【魔王城】苦渋の決断

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 おそらくは、多少なりの興味本位があった程度では立ち入ろうとは思わないであろう険しい山脈に囲まれたその城は、今まさに襲撃を受けていた。

 いずれもかなりの武装をしており、少なくともそこら辺をブラついているような一般的な人間ではないことだけは確かだった。

「おらあああぁぁ!!!! 死ねええぇぇぃい!!!!」
「魔王軍なんて撲滅じゃああぁぁぁ!!!!」
「人間様を嘗めんじゃねえええぇぇぇっ!!!!」

 思い思いの怒号を上げて、武器を振り上げ、立ち向かう。
 それに対峙するは、見るからに異形のものたち。どう見たって人間ではない。

 持ち前の巨体や、鍛え抜かれた筋肉を持って、人間たちをなぎ倒していくが、いかんせんどうにも人間たちの方が勢いが強い。
 意味が分からないくらいにいきり立っているというのもあるが、剣や戦斧以外にも強力な武器を所持していたからだ。

「それぇ! 投げつけろ! 木っ端微塵に粉砕だあああぁぁ!!!!」
「ひゃっっはあああぁぁぁっ!!!!」
 ドカン、ドゴォン、ボカァン。続けざまに爆音が鳴り響いていく。
 なんともお手軽に、爆風が巻き起こり、異形の連中は一溜まりもなくあっさりと吹き飛ばされていく。

 一体人間たちは何を投げつけているのかといえば、手のひらに収まるくらいの手頃な大きさの石のようなものだった。
 勿論、ただの石なんかではない。ソレは魔法の術式が刻まれ、魔力を込められた魔石。特殊な技術者だけが作れる希少なものになる。

 そう、希少なもののはずだ。相場にもよるが、一つで家一軒建つくらいの価値がある。ところが、この人間たちときたら、本当に小石か何かのようにひょいひょいと気軽に投げ放題だ。

 一体何処で、どうやってこんなにも沢山、それもここまで威力の高い魔石を調達できたというのか。襲撃されている側は不思議でならなかった。

 ※ ※ ※

「戦況はどうなっていやがる、セバス」
 城の地下、筋肉隆々の巨体を持つオーガ族が問いかける。
 上の方からは地鳴りが聞こえるほど、切羽詰まっていることは分かる。

「最悪も最悪で何が何やら。劣勢ということは明白でしょうよ」
 骨だけしかない紳士、スケルトンのセバスチャンが溜め息をこぼす。
 呼吸器官もなさそうなものだが、どうやって息をしたのかは不明だ。

「ったく、人間どもめ。急に増えてきやがって、どっから沸いて出てきたんだか」
「そんなことよりも問題なのは、あの魔石ですよ。いくつか回収できましたか?」
「あ、ああ……破片だけになっちまったがな」
 そういってオーガの手下たちが駆けつけ、テーブルの上に小石のようなソレを置いていき、そそくさと戦場へと戻っていった。

「こんなもんで何が分かるってんだ。俺にゃ魔法はサッパリだ」
 破片を穴が空くほど観察するセバスチャンの傍ら、この場では何もできそうにないオーガが脱力する。

「これは、パエデロスの近辺でゴブリンたちに守らせていた水晶が素材に使われています。魔力構築が尋常じゃない……」
「はっ? おいおい、意味が分かんねぇよ。もちっと分かりやすく言ってくれ」
 どうにもうろたえた様子のセバスチャンの表情をうかがい、さすがのオーガも感化される。骨だけなのにうろたえた様子が分かったことに賞賛ものだが。

「一つ、我が軍の備蓄がごっそり奪われました。二つ、人間側に高度な加工技術者がいます。三つ、状況が最っっっっ悪です」
「んなこたぁ分かってるよ」

「はぁ~……やれやれ、いずれは城を捨てることも選択肢に入れていましたが、まさか念のために仮拠点を検討していたところを討たれてしまうとは。人間どもを甘く見過ぎたツケが返ってきちゃいましたね、こりゃ」
「合点がいかねぇよ。なんだって人間どもは俺らから奪った資材で武器を量産してきやがるんだ。勇者どもの差し金か?」

