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ー/ー 庵には秘密のお友だちがいました。
お友だちの名前はリンくんといいました。リンくんはいつも、どこからかそっと庵の前に現れます。
「リンくん、いつからいたの?」
急に現れるリンくんに、庵はいつもびっくりしてしまいます。
「さっきから、ずっといたよ」
リンくんは笑ってそう答えます。
リンくんと出会う前、庵はいつも一人で遊んでいました。庵にはお友だちがいなかったのです。一人で遊ぶのはあまり楽しくありませんでした。一緒に遊んでくれるお友だちがいたらなあと、庵はいつも思っていました。
もしも自分にお友だちができるなら、こんな子がいいな。庵はよくそんなことを考えました。女の子より、男の子がいい。女の子はお姉さまみたく、わたしをいじめてくるかもしれないから。元気な子より、おとなしい子のほうがいいな。元気な男の子と遊ぶのは楽しそうだけど、わたしは体力がないしのろまだから、そのうち嫌われちゃうかもしれない。おとなしくて、たまにわたしを気づかってくれる、優しい子がいい。それでちょっとかっこいい男の子だったら、嬉しいな。
理想のお友だちのことを考えるのは、庵にとってとても楽しい時間でした。頭の中でずっと考えていると、まるでそんな子が本当にいるみたいな気がしてきました。想像のお友だちを庵はリンくんと呼んでいました。リンくんがいつか本当に自分の前に現れたらなあと庵は考えるようになりました。
するとある日、お友だちは本当に庵の前に現れました。庵が一人で遊んでいるところへ、「ぼくもまぜて」と男の子が急に声をかけてきたのです。男の子の姿を見て、庵はびっくりしました。男の子は庵が想像していた通りの姿をしていたのです。驚いたことに、リンくんという名前まで同じでした。
その日から、庵は毎日リンくんと遊ぶようになりました。お友だちと遊ぶのは一人で遊ぶより、ずっとずっと楽しいことでした。
リンくんは姿や名前だけでなく、優しいところも庵が想像していた通りでした。おにごっこをしていて庵が転んでしまったとき、リンくんは必ず助け起こしてくれました。おままごと用に家から持ってきたお人形を庵が失くしてしまったときには、暗くなるまで一緒に探してくれました。
庵にとって、リンくんは理想のお友だちでした。明日もリンくんに会えると思うと、一人でいる時間もあまり寂しくありません。明日はリンくんと何をして遊ぼうかな。そんなことを考えながら、庵は毎晩幸せな気分で眠りに就くのでした。
リンくんはいつも、気が付くと庵のそばにいました。いつからいたの、と庵が訊くと、ずっといたよ、とリンくんは言うのです。どこからか突然現れるリンくんを、庵は、アルカナマントみたいだなあと思うようになりました。
アルカナマントは、庵がよく読んでいる『魔法少女メアリ』に出てくるヒーローの名前でした。アルカナマントはいつもメアちゃんを陰でこっそり見守っていて、メアちゃんがピンチのときにはどこからか颯爽と現れ、メアちゃんを救ってくれるのです。
アルカナマントの正体は、メアちゃんと同じクラスの男の子です。かっこよくて優しくて、勉強もスポーツもできる、メアちゃんの憧れの男の子なのでした。
リンくんは、わたしのアルカナマントなんだ。そう思うと、庵はすごく嬉しくなりました。ひとりぼっちの庵を救うために現れたヒーロー。庵はリンくんのことがますます好きになっていきました。
リンくんはかくれんぼが得意でした。
オニになった庵はリンくんを一生懸命に捜しますが、いつも見つけることができません。リンくんは、まるでどこかに消えてしまったかのように隠れるのです。
「リンくーん」
「どこにいるのー」
「お返事してー」
庵はだんだん心細くなってくるのでした。リンくんがどこか別の世界に行ってしまったかのようにも思えてきます。そんなとき、庵はふいに後ろから肩をたたかれます。
「リンくん! いつからいたの?」
庵が訊くと、
「ずっといたよ」
と、リンくんは笑って答えます。
遊び終えてバイバイするときも、少しして振り返るとリンくんはもういなくなっています。リンくんってそんな足早かったかしら、と庵は首を捻ります。
ちょっと不思議なところもあるリンくんですが、そんなリンくんのことが庵は大好きでした。
リンくんはわたしのことをどう思ってるんだろう。
