第16話 幻惑の腕輪

ー/ー



「魔王様もここに来るまでに大体分かったと思うんだけどさ~。ここってね、ちょっとした名のある幻術師が造ったものなのさ~」
「幻術師?」
 そういえば、この遺跡に仕掛けてあった数々のトラップは侵入者を撃退させるものというよりも、やたらと精神ダメージを狙っているものばかりだったように思う。

「そう、幻術師。コイツがワタシを封印してくれちゃったワケなんだけど、まあま、ソレは置いておくとして、この幻術師がね~? とある王妃に献上した腕輪があったのよ。その腕輪ね、ここに大事に守られちゃってる奴」
「王妃に献上ということは、それなりに価値のあるものじゃないのか?」

「まあね、売ってしまえば値段は張るかもしれないんだけどさ、その腕輪の真価はね~、何を隠そう幻術が施されてるものなのね~」
 指先でチッチとやられた。つまり、魔具というわけか。

「話せば長いんだけど~、王妃様ってガチの八方美人でさ、国民に褒めちぎられたかったのよね~。だから、身につけたものの認識をゴリゴリっと変えちゃう幻惑の腕輪を作らせたってわけなのさ」
 話短いじゃないか。思っていた以上にくだらん理由だったし。

「はぁ~……その程度の魔具なら今さら必要もないな」
 ひょっとしたらミモザにも作れるレベルかもしれない。
 わざわざここまで足を運んでおいて、本当に収穫なしとは。

「あははのは。そんな落ち込まない落ち込まない。でもさ、ひょっとしたら今の魔王様には使えるものかもしれないよ?」
「似たような魔具なら既に持っておるぞ。その程度のものが一つや二つ増えたくらいで……」

「甘ぁい。幻惑の腕輪はね、その程度のものじゃあないんですわ、これが」
 最初に我には必要のないものとか言っておきながらか。

「今の話を聞いたらさ、この腕輪って色んな人にちやほやされるだけの道具って感じじゃん?」
 どう考えてもそうじゃないのか。

「さっきさ、ワタシ、魔王様の魔力を感知して、なんとな~く『あ、人間じゃないかも』って判断したじゃん? この腕輪はね、そういう魔力感知も誤魔化してしまうのですよ~。わぁ~、すっご~い」
「誤魔化す……?」

「さっきさ、魔王様の話を聞いててちょいちょいと思ったんだけどさ、ほらアレじゃん。魔王様、勇者とかに見張られてるっていうの? そーゆーのにビンカンになってブルブル震えちゃってるわけでしょ?」
「ま、まあな」
 間違ってはいない。言葉にされると情けなくて消えたくなるが。

「この腕輪を使えば、魔力をグングンに上げたって感知されなくなっちゃう。そういう認識を全部ひっくるめて惑わすことができちゃうってわけなのよね~」

「つまり、その腕輪を身につければ、姿を認識させることなく勇者の寝首を掻くこともできるということだな?」
「いや、ソレは無理っす」
 無理なんかいっ!

「だからさ~、認識させないんじゃないのよ。認識を誤魔化すの。そこんとこ間違えちゃや~よ。存在そのものは認知されちゃうよ。当然でしょ?」
 当然でしょ、とか言われてもなぁ。
 話を聞く限りでは使えるような気もするし、使えないような気もするし。

「ぁ~、なんか信用してないっぽい顔してる~。じゃあ、だめ押し。王妃がここに腕輪を封印させたのは、国が滅びたからなのよん。そんだけこの腕輪の効力は絶大だったんだってば」
 国が滅びるって一体どんなスケールだ。王妃は何をやらかしたというのか。

「なんかさっきからずいぶんと腕輪のことを推しているみたいだが、お前は腕輪を守りたいのか? 持っていってもらいたいのか?」
「そら、もちろん持ってってほしいに決まってるじゃん」
 即答しちゃったよ、コイツ。