 魔王軍の拠点となっているこの城は、もう三年も前に勇者の手に掛けられ、その首謀者を失い、今では魔王軍の残党がどうにかやりくりしている状況だった。

 人間側からすれば、ボスのいなくなったダンジョン。それなりに熟練を積んできた冒険者たちにとってはかなり都合のいい狩り場と化していた。

 それでも魔王軍が城を捨てなかったのは、険しく荒れ果てたこの土地が自然の砦となって都合がよかったこともある。安易に他所へ移そうものなら土地勘のない場所で不利を強いられ、一網打尽にされる可能性もあったからだ。

 しかし、人間たちの興味本位の襲撃は続くばかり。いかに険しい山々に守られているとはいえ、攻略法が開拓されてしまってはそれも無意味同然。

 とうとう痺れを切らし、魔王軍は別の土地に拠点を設け、時間を掛けてゆっくりと軍備を整えようとしていた。
 が、それもどういうわけか、実を結ぶ前に先駆けて狙われてしまった。

「勇者……か」
 セバスチャンには腑に落ちない、不自然なことがいくつかあった。

 勇者に警戒すべきことくらい、骨だけのセバスチャンだって分かっている。
 今現在の勇者は、ダンジョン攻略などといったことからは離れて、各地を巡って治安維持に努めているという情報は得ていた。

 それを見越して、ただの冒険者風情では攻略しえないだろう、ゴブリンの巣窟に物資を保管していたのだ。それが潰され、奪われてしまった。
 勇者が動いていたとしか思えないが、そんな情報も入ってきていない。

 さらには、今も魔王城を襲撃している魔石の件。
 いくら技術者がいるからといって、量産できるものなのだろうか。

 魔法を発動するタイプともなれば、素材があったって簡単には作れまい。
 日夜よれよれのヘトヘトになるまで術式を刻み込み、それを安価で売りさばく、あるいは配り歩く者がいたとしたら相当のボランティア精神に溢れている輩か、物の価値も分からぬ阿呆くらいだろう。

 第一、そんな技術を持っているのなら放っておく方が妙だ。
 そもそも技術者と魔術師はイコールでは繋がらない。両立できたら大賢者だ。
 ならば、あれほどの強力な魔法をどうやって習得したというのか。
 まさか気軽にホイホイ友達感覚で教えてくれる魔術師がいるとも考えにくい。

 何かがおかしい。勇者ではない何者かが裏で糸を引いているかのような。
 セバスチャンの中で答えのない疑問だけが膨れあがっていく。

「で、どうするよ、セバス」
「残念ですが…………この城を捨てましょう。魔王軍は本日を持ちまして解散です。今までご苦労様でした」
「チッ……仕方ねぇか。そろそろだと思ったよ」

 不明瞭なことがあまりにも多すぎる。
 人間たちが急激に戦力を増してきたことには何か理由があるはずだが、それを議論したところで、対抗策が何か出るわけでもない。
 二の手、三の手も先に潰されているのだからこれ以上できることもない。
 それは苦渋の決断だった。

「魔王様はどうするんだ? まだ監視は続けているんだろう?」
「いいえ、できていません。もう何処で何をしているのか……」
「おいおい、居場所だけなら把握できてるって言ってなかったか?」

「偵察部隊からの報告が途絶えましたからね。何体か勇者に見つかってしまったそうで、引き上げさせました。まだパエデロスの近辺にいるとしたら既に……」
「手詰まりかよ。くっそ、勇者どもも手が早ぇな」

「次に魔王様が蘇るときに立ち会えないことは口惜しいですが、何百年後、何千年後、再び真なる魔王として君臨していることを願いましょうか」
 そういってセバスチャンはカラカラと骨を鳴らしながら、虚しく笑った。
 無論骨だから分からないが。


