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第四十六話:世界統合審判と、盟約の王妃(後編)

ー/ー



 その後に訪れたのは、圧倒的な静寂だった。

 盟約軍の背後に広がる荒野は、巨大なクレーターと化し、山脈の形は見る影もなく変わり果てていた。六龍ユニゾンの余波が、地形を一変させたのだ。

 六人の竜姫は、ヒカルの周囲に集まっていた。古王討伐という史上最大の武功を達成した今、誰もが自分が「王の愛を独占する正妻」の座に一歩近づいたと確信している。

 レヴィアの瞳は炎のように輝き、アクアの瞳は理性の光を湛えながらも情熱に揺れていた。テラは母性的な愛を全身に滲ませ、セフィラは無邪気な期待を込めた笑顔を浮かべる。ヴァルキリアは孤高の美しさの中にわずかな愛の受容を見せ、ルーナは純粋な献身を瞳に宿していた。

 その六対の瞳は、まるで夜空の星々を凌駕するほどに煌めき、ヒカルの口から語られる「MVP」という名の最高の褒美を待っていた。

 ヒカルは、疲弊を押し殺し、王の威厳を保ったまま宣言した。

「MVPを発表する。古王の最後の抵抗を打ち破り、この勝利をもたらしたのは……」

 ヒカルは一瞬言葉を切り、六人の輝く瞳を正面から受け止めた。その視線は、誰か一人を選ぶわけにはいかないという、王の孤独な決意を秘めていた。

「…………この王、俺自身だ」
「「「えっ……」」」

 ヒカルの裁定に、六龍姫は一瞬、戸惑いと、そして激しい闘志の炎を燃やした。

「異論は認めん!!」

 レヴィアが、歓喜の炎を瞳に宿し、王の権威を肯定した。

「ふふん! 貴方の愛の指揮こそが、最強の力だと証明されたのだ! 愛は誰にも渡さない!!」

 アクアは、理性をかなぐり捨て、ヒカルの胸に顔を埋めた。

「王よ! 貴方の裁定は論理的に正しい! 貴方の愛を独占する権利は、最高の軍務の成果で私が勝ち取ります!!」

 ヴァルキリアが、冷徹な視線でヒカルを見据えた。

「契約者。貴方の裁定は、MVPの独占を許さない逃避に見える。私たちへの愛は、この勝利の報酬に含まれないということか」

 ルーナは悲しみを込めた瞳で問いかける。

「ヒカル様…………! 貴方の心の安息を求めた私の献身は、報われないのですか!?」

 セフィラが、不満げに宙を舞う。

「ちぇーっ、団長の愛の独占権を、ま~た先延ばしにするんだ。最高の冒険の報酬は、いつになったら貰えるのさ!」

 テラが、母性的な不満を露わにする。

「主(あるじ)。わらわの献身は、王の心身の維持が目的です。この勝利で、王妃の座への愛の証明ができないのは、非合理です!!!」

 六人の竜姫の激しい愛のベクトルが、一斉にヒカルへ向けられる。

 ヒカルは、六人の妻たちの感情の奔流に、再び精神的な疲弊を覚えた。彼は、その熱量を耐えきれないと悟り、王の義務という名の自暴自棄な宣言で、この場を収束させることを選んだ。

 ヒカルは、六人の妻を強く抱きしめた。

「静かにしろ、俺の最強の妻たちよ! MVPの報酬は、この王の命そのものだ!」
「王妃の座をかけた勝負は、これから始まる人間社会との戦いで決めろ! そして、今夜は!」

 ヒカルは、疲労の滲む瞳で、六人の愛の炎を見つめた。

「全員まとめて、後でたっぷり可愛がってやるから、今は王に休息を与えろ! それも王の義務だ!」

 ◇◆◇◆◇

 古王討伐から一夜明け。ヒカルは、王の義務としてのMVPの「報酬」を、レヴィアと共に過ごすため、調和の座(ハーモニー・スローン)(ヒカルの城)の最上階の執務室にいた。他の姫たちは、ヒカルの「全員まとめて」という宣言を真に受け、それぞれの軍務に戻っている。

