ここはウエス国の森の中。
人買い組織のゲンブ、ホウオウ、ビャッコの3人が集まっていた。
「スザクが敵に捕まっちまったようだ。」
厳つい顔をした大男はゲンブだ。焦りの色が見える。
「あの子は詰めが甘い所があるからね。」
姉御肌の茶髪の女はホウオウ。スザクとは姉妹である。
「いずれにしても、敵に安々と捕まるような奴には用はない。ターゲットをどうやって奪うかだ。」
冷酷無比のビャッコ。頭の切れる男である。
「ここは、3人で一気にケリをつけようぜ。」
ゲンブが腕を振り回しながら言う。
「そうね。敵には凄腕の魔法使いがいるみたいだし。あのエルフは要注意よ。」
ホウオウが言うと、
「まずは、ゲンブとホウオウ。2人で行ってかき回せ。そのあとに俺がいく。」
ビャッコが指示をだした。
「わかった。」「了解よ。」
ゲンブとホウオウの2人は、すぐに走り去った。
「あの娘は、この世界を支配するための鍵だ。絶対に手に入れる。」
ビャッコがそうつぶやくと一瞬で姿を消した。
そのころ、フィーネたちは、敵襲に備えて準備をしていた。
とはいえ、フィーネとイブの2人で迎え撃つというだけで、特に作戦があるわけではない。
リリィとモックとドンキーは、2階の寝室に隠れる。それだけだ。
スザクは縄で縛って、キッチンの戸棚に閉じ込めている。
夕方を過ぎ、陽が落ちた頃。森から2つの人影が現れた。
「……何か来たぞ。」
イブの直感が、異変を感知した。
「防御せよ。シールド。」
フィーネの魔法で物理攻撃に対してシールドが張られた。
すると、
シューッ、バシッ!
森の中から矢が飛んでくる。敵の姿は見えない。
立て続けに数本の矢が飛んできたが、すべてシールドで防がれた。
今度は大きな人影が現れ、岩を投げてきた。
ウォー!
しかし、シールドに阻まれる。岩は粉々になった。
「それなら力ずくで行くのみ!」
ゲンブが突進してきた。ホウオウも続く。
「雷よ出でよ!サンダー!」
ゲンブとホウオウに雷が直撃する。
「グワーっ!」
一撃で2人の動きを止めた。
「束縛せよ、フリーズ!」
ゲンブとホウオウは、あっさりと拘束された。
「なんだ、呆気ないな。」
イブが残念そうに言う。
「さて、こいつらをどうしようか......」
フィーネが2人に近づいたその時だった。
「流石、凄腕の魔法使い。素晴らしい。」
男の声が聞こえた。
「誰?」
フィーネが声のした方を見ると、やせ形の男が立っている。
「私はビャッコ。この組織のリーダーです。」
「あなたが、リリィをさらおうとしたのね?」
「その通りです。あの娘には、大事な役目があるのでね。いただきに参りました。」
「大事な役目って何?」
「冥途の土産に聞かせてあげましょうか?あの娘の力があれば、この世界を私のものに出来るのです。」
「そんな力、あの子には無いわよ。」
「それがあるんですよ。エルドランド王の隠し子のあの娘にはね。」
「何ですって!?」
「おっと、お話はここまでです。あなたには、死んでもらいますよ。」
そういうと、ビャッコは両手を伸ばし、その先から黒い波動を放った。
バリバリバリバリッ!
黒い波動が襲い掛かる!
その時、イブが反撃をした。
「光よ、出でよ!ライトニング!」
イブの手から放たれた白い光は、ビャッコの黒い波動にぶつかり、弾き返した。
「クッ!まさか、お前は女神!」
「ビャッコと言ったな。お前が何者かは知らないが、女神のぼくには勝てないぞ。」
「これは、分が悪そうですね。一旦、引くことにします。」
ビャッコたちが逃げようとすると、
「待ちなさい!炎よ出でよ!インフェルノ!」
フィーネの炎がビャッコたちを襲う。
「こんな炎、効きませんよ!」
「そうかしら?お粗末なものが見えてるわよ。」
炎で、ビャッコの服が燃え尽き、股間のものが丸見えになっていた。
ビャッコは顔を真っ赤にして慌てて両手で隠す。そして、
「クソー!覚えてろよ!エルフ!次は必ず!!」
ビャッコは、森の中に逃げて行った。
その背中は何処か哀愁と焦りを帯びていた。しかし、その周囲の木々は不気味に揺れ、重苦しい空気が渦巻いていた。
ゲンブとホウオウも後を追うように逃げ帰っていった。ホウオウは一瞬、振り返って丸太小屋を見たがすぐに後を追った。
「ふう、とりあえず、勝ったわね。また、来るだろうけど。」
「そうだな。それにしても、あのビャッコというやつ、魔の者の技を使ったな。何者だろう?」
いろいろと謎は残ったが、とにかく敵に勝利したフィーネたちには、
もう一つの問題を片づける必要があった。
キッチンの戸棚からスザクを出す。
スザクをどうするか?決めるために、話をすることにした。
「スザク、あなたは何で人買いの組織なんかに居るの?」
「姉さんが、ホウオウがいるから。私たち姉妹は、元々、子供の時にビャッコに買われたんだ。」
「そんな過去が……」
「私たちは、仕方なく人買いの仕事をしてた。正直、私は嫌だった。足抜けしたかった。何回かビャッコに言ってみたけど、ダメだった。」
「ねえ、スザク。今からなら、まだやり直せる。人買いは辞めて、私たちのところに来ない?」
「私みたいな、汚れた人間を受け入れてくれるのかい?」
スザクは涙目になっている。
「私は、いろんな人生を経験してきた。嫌な経験も沢山してきた。でも、助けてくれる人もいた。だから、私はあなたを助けたい。」
フィーネが言う。
「私、スザクを許す。スザクは見ていただけなんだよね?お母さんが死んだときも、火事の時も。」
「私は、何もしてない。何もできなかったんだ。」
スザクがついに泣き出した。
「それで、いいんだ。それで。」
イブが言う。
「スザクは悪くないキー!仲間キー!」
モックも受け入れてくれるようだ。
「じゃあ、決まりね。スザク、あなたは今日から私たちの家族よ。」
フィーネは、そういうと、スザクを抱きしめた。
「ありがとう……でも、ホウオウは...姉さんは、どうなるんだろう?」
スザクは安堵しながらも、まだ敵側に残る姉を気に掛けていた。
こうして、フィーネたちに、また、新しい家族ができたのだった。
その夜、森には優しい風が吹き、星々は新しい仲間を祝福するように瞬いていた。