表示設定
表示設定
目次 目次




第24話 どうあがいても、探偵

ー/ー



「じゃあ、もっと具体的な話をお願いします。私は一体何処で何を探せばいいのか」

 私の動揺を見抜いたかのように、ファイド刑事さんは若干肩の力を抜き、この場に流れる緊張感を僅かでも緩和するように深く呼吸する。

 そう少しの間を置いてソファから立ち上がり、直ぐそこにあった棚から何か巻物のようなものを取り、私の目の前のテーブルの上に広げて見せた。

 それはどうやら地図のようだった。随分と使い古されたボロボロの地図だ。
 分かることと言ったら町の地図ではなく、もっと規模の大きいものっぽく、書かれている範囲がかなり広い。

 ファイド刑事さんの指先が、地図上の一つの町を指す。

「今、我が輩たちがいる町がここである――そして」

 そのまま指先が南下していく。途中に森とか山っぽいところを平然と通過しているような気がするのだけど、構わず指はその先に進む。

「この場所――ドワーフの里とも呼ばれている集落がある」

 そこが目的地かと思いきや、ファイド刑事さんの指先はそこからさらに南西の方角にズラされていき、山のど真ん中辺りで止まる。どうみても町や村の記載はなく、本当に山の中だ。

「ここが――ワイバーンの群生地とも呼ばれている場所だ」
「まさか私にワイバーンの巣の中に飛び込めと?」
 それは流石に無茶振りが過ぎる。

「待て――まだ話は終わっていない。問題は、このドワーフの集落と――ワイバーンの巣の間に――炭鉱があるのだ。正確な位置はこの地図にも載っていない――だが、そこには最近盗掘団が出るようになってしまった」

 結局あまり面白くはない話のような気がする。

「どうにも連中――炭鉱で採掘したものを横流しにしていてな――この町にも流出していたのだが――ついぞ先日盗掘団の一味を捕えたのだ。ところが、荒稼ぎした金銭の多くは何処ぞに隠してしまったというのだ」
「ええと、その盗掘団のアジトは分かっているんですか?」
「無論。だが――もぬけの殻であった」

 どうやら話が見えてきたようだ。

「つまり、私に盗賊の埋蔵金を探し当ててほしい、ということですか」
「理解が早くて助かる――その通りだ」

 お宝探しはトレジャーハンターか何かの稼業であって、探偵の本業ではないのだけれども、ギルドでの私の仕事っぷりからみても、また探偵という職業がこの世界に認知されない点で見ても、この手の仕事は私の専売特許という認識なのか。

 可能であるならば説明させていただきたい。私の稼業、探偵という職業は人捜し、もの探し、はたまた個人では明かしづらい実態の調査などを行うものであって、隠された財宝のありかを暴くのはそこに含まれてはいない。

 私はまだ開業したばかりで厳密にはやってはいないけれど、浮気の調査とか素行の調査とかが専ら。うちの旦那が悪い女と付き合っていないかとか、うちの子供が変な遊びを覚えていないかとか、そういうのを調べるのが探偵なんですよ。

 そう、口を大にして言いたいけれど、そうもいくまい。
 この異世界には探偵などいないのだから。

 とはいえ、盗賊さんたちの足取りを調査するという意味合いで見れば、これもれっきとした探偵の仕事とはいえるのか。

 今の段階の話を聞く限りでは、私のできる範囲内の仕事に思える。
 しかし、途中途中に何やら不穏なワードが入り込んでいたのを聞き流していない。

「盗掘団の情報、もう少し詳しくお願いできますか?」
「うむ――まだ多くの残党はドワーフの里周辺に潜んでいる。もぬけの殻だったアジトもそこにある。今では新しいアジトも――どうやら作られている――らしいという見解だ」

 ともなれば、その隠された財宝とやらもドワーフの里周辺にあると考えてもいいのかもしれない。広範囲に分散されているともなれば特定しようもないが、まあそれを調べるのが私の仕事か。

 この時点で確定していることは、私もドワーフの里に足を運ばなければならないということだ。それが単なる遠出だけで済まされればいいのだけれども、どうにもそうはならなそうな気がしてならない。

「ドワーフの里へはここからどのくらいですか?」
「ルックに馬術の心得があるのなら直ぐだ――そうでないのなら我が輩たちが護衛することになるだろうがな」

 あからさまに分かっていて言っているみたいだ。その口ぶり、その言葉のチョイスだと道中の危険具合を表わしているかのよう。

「……聞くまでもないかもしれませんが、安全な旅は保証できますか?」
「治安と秩序を守る我が輩が――こうしてこの場にいることが――その答えだ」

 この仕事は、ギルドの斡旋所に流れているものではない。自警団直々の依頼だ。
 どうして普通の仕事としてあの窓口に流していないのか。

 私にとびきりの信頼を置いているから?
 いや、それもちょっとはあるだろうけれど、主題はそこじゃない。
 危険な仕事であることが確約されているからだ。

 何せ、ギルドの窓口にはモンスターの討伐だって取り扱っていたはずだ。
 それでも直ぐにそっちに回されていないということは、それだけの何かがあると考えられる。

「少し、別な質問をします。話に出た盗掘団以外にも盗賊は多いですか?」
「我が輩は――あえて決心が揺らぐ発言は――せんぞ」

 かなり多いらしい。
 多分だけど、行商人さんも相当な被害に遭っていると見た。

「さっきも言ったが――断るのは自由だ。しかし、この一件は自警団だけでできる仕事の範疇を超えている。既に占い師も何人か雇っていたが――難航しているのだ」

 占い師さんが上手いこと場所を特定できていないだけなのか、それとも占い師さんが襲われてしまって特定どころじゃなくなったのか。どういう意味での難航かを示唆しないあたり、ファイド刑事さんの配慮を感じられる。