リンくんもわたしのことを好きでいてくれたら、嬉しいな。
そんなふうに庵は思うのでした。
リンくんとお話をするのも、庵は大好きでした。
リンくんは庵が知らないことをたくさん知っていました。たとえば、ある日二人は川で一緒に遊んでいました。まだ一人で遊んでいたころ、庵は川の近くにはあまり行かないようにしていました。溺れるかもしれないから川に行ってはいけませんよ、とお母さまから言われていたのです。
でも、今の庵にはリンくんがいます。リンくんと一緒なら、庵はどこへでも行けるような気がしていました。一人では行ったことのない森深くも、蝙蝠の出る暗い洞窟も、リンくんと一緒ならきっと怖くありません。
庵は、川を泳ぐお魚さんを観察していました。川にあまり来たことのない庵にとって、お魚さんは珍しかったのです。
「川にはきれいなお魚さんがたくさんいるのね」
「海には、もっとたくさんのお魚さんがいるんだよ」
庵は海を見たことがありません。海に住む綺麗なお魚さんや、ちょっと変わった姿をした生き物のことをリンくんはお話してくれました。海の中には竜宮城というお城まであるのだそうです。
「リンくんは物知りなのね」
庵が言うと、リンくんは照れたように笑います。
「でも、本物の海はぼくもまだ見たことがないんだ」
「じゃあ、今から二人で見に行こうよ」
するとリンくんは少し困ったような顔で、今からは無理かな、と笑って言います。
「どうして無理なの?」
「海はここよりもずっと遠いところにあるんだ」
「ずっと遠いって、どれくらい? お空よりも?」
「わかんない。でも、すごく遠いんだって。歩いては行けないくらい」
それを聞いて、庵はしょんぼりしてしまいました。
ざんねんだなあ。
リンくんと一緒に海を見に行きたかったなあ。
庵はそう思いました。
するとリンくんが庵に言いました。
「いつか、二人で一緒に海を見に行こう」
「いつかって、いつ?」
「いつか、ぼくたちがおとなになったら」
おとなになったら。リンくんはそう言いました。自分がおとなになるということを、庵はまだうまく想像することができません。
でも、おとなになったら、リンくんと一緒に海を見に行けるんだ。そう思うと、庵はすごくわくわくしてくるのでした。リンくんと一緒に、綺麗ななお魚さんやちょっと変わった生き物たちを見ながら泳いだり、竜宮城に行って海の乙姫さまと会ったりするのを庵は想像しました。
「うん、行こう! いお、おとなになったら、リンくんと一緒に海にいく!」
「それじゃあ、約束だね」
庵はリンくんと指切りをしました。その日はリンくんとバイバイした後も、庵は海のことばかり考えていました。いつかリンくんと一緒に海に行ける日が待ち遠しくてたまりません。
早くおとなになりたいなあ。
お布団の中で、庵はそう願うのでした。
お友だちの名前はリンくんといいました。リンくんはいつも、どこからかそっと庵の前に現れます。
「リンくん、いつからいたの?」
急に現れるリンくんに、庵はいつもびっくりしてしまいます。
「さっきから、ずっといたよ」
リンくんは笑ってそう答えます。
リンくんと出会う前、庵はいつも一人で遊んでいました。庵にはお友だちがいなかったのです。一人で遊ぶのはあまり楽しくありませんでした。一緒に遊んでくれるお友だちがいたらなあと、庵はいつも思っていました。
もしも自分にお友だちができるなら、こんな子がいいな。庵はよくそんなことを考えました。女の子より、男の子がいい。女の子はお姉さまみたく、わたしをいじめてくるかもしれないから。元気な子より、おとなしい子のほうがいいな。元気な男の子と遊ぶのは楽しそうだけど、わたしは体力がないしのろまだから、そのうち嫌われちゃうかもしれない。おとなしくて、たまにわたしを気づかってくれる、優しい子がいい。それでちょっとかっこいい男の子だったら、嬉しいな。
理想のお友だちのことを考えるのは、庵にとってとても楽しい時間でした。頭の中でずっと考えていると、まるでそんな子が本当にいるみたいな気がしてきました。想像のお友だちを庵はリンくんと呼んでいました。リンくんがいつか本当に自分の前に現れたらなあと庵は考えるようになりました。
するとある日、お友だちは本当に庵の前に現れました。庵が一人で遊んでいるところへ、「ぼくもまぜて」と男の子が急に声をかけてきたのです。男の子の姿を見て、庵はびっくりしました。男の子は庵が想像していた通りの姿をしていたのです。驚いたことに、リンくんという名前まで同じでした。