「夫(おっと)。昨日のMVP裁定、あれは貴方の逃避よ。私たちへの愛を、義務という言葉で誤魔化そうとした」

 レヴィアは、燃えるような紅の髪を揺らしながら、ヒカルにそっと近づいた。しかし、その瞳にはいつもの激情ではなく、静かで深い愛の光が宿っている。

「MVPの報酬は、貴方の孤独を私に独占させる権利。貴方が裏切りのトラウマに苦しんでいることは、私には音色として伝わってくる。でもね、夫」

 レヴィアはヒカルの頬に触れ、優しく微笑んだ。

「貴方を裏切る人間など、この世界にいない。なぜなら、貴方の優しさが、私を救ったのだから」

 ヒカルは息を飲んだ。この真実は、レヴィアとの契約の根源に関わる、最も重い謎だった。

「どういうことだ、レヴィア。お前は以前、俺が処刑される直前、なぜ俺の窮地を正確に察知できたのかと聞いた時も、『愛のお告げ』としか答えなかった」
「ヒカル、お前は我の『恩返し』を、ただの偶然だと笑うのか? 違うわ。それは、運命の必然だったの」

 レヴィアは、ヒカルの腕の中で静かに囁いた。

「あの時、我は好奇心ゆえに、帝国の外れの小さな領地に身を潜め、人間の里へ降りていた。当時、我はまだ若く、戦闘能力は今と比べ物にならなかった。そこで飛龍の群れに襲われ、致命的な傷を負った」
「……」
「我は人間を信じていなかった。恐怖と憎悪しか知らなかった。助けなど求めるつもりもなかった。だが、お前は……お前だけは、私を『不思議な魔法を扱う、傷ついた少女』だとしか認識していなかった。我を竜だと知らず、純粋な優しさで手を差し伸べた。」

 ヒカルは、その記憶を必死に手繰り寄せたが、幼少期の出来事ゆえに曖昧だった。だが、そんなことを言えば、目の前の炎の竜姫の純粋な愛を否定することになる。ヒカルは必死に記憶を辿っていた。

 レヴィアは静かに、しかし情熱的にヒカルの瞳を見つめる。ヒカルは、レヴィアの瞳の奥に宿る揺るぎない真実を読み取った。

「お、思い出した!! ま、まさか、あの時、森で出会った傷ついた少女、あれがレヴィアだったのか!?」
「やっと気づいたの? ふふ、まったく鈍感な夫ね」

 レヴィアは優しく微笑んだ。

 ヒカルの記憶と、レヴィアの言葉が重なる。彼は、自分自身の何気ない行動が、これほどの運命を引き起こしたことに愕然とした。そして、目の前の存在が、あの時の少女であり、自分の命を賭した恩返しを誓ってくれていたという事実に、ヒカルの中の竜への恐怖は完全に消え去り、レヴィアを今まで以上に愛おしく思ったのだった。

「あの瞬間、私の心に流れ込んできた、お前の無償の光。それは、私のオリジン・コードが求める唯一の正しい『調律』の入力値だった。私は、種族の存続という使命を超えて、お前の優しさに永遠の恩義を誓ったのだ。お前こそが、この世界の真の王となるべきだと」
「レヴィア……お前の愛は、そんなにも重い誓いだったのか……」
「そうよ。だから、他の女に王の心を奪われるなど許さない。私の恩返しは、お前を最高の王にし、最高の愛で支配することなの!」

 レヴィアの眼は、真剣で、そして熱を帯びていた。

「貴方は、私に命の火を繋いでくれた。私は、その恩を決して忘れない。だからこそ、貴方が絶望の淵に立たされた瞬間、私の炎の魔力が、貴方の魂の悲鳴と共鳴したのよ」

 レヴィアの瞳に、ヒカルへの純粋な愛と、強烈な独占欲が再び燃え上がる。

「貴方の優しさは、世界を焼き尽くす私の炎の、唯一の制御装置。貴方を愛し、独占し、守り抜くことは、私にとって契約であると同時に、生きていくための絶対的な義務なのよ」