「どうだ――盗掘団の隠した財宝の在処を――見つけ出してはくれんか」

 それが公平な交渉かと言ったら、実のところ、そうでもない。なんといっても私のメリットは何なのかという話だ。

 私の目的は元の世界に帰ることであり、できれば安全な仕事で日銭を稼ぎつつ、元の世界に帰るための情報を探ること。

 ゴブリン退治だの、ドラゴン討伐だの、ギルドに押し寄せてくる危険な仕事を回避して、探偵としての私が活躍できる仕事だけをチョイスして今に至る。
 命あっての物種。ファンタジー世界に探偵の出る幕なし。そうやって上手いこと潜り抜けてきたつもりだ。

 しかし、今回の仕事はどうだろう。私が今まで避けてきた危険な仕事そのものだ。もし、私がお金に困っているのなら、生活に困っているのなら、引き受けざるを得なかっただろうが、今のこの状況で危険を冒してまで得るものはあるのか。

 例えば、ここで山のような金塊を差し出されたとしても、今の私には魅力のあるものとは到底言えない。もしも、ファイド刑事さんがそんな安易な発想で私の力を欲していたのなら、思慮を欠いているとしか思えない判断だ。

 だから直球で訊ねるべきだと、私は判断した。

「報酬……、報酬の話もまだ聞いていませんよね」

 あまりにも現金すぎる質問だということは分かっている。
 でも、その切り出しに、ファイド刑事さんは待っていたと言わんばかりに強い反応を示してきた。ああ、やっぱり、それ相応の対価は用意しているのか。

