第27話 HP0

ー/ー



【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:0≫
 ≪HP:7/7≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫

 何度目かのにらめっこになる。
 姿見を前にして、何度真実を見る透鏡(トゥルーグラス)を覗き込んでも、我の目の前に出てくる文字列や数値は変わることがない。

 見るからにとんでもない数値が叩き出されている。LV0ってなんだ、0って。そんな数値も出てくるのだな。

 もちろんのこと、幻惑の腕輪だって身につけてはいない。というか、仮に付けていたとしても魔力がすっからかんなのであれば誤認識も作動できない。
 もはやあれも今の我にとっては無用の長物よ。

 もう長いことこの状態だ。頻繁に真実を見る透鏡(トゥルーグラス)を掛けては自分の能力の確認をしているのだが、ずんずん下降するばかりだ。

 ここに表示されている数値はミモザの設けた基準で示されたものであって、我の命がそのまま数値化されているというわけではない。

 だから例えこのままここに見えるHPの値が0になってしまったとしても、ただちに我の命が潰えるなどということはない、多分。

 しかし、だとしても不安を覚えてしまう数値だ。基準なるものがどの程度に設定されているのかはミモザにしか分からないことだが、こんな心許ない数値ではうっかり転んだ拍子にでもあっさりと死んでしまいそうだ。

 よもや、こんなことになってしまうとは、誰が予測できただろう。

 どうしてこのようなことになってしまったのか、その原因はハッキリしている。
 我は、人間の負の感情を命に取り込める術式を開発し、会得している。
 よって、人間が怒り、悲し、憎しめばそれだけ我は強くなれる。

 が、それは逆に、幸せな感情が身近にあれば逆に弱体化するということ。
 一体我の身近の何処にそんなものがあるのか。
 ぶっちゃけ心当たりが多すぎて困るくらいだ。

 まずミモザ、あとミモザ、そしてミモザだ。
 我が当初の目的を諦めたことも関係している。そのせいもあってここのところはずっとミモザとべったり、ほのぼのとした日常を満喫してしまっている。
 ミモザの太陽のように眩しい笑顔を我は毎日、間近で浴び続けている。
 そら、弱体化もするわ。へなへなになってしまうわ。当然だわ。

 我がミモザと出会ったときなんかは、ミモザも市場での商売が上手くいってなかったし、ミモザも自分に自信もなかった。
 だからそこには少なからずとも負の感情というものはあった。だからある程度の維持はできていたが、今はもう状況が違う。

 その当時が-10だとしたら、今は+1000を悠に超えている。
 オーバーキルもいいところ。

 また、ミモザのことをなしにしても、他にも考えられる要因がある。
 それは、ミモザが店長を務めているあの魔具の店だ。
 どうにも看板娘としてすっかり定着してしまったようで今もミモザと共にカウンターに立ってせっせと商売の真似事をさせてもらっている。

 ところが、これがよくなかった。
 あの店では我とミモザが何と呼ばれておるか知ってるか?
 姉妹天使だぞ。なんということだ。
 ミモザは天使で間違いないだろうが、我もそこに含めるか。我、魔王ぞ。

 で、姉妹天使と評判になってしまっているから、我とミモザがお店に立っているだけで、入ってくる客、入ってくる客、みんな幸せオーラを常時放出しっぱなしだ。我とミモザの顔を見た客、みな笑顔だ。
 いや、嬉しいけどどういうことなんだ、まったく。

 我って本当にかつては魔王と呼ばれていたのだろうか。
 もはや魔王軍から追放されて元・魔王なのだが、何にせよ、全世界を震撼させた脅威、とまで言われたこの我が幸せをばらまいてるとは笑止。

【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:0≫
 ≪HP:7/7≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫

 うーむ、やはり何度真実を見る透鏡(トゥルーグラス)を見ても、変わらない。
 弱体化のスパイラルに飲まれてしまっている。

 まさか本当に転んで死ぬということはないとは思いたいが、このまま弱体化が続けばその可能性も濃密になっていくのではないだろうか。拭いきれぬ不安に心が押しつぶされてしまいそうだ。

 だが、これにどんな対策があるだろう。

 例えば経験値稼ぎ。グンとレベルを上げていけばHPも上昇していって安心。
 しかし、回りは幸せのスパイラルに囲まれているのだから、結局またあっという間に弱体化していってしまうことになる。

 下がり続けるのを見越して、定期的に経験値稼ぎをしていくという方法も考えられるが、そもそもいつぞやは幻惑の腕輪を手に入れる際、恐ろしく格上の夢魔と戦い、辛うじて勝利した結果に得られた経験値が三日と持たずに消えたからな。

