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第四十三話:光土ユニゾン:悲劇の呪いを断て

ー/ー



 夜明けの光が、裏切りと和解の熱が残る荒野を静かに照らし始めていた。

 爆炎龍将軍フレアは、自身の裏切りによって生じた内部の亀裂を、誰よりも早く、そして深く修復しなければならないという、新たな忠誠心に突き動かされていた。彼の心に燃えるのは、レヴィアへの狂信的な愛でも、ヒカルへの憎悪でもない、シエルの流した血に対する純粋な贖罪の炎だった。

 フレアは、ヒカルの前に膝をつき、自ら古王軍の最後の光の六征竜、偽光の宣教師の討伐を志願した。

「王よ。この裏切り者の命と炎を、宣教師討伐の切り込み隊として使っていただきたい。私の炎こそが、宣教師の偽りの信仰を焼き尽くし、ヴァルキリア様を縛る呪いの根源を断つ最高の燃料となりましょう」

 ヒカルはフレアの瞳の奥に、以前の冷たい殺意とは異なる、静かで硬質な忠誠が宿っているのを見て取った。ヒカルの「絆の共感者」が竜姫の感情を「音色」で捉えるのに対し、フレアの魔力は「王への揺るぎない忠誠」という、鋼鉄の防音壁のような硬質な音色としてヒカルの精神に響いていた。

「フレア。お前の忠誠心、確かに受け取った。レヴィア。お前の炎はフレアを護衛し、宣教師の陣営を孤立させろ。アクア、セフィラ。テラとルーナがユニゾンを成功させるための防御と攪乱に全力を尽くせ。これは、ヴァルキリアを救うための儀式だ」

 盟約軍は即座に陣形を転換。フレアが守護の炎を纏い、レヴィア軍の切り込み隊として宣教師の陣営へと猛然と突進した。宣教師は、この裏切り者による予期せぬ正面からの「贖罪の攻撃」に論理的な焦燥を募らせた。

「馬鹿げた忠誠心だ!裏切り者の炎など、穢れた雑音に過ぎん!」

 宣教師は、ヴァルキリアを縛る古代の呪術で強化した光の防御壁を展開。その光は、フレアの炎の魔力を吸収し、彼の肉体と精神に過去の裏切りのトラウマをフラッシュバックさせる精神攻撃を仕掛けた。

「貴様は王を裏切った!貴様の愛は偽物だ!真実の光は貴様を罰する!」

 フレアは激しい精神的な苦痛に耐えながらも、「私の愛は、シエルに、そして王に、今、真実の忠誠としてある!」と叫び、守護の炎の熱量を、宣教師の光の結界に叩き込み続けた。

 ◇◆◇◆◇

 フレアの捨て身の攻撃が、宣教師の防御結界に亀裂を生じさせた瞬間、ヒカルは好機を逃さなかった。ヴァルキリアを縛る呪いの根源を断ち、ヴァルキリアの瞳に自由への光を灯す、唯一の策を発動する。

「ルーナ! テラ! 光土ユニゾン:慈愛の生命線(ライフライン)(ユニゾン)だ! 宣教師の論理を、献身の愛で上書きしろ!」

 最前線へと進み出た純白の調和聖女ルーナは、その透き通るような白金の瞳で宣教師を見据えた。「宣教師様。貴方の光は、憎悪と恐怖で歪められています。貴方の信仰は、王の優しさには勝てません!」

 ルーナの調和(C音/ホルン)に、磐石の守護龍テラの献身(G音/チェロ)が重なる。和音は『完全五度(パーフェクト・フィフス)』という、揺るぎない安定と献身を体現する重厚な鎮魂歌(レクイエム)のような響きを戦場全体に響かせた。

 ルーナの献身的な愛は、宣教師の精神攻撃を完全に中和し、テラの母性的な土の力は、宣教師の偽りの信仰が依存していた穢れた大地と、ヴァルキリアの魂の呪いの核を生命力で同時に上書きし始めた。

「馬鹿な…………!? 大地が、癒やされている!? 呪いの論理が、なぜ生命の光に上書きされる!? 古王の支配の論理は、絶対だ!」

 宣教師の偽りの信仰は、大地という生命の根源を失い、その光の魔力が急速に霧散していった。ルーナの光土ユニゾン:慈愛の生命線(ライフライン)は、フレアの贖罪の炎を鎮火させ、彼の過去のトラウマまでも癒やし、真の忠誠へと浄化した。

