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第14話 このダンジョンを造ったのは誰だあ!?

ー/ー



 発展途上の街、パエデロスを離れ、馬車で揺られること数刻。さらにそこから徒歩でえっちらおっちら歩き、殆ど人の気配のしない山奥へと辿り着く。

 そこにあったのは、いつ、何処の誰が造ったとも分からぬ遺跡。
 石造りであちこち苔むしており、もう百年くらいしたら周囲の木々に取り込まれて自然と一体化してしまいそうな古くささだ。

 街で情報収集した限りでは、既にかなり探索されているらしく、なんだったらお宝もあらかた見つかっていて、用無しのダンジョンと化している。
 わざわざ来る理由など探す方が難しいくらい。

 どうしてまた、こんな初心者向けみたいなダンジョンを選んだのか。
 その答えはとてもシンプルだ。
 今日のダンジョン探索にはミモザがいないからだ。

 そう、ミモザがいないのだ。
 本当は是が非でも連れていきたかったのだが、勇者ども――というかダリアに連れていかれてしまい、泣く泣く断腸の思いでソロ探索することになった。

 どうにもミモザの作る魔具について、色々と制約を課したいようで、そのための講義を急遽執り行うのだとか。
 ほんの少し前にも似たようなことでミモザを借り出されてしまったが、ダリアからしてみればまだまだ不安が残るようだ。

 確かにミモザはかなり抜けているところがある。あんな高度な技術をちりばめた魔具を作っては格安の値段で売りさばいているのだから。
 やろうと思えば、金持ちでも引っかけて、大金を巻き上げることもできよう。

 ま、我には金があるからそんなことはせんがな。

 それはさておき、そんなアホ娘の奇行をつい先日、偶然にも知ってしまったのだから勇者どもも放置するわけにもいかず、涙を蓄えてダリアに連れていかれるミモザを見送り、これこのようにして一人、ダンジョンの前ということだ。

 ここにくるまでには勿論、怠惰なる色彩(カラーチート)背伸びの願望(グロウキッズ)を駆使し、見た目だけでも大人っぽい感じにしてきている。

 服装もバッチリ冒険者だ。あちこちから魔具や食料が取り出しやすくて助かる。
 前回はよくもまあ軽装で探索できたものだと思う。

 ゴブリンどもを一掃するだけの簡単なお仕事ではあったが、集めた素材や資材、お宝もろもろを持ち替えるのに難儀してしまった。

 あのときはミモザから借りた予備の鞄にぐいぐいと押し込んでことなきことを得たが、今回は違うぞ。ちゃんと荷物が沢山入る鞄を手配した。

 これで完璧というもの。
 間違っても我を子供扱いするような輩はいない。
 そもそもこのダンジョンで他の冒険者とバッタリ会う方が稀だがな。
 なぁに、備えあれば憂いなしよ。

 ふははははははははははっ!!!!

 ※ ※ ※

 と、意気揚々、意気込んでみたものの、収穫は思わしくはなかった。
 探索済みのダンジョンなのだからそれは当然なのだが、これほどまでに退屈なものだとは思ってもみなかった。

 手強い相手が出てくるわけでもなし、経験値稼ぎという目的が果たせない。
 宝物だって残っているはずもなく、希少な鉱石も掘り起こされてしまっている。
 もはや探索というよりも虚しい散歩だ。

 少しハードルを低く見積もりすぎたかもしれない。
 このままでは万全の準備をしておいて手ぶらで帰らざるを得ない。

 そうこうしていると、目の前に行き止まりが見えた。

「もうここで終わりか……浅いダンジョンだったな」
 何の遺跡だったのかは知らんが、こんな苔まみれの通路で行き止まりとは。
 せめてもっと部屋くらい用意できなかったものだろうか。

 踵を返そうとした矢先、ふとソレが目に留まる。
 行き止まりの壁が、やけに装飾が凝っているように見えた。
 ここに来るまで色気のない石レンガだらけの遺跡だったが、どうしてこの壁だけ無駄に彫刻まであしらえているんだ?

