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第13話 探偵だから早すぎる

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 ※ ※ ※

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「これ、よろしくお願いします」

 私は、その紙をギルドのその窓口へと提出する。スキンヘッドのおっちゃんは、何か信じられないものを目撃したかのような顔で、私の顔を見上げる。

「ルック。アンタ、ギルドで仕事を受けるのは今日が初めてと聞いたが……」
「はい、そうですよ」

 私は軽くそんな返答をし、スキンヘッドのおっちゃんは紙を回収。そして、窓口の向こうに下がり、ごそごそと何か書類の整理をした後、お金の入った袋をむんずと掴み、こちらに戻ってきた。

「これが今回の報酬だ」
「はい、ありがとうございます! 次の仕事はありますか?」

 ジャラリと袋に収められたお仕事の報酬を受け取りつつも、問い訊ねる。するとまたスキンヘッドのおっちゃんは実に訝しんだ表情で、ポリポリと頭を掻いた。

「ルック。別にアンタのことを疑うつもりはねぇ。だが、聞かせてほしい。……どうやった?」
「どうやった、というのは? 」

 スキンヘッドのおっちゃんが、とうとう溜め息をついた。私がかなり荒唐無稽な発言をしていることを示唆しているかのよう。

「俺もこの仕事は長いつもりだが、こんなことは初めてだよ」

 徐にスキンヘッドのおっちゃんが確認済みの印を捺された紙の束を窓口に置く。
 私の記憶が正常に機能しているのであれば、それらは今日ギルドから受注した仕事であり、そして全て達成した仕事でもある。

「ルック。ものや人を探すのが得意というのは本当に言葉通りだったようだな。俺の目も曇っていたのかもしれねえ。ほんの少しな」
「ええと、つまり……?」

 別の紙の束をザザザっとめくっては出し、めくっては出し、まるで自分の記憶に総意がないことを繰り返し思い起こすかのよう。

「正直な話をしよう。今日この窓口で渡した仕事は下手したら一週間、いや一月かかってもおかしくないようなものも含まれていた。ところがルック。アンタはこんだけの仕事を半日足らずで解決させちまった。前代未聞さ」

 確かに面倒な事件が多かったのも事実。特にパソコンとかスマートフォンとか、そもそもインターネットなる存在とか、その手の文明の利器縛りで知らない土地を探し回るのはなかなか骨が折れた。

 でも、その程度のことだ。私の卓越した推理力を持ってすれば、何も告げずに去っていった行方不明者も、特定の条件下でのみ生息する薬草の探索も、一瞬だ。

 どうやったのか、と問われたらここよりも文化レベルの高い世界の知識や経験に加えて私の頭脳による賜としか答えようがない。

 なんやらかんやらで気付いたらお金がたんまりと懐に貯まっていったから、てっきりこの世界の物価って高いのかなぁ、なんて若干不思議には思っていたのだけれど、そうじゃなかったらしい。
 いつの間にか私はこの世界基準でいうところの何ヶ月か分の仕事を半日で一気にまとめて終わらせていたのか。

 ここは、探偵なる職業の存在していない世界。
 ノウハウすらも組み上がっていない、そんな世界なんだ。
 存外、知らず知らずのうちにチートをかましていたようだ。

 専門職もなく、あってせいぜい占い師による不確定情報の羅列が一番の有力情報ソース。そんな背景を持っているのだから、そもそも私にできる仕事のレベルがそもそも全体的に低かったとも言えるのでは。

「もの探し人捜しで他の仕事となると、児童相談でかくれんぼの遊び相手を探してるくらいのもんしかねえな。勿論、報酬はタダ同然だ」

 逆にそんなものもあるのか。ここのギルドの仕事の幅はどうなっているのだろう。
 むしろ、子供たちと遊べるのならそれもいいとさえ思ってしまうくらいだが、今日のところは抑えておこう。

「ルック。もう一度確認するが、アンタ、ゴブリンかオークくらいは倒せる実力者だったりは……」
「無理です」

 食い気味に即答しておく。勿論無理に決まっている。

 剣だって持てないし、杖持っても魔法も使えないし、戦闘スキルに該当するものは私の中にはない。あってせいぜい、逃げ足くらいのものだろう。
 基本的な話として、このギルドで取りそろえている仕事はやはりそういったモンスター討伐が大半なのかもしれない。

 でもやっぱり私にはそういうモンスターとのバトルは無理だ。戦士でも魔法使いでもなく探偵なので。

「すまねえな。今日のところは打ち止めということにさせてくれ。明日来たらまた違う仕事が他所から入ってくるかもしれん」
「そうですか……いえ、今日はありがとうございました」

 今の口ぶりでは、モンスター退治の仕事なら腐るほどあるぞ、ということに違いない。

 あえて私の得意分野以外の仕事は差し出さない。このスキンヘッドのおっちゃん、ビシバシの仕事男のようでいて、見極めも分別もしっかりと線引きできている超有能男のようだ。こんなに怖い顔をしていなければもっとモテモテだったのでは。

