第26話 姉妹天使のお店

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「よし、ミモザ、準備はいいか?」
「はいっ!」
 我とミモザは気合いを入れつつ、棚にある魔具のチェックをしていた。
 今日が何の日かといえば、ミモザの店の開店日二日目だ。

 二日目といいつつも初日からは少し日が空いている。
 ミモザの店の商品は全てミモザの手作りでやっていることもあって、在庫が切れたらそこで終わりなのだが、造るペースと売れるペースは当然のことながら一定ではない。

 前回の時は数日分くらい在庫を気合いを入れて用意しておいてあっという間に売れてしまったから、今度はミモザもさらにさらに気合いを入れてきている。
 我には魔具を造る技術はないが、魔法に関する知識であれば十分にミモザに教えることはできたので、より効率の良い方法をお互いに案を出し合って練ってきた。

 その甲斐もあって、いい仕上がりの魔具を短期間でどっさり用意できた。
 もちろん、品質に関してはあのダリアのお墨付きだ。誰にも文句は言わせまい。

 まあ、初日が勢いあっただけだ。
 二日目も同じくらいの客が押し寄せてくることもそうはあるまい。
 魔具は言うほど使い捨てられるレベルの消耗品ではないのだからな。

「フィーお嬢様、ミモザ様、そろそろ開店時間となります」
「今日はあわあわしないれしゅ」
「うむ、心強いぞ」
 満を持して、店の扉が開く。
 それはもはやデジャブだったといってもいいだろう。
 初日と同じくして、客がドドドドと流れ込んできた。

「い、い、い、いらっしゃいましぇ~っ!!」
 ミモザの渾身の接客がまた始まりを告げた。

 ※ ※ ※

「はひゅぅ~……」
 魂でも抜けたみたいな表情で、ミモザがカウンターに突っ伏していた。

 初日寄りかは幾分かマシだったかもしれない。が、それでもやはり客足がなかなか途絶えず、売り上げ高がグングンととんでもないことになっている。

 そしてやはりどういうわけか、カウンターはいくつか開けていたのに、我とミモザの方にだけ集中しまくっていた。何故なのだろうな。
 今回はビラ配りもしていないから前回とは条件も違うはずだが。

 よもや、我を含めて、この店の看板娘として認識されているのでは。
 その推測が正しいとするなれば、もうしばらくは我もカウンターに立たねばならぬではないか。看板娘が下りるわけにもいかぬだろうし。

 なんか厄介なことをしてしまったような気がするな。
 しかし、ここはミモザの店だ。
 売り上げが落ちてしまうようなことは避けるべきだろう。

「やあ、お二人さん、お疲れ様ぁ~」
 陽気に店内に顔を出してきたのは、もう何も言うまい、ダリアだった。
「ダリアしゃん、いらっしゃいましぇ~」

「なんだかすごい評判みたいね、このお店」
「わたしもビックリれふ」

「やっぱり近場にライバル店がないのが強みだろうね。いやはや、パエデロスではあちこちで噂になっちゃってるよ」
「む? 噂とは何だ? 珍しい魔具店としてか?」
「ん~と、これ本人に言っていいものか……」

 そんなに言いよどむような噂なのか?

「ダリアさん、教えてくらさい。どんな噂なんれふか?」
 ミモザがねだるような声で言う。それが聞いたのか、ちょっと表情のゆるんだ顔でダリアが口を開く。

「ほら、あれよ、可愛い姉妹のような天使が看板娘のお店ってみんな噂してる」
「姉妹……」
「天使、れふか……」
 看板娘のところは大体予想ついていたが、姉妹の天使とは。
 十中八九、それは我とミモザのことなのだろう。
 まさか知らぬ間にそんなに噂されていたとは。

「ほんわかとやさしい金の妹天使、キリっとクールな銀の姉天使、って感じで町中の話題筆頭って感じね」
 金の方はミモザで、銀の方は我のことだろう。
 どういうわけか自然と我の方が姉になっているのだな。
 まあ、ミモザを一度でも見たなら妹という印象を抱いても仕方ないが。