「ひょっとしてこれは……」
 手のひらを広げ、石壁に触れ、魔力を込めてみる。するとどうしたことだろう。
 ゴゴゴと音を立てて、石壁は縦に割れ、スライドしていった。
 見てみると、壁の向こうにはまだ通路が続いていた。

「なるほど、魔法で稼働するタイプの扉だったのか」
 しかも、人が通った形跡が見当たらないところを見れば、どうやらこの先には誰も到達していないらしい。これはなかなかに好都合だ。

 ちょっとは骨のある奴が息を潜めているかもしれない。なんだったら、ミモザへの手土産も持って帰れそうだ。

 ささやかな期待を込めて、一歩踏み出す。
 するとどうしたことか、床が不自然なまでにズレてガコッと音を立てる。古くて脆くなってしまったのか?
 そう思った矢先、壁の中から魔力の気配が沸いて出てきた。

「な、なんだ? 壁が崩れ……いや、これは召喚魔法?」
 一旦退けば良かったと気付いたときにはもう遅く、カタカタと震える壁の隙間からブヨブヨとした緑色の半透明な物体が一斉に噴き出してきていた。

「ぬわああぁっっ!?」
 気持ち悪っ! なんだこれ!?
 我の身体に緑色の何かがべっちょりとまとわりついてくる。不快極まりない。

 慌ててバックステップで距離を置きつつ、緑のぬちょぬちょを振りほどく。
 なんとまあ、おそらくはスライムの一種だろう。
 しばらくウニョウニョと蠢き、石床に吸い込まれるよう消えていった。

「くそぅ……、侵入者用のトラップか」
 我の身体を確認してみるとスライムの付着していた部分だけが溶かされていた。
 もう少し遅れていれば全裸にされていたかもしれない。それどころか、皮膚も溶かされて大やけどを負っていた可能性もある。

 ここまで探索済みだった通路しか通ってこなかったせいもあって、完全に油断していた。これが本来のダンジョンの姿なのだろう。
 作動していないトラップが大量にあるというわけだ。

 まったく情けない。
 油断していたとはいえ、まんまとトラップに引っかかってしまうとは。
 他に冒険者がいたらこんな半裸、恥さらしもいいところだ。

 もう油断はしないぞ。いつの誰が仕込んだかも分からんトラップに何度も引っかかってたまるものか。注意して進めばこんなもの大したことはない。

「……ん? 今、カチって聞こえたような?」
 足下に違和感。何かを踏んだような気がする。そう思ったときには何かが起動している気配を察知できた。

「ふ……、ふん。また召喚の罠か? 距離を空ければそんなもの……」
 しかし、一向に何かが出てくる気配はない。確かにさっきと同じく何かが動き出したような気がしたのだが。
 ふと、石壁がカタカタ震えている。そこだな。

「って、うわっぷっ?! ゲホッ、ゲホッ……ガ、ガスか……っ!?」
 またスライムでも出てくるものかと構えていたら、既にそれは辺りを充満してきていた。吹き出していたことにも気付かなかったのか。
 何やら異様なまでに甘ったるい匂いが鼻を刺激する。

『フィーしゃあんっ』
「えっ? ミモザ? どうしてこんなところに?」
『えへへ……遊びましょ』

 いかん、頭がくらくらしてくる。
 普通に考えればこんなところにミモザがいるわけがないだろう。
 そう頭では思っているつもりなのだが、楽しげに踊っているミモザの姿が目に焼き付いて離れない。早く、迎えに行かないと……。

