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第四十七話:黄金の鑑定士と財源の確保(アクアとギルティア)

ー/ー



 古王の玉座の間が巨大なクレーターと化した翌日。

「世界統合審判」の余波が作り出した地獄のような荒野とは裏腹に、ヒカルたちが新たな拠点と定めた古城は、六龍ユニゾンの成功によって得られた安堵と静謐に満ちていた。

 しかし、その安堵は長くは続かない。ヒカルの心には、古王の恐怖による支配を終わらせたという達成感よりも、新たな課題の重みがのしかかっていたからだ。

(古王を討ち果たしたが、この城塞はまだ戦時体制のままだ。兵站、財務、統治…………すべてが未整備のまま、人間社会という巨大な敵と対峙しなければならない)

 ヒカルは自室で、古地図と戦略盤を睨んでいた。疲弊しきった脳裏に、計算機のような冷たさと金の匂いを伴う、金属的な音色が響く。それは、六龍姫の愛の音色とは全く異なる、論理に特化したノイズだった。

「王よ。お疲れのところ恐縮ですが、客人です」

 深海の戦術師シエルが、一人の女性を伴って入室した。シエルは、古王軍の崩壊に乗じて城内に侵入したこの異質な存在を、戦略的な最優先事項として判断し、ヒカルとの謁見を許可した。

 ヒカルは立ち上がり、冷静な瞳でアクアとシエルを見つめた。

「わかった、すぐに行こう。それから、シエル、アクア。戦況は分かっているな。我々が今、早急に対処すべき脅威をリストアップしてくれ」

 蒼玉の理性竜姫アクアが、冷静沈着な声で報告を始めた。彼女の銀色の髪は、分析的な知性を放っている。

「御意、王。現在、我々が直面する脅威と課題は多岐にわたります。まず、軍事的な脅威として、一つ、ユグドラを筆頭とした古王軍残党が山奥に撤退し、いまだ忠誠心を持たぬまま、反抗の機会を窺っている。彼らの討伐か編入、どちらにしても大きな労力を要します」

 謁見の間に向かって歩きながらの会話。シエルがそのリストに情報を加える。

「二つ、知識の守護者(エルダー・ソフス)ら賢者が握る古代の知識の不足は、古王が温存した古代魔術への対処を不可能にします。三つ、情報網の未整備は、人間社会の謀略に晒される致命的な穴。そして四つ、元古王の勢力下にあった地域の復興と統治という行政的な課題です」

 アクアは、あえて言葉を切った。

「そして五つ目、最も致命的なのが経済的基盤の欠如です、王。ユニゾンは最強ですが、我々には通貨、税制、資源管理といった、王国の根幹を支える論理が存在しません。このままでは兵士の消耗は士気低下に直結し、優しさが生んだ軍事力が資金難により崩壊します。この経済問題を最優先で解決しなければ、他のすべての課題も連鎖的に破綻します」

 ヒカルは、アクアの合理的愛が、この訪問者の価値を論理的に確定させたことを理解した。

 謁見の間には1人の女性が待っていた。

 彼女は、白と金色の豪華なドレス風の戦闘服に身を包み、傲慢な優雅さをもってヒカルを見据える。

「初めまして、ヒカル王。古王の元財宝番、黄金の鑑定士ギルティアと申します」

 ギルティアは一礼することなく、ヒカルの存在を価値ある資産として査定するようだった。

「ギルティア。お前は古王の懐刀だったはず。なぜ、恐怖と力こそ王道を掲げた古王を、見限った?」

 ギルティアの瞳に、わずかな嘲笑の色が浮かんだ。彼女の論理は、感情や道徳とは無縁だった。

「簡単です、ヒカル王。古王の支配は、経済的に破綻したからです」

 ギルティアはクリスタル端末を操作し、古王国の精緻な損益データを映し出した。

「古王は『力による支配』を信奉し、士気(モラル)という無形資産を無視しました。恐怖は永続的な生産性を生みません。結果、古王は慢性的な資金不足に陥り、その支配は論理的に自滅へと向かったのです。私の忠誠は、感情ではなく、王国の永続的な繁栄にのみ向けられます。故に、私は最高の投資先である貴方を選びました」
「なるほど。では、お前は俺に何を期待する?」