 お互い、化かし合いをするほどバカな関係ではないはずだ。
 痺れを切らすようにして、ファイド刑事は切り札を突きつける。

「報酬は――ルック、某が元の世界に戻る方法だ」

 それはある意味想像通りの答えだった。


次のエピソードへ進む 第25話 刑事も探偵も、お姉さんも


みんなのリアクション

「じゃあ、もっと具体的な話をお願いします。私は一体何処で何を探せばいいのか」
 私の動揺を見抜いたかのように、ファイド刑事さんは若干肩の力を抜き、この場に流れる緊張感を僅かでも緩和するように深く呼吸する。
 そう少しの間を置いてソファから立ち上がり、直ぐそこにあった棚から何か巻物のようなものを取り、私の目の前のテーブルの上に広げて見せた。
 それはどうやら地図のようだった。随分と使い古されたボロボロの地図だ。
 分かることと言ったら町の地図ではなく、もっと規模の大きいものっぽく、書かれている範囲がかなり広い。
 ファイド刑事さんの指先が、地図上の一つの町を指す。
「今、我が輩たちがいる町がここである――そして」
 そのまま指先が南下していく。途中に森とか山っぽいところを平然と通過しているような気がするのだけど、構わず指はその先に進む。
「この場所――ドワーフの里とも呼ばれている集落がある」
 そこが目的地かと思いきや、ファイド刑事さんの指先はそこからさらに南西の方角にズラされていき、山のど真ん中辺りで止まる。どうみても町や村の記載はなく、本当に山の中だ。
「ここが――ワイバーンの群生地とも呼ばれている場所だ」
「まさか私にワイバーンの巣の中に飛び込めと?」
 それは流石に無茶振りが過ぎる。
「待て――まだ話は終わっていない。問題は、このドワーフの集落と――ワイバーンの巣の間に――炭鉱があるのだ。正確な位置はこの地図にも載っていない――だが、そこには最近盗掘団が出るようになってしまった」
 結局あまり面白くはない話のような気がする。
「どうにも連中――炭鉱で採掘したものを横流しにしていてな――この町にも流出していたのだが――ついぞ先日盗掘団の一味を捕えたのだ。ところが、荒稼ぎした金銭の多くは何処ぞに隠してしまったというのだ」
「ええと、その盗掘団のアジトは分かっているんですか?」
「無論。だが――もぬけの殻であった」
 どうやら話が見えてきたようだ。
「つまり、私に盗賊の埋蔵金を探し当ててほしい、ということですか」
「理解が早くて助かる――その通りだ」
 お宝探しはトレジャーハンターか何かの稼業であって、探偵の本業ではないのだけれども、ギルドでの私の仕事っぷりからみても、また探偵という職業がこの世界に認知されない点で見ても、この手の仕事は私の専売特許という認識なのか。
 可能であるならば説明させていただきたい。私の稼業、探偵という職業は人捜し、もの探し、はたまた個人では明かしづらい実態の調査などを行うものであって、隠された財宝のありかを暴くのはそこに含まれてはいない。
 私はまだ開業したばかりで厳密にはやってはいないけれど、浮気の調査とか素行の調査とかが専ら。うちの旦那が悪い女と付き合っていないかとか、うちの子供が変な遊びを覚えていないかとか、そういうのを調べるのが探偵なんですよ。
 そう、口を大にして言いたいけれど、そうもいくまい。
 この異世界には探偵などいないのだから。
 とはいえ、盗賊さんたちの足取りを調査するという意味合いで見れば、これもれっきとした探偵の仕事とはいえるのか。
 今の段階の話を聞く限りでは、私のできる範囲内の仕事に思える。
 しかし、途中途中に何やら不穏なワードが入り込んでいたのを聞き流していない。
「盗掘団の情報、もう少し詳しくお願いできますか?」
「うむ――まだ多くの残党はドワーフの里周辺に潜んでいる。もぬけの殻だったアジトもそこにある。今では新しいアジトも――どうやら作られている――らしいという見解だ」
 ともなれば、その隠された財宝とやらもドワーフの里周辺にあると考えてもいいのかもしれない。広範囲に分散されているともなれば特定しようもないが、まあそれを調べるのが私の仕事か。
 この時点で確定していることは、私もドワーフの里に足を運ばなければならないということだ。それが単なる遠出だけで済まされればいいのだけれども、どうにもそうはならなそうな気がしてならない。
「ドワーフの里へはここからどのくらいですか?」
「ルックに馬術の心得があるのなら直ぐだ――そうでないのなら我が輩たちが護衛することになるだろうがな」
 あからさまに分かっていて言っているみたいだ。その口ぶり、その言葉のチョイスだと道中の危険具合を表わしているかのよう。
「……聞くまでもないかもしれませんが、安全な旅は保証できますか?」
「治安と秩序を守る我が輩が――こうしてこの場にいることが――その答えだ」
 この仕事は、ギルドの斡旋所に流れているものではない。自警団直々の依頼だ。
 どうして普通の仕事としてあの窓口に流していないのか。
 私にとびきりの信頼を置いているから?
 いや、それもちょっとはあるだろうけれど、主題はそこじゃない。
 危険な仕事であることが確約されているからだ。
 何せ、ギルドの窓口にはモンスターの討伐だって取り扱っていたはずだ。
 それでも直ぐにそっちに回されていないということは、それだけの何かがあると考えられる。
「少し、別な質問をします。話に出た盗掘団以外にも盗賊は多いですか?」
「我が輩は――あえて決心が揺らぐ発言は――せんぞ」
 かなり多いらしい。
 多分だけど、行商人さんも相当な被害に遭っていると見た。
「さっきも言ったが――断るのは自由だ。しかし、この一件は自警団だけでできる仕事の範疇を超えている。既に占い師も何人か雇っていたが――難航しているのだ」
 占い師さんが上手いこと場所を特定できていないだけなのか、それとも占い師さんが襲われてしまって特定どころじゃなくなったのか。どういう意味での難航かを示唆しないあたり、ファイド刑事さんの配慮を感じられる。
「どうだ――盗掘団の隠した財宝の在処を――見つけ出してはくれんか」
 それが公平な交渉かと言ったら、実のところ、そうでもない。なんといっても私のメリットは何なのかという話だ。
 私の目的は元の世界に帰ることであり、できれば安全な仕事で日銭を稼ぎつつ、元の世界に帰るための情報を探ること。
 ゴブリン退治だの、ドラゴン討伐だの、ギルドに押し寄せてくる危険な仕事を回避して、探偵としての私が活躍できる仕事だけをチョイスして今に至る。
 命あっての物種。ファンタジー世界に探偵の出る幕なし。そうやって上手いこと潜り抜けてきたつもりだ。
 しかし、今回の仕事はどうだろう。私が今まで避けてきた危険な仕事そのものだ。もし、私がお金に困っているのなら、生活に困っているのなら、引き受けざるを得なかっただろうが、今のこの状況で危険を冒してまで得るものはあるのか。
 例えば、ここで山のような金塊を差し出されたとしても、今の私には魅力のあるものとは到底言えない。もしも、ファイド刑事さんがそんな安易な発想で私の力を欲していたのなら、思慮を欠いているとしか思えない判断だ。
 だから直球で訊ねるべきだと、私は判断した。
「報酬……、報酬の話もまだ聞いていませんよね」
 あまりにも現金すぎる質問だということは分かっている。
 でも、その切り出しに、ファイド刑事さんは待っていたと言わんばかりに強い反応を示してきた。ああ、やっぱり、それ相応の対価は用意しているのか。
 お互い、化かし合いをするほどバカな関係ではないはずだ。
 痺れを切らすようにして、ファイド刑事は切り札を突きつける。
「報酬は――ルック、某が元の世界に戻る方法だ」
 それはある意味想像通りの答えだった。