「いやいやっ! んなわけなかろうが!」
 両手で両ほっぺをギューっとつねる。痛い。
 すると、途端に楽しそうに踊るミモザがフッと消えてしまった。

 なるほど、幻覚を見せる類いのガスを生成させたのか。味な真似を……。
 よりにもよって、ミモザの幻覚を見せるとは。
 なんとなしに怒りが込み上げてきた。

「くそっ! このダンジョンを造ったのは誰だあ!?」
 やり場のない怒りを言葉にするも、虚しく響き渡った。


次のエピソードへ進む 第15話 かわいそ~


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 発展途上の街、パエデロスを離れ、馬車で揺られること数刻。さらにそこから徒歩でえっちらおっちら歩き、殆ど人の気配のしない山奥へと辿り着く。
 そこにあったのは、いつ、何処の誰が造ったとも分からぬ遺跡。
 石造りであちこち苔むしており、もう百年くらいしたら周囲の木々に取り込まれて自然と一体化してしまいそうな古くささだ。
 街で情報収集した限りでは、既にかなり探索されているらしく、なんだったらお宝もあらかた見つかっていて、用無しのダンジョンと化している。
 わざわざ来る理由など探す方が難しいくらい。
 どうしてまた、こんな初心者向けみたいなダンジョンを選んだのか。
 その答えはとてもシンプルだ。
 今日のダンジョン探索にはミモザがいないからだ。
 そう、ミモザがいないのだ。
 本当は是が非でも連れていきたかったのだが、勇者ども――というかダリアに連れていかれてしまい、泣く泣く断腸の思いでソロ探索することになった。
 どうにもミモザの作る魔具について、色々と制約を課したいようで、そのための講義を急遽執り行うのだとか。
 ほんの少し前にも似たようなことでミモザを借り出されてしまったが、ダリアからしてみればまだまだ不安が残るようだ。
 確かにミモザはかなり抜けているところがある。あんな高度な技術をちりばめた魔具を作っては格安の値段で売りさばいているのだから。
 やろうと思えば、金持ちでも引っかけて、大金を巻き上げることもできよう。
 ま、我には金があるからそんなことはせんがな。
 それはさておき、そんなアホ娘の奇行をつい先日、偶然にも知ってしまったのだから勇者どもも放置するわけにもいかず、涙を蓄えてダリアに連れていかれるミモザを見送り、これこのようにして一人、ダンジョンの前ということだ。
 ここにくるまでには勿論、|怠惰なる色彩《カラーチート》や|背伸びの願望《グロウキッズ》を駆使し、見た目だけでも大人っぽい感じにしてきている。
 服装もバッチリ冒険者だ。あちこちから魔具や食料が取り出しやすくて助かる。
 前回はよくもまあ軽装で探索できたものだと思う。
 ゴブリンどもを一掃するだけの簡単なお仕事ではあったが、集めた素材や資材、お宝もろもろを持ち替えるのに難儀してしまった。
 あのときはミモザから借りた予備の鞄にぐいぐいと押し込んでことなきことを得たが、今回は違うぞ。ちゃんと荷物が沢山入る鞄を手配した。
 これで完璧というもの。
 間違っても我を子供扱いするような輩はいない。
 そもそもこのダンジョンで他の冒険者とバッタリ会う方が稀だがな。
 なぁに、備えあれば憂いなしよ。
 ふははははははははははっ!!!!
 ※ ※ ※
 と、意気揚々、意気込んでみたものの、収穫は思わしくはなかった。
 探索済みのダンジョンなのだからそれは当然なのだが、これほどまでに退屈なものだとは思ってもみなかった。
 手強い相手が出てくるわけでもなし、経験値稼ぎという目的が果たせない。
 宝物だって残っているはずもなく、希少な鉱石も掘り起こされてしまっている。
 もはや探索というよりも虚しい散歩だ。
 少しハードルを低く見積もりすぎたかもしれない。
 このままでは万全の準備をしておいて手ぶらで帰らざるを得ない。
 そうこうしていると、目の前に行き止まりが見えた。
「もうここで終わりか……浅いダンジョンだったな」
 何の遺跡だったのかは知らんが、こんな苔まみれの通路で行き止まりとは。