「というか、ソレを言いよどんだ理由は何故だ?」
「なんとなく? あともひとつ。噂のご令嬢フィー様が店員てのもポイントね」
 むしろそっちの方を濁してほしかった。ああ、そういえばそうだった。
 我はパエデロスでも無駄に有名になってしまっているんだった。

 どうしてそういうところで我も気付かなかったのだ。
 結局我が自分で目立つ方向に持っていっているだけではないか。

「ふへへ……お姉しゃん……」
 なんか、ミモザが我の方をチラ見して、いつぞやのようなデレ顔になっている。
 姉妹と言われたことがよほど嬉しかったようだ。

「ふふふ、何よ二人ともニヤニヤしちゃって」
 おっと、我の方もか。いかんいかん。顔を戻さねば。

「ま、有名になるのはいいと思うけど、限度もあるからね。例えば変な客とかついちゃう場合もあるから、ちゃんと注意するのよ? 私も定期的に巡回には来るけど」
 パエデロスもまだまだ得体の知れぬ輩はおるからな。
 ミモザの身の回りもしっかり固めておかねばなるまい。

「ええと、売り上げの方はどうれしたか? 盗まれたりとかは……」
 ダリアに不安を煽られたのか、急に気になったらしい。
 硬貨を数えていた使用人に確認しだした。

「はい、ちゃんと勘定があっておりましたよ、ミモザ様」
「ほっ、よかったれしゅ」
 使用人の一人がニッコリと返事する。そういえば、今後ミモザが店員を雇うとすると、そっちの方面にも気を配らねばならぬのか。
 変な輩を雇おうものならミモザが何をされるか分かったものではないな。

「あーっと、ちょっと不安煽りすぎちゃったかな。噂のことは深くは気にしない方がいいよ。どうせ噂だからね」
 まったくだ。ダリアが余計なことをいうものだから我も不安になってしまったではないか。今度、この店に動員する使用人の数を増やすかな。

 ここのところは我もボディガードをつけずにブラつくことも多くなってしまったし、また今度いつ変な輩に絡まれるか分からぬな。警戒するには越したことない。

 それに何より……ここ最近はずっと冒険もご無沙汰だ。勇者を倒すという目的がなくなって行く必要もなくなったからなのだが、そのせいもあって、また我はザコザコのよわよわのヘボヘボに逆戻りしてしまっている。

 ミモザを妹だとか、守ろうとか言っているのだが、実際は我の方がずっと弱い。
 かといってあまり無茶な冒険をしてもミモザを悲しませるだけだ。
 こればっかりは仕方がないのかもしれんな。

 まったくもって、我ながら難儀な身体だ。
 何もしなければ弱体化し続けるなんて。
 今じゃ魔石なしでは完全に魔法も使えやしないからな。
 何か対策を考えたいところ。

 ※ ※ ※

 日も傾き始めた頃合い、窓辺から差し込む夕日で店内はほんのりと紅く染まり上がり、人がいないことも相まって、この薄闇さは哀愁を感じさせる。

「今日もお客さんいっぱいで大満足れしゅ」
 ミモザがご満悦なようで、我としても嬉しい限りだ。
 まだ二日目だというのにすっかりお金の扱いにも慣れたようだ。
 以前の市場の頃とは段違いだ。

「それにしても……にへへぇ、姉妹の天使でふって……」
 またニヤついている。どれだけ嬉しかったのだろう。ダリアからその話を聞いてからというもの、さっきからしきりに繰り返し呟いてはニマニマと笑っている。

 ま、まあ、我も周囲からミモザと姉妹と思われて嬉しくないわけでもないが。

「お店の看板に彫刻をつけてもいいかもしれないな。その、姉妹の天使の彫刻を」
「いいでふねぇ、とってもいいアイディアかもしれましぇん」
 フフフンフンと上機嫌に鼻歌まで歌い、ミモザは我の手を握る。キュッとその手を握り返し、我もミモザの調子に合わせて鼻歌を歌ってやることにした。