 宣教師は、自らの論理的な敗北に「ありえない!愛だと!?愛が論理を越えるなど!」と絶叫しながら、魔力を失いかける肉体を震わせた。

 その敗走ルートの先、荒野の隘路(あいろ)で、風の竜姫セフィラと空虚の斥候王ゼファーの遊撃隊が待ち伏せていた。

 風を纏ったセフィラが、軽やかに宣教師の前に舞い降りた。隣には、冷静なゼファーが控えている。セフィラは、いたずらっぽい笑顔で、宣教師の背後から追いついたフレアに、ウインクを一つ贈った。

「ねぇ、フレア。宣教師殿、負け惜しみがひどいよ? やっちゃいなよ、贖罪の(じょくざいのほのお)で」

 セフィラの言葉に、フレアは躊躇しなかった。これは、シエルの流した血と、自らの裏切りへの、最後のけじめだ。

「貴様の偽りの光が、レヴィア様の愛を汚すことは二度とない!」

 フレアは、守護の炎を純粋な憎悪を燃料とする真の炎へと変貌させ、宣教師の背中目掛けて最大出力の炎を放った。宣教師の「愛が論理を越えるなど!」という絶叫は、炎の轟音にかき消され、その肉体は塵となって荒野に還った。




 遠く、後方司令部の野戦病院。

 定期治療を終え、ベッドで静かに結果を待っていた深海の戦術師シエルは、宣教師の魔力核が完全に消滅したことを感知した。彼女は、王への忠誠を炎で証明したフレアの「静かな忠誠心」の音色を、その魂の奥で受け取った。

 シエルの冷徹な瞳の奥に、理性を超えた安堵の光が宿る。彼女は、誰もいない病室で、微笑みを一つ浮かべた。

「馬鹿ね、フレア。貴方の愛は、もう誰も疑わないわ」




 宣教師の討伐を終え、自陣に戻ったフレアは自らヒカルの前に膝をついた。彼の瞳には、憎悪ではなく静かな忠誠と贖罪の炎が宿っていた。

「王よ。私の裏切りは、王妃レヴィア様への歪んだ忠誠心と、シエルへの愛憎ゆえの過ちでした。私の罪を、どうか裁いてください」

 ヒカルは、フレアの頭上に愛の指揮棒をかざした。

「フレア。お前の罪は、盟約軍の核を破壊しかねない最大の裏切りだ。だが、お前がその憎悪を乗り越え、宣教師を討ち取った武功は、その罪を凌駕する」

 ヒカルは、冷徹に言い放った。

「故に、お前の罪は不問とする。これが、王の『愛の裁定』だ」
「ただし、爆炎龍将軍の地位は維持するが、二度と王の裁定に異を唱える知性を私的な愛憎のために使うことは許されない。お前の知性は、レヴィアの激情を制御し、シエルの理性と協力するための『王の戦略的資産』だ」

 フレアは、悔しさと同時に、王に自らの愛の形を許されたという安堵に震えた。彼の眼からは涙がこぼれ落ちた。

「…………御意。王の愛の裁定、承知いたしました。私の命は、王の戦略的資産として、レヴィア様とシエルの愛を護るためにのみ使われます」

 ヒカルは、これで盟約軍の内部亀裂が完全に修復されたことを確信した。




 古王の玉座の傍らで、闇の王女ヴァルキリアの口元を覆っていた手が、震えながらゆっくりと降りた。彼女の瞳に宿る血のような赤色が、一瞬、自由への渇望という、ヒカルの優しさが持つ色へと変わる。古王が彼女に植え付けた「愛と調和への絶対的な拒絶」という呪いが、音を立てて剥がれ落ち始めたのだ。

 古王城の深奥。古王(フォールン・キング)は、宣教師の討伐と、ヴァルキリアの呪いの減衰を感知し、未曾有の焦燥に駆られた。

「まさか、愛が憎悪と呪いを上回るだと!? 終焉の無響(古代魔術)を直ちに発動させろ! 奴らの絆の核を、世界の理から消し去るのだ!」

 古王軍最強の守護である闇の六征竜(執行者)が、古王の焦燥に応えるように、その巨大な魔力を解放し始めた。盟約軍の最終決戦は、古王の最後の切り札との対決へと移行する。

 そして、古王軍の影。漆黒の工作師シェイドは、古王の焦燥と執行者の魔力解放を冷静に解析していた。
 彼女の身体を覆うのは、紫と黒のベルベット素材を用いた高貴なドレス風の戦闘服。艶やかな漆黒の超ロングヘアと、血のような赤色を帯びた瞳が、孤高の竜姫に似通った威圧感を放っていた。

 彼女は、ヴァルキリアの解放を完全なものとするため、古王の支配の核である闇の六征竜を討つ「裏切りの誓い」を胸に秘める。ヒカルとの密約を果たすための、彼女の裏の戦場が始まろうとしていた。



