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第16話_ぬくもり

ー/ー



管理室のベッドで、燈は膝を抱えてうずくまっていた。
背中は小刻みに震え、薄い毛布を握る指には力が入っていた。

胸の内側で渦巻くのは、後悔と自責。
呼吸をするたび、胸の奥が痛んで締めつけられる。

――この世界の仕組みも理解していなかった。
――勝手に希望を持たせ、勝手に傷つけた。
――生者である自分が、死者の運命に身勝手に介入してしまった。

「やっぱり……私なんて、もう……」
枕に染み込んだ涙がじんわりと広がっていく。

そのとき――

カチャ、と静かな音を立ててドアが開いた。
足音が近づき、ベッドの横で止まる。

そして、頭にそっと触れる温かな手の感触。
冷え切ったこの世界の中で、唯一のぬくもりだった。

「今日はよく頑張ったな。素晴らしい働きだったぞ」
それは管理人の声だった。

その声はいつものぶっきらぼうな響きではなく、胸の底に届くほど柔らかく、何より優しかった。

だが、その言葉がかえって燈の心を抉る様に深く突き刺さる。
「でも……私は……あんなことを」

次の瞬間。

パァァンッ!!

「いだぁっ!?」

無慈悲に、そして容赦なく燈の尻を平手で叩く。
その一撃は涙が逆に引っ込むほどだった。

「うるさい。珍しく私が褒めてるんだ、ちゃんと喜べ」

「そんなこと言われても、だから私は……!」
燈は勢いよく身を起こし、涙目のまま管理人の顔を見ようとした。

管理人は腕を組み、まっすぐに燈を見下ろす。

「お前がやったことは間違いじゃない」

短く、はっきりと言い切る。

「魂に寄り添おうとした。それだけで十分だ。結果まで背負う必要はない」

燈は唇を噛む。
胸の奥に残っていた罪悪感が、少しだけ形を変える。

「……本当に、そう思いますか?」

「思うから言っている」

管理人は少し視線を逸らし、帽子のつばを押さえる。

「つきのみや駅に来る魂はな、生前思い通りにいかなかった奴らが多い」

「だから、せめて死後の世界くらいは好きにやりたいことをして暮らしてほしい……それが私が理想とする世界だ」

燈はその言葉を、ゆっくりと飲み込む。

胸の奥で何かがほどける。

「そうだったんですね……」

涙で濡れていた視界が、少しずつ晴れていく。

「私……これからも頑張ります」

「あぁ、頼むぞ」

短い返事。
けれどそこには確かな信頼が込められていた。

管理人は踵を返し、ドアへ向かう。

部屋に再び静寂が戻る。

燈はベッドの上で深く息を吐き、涙の跡を袖で拭った。

「……大丈夫」

自分に言い聞かせるように、もう一度つぶやく。
ほんの少しだけ、前を向けた気がした。


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管理室のベッドで、燈は膝を抱えてうずくまっていた。
背中は小刻みに震え、薄い毛布を握る指には力が入っていた。
胸の内側で渦巻くのは、後悔と自責。
呼吸をするたび、胸の奥が痛んで締めつけられる。
――この世界の仕組みも理解していなかった。
――勝手に希望を持たせ、勝手に傷つけた。
――生者である自分が、死者の運命に身勝手に介入してしまった。
「やっぱり……私なんて、もう……」
枕に染み込んだ涙がじんわりと広がっていく。
そのとき――
カチャ、と静かな音を立ててドアが開いた。
足音が近づき、ベッドの横で止まる。
そして、頭にそっと触れる温かな手の感触。
冷え切ったこの世界の中で、唯一のぬくもりだった。
「今日はよく頑張ったな。素晴らしい働きだったぞ」
それは管理人の声だった。
その声はいつものぶっきらぼうな響きではなく、胸の底に届くほど柔らかく、何より優しかった。
だが、その言葉がかえって燈の心を抉る様に深く突き刺さる。
「でも……私は……あんなことを」
次の瞬間。
パァァンッ!!
「いだぁっ!?」
無慈悲に、そして容赦なく燈の尻を平手で叩く。
その一撃は涙が逆に引っ込むほどだった。
「うるさい。珍しく私が褒めてるんだ、ちゃんと喜べ」
「そんなこと言われても、だから私は……!」
燈は勢いよく身を起こし、涙目のまま管理人の顔を見ようとした。
管理人は腕を組み、まっすぐに燈を見下ろす。
「お前がやったことは間違いじゃない」
短く、はっきりと言い切る。
「魂に寄り添おうとした。それだけで十分だ。結果まで背負う必要はない」
燈は唇を噛む。
胸の奥に残っていた罪悪感が、少しだけ形を変える。
「……本当に、そう思いますか?」
「思うから言っている」
管理人は少し視線を逸らし、帽子のつばを押さえる。
「つきのみや駅に来る魂はな、生前思い通りにいかなかった奴らが多い」
「だから、せめて死後の世界くらいは好きにやりたいことをして暮らしてほしい……それが私が理想とする世界だ」
燈はその言葉を、ゆっくりと飲み込む。
胸の奥で何かがほどける。
「そうだったんですね……」
涙で濡れていた視界が、少しずつ晴れていく。
「私……これからも頑張ります」
「あぁ、頼むぞ」
短い返事。
けれどそこには確かな信頼が込められていた。
管理人は踵を返し、ドアへ向かう。
部屋に再び静寂が戻る。
燈はベッドの上で深く息を吐き、涙の跡を袖で拭った。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるように、もう一度つぶやく。
ほんの少しだけ、前を向けた気がした。