「封印されちゃったし、契約もしちゃってるから守るしかないんだけどさ~、やっぱ数百年は退屈だったしさ~、ワタシもお役御免したいんですわ~」
「だが、その腕輪を持っていけばお前はどうなる?」
「消えちゃいま~す。ヒュ~どろろん、パッ!」
 両手を顔の前で広げ、おどけてみせる。
 なんともあっけらかんとした表情だな。だがしかし、こんなところで何百年も居続けるのは相当堪えたと見える。我だって勘弁してほしい。

「消えたいのはマジよ。だからさ、腕輪持っていってくんない? 多分期待していたようなものじゃなかっただろうけど、きっと魔王様の役には立つと思うよ」
「フン……、だがただで貰えるというわけではないんだろう?」
「もっち、邪魔しちゃいま~す♪」
 宙に浮かんでくるくると回る。コイツめ。真面目な態度は一秒も持たないのか。

 さて、どうしたものだろう。
 幻惑の腕輪とやら。確かに使いようはありそうだ。
 話を聞いてみた感じでは、おそらくミモザの作る魔具を超えている。

 当初の目的である経験値稼ぎもロクにできなかったが、認識を誤魔化すことができるというのなら考えていたほど自身を鍛え上げる必要もなさそうだ。
 ザコザコのよわよわのへぼへぼでは不意打ちもできないだろう、というのが我の出した考え。鍛えるまでもなく勇者の隙をつけるなら話は変わる。

 なんだったら、いずれレベルダウンしてしまうことも考慮すれば、経験値稼ぎする手間を省いてしまえるのだから、むしろここで腕輪を逃す手はない。

 しかし、今の我がこの夢魔に勝てるのだろうか。

「ど~ぅ? 決まった? やる?」
「ああ、手ぶらでは帰りたくないのでな」
「おっしゃ~、腕が鳴るぜぇ~」

 天井付近をふわふわと浮遊していた夢魔が、勢いよく下りてくる。
 さあ、もう引き返せないぞ。

「ちなみに、ワタシに負けたら永遠に欲望の幻の中に溺れてもらいます。数百年ぶりのご飯ですし、夢魔のワタシにゃ魔王様でも例外ないっすよ」
 今そういうことを言うなよ。

星々の挿入歌(エクラルミナ)っ!」
 牽制に、夢魔に向けて魔法を打ち込む。
 我の荷物の中で、ミモザの魔石が数個、密かに砕けた。

「はははははっ、ザッコ!」
 が、軽々しくペシっと弾かれて消える。結構な威力を込めたはずなのにな。

「ほらほら、行きますよ、魔王様っ!!」
 宙に浮かんだまま、夢魔が我に向かって突進してくる。かなり速い。
 本来なら魔法で迎え撃つところなのだが、その余裕すらない。

 咄嗟に横へ飛び、回避を試みるが、悲しいことにそれでも間に合わない。
 直撃を避けただけで、夢魔の拳が我の身体に叩き込まれる。

「ぐふぅっ!」
 なんというパワー。横っ腹がえぐれるかと思った。夢魔といったら魔法専門のイメージしかないが、肉弾戦もできるのか。それはちょっと反則すぎやしないか?

「きゃははははっ、ワタシの攻撃、喰らっちゃいましたね?」

 な、なんだ? 夢魔の姿が……、ぼやけて……。

「フィーしゃんって弱いれしゅねぇ~」

 何っ!? ミモザ? あれ? どうして我、ミモザと戦って……?
 くぅ、どういうことだ。記憶が繋がらない。
 確か我は……。

「ほらほら、ぼんやりしてるともっかいいきましゅよ!」
 ミモザが見たこともないような気味の悪い笑みを浮かべて拳を振り上げてくる。
 よく分からないが、避けるしかないっ!

 ふらつきつつも身体を反らし、なんとか攻撃を避ける。だが、回りをよく見ていなかったせいで、すぐそばにあった石柱に頭をぶつけてしまう。

「ぐおぅっ!?」
 モロにぶつけた。クッソ痛い。頭割れるんじゃないかってくらいイッた。

「うっわ痛そ~」
 そこでハッとする。ミモザじゃない。アレは夢魔だ。
 幻覚だったのか。しかし、今のはただの幻じゃなかった。
 完全に認識そのものが書き換えられたかのような……。

 ひょっとして、我、負けてしまうのでは?