 あのレベルの相手を毎日は無理だ。身が持たない。油断すれば死んでしまう。
 そんな死と隣り合わせの日々は勘弁だ。

 うーむ、一体どうしたら……。

 ※ ※ ※

「それで、私のところに相談しにきたのですね」
 と、ここまでの話を教会にいたマルペルにしてみた。

 我の持つ不安をミモザに明かすわけにはいかない。
 そして、我は適任はマルペルが妥当だと結論づいた。

 正直言ってしまえば、マルペルに相談を持ちかけることも我としては抵抗がある。我、この女、苦手だし。でも仮にも神職者という立場で、命との関わりが一番深いのもマルペルだ。他に相談できる相手も思いつかない。

「うふふ……私を頼っていただいてありがとうございます、フィーちゃん」
「むぎゅぅ……」
 挨拶代わりに締めに入るの、やめてもらえぬものだろうか。
 いきなりHPが0になったらどうしてくれよう。
 ここまで来ておいて、大体のことを説明しておいてなんだけど、もう早速帰りたくなってきた。

「ええと、こほん。単刀直入に答えだけ申し上げます。おそらくフィーちゃんはこのままでも問題はないと思います」
「そ、そうなのか……?」

「はい。フィーちゃんは弱体化が際限なく能力が低下すると考えているようですが、そのようなことはありません。フィーちゃんはその辺りを少し勘違いしているようです」
「弱体化なのだから下降するという認識ではないのか?」

「根本的な考え方の違いです。まず一般的にHPと称されるものは生命力を意味しますが、厳密には耐久性の指標となります。これを数値化したとき、仮に0であったとしても命がないという意味にはなりません。もう少し分かりやすい喩えにしますと、服を重ね着しているようなイメージでしょうか。HPが高いということはそれだけ多く服を重ね着しているということ。そしてHPが0の状態とは即ち裸の状態ということです」
 おぅぅ……なんか物凄く簡単に説明されている気はするのだが、理解が追いつかないな。

「先ほどの話に戻りますが、生命力が低下することが服を脱ぐということに該当するわけです。つまり裸になってしまえばもうそれ以上脱ぐことはできませんから、それ以上下がりようがない、弱体化はしない、ということになるわけですね」
「うーん、だが最終的に0まで落ちてしまえば、その裸の状態、なのだろう? それはその、大丈夫なのか?」

「まあ、裸とは喩えですからね。確かに裸と聞くと不安に思えますけど、でも転んで死んだり、足をくじいて死んだりとは繋がりません。せいぜい怪我をしやすい、という認識でしょうね」
 分かったような……、分からないような……。