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 夜明けの光が、裏切りと和解の熱が残る荒野を静かに照らし始めていた。
 爆炎龍将軍フレアは、自身の裏切りによって生じた内部の亀裂を、誰よりも早く、そして深く修復しなければならないという、新たな忠誠心に突き動かされていた。彼の心に燃えるのは、レヴィアへの狂信的な愛でも、ヒカルへの憎悪でもない、シエルの流した血に対する純粋な贖罪の炎だった。
 フレアは、ヒカルの前に膝をつき、自ら古王軍の最後の光の六征竜、偽光の宣教師の討伐を志願した。
「王よ。この裏切り者の命と炎を、宣教師討伐の切り込み隊として使っていただきたい。私の炎こそが、宣教師の偽りの信仰を焼き尽くし、ヴァルキリア様を縛る呪いの根源を断つ最高の燃料となりましょう」
 ヒカルはフレアの瞳の奥に、以前の冷たい殺意とは異なる、静かで硬質な忠誠が宿っているのを見て取った。ヒカルの「絆の共感者」が竜姫の感情を「音色」で捉えるのに対し、フレアの魔力は「王への揺るぎない忠誠」という、鋼鉄の防音壁のような硬質な音色としてヒカルの精神に響いていた。
「フレア。お前の忠誠心、確かに受け取った。レヴィア。お前の炎はフレアを護衛し、宣教師の陣営を孤立させろ。アクア、セフィラ。テラとルーナがユニゾンを成功させるための防御と攪乱に全力を尽くせ。これは、ヴァルキリアを救うための儀式だ」
 盟約軍は即座に陣形を転換。フレアが守護の炎を纏い、レヴィア軍の切り込み隊として宣教師の陣営へと猛然と突進した。宣教師は、この裏切り者による予期せぬ正面からの「贖罪の攻撃」に論理的な焦燥を募らせた。
「馬鹿げた忠誠心だ!裏切り者の炎など、穢れた雑音に過ぎん!」
 宣教師は、ヴァルキリアを縛る古代の呪術で強化した光の防御壁を展開。その光は、フレアの炎の魔力を吸収し、彼の肉体と精神に過去の裏切りのトラウマをフラッシュバックさせる精神攻撃を仕掛けた。
「貴様は王を裏切った!貴様の愛は偽物だ!真実の光は貴様を罰する!」
 フレアは激しい精神的な苦痛に耐えながらも、「私の愛は、シエルに、そして王に、今、真実の忠誠としてある!」と叫び、守護の炎の熱量を、宣教師の光の結界に叩き込み続けた。
 ◇◆◇◆◇
 フレアの捨て身の攻撃が、宣教師の防御結界に亀裂を生じさせた瞬間、ヒカルは好機を逃さなかった。ヴァルキリアを縛る呪いの根源を断ち、ヴァルキリアの瞳に自由への光を灯す、唯一の策を発動する。
「ルーナ! テラ! 光土ユニゾン:慈愛の生命線《ライフライン》(ユニゾン)だ! 宣教師の論理を、献身の愛で上書きしろ!」
 最前線へと進み出た純白の調和聖女ルーナは、その透き通るような白金の瞳で宣教師を見据えた。「宣教師様。貴方の光は、憎悪と恐怖で歪められています。貴方の信仰は、王の優しさには勝てません!」
 ルーナの調和(C音/ホルン)に、磐石の守護龍テラの献身(G音/チェロ)が重なる。和音は『完全五度(パーフェクト・フィフス)』という、揺るぎない安定と献身を体現する重厚な鎮魂歌(レクイエム)のような響きを戦場全体に響かせた。
 ルーナの献身的な愛は、宣教師の精神攻撃を完全に中和し、テラの母性的な土の力は、宣教師の偽りの信仰が依存していた穢れた大地と、ヴァルキリアの魂の呪いの核を生命力で同時に上書きし始めた。
「馬鹿な…………!? 大地が、癒やされている!? 呪いの論理が、なぜ生命の光に上書きされる!? 古王の支配の論理は、絶対だ!」
 宣教師の偽りの信仰は、大地という生命の根源を失い、その光の魔力が急速に霧散していった。ルーナの光土ユニゾン:慈愛の生命線《ライフライン》は、フレアの贖罪の炎を鎮火させ、彼の過去のトラウマまでも癒やし、真の忠誠へと浄化した。
 宣教師は、自らの論理的な敗北に「ありえない!愛だと!?愛が論理を越えるなど!」と絶叫しながら、魔力を失いかける肉体を震わせた。