次のエピソードへ進む 第17話 やるじゃん


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 おそらくは、多少なりの興味本位があった程度では立ち入ろうとは思わないであろう険しい山脈に囲まれたその城は、今まさに襲撃を受けていた。
 いずれもかなりの武装をしており、少なくともそこら辺をブラついているような一般的な人間ではないことだけは確かだった。
「おらあああぁぁ!!!! 死ねええぇぇぃい!!!!」
「魔王軍なんて撲滅じゃああぁぁぁ!!!!」
「人間様を嘗めんじゃねえええぇぇぇっ!!!!」
 思い思いの怒号を上げて、武器を振り上げ、立ち向かう。
 それに対峙するは、見るからに異形のものたち。どう見たって人間ではない。
 持ち前の巨体や、鍛え抜かれた筋肉を持って、人間たちをなぎ倒していくが、いかんせんどうにも人間たちの方が勢いが強い。
 意味が分からないくらいにいきり立っているというのもあるが、剣や戦斧以外にも強力な武器を所持していたからだ。
「それぇ! 投げつけろ! 木っ端微塵に粉砕だあああぁぁ!!!!」
「ひゃっっはあああぁぁぁっ!!!!」
 ドカン、ドゴォン、ボカァン。続けざまに爆音が鳴り響いていく。
 なんともお手軽に、爆風が巻き起こり、異形の連中は一溜まりもなくあっさりと吹き飛ばされていく。
 一体人間たちは何を投げつけているのかといえば、手のひらに収まるくらいの手頃な大きさの石のようなものだった。
 勿論、ただの石なんかではない。ソレは魔法の術式が刻まれ、魔力を込められた魔石。特殊な技術者だけが作れる希少なものになる。
 そう、希少なもののはずだ。相場にもよるが、一つで家一軒建つくらいの価値がある。ところが、この人間たちときたら、本当に小石か何かのようにひょいひょいと気軽に投げ放題だ。
 一体何処で、どうやってこんなにも沢山、それもここまで威力の高い魔石を調達できたというのか。襲撃されている側は不思議でならなかった。
 ※ ※ ※
「戦況はどうなっていやがる、セバス」
 城の地下、筋肉隆々の巨体を持つオーガ族が問いかける。
 上の方からは地鳴りが聞こえるほど、切羽詰まっていることは分かる。
「最悪も最悪で何が何やら。劣勢ということは明白でしょうよ」
 骨だけしかない紳士、スケルトンのセバスチャンが溜め息をこぼす。
 呼吸器官もなさそうなものだが、どうやって息をしたのかは不明だ。
「ったく、人間どもめ。急に増えてきやがって、どっから沸いて出てきたんだか」
「そんなことよりも問題なのは、あの魔石ですよ。いくつか回収できましたか?」
「あ、ああ……破片だけになっちまったがな」
 そういってオーガの手下たちが駆けつけ、テーブルの上に小石のようなソレを置いていき、そそくさと戦場へと戻っていった。
「こんなもんで何が分かるってんだ。俺にゃ魔法はサッパリだ」
 破片を穴が空くほど観察するセバスチャンの傍ら、この場では何もできそうにないオーガが脱力する。
「これは、パエデロスの近辺でゴブリンたちに守らせていた水晶が素材に使われています。魔力構築が尋常じゃない……」
「はっ? おいおい、意味が分かんねぇよ。もちっと分かりやすく言ってくれ」
 どうにもうろたえた様子のセバスチャンの表情をうかがい、さすがのオーガも感化される。骨だけなのにうろたえた様子が分かったことに賞賛ものだが。
「一つ、我が軍の備蓄がごっそり奪われました。二つ、人間側に高度な加工技術者がいます。三つ、状況が最っっっっ悪です」
「んなこたぁ分かってるよ」
「はぁ~……やれやれ、いずれは城を捨てることも選択肢に入れていましたが、まさか念のために仮拠点を検討していたところを討たれてしまうとは。人間どもを甘く見過ぎたツケが返ってきちゃいましたね、こりゃ」