「ウフフ、いざというときには私たちがおりますから。怖くなったときにはいつでも頼っていいのですよ?」

 やれやれ……それがイヤだから困ってるというのに。
 だが、我の悩みも杞憂だったようで、一安心……としておくとするか。


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【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:0≫
 ≪HP:7/7≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫
 何度目かのにらめっこになる。
 姿見を前にして、何度|真実を見る透鏡《トゥルーグラス》を覗き込んでも、我の目の前に出てくる文字列や数値は変わることがない。
 見るからにとんでもない数値が叩き出されている。LV0ってなんだ、0って。そんな数値も出てくるのだな。
 もちろんのこと、幻惑の腕輪だって身につけてはいない。というか、仮に付けていたとしても魔力がすっからかんなのであれば誤認識も作動できない。
 もはやあれも今の我にとっては無用の長物よ。
 もう長いことこの状態だ。頻繁に|真実を見る透鏡《トゥルーグラス》を掛けては自分の能力の確認をしているのだが、ずんずん下降するばかりだ。
 ここに表示されている数値はミモザの設けた基準で示されたものであって、我の命がそのまま数値化されているというわけではない。
 だから例えこのままここに見えるHPの値が0になってしまったとしても、ただちに我の命が潰えるなどということはない、多分。
 しかし、だとしても不安を覚えてしまう数値だ。基準なるものがどの程度に設定されているのかはミモザにしか分からないことだが、こんな心許ない数値ではうっかり転んだ拍子にでもあっさりと死んでしまいそうだ。
 よもや、こんなことになってしまうとは、誰が予測できただろう。
 どうしてこのようなことになってしまったのか、その原因はハッキリしている。
 我は、人間の負の感情を命に取り込める術式を開発し、会得している。
 よって、人間が怒り、悲し、憎しめばそれだけ我は強くなれる。
 が、それは逆に、幸せな感情が身近にあれば逆に弱体化するということ。
 一体我の身近の何処にそんなものがあるのか。
 ぶっちゃけ心当たりが多すぎて困るくらいだ。
 まずミモザ、あとミモザ、そしてミモザだ。
 我が当初の目的を諦めたことも関係している。そのせいもあってここのところはずっとミモザとべったり、ほのぼのとした日常を満喫してしまっている。
 ミモザの太陽のように眩しい笑顔を我は毎日、間近で浴び続けている。
 そら、弱体化もするわ。へなへなになってしまうわ。当然だわ。
 我がミモザと出会ったときなんかは、ミモザも市場での商売が上手くいってなかったし、ミモザも自分に自信もなかった。
 だからそこには少なからずとも負の感情というものはあった。だからある程度の維持はできていたが、今はもう状況が違う。
 その当時が-10だとしたら、今は+1000を悠に超えている。
 オーバーキルもいいところ。
 また、ミモザのことをなしにしても、他にも考えられる要因がある。
 それは、ミモザが店長を務めているあの魔具の店だ。
 どうにも看板娘としてすっかり定着してしまったようで今もミモザと共にカウンターに立ってせっせと商売の真似事をさせてもらっている。
 ところが、これがよくなかった。
 あの店では我とミモザが何と呼ばれておるか知ってるか?
 姉妹天使だぞ。なんということだ。
 ミモザは天使で間違いないだろうが、我もそこに含めるか。我、魔王ぞ。
 で、姉妹天使と評判になってしまっているから、我とミモザがお店に立っているだけで、入ってくる客、入ってくる客、みんな幸せオーラを常時放出しっぱなしだ。我とミモザの顔を見た客、みな笑顔だ。
 いや、嬉しいけどどういうことなんだ、まったく。
 我って本当にかつては魔王と呼ばれていたのだろうか。
 もはや魔王軍から追放されて元・魔王なのだが、何にせよ、全世界を震撼させた脅威、とまで言われたこの我が幸せをばらまいてるとは笑止。
【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:0≫
 ≪HP:7/7≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫
 うーむ、やはり何度|真実を見る透鏡《トゥルーグラス》を見ても、変わらない。
 弱体化のスパイラルに飲まれてしまっている。
 まさか本当に転んで死ぬということはないとは思いたいが、このまま弱体化が続けばその可能性も濃密になっていくのではないだろうか。拭いきれぬ不安に心が押しつぶされてしまいそうだ。
 だが、これにどんな対策があるだろう。
 例えば経験値稼ぎ。グンとレベルを上げていけばHPも上昇していって安心。
 しかし、回りは幸せのスパイラルに囲まれているのだから、結局またあっという間に弱体化していってしまうことになる。
 下がり続けるのを見越して、定期的に経験値稼ぎをしていくという方法も考えられるが、そもそもいつぞやは幻惑の腕輪を手に入れる際、恐ろしく格上の夢魔と戦い、辛うじて勝利した結果に得られた経験値が三日と持たずに消えたからな。
 あのレベルの相手を毎日は無理だ。身が持たない。油断すれば死んでしまう。
 そんな死と隣り合わせの日々は勘弁だ。
 うーむ、一体どうしたら……。
 ※ ※ ※
「それで、私のところに相談しにきたのですね」
 と、ここまでの話を教会にいたマルペルにしてみた。
 我の持つ不安をミモザに明かすわけにはいかない。
 そして、我は適任はマルペルが妥当だと結論づいた。
 正直言ってしまえば、マルペルに相談を持ちかけることも我としては抵抗がある。我、この女、苦手だし。でも仮にも神職者という立場で、命との関わりが一番深いのもマルペルだ。他に相談できる相手も思いつかない。
「うふふ……私を頼っていただいてありがとうございます、フィーちゃん」
「むぎゅぅ……」
 挨拶代わりに締めに入るの、やめてもらえぬものだろうか。
 いきなりHPが0になったらどうしてくれよう。
 ここまで来ておいて、大体のことを説明しておいてなんだけど、もう早速帰りたくなってきた。
「ええと、こほん。単刀直入に答えだけ申し上げます。おそらくフィーちゃんはこのままでも問題はないと思います」
「そ、そうなのか……?」
「はい。フィーちゃんは弱体化が際限なく能力が低下すると考えているようですが、そのようなことはありません。フィーちゃんはその辺りを少し勘違いしているようです」
「弱体化なのだから下降するという認識ではないのか?」
「根本的な考え方の違いです。まず一般的にHPと称されるものは生命力を意味しますが、厳密には耐久性の指標となります。これを数値化したとき、仮に0であったとしても命がないという意味にはなりません。もう少し分かりやすい喩えにしますと、服を重ね着しているようなイメージでしょうか。HPが高いということはそれだけ多く服を重ね着しているということ。そしてHPが0の状態とは即ち裸の状態ということです」
 おぅぅ……なんか物凄く簡単に説明されている気はするのだが、理解が追いつかないな。
「先ほどの話に戻りますが、生命力が低下することが服を脱ぐということに該当するわけです。つまり裸になってしまえばもうそれ以上脱ぐことはできませんから、それ以上下がりようがない、弱体化はしない、ということになるわけですね」
「うーん、だが最終的に0まで落ちてしまえば、その裸の状態、なのだろう? それはその、大丈夫なのか?」
「まあ、裸とは喩えですからね。確かに裸と聞くと不安に思えますけど、でも転んで死んだり、足をくじいて死んだりとは繋がりません。せいぜい怪我をしやすい、という認識でしょうね」
 分かったような……、分からないような……。
「ウフフ、いざというときには私たちがおりますから。怖くなったときにはいつでも頼っていいのですよ?」
 やれやれ……それがイヤだから困ってるというのに。
 だが、我の悩みも杞憂だったようで、一安心……としておくとするか。