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「よし、ミモザ、準備はいいか?」
「はいっ!」
 我とミモザは気合いを入れつつ、棚にある魔具のチェックをしていた。
 今日が何の日かといえば、ミモザの店の開店日二日目だ。
 二日目といいつつも初日からは少し日が空いている。
 ミモザの店の商品は全てミモザの手作りでやっていることもあって、在庫が切れたらそこで終わりなのだが、造るペースと売れるペースは当然のことながら一定ではない。
 前回の時は数日分くらい在庫を気合いを入れて用意しておいてあっという間に売れてしまったから、今度はミモザもさらにさらに気合いを入れてきている。
 我には魔具を造る技術はないが、魔法に関する知識であれば十分にミモザに教えることはできたので、より効率の良い方法をお互いに案を出し合って練ってきた。
 その甲斐もあって、いい仕上がりの魔具を短期間でどっさり用意できた。
 もちろん、品質に関してはあのダリアのお墨付きだ。誰にも文句は言わせまい。
 まあ、初日が勢いあっただけだ。
 二日目も同じくらいの客が押し寄せてくることもそうはあるまい。
 魔具は言うほど使い捨てられるレベルの消耗品ではないのだからな。
「フィーお嬢様、ミモザ様、そろそろ開店時間となります」
「今日はあわあわしないれしゅ」
「うむ、心強いぞ」
 満を持して、店の扉が開く。
 それはもはやデジャブだったといってもいいだろう。
 初日と同じくして、客がドドドドと流れ込んできた。
「い、い、い、いらっしゃいましぇ~っ!!」
 ミモザの渾身の接客がまた始まりを告げた。
 ※ ※ ※
「はひゅぅ~……」
 魂でも抜けたみたいな表情で、ミモザがカウンターに突っ伏していた。
 初日寄りかは幾分かマシだったかもしれない。が、それでもやはり客足がなかなか途絶えず、売り上げ高がグングンととんでもないことになっている。
 そしてやはりどういうわけか、カウンターはいくつか開けていたのに、我とミモザの方にだけ集中しまくっていた。何故なのだろうな。
 今回はビラ配りもしていないから前回とは条件も違うはずだが。
 よもや、我を含めて、この店の看板娘として認識されているのでは。
 その推測が正しいとするなれば、もうしばらくは我もカウンターに立たねばならぬではないか。看板娘が下りるわけにもいかぬだろうし。
 なんか厄介なことをしてしまったような気がするな。
 しかし、ここはミモザの店だ。
 売り上げが落ちてしまうようなことは避けるべきだろう。
「やあ、お二人さん、お疲れ様ぁ~」
 陽気に店内に顔を出してきたのは、もう何も言うまい、ダリアだった。
「ダリアしゃん、いらっしゃいましぇ~」
「なんだかすごい評判みたいね、このお店」
「わたしもビックリれふ」
「やっぱり近場にライバル店がないのが強みだろうね。いやはや、パエデロスではあちこちで噂になっちゃってるよ」
「む? 噂とは何だ? 珍しい魔具店としてか?」
「ん~と、これ本人に言っていいものか……」
 そんなに言いよどむような噂なのか?
「ダリアさん、教えてくらさい。どんな噂なんれふか?」
 ミモザがねだるような声で言う。それが聞いたのか、ちょっと表情のゆるんだ顔でダリアが口を開く。
「ほら、あれよ、可愛い姉妹のような天使が看板娘のお店ってみんな噂してる」
「姉妹……」
「天使、れふか……」
 看板娘のところは大体予想ついていたが、姉妹の天使とは。
 十中八九、それは我とミモザのことなのだろう。
 まさか知らぬ間にそんなに噂されていたとは。
「ほんわかとやさしい金の妹天使、キリっとクールな銀の姉天使、って感じで町中の話題筆頭って感じね」
 金の方はミモザで、銀の方は我のことだろう。
 どういうわけか自然と我の方が姉になっているのだな。