 ヒカルは、レヴィアの激しい愛の真の根源を知り、その愛が裏切りではない、最も純粋な献身であることを理解した。

「レヴィア……お前は…………」

 ヒカルは、レヴィアの髪に頬を寄せたまま、誰にも聞こえないように、小さく誓った。

「ありがとう。お前の愛は、俺の新世界創造の、最初の光だよ……」

 レヴィアは、ヒカルのその言葉を、 MVPの報酬として、永遠に独占することにした。彼女の瞳には、炎の竜姫としての誇りと、愛する夫への静かな勝利の笑みが宿っていた。



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 その後に訪れたのは、圧倒的な静寂だった。
 盟約軍の背後に広がる荒野は、巨大なクレーターと化し、山脈の形は見る影もなく変わり果てていた。六龍ユニゾンの余波が、地形を一変させたのだ。
 六人の竜姫は、ヒカルの周囲に集まっていた。古王討伐という史上最大の武功を達成した今、誰もが自分が「王の愛を独占する正妻」の座に一歩近づいたと確信している。
 レヴィアの瞳は炎のように輝き、アクアの瞳は理性の光を湛えながらも情熱に揺れていた。テラは母性的な愛を全身に滲ませ、セフィラは無邪気な期待を込めた笑顔を浮かべる。ヴァルキリアは孤高の美しさの中にわずかな愛の受容を見せ、ルーナは純粋な献身を瞳に宿していた。
 その六対の瞳は、まるで夜空の星々を凌駕するほどに煌めき、ヒカルの口から語られる「MVP」という名の最高の褒美を待っていた。
 ヒカルは、疲弊を押し殺し、王の威厳を保ったまま宣言した。
「MVPを発表する。古王の最後の抵抗を打ち破り、この勝利をもたらしたのは……」
 ヒカルは一瞬言葉を切り、六人の輝く瞳を正面から受け止めた。その視線は、誰か一人を選ぶわけにはいかないという、王の孤独な決意を秘めていた。
「…………この王、俺自身だ」
「「「えっ……」」」
 ヒカルの裁定に、六龍姫は一瞬、戸惑いと、そして激しい闘志の炎を燃やした。
「異論は認めん!!」
 レヴィアが、歓喜の炎を瞳に宿し、王の権威を肯定した。
「ふふん! 貴方の愛の指揮こそが、最強の力だと証明されたのだ! 愛は誰にも渡さない!!」
 アクアは、理性をかなぐり捨て、ヒカルの胸に顔を埋めた。
「王よ! 貴方の裁定は論理的に正しい! 貴方の愛を独占する権利は、最高の軍務の成果で私が勝ち取ります!!」
 ヴァルキリアが、冷徹な視線でヒカルを見据えた。
「契約者。貴方の裁定は、MVPの独占を許さない逃避に見える。私たちへの愛は、この勝利の報酬に含まれないということか」
 ルーナは悲しみを込めた瞳で問いかける。
「ヒカル様…………! 貴方の心の安息を求めた私の献身は、報われないのですか!?」
 セフィラが、不満げに宙を舞う。
「ちぇーっ、団長の愛の独占権を、ま~た先延ばしにするんだ。最高の冒険の報酬は、いつになったら貰えるのさ!」
 テラが、母性的な不満を露わにする。
「主《あるじ》。わらわの献身は、王の心身の維持が目的です。この勝利で、王妃の座への愛の証明ができないのは、非合理です!!!」
 六人の竜姫の激しい愛のベクトルが、一斉にヒカルへ向けられる。
 ヒカルは、六人の妻たちの感情の奔流に、再び精神的な疲弊を覚えた。彼は、その熱量を耐えきれないと悟り、王の義務という名の自暴自棄な宣言で、この場を収束させることを選んだ。
 ヒカルは、六人の妻を強く抱きしめた。
「静かにしろ、俺の最強の妻たちよ! MVPの報酬は、この王の命そのものだ!」
「王妃の座をかけた勝負は、これから始まる人間社会との戦いで決めろ! そして、今夜は!」
 ヒカルは、疲労の滲む瞳で、六人の愛の炎を見つめた。
「全員まとめて、後でたっぷり可愛がってやるから、今は王に休息を与えろ! それも王の義務だ!」
 ◇◆◇◆◇
 古王討伐から一夜明け。ヒカルは、王の義務としてのMVPの「報酬」を、レヴィアと共に過ごすため、|調和の座《ハーモニー・スローン》(ヒカルの城)の最上階の執務室にいた。他の姫たちは、ヒカルの「全員まとめて」という宣言を真に受け、それぞれの軍務に戻っている。