「合点がいかねぇよ。なんだって人間どもは俺らから奪った資材で武器を量産してきやがるんだ。勇者どもの差し金か?」
 魔王軍の拠点となっているこの城は、もう三年も前に勇者の手に掛けられ、その首謀者を失い、今では魔王軍の残党がどうにかやりくりしている状況だった。
 人間側からすれば、ボスのいなくなったダンジョン。それなりに熟練を積んできた冒険者たちにとってはかなり都合のいい狩り場と化していた。
 それでも魔王軍が城を捨てなかったのは、険しく荒れ果てたこの土地が自然の砦となって都合がよかったこともある。安易に他所へ移そうものなら土地勘のない場所で不利を強いられ、一網打尽にされる可能性もあったからだ。
 しかし、人間たちの興味本位の襲撃は続くばかり。いかに険しい山々に守られているとはいえ、攻略法が開拓されてしまってはそれも無意味同然。
 とうとう痺れを切らし、魔王軍は別の土地に拠点を設け、時間を掛けてゆっくりと軍備を整えようとしていた。
 が、それもどういうわけか、実を結ぶ前に先駆けて狙われてしまった。
「勇者……か」
 セバスチャンには腑に落ちない、不自然なことがいくつかあった。
 勇者に警戒すべきことくらい、骨だけのセバスチャンだって分かっている。
 今現在の勇者は、ダンジョン攻略などといったことからは離れて、各地を巡って治安維持に努めているという情報は得ていた。
 それを見越して、ただの冒険者風情では攻略しえないだろう、ゴブリンの巣窟に物資を保管していたのだ。それが潰され、奪われてしまった。
 勇者が動いていたとしか思えないが、そんな情報も入ってきていない。
 さらには、今も魔王城を襲撃している魔石の件。
 いくら技術者がいるからといって、量産できるものなのだろうか。
 魔法を発動するタイプともなれば、素材があったって簡単には作れまい。
 日夜よれよれのヘトヘトになるまで術式を刻み込み、それを安価で売りさばく、あるいは配り歩く者がいたとしたら相当のボランティア精神に溢れている輩か、物の価値も分からぬ阿呆くらいだろう。
 第一、そんな技術を持っているのなら放っておく方が妙だ。
 そもそも技術者と魔術師はイコールでは繋がらない。両立できたら大賢者だ。
 ならば、あれほどの強力な魔法をどうやって習得したというのか。
 まさか気軽にホイホイ友達感覚で教えてくれる魔術師がいるとも考えにくい。
 何かがおかしい。勇者ではない何者かが裏で糸を引いているかのような。
 セバスチャンの中で答えのない疑問だけが膨れあがっていく。
「で、どうするよ、セバス」
「残念ですが…………この城を捨てましょう。魔王軍は本日を持ちまして解散です。今までご苦労様でした」
「チッ……仕方ねぇか。そろそろだと思ったよ」
 不明瞭なことがあまりにも多すぎる。
 人間たちが急激に戦力を増してきたことには何か理由があるはずだが、それを議論したところで、対抗策が何か出るわけでもない。
 二の手、三の手も先に潰されているのだからこれ以上できることもない。
 それは苦渋の決断だった。
「魔王様はどうするんだ? まだ監視は続けているんだろう?」
「いいえ、できていません。もう何処で何をしているのか……」
「おいおい、居場所だけなら把握できてるって言ってなかったか?」
「偵察部隊からの報告が途絶えましたからね。何体か勇者に見つかってしまったそうで、引き上げさせました。まだパエデロスの近辺にいるとしたら既に……」
「手詰まりかよ。くっそ、勇者どもも手が早ぇな」
「次に魔王様が蘇るときに立ち会えないことは口惜しいですが、何百年後、何千年後、再び真なる魔王として君臨していることを願いましょうか」
 そういってセバスチャンはカラカラと骨を鳴らしながら、虚しく笑った。
 無論骨だから分からないが。