 ヒカルの問いかけに、ギルティアは初めて目を細めた。

「私が期待するのは、永続的な繁栄の保証です。そのために、貴方には二つの義務があります。一つは、王妃たちの愛という非合理なエネルギーを、最大限の軍事資産として運用し続けること。もう一つは、私とアクアが提示する合理的で冷徹な経済統治の論理を、感情に流されずに実行することです」
「私がいなければ、貴方の勝利は短期間で資金難とインフレにより崩壊します」

 ヒカルは、アクアの合理的愛とギルティアの論理的忠誠心が共鳴し、経済統治という新たな戦場での協奏曲を奏でることを確信した。

「ギルティア。お前の論理は、この軍団に不可欠だ。お前を【財務官僚】に登用し、王国の財政の全権を預ける。お前の忠誠心を、俺は王の義務として受け入れよう」

 ギルティアの瞳に、わずかな満足の光が宿った。

 アクアが、妹たちの中で最も早くギルティアの論理を受け入れた。銀色の髪を持つ水の竜姫は、ギルティアの傍らに立ち、冷静な視線でヒカルを見つめる。

「王。ギルティアの登用は論理的に正しいわ。貴方の優しさは感情という形で軍事力になりましたが、今度はその優しさを、経済という理性的な盾に変える必要があります。私とギルティアで、竜族社会の通貨統一と税制改革の青写真を提示しましょう。対人間社会の経済戦争への準備を確信するわ」

 その時、紅蓮の激情竜姫レヴィアの、猛烈な嫉妬の炎が司令部を焼き尽くさんばかりに爆発した。

「ぎゃああああ! 許さないわ、夫! 貴方の隣に立つのは、私の情熱的な愛よ! なぜ、あんな金の亡者の論理に王の心が傾くの!」

 レヴィアの魔力は、ヒカルへの【独占欲:MAX/嫉妬:120%】という破滅的な不協和音を奏でていた。彼女にとって、愛は情熱であり、それを論理や金銭といった冷たい概念で測られることは、自身の存在の否定に等しかった。

「夫! 貴方の最強の財産は、私の情熱的な愛よ! なぜ、あんな冷たい数字を、私という最強の王妃候補より優先するの!」

 レヴィアは情熱的な抱擁でヒカルの心を独占しようと試みる。その炎の熱量が、ヒカルの「絆の共感者」を焼き尽くす。

 ヒカルは、レヴィアの激情を真正面から受け止め、冷静に、そして愛情を込めた声で諭した。

「レヴィア、落ち着け。お前の愛は最強だ。それは、古王の恐怖による支配を打ち砕いた情熱だ。お前というトランペットの主旋律が、この軍団の士気を保つ最も高価な財産であることを、俺は疑わない」

「だが、レヴィア。最強のトランペットを支えるには、テラの重厚なチェロという防御の土台と、アクアの緻密なクラリネットという経済の楽譜が必要だ。お前の情熱だけでは、王国の永続的な繁栄という『交響曲(シンフォニー)』は奏でられない」

 ヒカルの感情調律によって、レヴィアの炎の魔力は急速に鎮静化し、【レヴィア:独占欲:70%/王への信頼:99%】という安堵の音色へと収束した。

「…………分かったわ、夫。貴方がそこまで言うなら、あの冷たい数字の女たちに任せてやるわ。でも、貴方の心は、私が独占する最強の資産であることは、絶対に譲らないわよ!」