「夫《おっと》。昨日のMVP裁定、あれは貴方の逃避よ。私たちへの愛を、義務という言葉で誤魔化そうとした」
 レヴィアは、燃えるような紅の髪を揺らしながら、ヒカルにそっと近づいた。しかし、その瞳にはいつもの激情ではなく、静かで深い愛の光が宿っている。
「MVPの報酬は、貴方の孤独を私に独占させる権利。貴方が裏切りのトラウマに苦しんでいることは、私には音色として伝わってくる。でもね、夫」
 レヴィアはヒカルの頬に触れ、優しく微笑んだ。
「貴方を裏切る人間など、この世界にいない。なぜなら、貴方の優しさが、私を救ったのだから」
 ヒカルは息を飲んだ。この真実は、レヴィアとの契約の根源に関わる、最も重い謎だった。
「どういうことだ、レヴィア。お前は以前、俺が処刑される直前、なぜ俺の窮地を正確に察知できたのかと聞いた時も、『愛のお告げ』としか答えなかった」
「ヒカル、お前は我の『恩返し』を、ただの偶然だと笑うのか? 違うわ。それは、運命の必然だったの」
 レヴィアは、ヒカルの腕の中で静かに囁いた。
「あの時、我は好奇心ゆえに、帝国の外れの小さな領地に身を潜め、人間の里へ降りていた。当時、我はまだ若く、戦闘能力は今と比べ物にならなかった。そこで飛龍の群れに襲われ、致命的な傷を負った」
「……」
「我は人間を信じていなかった。恐怖と憎悪しか知らなかった。助けなど求めるつもりもなかった。だが、お前は……お前だけは、私を『不思議な魔法を扱う、傷ついた少女』だとしか認識していなかった。我を竜だと知らず、純粋な優しさで手を差し伸べた。」
 ヒカルは、その記憶を必死に手繰り寄せたが、幼少期の出来事ゆえに曖昧だった。だが、そんなことを言えば、目の前の炎の竜姫の純粋な愛を否定することになる。ヒカルは必死に記憶を辿っていた。
 レヴィアは静かに、しかし情熱的にヒカルの瞳を見つめる。ヒカルは、レヴィアの瞳の奥に宿る揺るぎない真実を読み取った。
「お、思い出した!! ま、まさか、あの時、森で出会った傷ついた少女、あれがレヴィアだったのか!?」
「やっと気づいたの? ふふ、まったく鈍感な夫ね」
 レヴィアは優しく微笑んだ。
 ヒカルの記憶と、レヴィアの言葉が重なる。彼は、自分自身の何気ない行動が、これほどの運命を引き起こしたことに愕然とした。そして、目の前の存在が、あの時の少女であり、自分の命を賭した恩返しを誓ってくれていたという事実に、ヒカルの中の竜への恐怖は完全に消え去り、レヴィアを今まで以上に愛おしく思ったのだった。
「あの瞬間、私の心に流れ込んできた、お前の無償の光。それは、私のオリジン・コードが求める唯一の正しい『調律』の入力値だった。私は、種族の存続という使命を超えて、お前の優しさに永遠の恩義を誓ったのだ。お前こそが、この世界の真の王となるべきだと」
「レヴィア……お前の愛は、そんなにも重い誓いだったのか……」
「そうよ。だから、他の女に王の心を奪われるなど許さない。私の恩返しは、お前を最高の王にし、最高の愛で支配することなの!」
 レヴィアの眼は、真剣で、そして熱を帯びていた。
「貴方は、私に命の火を繋いでくれた。私は、その恩を決して忘れない。だからこそ、貴方が絶望の淵に立たされた瞬間、私の炎の魔力が、貴方の魂の悲鳴と共鳴したのよ」
 レヴィアの瞳に、ヒカルへの純粋な愛と、強烈な独占欲が再び燃え上がる。
「貴方の優しさは、世界を焼き尽くす私の炎の、唯一の制御装置。貴方を愛し、独占し、守り抜くことは、私にとって契約であると同時に、生きていくための絶対的な義務なのよ」
 ヒカルは、レヴィアの激しい愛の真の根源を知り、その愛が裏切りではない、最も純粋な献身であることを理解した。
「レヴィア……お前は…………」
 ヒカルは、レヴィアの髪に頬を寄せたまま、誰にも聞こえないように、小さく誓った。
「ありがとう。お前の愛は、俺の新世界創造の、最初の光だよ……」
 レヴィアは、ヒカルのその言葉を、 MVPの報酬として、永遠に独占することにした。彼女の瞳には、炎の竜姫としての誇りと、愛する夫への静かな勝利の笑みが宿っていた。