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「魔王様もここに来るまでに大体分かったと思うんだけどさ~。ここってね、ちょっとした名のある幻術師が造ったものなのさ~」
「幻術師?」
 そういえば、この遺跡に仕掛けてあった数々のトラップは侵入者を撃退させるものというよりも、やたらと精神ダメージを狙っているものばかりだったように思う。
「そう、幻術師。コイツがワタシを封印してくれちゃったワケなんだけど、まあま、ソレは置いておくとして、この幻術師がね~? とある王妃に献上した腕輪があったのよ。その腕輪ね、ここに大事に守られちゃってる奴」
「王妃に献上ということは、それなりに価値のあるものじゃないのか?」
「まあね、売ってしまえば値段は張るかもしれないんだけどさ、その腕輪の真価はね~、何を隠そう幻術が施されてるものなのね~」
 指先でチッチとやられた。つまり、魔具というわけか。
「話せば長いんだけど~、王妃様ってガチの八方美人でさ、国民に褒めちぎられたかったのよね~。だから、身につけたものの認識をゴリゴリっと変えちゃう幻惑の腕輪を作らせたってわけなのさ」
 話短いじゃないか。思っていた以上にくだらん理由だったし。
「はぁ~……その程度の魔具なら今さら必要もないな」
 ひょっとしたらミモザにも作れるレベルかもしれない。
 わざわざここまで足を運んでおいて、本当に収穫なしとは。
「あははのは。そんな落ち込まない落ち込まない。でもさ、ひょっとしたら今の魔王様には使えるものかもしれないよ?」
「似たような魔具なら既に持っておるぞ。その程度のものが一つや二つ増えたくらいで……」
「甘ぁい。幻惑の腕輪はね、その程度のものじゃあないんですわ、これが」
 最初に我には必要のないものとか言っておきながらか。
「今の話を聞いたらさ、この腕輪って色んな人にちやほやされるだけの道具って感じじゃん?」
 どう考えてもそうじゃないのか。
「さっきさ、ワタシ、魔王様の魔力を感知して、なんとな~く『あ、人間じゃないかも』って判断したじゃん? この腕輪はね、そういう魔力感知も誤魔化してしまうのですよ~。わぁ~、すっご~い」
「誤魔化す……?」
「さっきさ、魔王様の話を聞いててちょいちょいと思ったんだけどさ、ほらアレじゃん。魔王様、勇者とかに見張られてるっていうの? そーゆーのにビンカンになってブルブル震えちゃってるわけでしょ?」
「ま、まあな」
 間違ってはいない。言葉にされると情けなくて消えたくなるが。
「この腕輪を使えば、魔力をグングンに上げたって感知されなくなっちゃう。そういう認識を全部ひっくるめて惑わすことができちゃうってわけなのよね~」
「つまり、その腕輪を身につければ、姿を認識させることなく勇者の寝首を掻くこともできるということだな?」
「いや、ソレは無理っす」
 無理なんかいっ!
「だからさ~、認識させないんじゃないのよ。認識を誤魔化すの。そこんとこ間違えちゃや~よ。存在そのものは認知されちゃうよ。当然でしょ?」
 当然でしょ、とか言われてもなぁ。
 話を聞く限りでは使えるような気もするし、使えないような気もするし。
「ぁ~、なんか信用してないっぽい顔してる~。じゃあ、だめ押し。王妃がここに腕輪を封印させたのは、国が滅びたからなのよん。そんだけこの腕輪の効力は絶大だったんだってば」
 国が滅びるって一体どんなスケールだ。王妃は何をやらかしたというのか。
「なんかさっきからずいぶんと腕輪のことを推しているみたいだが、お前は腕輪を守りたいのか? 持っていってもらいたいのか?」
「そら、もちろん持ってってほしいに決まってるじゃん」
 即答しちゃったよ、コイツ。