 何はともあれ、今日のうちに目標の一部は達成することができた。もう少し物価についてを勉強していく必要はあるだろうけれど、現状、異世界でのたれ死ぬという最悪のバッドエンドは当面回避できると思ってもいいだろう。

 ある意味で私にとっての大きな課題がなくなったといってもいい。あとは、あの白猫の行方を追って、元の世界に帰るための情報を聞き出す。
 最悪、それが無理だったとしても、情報収集だけはしておきたい。

 一応、今日探偵もどきの仕事をしている合間にも、異世界についての情報は探っていたりもしていたのだけれど、いかんせん、魔法で次元を移動する手段こそあれど、全く違う世界にまで移動してしまうような方法はメジャーでもないらしい。

 なんだったら次元魔法なるものもメジャーではないんだとか。ものすっごい偉い大賢者みたいな人が使えるかも、くらいの認識だ。簡単な聞き込み調査をしていた私の発言の一つ一つがあまりにもこの世界においての現実から乖離しすぎているよう。

 これを私の世界で例えたらどういうことになるのだろう。
 宇宙に飛びたいんだけど、この近くにロケット作ってる人いる? なんだったら火星探索を経験している人を探しているんだけど――みたいな感じか。

 これは危ない。これはとっても危ない。あまり異世界がどうとかは発言しない方が身のためかもしれない。ともなれば、私が異世界人であることがバレることもおそらくヤバいことになることが予測される。私の正体を隠しておくに越したことはない。

 幸いにも、ここにはギルドという超便利な施設もあることだ。仕事も情報収集も全部大体ここでどうにかなる。この異世界にいる間は下手に遠出するよりもギルドに潜り込んで行動していた方が効率的かつ安全だろう。

「そういえば――私、今夜の宿を探しているんですが、どうしたらいいでしょう」

 ハッと思い出したように訊いてみる。
 いくらお金があるとはいっても、昨日と同じ宿はダメなんだ。
 今朝、ちょっとした諸事情のあれこれがあり、あの宿もギルド公認ではなくなってしまったわけだし。そうでなくとも営業停止処分が下っていたはずだ。

「それだったら向こうの窓口だな」

 スキンヘッドのおっちゃんに良い笑顔で回された。確か向こうは昨晩も寄った天使のようなあの人がいた窓口。いや、まあ、おっちゃんもかなり天使寄りではある。このギルドにはいい人しか勤めていないのかもしれない。