 まあ、ミモザを一度でも見たなら妹という印象を抱いても仕方ないが。
「というか、ソレを言いよどんだ理由は何故だ?」
「なんとなく? あともひとつ。噂のご令嬢フィー様が店員てのもポイントね」
 むしろそっちの方を濁してほしかった。ああ、そういえばそうだった。
 我はパエデロスでも無駄に有名になってしまっているんだった。
 どうしてそういうところで我も気付かなかったのだ。
 結局我が自分で目立つ方向に持っていっているだけではないか。
「ふへへ……お姉しゃん……」
 なんか、ミモザが我の方をチラ見して、いつぞやのようなデレ顔になっている。
 姉妹と言われたことがよほど嬉しかったようだ。
「ふふふ、何よ二人ともニヤニヤしちゃって」
 おっと、我の方もか。いかんいかん。顔を戻さねば。
「ま、有名になるのはいいと思うけど、限度もあるからね。例えば変な客とかついちゃう場合もあるから、ちゃんと注意するのよ? 私も定期的に巡回には来るけど」
 パエデロスもまだまだ得体の知れぬ輩はおるからな。
 ミモザの身の回りもしっかり固めておかねばなるまい。
「ええと、売り上げの方はどうれしたか? 盗まれたりとかは……」
 ダリアに不安を煽られたのか、急に気になったらしい。
 硬貨を数えていた使用人に確認しだした。
「はい、ちゃんと勘定があっておりましたよ、ミモザ様」
「ほっ、よかったれしゅ」
 使用人の一人がニッコリと返事する。そういえば、今後ミモザが店員を雇うとすると、そっちの方面にも気を配らねばならぬのか。
 変な輩を雇おうものならミモザが何をされるか分かったものではないな。
「あーっと、ちょっと不安煽りすぎちゃったかな。噂のことは深くは気にしない方がいいよ。どうせ噂だからね」
 まったくだ。ダリアが余計なことをいうものだから我も不安になってしまったではないか。今度、この店に動員する使用人の数を増やすかな。
 ここのところは我もボディガードをつけずにブラつくことも多くなってしまったし、また今度いつ変な輩に絡まれるか分からぬな。警戒するには越したことない。
 それに何より……ここ最近はずっと冒険もご無沙汰だ。勇者を倒すという目的がなくなって行く必要もなくなったからなのだが、そのせいもあって、また我はザコザコのよわよわのヘボヘボに逆戻りしてしまっている。
 ミモザを妹だとか、守ろうとか言っているのだが、実際は我の方がずっと弱い。
 かといってあまり無茶な冒険をしてもミモザを悲しませるだけだ。
 こればっかりは仕方がないのかもしれんな。
 まったくもって、我ながら難儀な身体だ。
 何もしなければ弱体化し続けるなんて。
 今じゃ魔石なしでは完全に魔法も使えやしないからな。
 何か対策を考えたいところ。
 ※ ※ ※
 日も傾き始めた頃合い、窓辺から差し込む夕日で店内はほんのりと紅く染まり上がり、人がいないことも相まって、この薄闇さは哀愁を感じさせる。
「今日もお客さんいっぱいで大満足れしゅ」
 ミモザがご満悦なようで、我としても嬉しい限りだ。
 まだ二日目だというのにすっかりお金の扱いにも慣れたようだ。
 以前の市場の頃とは段違いだ。
「それにしても……にへへぇ、姉妹の天使でふって……」
 またニヤついている。どれだけ嬉しかったのだろう。ダリアからその話を聞いてからというもの、さっきからしきりに繰り返し呟いてはニマニマと笑っている。
 ま、まあ、我も周囲からミモザと姉妹と思われて嬉しくないわけでもないが。
「お店の看板に彫刻をつけてもいいかもしれないな。その、姉妹の天使の彫刻を」
「いいでふねぇ、とってもいいアイディアかもしれましぇん」
 フフフンフンと上機嫌に鼻歌まで歌い、ミモザは我の手を握る。キュッとその手を握り返し、我もミモザの調子に合わせて鼻歌を歌ってやることにした。