「封印されちゃったし、契約もしちゃってるから守るしかないんだけどさ~、やっぱ数百年は退屈だったしさ~、ワタシもお役御免したいんですわ~」
「だが、その腕輪を持っていけばお前はどうなる?」
「消えちゃいま~す。ヒュ~どろろん、パッ!」
 両手を顔の前で広げ、おどけてみせる。
 なんともあっけらかんとした表情だな。だがしかし、こんなところで何百年も居続けるのは相当堪えたと見える。我だって勘弁してほしい。
「消えたいのはマジよ。だからさ、腕輪持っていってくんない? 多分期待していたようなものじゃなかっただろうけど、きっと魔王様の役には立つと思うよ」
「フン……、だがただで貰えるというわけではないんだろう?」
「もっち、邪魔しちゃいま~す♪」
 宙に浮かんでくるくると回る。コイツめ。真面目な態度は一秒も持たないのか。
 さて、どうしたものだろう。
 幻惑の腕輪とやら。確かに使いようはありそうだ。
 話を聞いてみた感じでは、おそらくミモザの作る魔具を超えている。
 当初の目的である経験値稼ぎもロクにできなかったが、認識を誤魔化すことができるというのなら考えていたほど自身を鍛え上げる必要もなさそうだ。
 ザコザコのよわよわのへぼへぼでは不意打ちもできないだろう、というのが我の出した考え。鍛えるまでもなく勇者の隙をつけるなら話は変わる。
 なんだったら、いずれレベルダウンしてしまうことも考慮すれば、経験値稼ぎする手間を省いてしまえるのだから、むしろここで腕輪を逃す手はない。
 しかし、今の我がこの夢魔に勝てるのだろうか。
「ど~ぅ? 決まった? やる?」
「ああ、手ぶらでは帰りたくないのでな」
「おっしゃ~、腕が鳴るぜぇ~」
 天井付近をふわふわと浮遊していた夢魔が、勢いよく下りてくる。
 さあ、もう引き返せないぞ。
「ちなみに、ワタシに負けたら永遠に欲望の幻の中に溺れてもらいます。数百年ぶりのご飯ですし、夢魔のワタシにゃ魔王様でも例外ないっすよ」
 今そういうことを言うなよ。
「|星々の挿入歌《エクラルミナ》っ!」
 牽制に、夢魔に向けて魔法を打ち込む。
 我の荷物の中で、ミモザの魔石が数個、密かに砕けた。
「はははははっ、ザッコ!」
 が、軽々しくペシっと弾かれて消える。結構な威力を込めたはずなのにな。
「ほらほら、行きますよ、魔王様っ!!」
 宙に浮かんだまま、夢魔が我に向かって突進してくる。かなり速い。
 本来なら魔法で迎え撃つところなのだが、その余裕すらない。
 咄嗟に横へ飛び、回避を試みるが、悲しいことにそれでも間に合わない。
 直撃を避けただけで、夢魔の拳が我の身体に叩き込まれる。
「ぐふぅっ!」
 なんというパワー。横っ腹がえぐれるかと思った。夢魔といったら魔法専門のイメージしかないが、肉弾戦もできるのか。それはちょっと反則すぎやしないか?
「きゃははははっ、ワタシの攻撃、喰らっちゃいましたね?」
 な、なんだ? 夢魔の姿が……、ぼやけて……。
「フィーしゃんって弱いれしゅねぇ~」
 何っ!? ミモザ? あれ? どうして我、ミモザと戦って……?
 くぅ、どういうことだ。記憶が繋がらない。
 確か我は……。
「ほらほら、ぼんやりしてるともっかいいきましゅよ!」
 ミモザが見たこともないような気味の悪い笑みを浮かべて拳を振り上げてくる。
 よく分からないが、避けるしかないっ!
 ふらつきつつも身体を反らし、なんとか攻撃を避ける。だが、回りをよく見ていなかったせいで、すぐそばにあった石柱に頭をぶつけてしまう。
「ぐおぅっ!?」
 モロにぶつけた。クッソ痛い。頭割れるんじゃないかってくらいイッた。
「うっわ痛そ~」
 そこでハッとする。ミモザじゃない。アレは夢魔だ。
 幻覚だったのか。しかし、今のはただの幻じゃなかった。
 完全に認識そのものが書き換えられたかのような……。
 ひょっとして、我、負けてしまうのでは?