 ヒカルは、レヴィアの愛を受け入れながら、経済という新たな戦場での戦いが、感情調律によって安定し、軍の士気という無限の資産を生み出すことを確信した。

【第48話へ続く】



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「世界統合審判」の余波が作り出した地獄のような荒野とは裏腹に、ヒカルたちが新たな拠点と定めた古城は、六龍ユニゾンの成功によって得られた安堵と静謐に満ちていた。
 しかし、その安堵は長くは続かない。ヒカルの心には、古王の恐怖による支配を終わらせたという達成感よりも、新たな課題の重みがのしかかっていたからだ。
(古王を討ち果たしたが、この城塞はまだ戦時体制のままだ。兵站、財務、統治…………すべてが未整備のまま、人間社会という巨大な敵と対峙しなければならない)
 ヒカルは自室で、古地図と戦略盤を睨んでいた。疲弊しきった脳裏に、計算機のような冷たさと金の匂いを伴う、金属的な音色が響く。それは、六龍姫の愛の音色とは全く異なる、論理に特化したノイズだった。
「王よ。お疲れのところ恐縮ですが、客人です」
 深海の戦術師シエルが、一人の女性を伴って入室した。シエルは、古王軍の崩壊に乗じて城内に侵入したこの異質な存在を、戦略的な最優先事項として判断し、ヒカルとの謁見を許可した。
 ヒカルは立ち上がり、冷静な瞳でアクアとシエルを見つめた。
「わかった、すぐに行こう。それから、シエル、アクア。戦況は分かっているな。我々が今、早急に対処すべき脅威をリストアップしてくれ」
 蒼玉の理性竜姫アクアが、冷静沈着な声で報告を始めた。彼女の銀色の髪は、分析的な知性を放っている。
「御意、王。現在、我々が直面する脅威と課題は多岐にわたります。まず、軍事的な脅威として、一つ、ユグドラを筆頭とした古王軍残党が山奥に撤退し、いまだ忠誠心を持たぬまま、反抗の機会を窺っている。彼らの討伐か編入、どちらにしても大きな労力を要します」
 謁見の間に向かって歩きながらの会話。シエルがそのリストに情報を加える。
「二つ、|知識の守護者《エルダー・ソフス》ら賢者が握る古代の知識の不足は、古王が温存した古代魔術への対処を不可能にします。三つ、情報網の未整備は、人間社会の謀略に晒される致命的な穴。そして四つ、元古王の勢力下にあった地域の復興と統治という行政的な課題です」
 アクアは、あえて言葉を切った。
「そして五つ目、最も致命的なのが経済的基盤の欠如です、王。ユニゾンは最強ですが、我々には通貨、税制、資源管理といった、王国の根幹を支える論理が存在しません。このままでは兵士の消耗は士気低下に直結し、優しさが生んだ軍事力が資金難により崩壊します。この経済問題を最優先で解決しなければ、他のすべての課題も連鎖的に破綻します」
 ヒカルは、アクアの合理的愛が、この訪問者の価値を論理的に確定させたことを理解した。
 謁見の間には1人の女性が待っていた。
 彼女は、白と金色の豪華なドレス風の戦闘服に身を包み、傲慢な優雅さをもってヒカルを見据える。
「初めまして、ヒカル王。古王の元財宝番、黄金の鑑定士ギルティアと申します」
 ギルティアは一礼することなく、ヒカルの存在を価値ある資産として査定するようだった。
「ギルティア。お前は古王の懐刀だったはず。なぜ、恐怖と力こそ王道を掲げた古王を、見限った?」
 ギルティアの瞳に、わずかな嘲笑の色が浮かんだ。彼女の論理は、感情や道徳とは無縁だった。
「簡単です、ヒカル王。古王の支配は、経済的に破綻したからです」
 ギルティアはクリスタル端末を操作し、古王国の精緻な損益データを映し出した。