 その敗走ルートの先、荒野の隘路(あいろ)で、風の竜姫セフィラと空虚の斥候王ゼファーの遊撃隊が待ち伏せていた。
 風を纏ったセフィラが、軽やかに宣教師の前に舞い降りた。隣には、冷静なゼファーが控えている。セフィラは、いたずらっぽい笑顔で、宣教師の背後から追いついたフレアに、ウインクを一つ贈った。
「ねぇ、フレア。宣教師殿、負け惜しみがひどいよ? やっちゃいなよ、贖罪の炎《じょくざいのほのお》で」
 セフィラの言葉に、フレアは躊躇しなかった。これは、シエルの流した血と、自らの裏切りへの、最後のけじめだ。
「貴様の偽りの光が、レヴィア様の愛を汚すことは二度とない!」
 フレアは、守護の炎を純粋な憎悪を燃料とする真の炎へと変貌させ、宣教師の背中目掛けて最大出力の炎を放った。宣教師の「愛が論理を越えるなど!」という絶叫は、炎の轟音にかき消され、その肉体は塵となって荒野に還った。
 遠く、後方司令部の野戦病院。
 定期治療を終え、ベッドで静かに結果を待っていた深海の戦術師シエルは、宣教師の魔力核が完全に消滅したことを感知した。彼女は、王への忠誠を炎で証明したフレアの「静かな忠誠心」の音色を、その魂の奥で受け取った。
 シエルの冷徹な瞳の奥に、理性を超えた安堵の光が宿る。彼女は、誰もいない病室で、微笑みを一つ浮かべた。
「馬鹿ね、フレア。貴方の愛は、もう誰も疑わないわ」
 宣教師の討伐を終え、自陣に戻ったフレアは自らヒカルの前に膝をついた。彼の瞳には、憎悪ではなく静かな忠誠と贖罪の炎が宿っていた。
「王よ。私の裏切りは、王妃レヴィア様への歪んだ忠誠心と、シエルへの愛憎ゆえの過ちでした。私の罪を、どうか裁いてください」
 ヒカルは、フレアの頭上に愛の指揮棒をかざした。
「フレア。お前の罪は、盟約軍の核を破壊しかねない最大の裏切りだ。だが、お前がその憎悪を乗り越え、宣教師を討ち取った武功は、その罪を凌駕する」
 ヒカルは、冷徹に言い放った。
「故に、お前の罪は不問とする。これが、王の『愛の裁定』だ」
「ただし、爆炎龍将軍の地位は維持するが、二度と王の裁定に異を唱える知性を私的な愛憎のために使うことは許されない。お前の知性は、レヴィアの激情を制御し、シエルの理性と協力するための『王の戦略的資産』だ」
 フレアは、悔しさと同時に、王に自らの愛の形を許されたという安堵に震えた。彼の眼からは涙がこぼれ落ちた。
「…………御意。王の愛の裁定、承知いたしました。私の命は、王の戦略的資産として、レヴィア様とシエルの愛を護るためにのみ使われます」
 ヒカルは、これで盟約軍の内部亀裂が完全に修復されたことを確信した。
 古王の玉座の傍らで、闇の王女ヴァルキリアの口元を覆っていた手が、震えながらゆっくりと降りた。彼女の瞳に宿る血のような赤色が、一瞬、自由への渇望という、ヒカルの優しさが持つ色へと変わる。古王が彼女に植え付けた「愛と調和への絶対的な拒絶」という呪いが、音を立てて剥がれ落ち始めたのだ。
 古王城の深奥。古王《フォールン・キング》は、宣教師の討伐と、ヴァルキリアの呪いの減衰を感知し、未曾有の焦燥に駆られた。
「まさか、愛が憎悪と呪いを上回るだと!? 終焉の無響(古代魔術)を直ちに発動させろ! 奴らの絆の核を、世界の理から消し去るのだ!」
 古王軍最強の守護である闇の六征竜(執行者)が、古王の焦燥に応えるように、その巨大な魔力を解放し始めた。盟約軍の最終決戦は、古王の最後の切り札との対決へと移行する。
 そして、古王軍の影。漆黒の工作師シェイドは、古王の焦燥と執行者の魔力解放を冷静に解析していた。
 彼女の身体を覆うのは、紫と黒のベルベット素材を用いた高貴なドレス風の戦闘服。艶やかな漆黒の超ロングヘアと、血のような赤色を帯びた瞳が、孤高の竜姫に似通った威圧感を放っていた。
 彼女は、ヴァルキリアの解放を完全なものとするため、古王の支配の核である闇の六征竜を討つ「裏切りの誓い」を胸に秘める。ヒカルとの密約を果たすための、彼女の裏の戦場が始まろうとしていた。