「ありがとうございます。また明日、よろしくお願いします」
「おう、またな」

 爽やかで、気持ちの良い別れを果たした後、私はそっちの窓口の方へと移った。


次のエピソードへ進む 第14話 うしろに立つ白猫


みんなのリアクション

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「これ、よろしくお願いします」
 私は、その紙をギルドのその窓口へと提出する。スキンヘッドのおっちゃんは、何か信じられないものを目撃したかのような顔で、私の顔を見上げる。
「ルック。アンタ、ギルドで仕事を受けるのは今日が初めてと聞いたが……」
「はい、そうですよ」
 私は軽くそんな返答をし、スキンヘッドのおっちゃんは紙を回収。そして、窓口の向こうに下がり、ごそごそと何か書類の整理をした後、お金の入った袋をむんずと掴み、こちらに戻ってきた。
「これが今回の報酬だ」
「はい、ありがとうございます! 次の仕事はありますか?」
 ジャラリと袋に収められたお仕事の報酬を受け取りつつも、問い訊ねる。するとまたスキンヘッドのおっちゃんは実に訝しんだ表情で、ポリポリと頭を掻いた。
「ルック。別にアンタのことを疑うつもりはねぇ。だが、聞かせてほしい。……どうやった?」
「どうやった、というのは? 」
 スキンヘッドのおっちゃんが、とうとう溜め息をついた。私がかなり荒唐無稽な発言をしていることを示唆しているかのよう。
「俺もこの仕事は長いつもりだが、こんなことは初めてだよ」
 徐にスキンヘッドのおっちゃんが確認済みの印を捺された紙の束を窓口に置く。
 私の記憶が正常に機能しているのであれば、それらは今日ギルドから受注した仕事であり、そして全て達成した仕事でもある。
「ルック。ものや人を探すのが得意というのは本当に言葉通りだったようだな。俺の目も曇っていたのかもしれねえ。ほんの少しな」
「ええと、つまり……?」
 別の紙の束をザザザっとめくっては出し、めくっては出し、まるで自分の記憶に総意がないことを繰り返し思い起こすかのよう。
「正直な話をしよう。今日この窓口で渡した仕事は下手したら一週間、いや一月かかってもおかしくないようなものも含まれていた。ところがルック。アンタはこんだけの仕事を半日足らずで解決させちまった。前代未聞さ」
 確かに面倒な事件が多かったのも事実。特にパソコンとかスマートフォンとか、そもそもインターネットなる存在とか、その手の文明の利器縛りで知らない土地を探し回るのはなかなか骨が折れた。
 でも、その程度のことだ。私の卓越した推理力を持ってすれば、何も告げずに去っていった行方不明者も、特定の条件下でのみ生息する薬草の探索も、一瞬だ。
 どうやったのか、と問われたらここよりも文化レベルの高い世界の知識や経験に加えて私の頭脳による賜としか答えようがない。
 なんやらかんやらで気付いたらお金がたんまりと懐に貯まっていったから、てっきりこの世界の物価って高いのかなぁ、なんて若干不思議には思っていたのだけれど、そうじゃなかったらしい。
 いつの間にか私はこの世界基準でいうところの何ヶ月か分の仕事を半日で一気にまとめて終わらせていたのか。
 ここは、探偵なる職業の存在していない世界。
 ノウハウすらも組み上がっていない、そんな世界なんだ。
 存外、知らず知らずのうちにチートをかましていたようだ。
 専門職もなく、あってせいぜい占い師による不確定情報の羅列が一番の有力情報ソース。そんな背景を持っているのだから、そもそも私にできる仕事のレベルがそもそも全体的に低かったとも言えるのでは。
「もの探し人捜しで他の仕事となると、児童相談でかくれんぼの遊び相手を探してるくらいのもんしかねえな。勿論、報酬はタダ同然だ」
 逆にそんなものもあるのか。ここのギルドの仕事の幅はどうなっているのだろう。
 むしろ、子供たちと遊べるのならそれもいいとさえ思ってしまうくらいだが、今日のところは抑えておこう。
「ルック。もう一度確認するが、アンタ、ゴブリンかオークくらいは倒せる実力者だったりは……」
「無理です」
 食い気味に即答しておく。勿論無理に決まっている。
 剣だって持てないし、杖持っても魔法も使えないし、戦闘スキルに該当するものは私の中にはない。あってせいぜい、逃げ足くらいのものだろう。
 基本的な話として、このギルドで取りそろえている仕事はやはりそういったモンスター討伐が大半なのかもしれない。
 でもやっぱり私にはそういうモンスターとのバトルは無理だ。戦士でも魔法使いでもなく探偵なので。
「すまねえな。今日のところは打ち止めということにさせてくれ。明日来たらまた違う仕事が他所から入ってくるかもしれん」
「そうですか……いえ、今日はありがとうございました」
 今の口ぶりでは、モンスター退治の仕事なら腐るほどあるぞ、ということに違いない。
 あえて私の得意分野以外の仕事は差し出さない。このスキンヘッドのおっちゃん、ビシバシの仕事男のようでいて、見極めも分別もしっかりと線引きできている超有能男のようだ。こんなに怖い顔をしていなければもっとモテモテだったのでは。
 何はともあれ、今日のうちに目標の一部は達成することができた。もう少し物価についてを勉強していく必要はあるだろうけれど、現状、異世界でのたれ死ぬという最悪のバッドエンドは当面回避できると思ってもいいだろう。
 ある意味で私にとっての大きな課題がなくなったといってもいい。あとは、あの白猫の行方を追って、元の世界に帰るための情報を聞き出す。
 最悪、それが無理だったとしても、情報収集だけはしておきたい。
 一応、今日探偵もどきの仕事をしている合間にも、異世界についての情報は探っていたりもしていたのだけれど、いかんせん、魔法で次元を移動する手段こそあれど、全く違う世界にまで移動してしまうような方法はメジャーでもないらしい。
 なんだったら次元魔法なるものもメジャーではないんだとか。ものすっごい偉い大賢者みたいな人が使えるかも、くらいの認識だ。簡単な聞き込み調査をしていた私の発言の一つ一つがあまりにもこの世界においての現実から乖離しすぎているよう。
 これを私の世界で例えたらどういうことになるのだろう。
 宇宙に飛びたいんだけど、この近くにロケット作ってる人いる? なんだったら火星探索を経験している人を探しているんだけど――みたいな感じか。
 これは危ない。これはとっても危ない。あまり異世界がどうとかは発言しない方が身のためかもしれない。ともなれば、私が異世界人であることがバレることもおそらくヤバいことになることが予測される。私の正体を隠しておくに越したことはない。
 幸いにも、ここにはギルドという超便利な施設もあることだ。仕事も情報収集も全部大体ここでどうにかなる。この異世界にいる間は下手に遠出するよりもギルドに潜り込んで行動していた方が効率的かつ安全だろう。
「そういえば――私、今夜の宿を探しているんですが、どうしたらいいでしょう」
 ハッと思い出したように訊いてみる。
 いくらお金があるとはいっても、昨日と同じ宿はダメなんだ。
 今朝、ちょっとした諸事情のあれこれがあり、あの宿もギルド公認ではなくなってしまったわけだし。そうでなくとも営業停止処分が下っていたはずだ。
「それだったら向こうの窓口だな」
 スキンヘッドのおっちゃんに良い笑顔で回された。確か向こうは昨晩も寄った天使のようなあの人がいた窓口。いや、まあ、おっちゃんもかなり天使寄りではある。このギルドにはいい人しか勤めていないのかもしれない。
「ありがとうございます。また明日、よろしくお願いします」
「おう、またな」
 爽やかで、気持ちの良い別れを果たした後、私はそっちの窓口の方へと移った。