「古王は『力による支配』を信奉し、士気(モラル)という無形資産を無視しました。恐怖は永続的な生産性を生みません。結果、古王は慢性的な資金不足に陥り、その支配は論理的に自滅へと向かったのです。私の忠誠は、感情ではなく、王国の永続的な繁栄にのみ向けられます。故に、私は最高の投資先である貴方を選びました」
「なるほど。では、お前は俺に何を期待する?」
 ヒカルの問いかけに、ギルティアは初めて目を細めた。
「私が期待するのは、永続的な繁栄の保証です。そのために、貴方には二つの義務があります。一つは、王妃たちの愛という非合理なエネルギーを、最大限の軍事資産として運用し続けること。もう一つは、私とアクアが提示する合理的で冷徹な経済統治の論理を、感情に流されずに実行することです」
「私がいなければ、貴方の勝利は短期間で資金難とインフレにより崩壊します」
 ヒカルは、アクアの合理的愛とギルティアの論理的忠誠心が共鳴し、経済統治という新たな戦場での協奏曲を奏でることを確信した。
「ギルティア。お前の論理は、この軍団に不可欠だ。お前を【財務官僚】に登用し、王国の財政の全権を預ける。お前の忠誠心を、俺は王の義務として受け入れよう」
 ギルティアの瞳に、わずかな満足の光が宿った。
 アクアが、妹たちの中で最も早くギルティアの論理を受け入れた。銀色の髪を持つ水の竜姫は、ギルティアの傍らに立ち、冷静な視線でヒカルを見つめる。
「王。ギルティアの登用は論理的に正しいわ。貴方の優しさは感情という形で軍事力になりましたが、今度はその優しさを、経済という理性的な盾に変える必要があります。私とギルティアで、竜族社会の通貨統一と税制改革の青写真を提示しましょう。対人間社会の経済戦争への準備を確信するわ」
 その時、紅蓮の激情竜姫レヴィアの、猛烈な嫉妬の炎が司令部を焼き尽くさんばかりに爆発した。
「ぎゃああああ! 許さないわ、夫! 貴方の隣に立つのは、私の情熱的な愛よ! なぜ、あんな金の亡者の論理に王の心が傾くの!」
 レヴィアの魔力は、ヒカルへの【独占欲:MAX/嫉妬:120%】という破滅的な不協和音を奏でていた。彼女にとって、愛は情熱であり、それを論理や金銭といった冷たい概念で測られることは、自身の存在の否定に等しかった。
「夫! 貴方の最強の財産は、私の情熱的な愛よ! なぜ、あんな冷たい数字を、私という最強の王妃候補より優先するの!」
 レヴィアは情熱的な抱擁でヒカルの心を独占しようと試みる。その炎の熱量が、ヒカルの「絆の共感者」を焼き尽くす。
 ヒカルは、レヴィアの激情を真正面から受け止め、冷静に、そして愛情を込めた声で諭した。
「レヴィア、落ち着け。お前の愛は最強だ。それは、古王の恐怖による支配を打ち砕いた情熱だ。お前というトランペットの主旋律が、この軍団の士気を保つ最も高価な財産であることを、俺は疑わない」
「だが、レヴィア。最強のトランペットを支えるには、テラの重厚なチェロという防御の土台と、アクアの緻密なクラリネットという経済の楽譜が必要だ。お前の情熱だけでは、王国の永続的な繁栄という『交響曲《シンフォニー》』は奏でられない」
 ヒカルの感情調律によって、レヴィアの炎の魔力は急速に鎮静化し、【レヴィア:独占欲:70%/王への信頼:99%】という安堵の音色へと収束した。
「…………分かったわ、夫。貴方がそこまで言うなら、あの冷たい数字の女たちに任せてやるわ。でも、貴方の心は、私が独占する最強の資産であることは、絶対に譲らないわよ!」
 ヒカルは、レヴィアの愛を受け入れながら、経済という新たな戦場での戦いが、感情調律によって安定し、軍の士気という無限の資産を生み出すことを確信した。
【第48話へ続く】