その日から、庵は毎日リンくんと遊ぶようになりました。お友だちと遊ぶのは一人で遊ぶより、ずっとずっと楽しいことでした。
リンくんは姿や名前だけでなく、優しいところも庵が想像していた通りでした。おにごっこをしていて庵が転んでしまったとき、リンくんは必ず助け起こしてくれました。おままごと用に家から持ってきたお人形を庵が失くしてしまったときには、暗くなるまで一緒に探してくれました。
庵にとって、リンくんは理想のお友だちでした。明日もリンくんに会えると思うと、一人でいる時間もあまり寂しくありません。明日はリンくんと何をして遊ぼうかな。そんなことを考えながら、庵は毎晩幸せな気分で眠りに就くのでした。
リンくんはいつも、気が付くと庵のそばにいました。いつからいたの、と庵が訊くと、ずっといたよ、とリンくんは言うのです。どこからか突然現れるリンくんを、庵は、アルカナマントみたいだなあと思うようになりました。
アルカナマントは、庵がよく読んでいる『魔法少女メアリ』に出てくるヒーローの名前でした。アルカナマントはいつもメアちゃんを陰でこっそり見守っていて、メアちゃんがピンチのときにはどこからか颯爽と現れ、メアちゃんを救ってくれるのです。
アルカナマントの正体は、メアちゃんと同じクラスの男の子です。かっこよくて優しくて、勉強もスポーツもできる、メアちゃんの憧れの男の子なのでした。
リンくんは、わたしのアルカナマントなんだ。そう思うと、庵はすごく嬉しくなりました。ひとりぼっちの庵を救うために現れたヒーロー。庵はリンくんのことがますます好きになっていきました。
リンくんはかくれんぼが得意でした。
オニになった庵はリンくんを一生懸命に捜しますが、いつも見つけることができません。リンくんは、まるでどこかに消えてしまったかのように隠れるのです。
「リンくーん」
「どこにいるのー」
「お返事してー」
庵はだんだん心細くなってくるのでした。リンくんがどこか別の世界に行ってしまったかのようにも思えてきます。そんなとき、庵はふいに後ろから肩をたたかれます。
「リンくん! いつからいたの?」
庵が訊くと、
「ずっといたよ」
と、リンくんは笑って答えます。
遊び終えてバイバイするときも、少しして振り返るとリンくんはもういなくなっています。リンくんってそんな足早かったかしら、と庵は首を捻ります。
ちょっと不思議なところもあるリンくんですが、そんなリンくんのことが庵は大好きでした。
リンくんはわたしのことをどう思ってるんだろう。
リンくんもわたしのことを好きでいてくれたら、嬉しいな。
そんなふうに庵は思うのでした。
リンくんとお話をするのも、庵は大好きでした。
リンくんは庵が知らないことをたくさん知っていました。たとえば、ある日二人は川で一緒に遊んでいました。まだ一人で遊んでいたころ、庵は川の近くにはあまり行かないようにしていました。溺れるかもしれないから川に行ってはいけませんよ、とお母さまから言われていたのです。
でも、今の庵にはリンくんがいます。リンくんと一緒なら、庵はどこへでも行けるような気がしていました。一人では行ったことのない森深くも、蝙蝠の出る暗い洞窟も、リンくんと一緒ならきっと怖くありません。
庵は、川を泳ぐお魚さんを観察していました。川にあまり来たことのない庵にとって、お魚さんは珍しかったのです。
「川にはきれいなお魚さんがたくさんいるのね」
「海には、もっとたくさんのお魚さんがいるんだよ」
庵は海を見たことがありません。海に住む綺麗なお魚さんや、ちょっと変わった姿をした生き物のことをリンくんはお話してくれました。海の中には竜宮城というお城まであるのだそうです。
「リンくんは物知りなのね」
庵が言うと、リンくんは照れたように笑います。
「でも、本物の海はぼくもまだ見たことがないんだ」
「じゃあ、今から二人で見に行こうよ」
するとリンくんは少し困ったような顔で、今からは無理かな、と笑って言います。
「どうして無理なの?」
「海はここよりもずっと遠いところにあるんだ」
「ずっと遠いって、どれくらい? お空よりも?」
「わかんない。でも、すごく遠いんだって。歩いては行けないくらい」
それを聞いて、庵はしょんