第13話 レベルダウン

ー/ー



【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:11≫
 ≪HP:64/64≫
 ≪MP:32/32≫
 ≪状態:健康≫

 なんじゃこりゃああああああぁぁぁ!!!?
 と、姿見の前で我はその現実を突きつけられ、絶望していた。

 鏡の中のメガネを掛けた銀髪の少女が必死ににらみ返してくるが、何度見返したところで、その数字が変わる気配もない。

 今、我が見ているものが何かと言えば、映したものの力量を測る術式の込められたミモザお手製の真実を見る透鏡(トゥルーグラス)によって測定された数値。
 つまりこれが我の能力値そのものというわけだ。

 確か我の記憶が正しければ、もう少しレベルは高かったはずだ。
 結局、あれ以来ダンジョン探索もしばらく控えていたのもあるが、こんなことってあるのだろうか。いくらなんでもおかしい。

 もしこの急激なレベルダウンに要因があるとするならば思い当たることは一つ。
 パエデロスの街の治安が良くなってしまっているのでは、ということ。

 我の力の糧は、人々の負の感情を集約させたもの。
 誰かが怒り、誰かが悲しみ、誰かが憎しめば、それだけ我自身は強くなる。

 そして、パエデロスは勇者どもの活動により、日に日に治安が改善されている。
 ともなれば、アイツらの仕業であると考えるのが妥当だろう。
 平和になればなるほど弱体化するとは、我ながら難儀な身体だ。

 しかし、これはとても困ったことになった。
 ただでさえ我は己を鍛えにダンジョン探索するのも厳しい身。

 なんといっても勇者どもの目が光っている以上、下手に動けない。
 あまり暴れすぎても先日のように騒ぎになってしまうことも考えられる。

 忘れてはいけない。パエデロスの周辺は冒険者どもがひしめきあっている。
 手を組もうとする者もいれば、ライバルとして蹴落とそうとする者もいる。
 特に我は人間どもには少女にしか見えないのだから後者側になりがちだ。

 こうもなってしまえば、よし、ダンジョン探索で経験値稼ぎだっ! と踏み切るには勇気もいる。
 先日の一件のように、弱い冒険者を追っ払う程度で済めばいいのだが、ダンジョン探索していく上で、ゴブリンのような連中との戦闘も避けられまい。

 それに何より、レベルダウンしているということは、必然とミモザの手を借りねばならぬということ。
 少し前だったら当然それも視野に入れていたが、今はそうもいかなくなった。

 何故なら、我だけに留まらず、ミモザも勇者どもの監視下に置かれるようになってしまったからだ。その原因は我にあるわけだが……。

 ダリアからも口を酸っぱくして注意されたと言っていた。
 ミモザの作る魔具はこの街の治安を脅かす危険性があるから、あまり市場でおいそれを販売されると困ると。

 あれはいい、これはダメ、それはいいけど、どれはダメ、といったことを延々と指導を受けさせられたらしい。ミモザも相当しょんぼりしていた。

 何かこう、秘密裏に強力な魔具を作ってもらってダンジョン探索に乗り出すのが妥当なのかもしれないが、それを勇者たちに認知されたらまずい。
 我がミモザを利用して強力な武器を作らせている、ということがバレれば、当然どうしてそんなものを作らせているのか、というところに行き着く。

 これはなかなかに八方塞がりではないか?
 かといって、何もしないままでいれば、おそらく我のレベルは下がり続けて、また1に戻ってしまうことだろう。

 うーむ、考えろ考えろ。
 一体どうすればこの状況を打破できるのだ……。

 ※ ※ ※

「フィーさん、できました!」
「おお、よくやってくれた。さすがはミモザだな」
 そういってミモザから受け取ったのは、ちょっとした腕輪だった。
 サイズ的に言えば、我の腕ではブカブカな方だが。

「よし、早速つけてみよう」
 姿見を前にして、その腕輪を付ける。真後ろでミモザが不安か期待か、そのどちらかでドキドキした表情を浮かべている。

 その変化が起きたのは直ぐのことだった。
 ミモザの顔の位置がズイズイと低くなっていく。
 否、我の視点が高くなっているのだ。

 覗き込んだ姿見には、何と麗しい、銀髪の女が立っているではないか。
 ふははははははははははっ!!!! これぞ絶世の美女というものよ!!!!

「大成功でしゅ!」
 我の視点からするとすっかり小さな幼子にしか見えなくなったミモザがキャッキャと嬉しそうに喜んでいた。

「これは名付けて、背伸びの願望(グロウキッズ)れす。見た目だけなのでしゅが、本当によかったのれしゅか?」
「うむ、十分だ。それにこれを付ければ……」
 首につけたるは怠惰なる色彩(カラーチート)
 銀髪の美女は小麦色の純朴そうな女へと早変わりだ。

「ふぇ~……」
 ミモザが我を見上げながらポーッとしている。
 姿見の中には、まるで姉妹のような二人が並んでいた。

「お姉しゃん……って呼んでいいれしゅか? わたし、兄妹とかいなかったから」
 上目遣いで我の腰あたりにしがみつくようにして、そうお願いされる。
 こ、断れぬ……っ!? なんだ、この異様なオーラは。

「ああ、いいぞ。好きなだけ呼ぶといい。我はミモザの姉だ」
 そっと頭をなでてやる。
「お姉しゃん……えへへ……」
 ぐはぁっ! 凄まじい! なんだこれは!?
 何故だか分からんが、無性に途轍もなくミモザを守りたくなってきたぞ。

 ……と、脱線してはいかん。
 何もこれはミモザと姉妹ごっこするために作らせたものではない。

 怠惰なる色彩(カラーチート)と同様に我の正体を誤魔化すという点では一緒だが、背伸びの願望(グロウキッズ)によって見た目だけでも大人になることによって、冒険者としてより動きやすくなったということだ。

 まあ、少女の恰好では色々嘗められてしまうということも散々学んでしまったしな。リスクの高さを見て、こうした方がいいと判断したまでよ。
 ただ、しかし……。

「ふ、服がキツキツになってしまったな」
 と言った矢先に、ビリ、ビリビリと服の方が悲鳴を挙げ始める。
 ちょっと肘や腰を動かす度にとんでもなく裂けていく。
 しまった。こうなることは予測できていたのだから先に脱いでおけばよかった。

「あわわ……お姉しゃん、いやらちい……」
 何をジロジロ見ているんだ、ミモザ。
 普段からお互いに裸くらい見ているだろうに。

「うぐぐ……服がキツくて脱げない……」
 特に胸回りが異様にパツンパツンだ。
 くそぅ、さっきまでの我はどんだけ貧乳だったんだ。

 脱ぐのは諦めて、腕輪の方を外すことに。
 しかしこれもまた結構すっぽりハマっていてキツかった。
 さっきは割とブカブカだったのに。

 なんとかグイグイと引っこ抜いて、あえなくして我は元の美少女に戻った。
 しかし、悲しいかな。ボロボロになった服までは戻らない。

「ふぅ……また服の調達もせねばな」
「フィーさん、やっぱり冒険に出るのでしゅか?」
「ああ、我もミモザに頼りきりでは情けないからな。少しでも鍛え抜いて……といってもまあまたミモザに頼ってしまっているのだが」

 当面はミモザに頼る他ない。というか、勇者どもに復讐するのにミモザの力はどう考えても必要不可欠だ。手放すことなどできはしない。

「……ま、まあ今後もミモザを頼るだろうな」
「ふへへ……フィーさんのお役に立てるなら嬉しいのれす!」
 とびきりの笑顔で抱きつかれた。まったくコイツは利用されているというのに。

 ともあれ、これで次の計画への準備は整った。
 レベルダウンしてしまっている手前、前進しているような気がしないが、今は少しでも経験値稼ぎし、十分な力を蓄えることだ。

 八方塞がりだからといって、我の歩みは止められないぞ。
 我が目指すは、勇者への復讐、ただそれだけだ。




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【フィーさん】(亜人かな?)
 ≪LV:11≫
 ≪HP:64/64≫
 ≪MP:32/32≫
 ≪状態:健康≫
 なんじゃこりゃああああああぁぁぁ!!!?
 と、姿見の前で我はその現実を突きつけられ、絶望していた。
 鏡の中のメガネを掛けた銀髪の少女が必死ににらみ返してくるが、何度見返したところで、その数字が変わる気配もない。
 今、我が見ているものが何かと言えば、映したものの力量を測る術式の込められたミモザお手製の|真実を見る透鏡《トゥルーグラス》によって測定された数値。
 つまりこれが我の能力値そのものというわけだ。
 確か我の記憶が正しければ、もう少しレベルは高かったはずだ。
 結局、あれ以来ダンジョン探索もしばらく控えていたのもあるが、こんなことってあるのだろうか。いくらなんでもおかしい。
 もしこの急激なレベルダウンに要因があるとするならば思い当たることは一つ。
 パエデロスの街の治安が良くなってしまっているのでは、ということ。
 我の力の糧は、人々の負の感情を集約させたもの。
 誰かが怒り、誰かが悲しみ、誰かが憎しめば、それだけ我自身は強くなる。
 そして、パエデロスは勇者どもの活動により、日に日に治安が改善されている。
 ともなれば、アイツらの仕業であると考えるのが妥当だろう。
 平和になればなるほど弱体化するとは、我ながら難儀な身体だ。
 しかし、これはとても困ったことになった。
 ただでさえ我は己を鍛えにダンジョン探索するのも厳しい身。
 なんといっても勇者どもの目が光っている以上、下手に動けない。
 あまり暴れすぎても先日のように騒ぎになってしまうことも考えられる。
 忘れてはいけない。パエデロスの周辺は冒険者どもがひしめきあっている。
 手を組もうとする者もいれば、ライバルとして蹴落とそうとする者もいる。
 特に我は人間どもには少女にしか見えないのだから後者側になりがちだ。
 こうもなってしまえば、よし、ダンジョン探索で経験値稼ぎだっ! と踏み切るには勇気もいる。
 先日の一件のように、弱い冒険者を追っ払う程度で済めばいいのだが、ダンジョン探索していく上で、ゴブリンのような連中との戦闘も避けられまい。
 それに何より、レベルダウンしているということは、必然とミモザの手を借りねばならぬということ。
 少し前だったら当然それも視野に入れていたが、今はそうもいかなくなった。
 何故なら、我だけに留まらず、ミモザも勇者どもの監視下に置かれるようになってしまったからだ。その原因は我にあるわけだが……。
 ダリアからも口を酸っぱくして注意されたと言っていた。
 ミモザの作る魔具はこの街の治安を脅かす危険性があるから、あまり市場でおいそれを販売されると困ると。
 あれはいい、これはダメ、それはいいけど、どれはダメ、といったことを延々と指導を受けさせられたらしい。ミモザも相当しょんぼりしていた。
 何かこう、秘密裏に強力な魔具を作ってもらってダンジョン探索に乗り出すのが妥当なのかもしれないが、それを勇者たちに認知されたらまずい。
 我がミモザを利用して強力な武器を作らせている、ということがバレれば、当然どうしてそんなものを作らせているのか、というところに行き着く。
 これはなかなかに八方塞がりではないか?
 かといって、何もしないままでいれば、おそらく我のレベルは下がり続けて、また1に戻ってしまうことだろう。
 うーむ、考えろ考えろ。
 一体どうすればこの状況を打破できるのだ……。
 ※ ※ ※
「フィーさん、できました!」
「おお、よくやってくれた。さすがはミモザだな」
 そういってミモザから受け取ったのは、ちょっとした腕輪だった。
 サイズ的に言えば、我の腕ではブカブカな方だが。
「よし、早速つけてみよう」
 姿見を前にして、その腕輪を付ける。真後ろでミモザが不安か期待か、そのどちらかでドキドキした表情を浮かべている。
 その変化が起きたのは直ぐのことだった。
 ミモザの顔の位置がズイズイと低くなっていく。
 否、我の視点が高くなっているのだ。
 覗き込んだ姿見には、何と麗しい、銀髪の女が立っているではないか。
 ふははははははははははっ!!!! これぞ絶世の美女というものよ!!!!
「大成功でしゅ!」
 我の視点からするとすっかり小さな幼子にしか見えなくなったミモザがキャッキャと嬉しそうに喜んでいた。
「これは名付けて、|背伸びの願望《グロウキッズ》れす。見た目だけなのでしゅが、本当によかったのれしゅか?」
「うむ、十分だ。それにこれを付ければ……」
 首につけたるは|怠惰なる色彩《カラーチート》。
 銀髪の美女は小麦色の純朴そうな女へと早変わりだ。
「ふぇ~……」
 ミモザが我を見上げながらポーッとしている。
 姿見の中には、まるで姉妹のような二人が並んでいた。
「お姉しゃん……って呼んでいいれしゅか? わたし、兄妹とかいなかったから」
 上目遣いで我の腰あたりにしがみつくようにして、そうお願いされる。
 こ、断れぬ……っ!? なんだ、この異様なオーラは。
「ああ、いいぞ。好きなだけ呼ぶといい。我はミモザの姉だ」
 そっと頭をなでてやる。
「お姉しゃん……えへへ……」
 ぐはぁっ! 凄まじい! なんだこれは!?
 何故だか分からんが、無性に途轍もなくミモザを守りたくなってきたぞ。
 ……と、脱線してはいかん。
 何もこれはミモザと姉妹ごっこするために作らせたものではない。
 |怠惰なる色彩《カラーチート》と同様に我の正体を誤魔化すという点では一緒だが、|背伸びの願望《グロウキッズ》によって見た目だけでも大人になることによって、冒険者としてより動きやすくなったということだ。
 まあ、少女の恰好では色々嘗められてしまうということも散々学んでしまったしな。リスクの高さを見て、こうした方がいいと判断したまでよ。
 ただ、しかし……。
「ふ、服がキツキツになってしまったな」
 と言った矢先に、ビリ、ビリビリと服の方が悲鳴を挙げ始める。
 ちょっと肘や腰を動かす度にとんでもなく裂けていく。
 しまった。こうなることは予測できていたのだから先に脱いでおけばよかった。
「あわわ……お姉しゃん、いやらちい……」
 何をジロジロ見ているんだ、ミモザ。
 普段からお互いに裸くらい見ているだろうに。
「うぐぐ……服がキツくて脱げない……」
 特に胸回りが異様にパツンパツンだ。
 くそぅ、さっきまでの我はどんだけ貧乳だったんだ。
 脱ぐのは諦めて、腕輪の方を外すことに。
 しかしこれもまた結構すっぽりハマっていてキツかった。
 さっきは割とブカブカだったのに。
 なんとかグイグイと引っこ抜いて、あえなくして我は元の美少女に戻った。
 しかし、悲しいかな。ボロボロになった服までは戻らない。
「ふぅ……また服の調達もせねばな」
「フィーさん、やっぱり冒険に出るのでしゅか?」
「ああ、我もミモザに頼りきりでは情けないからな。少しでも鍛え抜いて……といってもまあまたミモザに頼ってしまっているのだが」
 当面はミモザに頼る他ない。というか、勇者どもに復讐するのにミモザの力はどう考えても必要不可欠だ。手放すことなどできはしない。
「……ま、まあ今後もミモザを頼るだろうな」
「ふへへ……フィーさんのお役に立てるなら嬉しいのれす!」
 とびきりの笑顔で抱きつかれた。まったくコイツは利用されているというのに。
 ともあれ、これで次の計画への準備は整った。
 レベルダウンしてしまっている手前、前進しているような気がしないが、今は少しでも経験値稼ぎし、十分な力を蓄えることだ。
 八方塞がりだからといって、我の歩みは止められないぞ。
 我が目指すは、勇者への復讐、ただそれだけだ。