 せめてもっと部屋くらい用意できなかったものだろうか。
 踵を返そうとした矢先、ふとソレが目に留まる。
 行き止まりの壁が、やけに装飾が凝っているように見えた。
 ここに来るまで色気のない石レンガだらけの遺跡だったが、どうしてこの壁だけ無駄に彫刻まであしらえているんだ?
「ひょっとしてこれは……」
 手のひらを広げ、石壁に触れ、魔力を込めてみる。するとどうしたことだろう。
 ゴゴゴと音を立てて、石壁は縦に割れ、スライドしていった。
 見てみると、壁の向こうにはまだ通路が続いていた。
「なるほど、魔法で稼働するタイプの扉だったのか」
 しかも、人が通った形跡が見当たらないところを見れば、どうやらこの先には誰も到達していないらしい。これはなかなかに好都合だ。
 ちょっとは骨のある奴が息を潜めているかもしれない。なんだったら、ミモザへの手土産も持って帰れそうだ。
 ささやかな期待を込めて、一歩踏み出す。
 するとどうしたことか、床が不自然なまでにズレてガコッと音を立てる。古くて脆くなってしまったのか?
 そう思った矢先、壁の中から魔力の気配が沸いて出てきた。
「な、なんだ? 壁が崩れ……いや、これは召喚魔法?」
 一旦退けば良かったと気付いたときにはもう遅く、カタカタと震える壁の隙間からブヨブヨとした緑色の半透明な物体が一斉に噴き出してきていた。
「ぬわああぁっっ!?」
 気持ち悪っ! なんだこれ!?
 我の身体に緑色の何かがべっちょりとまとわりついてくる。不快極まりない。
 慌ててバックステップで距離を置きつつ、緑のぬちょぬちょを振りほどく。
 なんとまあ、おそらくはスライムの一種だろう。
 しばらくウニョウニョと蠢き、石床に吸い込まれるよう消えていった。
「くそぅ……、侵入者用のトラップか」
 我の身体を確認してみるとスライムの付着していた部分だけが溶かされていた。
 もう少し遅れていれば全裸にされていたかもしれない。それどころか、皮膚も溶かされて大やけどを負っていた可能性もある。
 ここまで探索済みだった通路しか通ってこなかったせいもあって、完全に油断していた。これが本来のダンジョンの姿なのだろう。
 作動していないトラップが大量にあるというわけだ。
 まったく情けない。
 油断していたとはいえ、まんまとトラップに引っかかってしまうとは。
 他に冒険者がいたらこんな半裸、恥さらしもいいところだ。
 もう油断はしないぞ。いつの誰が仕込んだかも分からんトラップに何度も引っかかってたまるものか。注意して進めばこんなもの大したことはない。
「……ん? 今、カチって聞こえたような?」
 足下に違和感。何かを踏んだような気がする。そう思ったときには何かが起動している気配を察知できた。
「ふ……、ふん。また召喚の罠か? 距離を空ければそんなもの……」
 しかし、一向に何かが出てくる気配はない。確かにさっきと同じく何かが動き出したような気がしたのだが。
 ふと、石壁がカタカタ震えている。そこだな。
「って、うわっぷっ?! ゲホッ、ゲホッ……ガ、ガスか……っ!?」
 またスライムでも出てくるものかと構えていたら、既にそれは辺りを充満してきていた。吹き出していたことにも気付かなかったのか。
 何やら異様なまでに甘ったるい匂いが鼻を刺激する。
『フィーしゃあんっ』
「えっ? ミモザ? どうしてこんなところに?」
『えへへ……遊びましょ』
 いかん、頭がくらくらしてくる。
 普通に考えればこんなところにミモザがいるわけがないだろう。
 そう頭では思っているつもりなのだが、楽しげに踊っているミモザの姿が目に焼き付いて離れない。早く、迎えに行かないと……。
「いやいやっ! んなわけなかろうが!」
 両手で両ほっぺをギューっとつねる。痛い。
 すると、途端に楽しそうに踊るミモザがフッと消えてしまった。
 なるほど、幻覚を見せる類いのガスを生成させたのか。味な真似を……。
 よりにもよって、ミモザの幻覚を見せるとは。
 なんとなしに怒りが込み上げてきた。
「くそっ! このダンジョンを造ったのは誰だあ!?」
 やり場のない怒りを言葉にするも、虚しく響き渡った。