の機会を窺っていた。彼らは古王の恐怖によってではなく、武人としての誇りによって動く、最も厄介な勢力だった。
 ヒカルは城の最上階で、眼下の荒野を見つめていた。ユグドラの陣営は、岩山を背にした天然の要害にあり、その配置は鉄壁の将であった古王軍の土属性部隊の指揮官らしい、堅牢なものだった。
「王よ。ユグドラ軍は、交渉を拒否しています」
 後方戦略総司令官のシエルが、戦略盤に新たな魔力分布図を表示した。
「彼らは我々の物資補給路を断つ位置に布陣しており、放置はできません。古王軍の中でも精鋭の防御部隊であり、強行突破は兵力とユニゾンの大きな消耗を招きます。王の御判断を」
 ヒカルはユグドラの魔力図を凝視した。それはレヴィアの激情のような派手さはないが、大地のように硬質で、動かない武人の誇りの音色を放っていた。ヒカルの目的は、この硬い誇りを破壊することではない。
 ヒカルが視線を移すと、隣には蒼玉の理性竜姫アクアが控えていた。そして、磐石の守護龍テラ、純白の調和聖女ルーナが並び立つ。後方司令部にはシエルやレヴィアが残された。
「ユグドラの防御戦術は、テラに匹敵する。テラとルーナ、お前たちの力を貸してくれ。武力による討伐は最後の手段だ。俺の目的は殲滅ではない。共存だ」
 アクアは冷静に、しかし強い意志を込めて進言した。
「王。論理的には、ユグドラ軍の士気を削ぐには、彼らの感情を揺さぶる必要があります。最小限の布陣で、ユニゾンによる創造の力を示す。これが彼らの武人の誇りを尊重しつつ、戦意を喪失させる唯一の合理的戦略でしょう」
 ルーナは一歩前に進み出た。
「ヒカル様。私の光の力は、憎悪を愛で調律するためにあります。ユグドラ殿の誇りは、必ず貴方の優しさに響く。どうか、安寧の光を信じて」
 ヒカルの言葉に応じ、テラとルーナが優雅な衣装を翻し、ヒカルとアクアと共に最前線へと進む。盟約軍の最高司令官ヒカルと、三人の姫という最小限の布陣は、ユグドラ軍に対する最大の侮辱と最大の慈悲という二つの意味を持っていた。
 ◇◆◇◆◇
 ユグドラが率いる残党軍の前にヒカルたちが姿を現すと、ユグドラは激昂した。
「馬鹿にするな、人間よ! わずかな護衛と姫たちだけで、我々800の武人に相対するとは! 我らは古王に最後まで忠誠を誓った武人。貴様の偽りの優しさに屈することはない!」
「ユグドラ。貴方の忠誠心は美しい。だが、古王の支配は兵士の命を蔑ろにした。真の王は、力を破壊ではなく創造に使う」
 ヒカルの言葉に応じ、テラとルーナが同時に魔力を解放した。
「大地と光の浄化(光土ユニゾン)、発動!」
 テラの重厚なチェロの低音と、ルーナの調律を司るホルンの静謐な響きが融合。姫たちのみに許されたユニゾンは、破壊的なブレスではなく、温かい生命の光を放ちながら、ユグドラ軍の陣営全体を包み込んだ。
 その光は、長期間にわたる消耗を強いられた兵士たちの肉体の疲弊と、古王の恐怖による心の傷を、音を立てて癒やし始めた。兵士たちの戦意は急速に低下していく。それは、古王への恐怖から解放され、安寧という感情に心が満たされることで、戦う理由そのものを失うからだった。
「馬鹿な…………! これは、治癒の力!? なぜ、破壊のために力を尽くさない! 兵士たちよ、剣を振るえ! 戦意を維持しろ!」
 ユグドラは、その場に大剣を突き立て、膝をついた。
「…………ヒカル王。我々の敗北だ。この命を以て、古王への忠誠を貫く。どうか、私を殺せ」
 ユグドラの言葉は武人としての最後の矜持を示していた。ヒカルは、ユグドラの頭上に愛の指揮棒をかざすと、静かに諭した。
「ユグドラ。貴方の忠誠心は、古王が亡き今、この国を統一するために不可欠な誇りだ。これ以上の犠牲は、不要だ。貴方は、敵ではない。共にこの国を作るべきだ。貴方の力は、俺の優しさのために使え」
 ルーナが静かに一歩前に進み出た。彼女の純白の神官服は、慈愛の光を増幅させる。
「ユグドラ殿。貴方の命は、もはや貴方だけのものではありません。大地を耕し、命を育むテラの愛と、安寧の光を布教する私の愛は、貴方たち全員の未来を護るためにあります」
 ユグドラは、自らの命を捨てることの非合理性と、残党兵への責任感、そしてヒカルの度量を悟った。
「……ヒカル王。このユグドラ、貴方の度量に心から忠誠を誓います」
 ヒカルは、ユグドラを【古王軍編入部隊 総司令官】としてシエルと並ぶ共同参謀の役割に登用することを宣言。この大胆な人事は、旧古王軍の兵士たちに王の度量と信頼を示す、最高の政治的ユニゾンとなった。
 テラは、ユグドラの登用に心から喜び、彼の献身的な愛を具現化する。
「主《あるじ》の兵が増えたのですから、わらわの義務も増えます。ユグドラ殿、ご苦労様でした」
 テラは、自ら古城に戻ると、徹夜で愛情料理を大量に振る舞った。彼女は、ユグドラ軍の800の残党兵一人一人に、薬草入りの温かいシチューを手渡し、「あなたたちは、今日からヒカル様の家族です」と優しく語りかけた。
 テラはこの献身的な功績をヒカルに報告する際、王妃の座を賭けた愛の報酬を独占的に要求した。
「テラ。よくやった。MVPは、お前だ」
 ヒカルの裁定に、テラは至福の笑みを浮かべた。しかし、その時、純白の調和聖女ルーナが、静かに不満を漏らした。
「ヒカル様…………! 大地を浄化し、兵士たちの心を癒やしたのは、テラ姉さまと私の光土ユニゾンの貢献あってこそです。精神的な安寧への貢献度も、評価していただきたいわ」
 ルーナの言葉は、テラの肉体的な独占という愛の形に対し、精神的な独占という形で対抗する静かな宣戦布告だった。
 ヒカルは、テラとルーナの献身的な愛が、それぞれ肉体と精神という最も重要な二つの安寧を巡って愛の競争を始めたことを察知。疲弊したヒカルは、テラの肉体的な独占とルーナの精神的な独占という二つの愛の義務を同時に負い、愛の奔流に晒されることになった。
「分かった、ルーナ。お前たちの愛は、どちらもこの王に不可欠な義務だ。今夜は、二人まとめて、この王に最高の安寧を与えてくれ。この王の体力が持てば、な」
 ヒカルの疲弊した裁定に、テラとルーナは満足げに微笑んだ。こうして、ヒカルの肉体的な安寧を巡る競争は、新たな局面を迎えることになった。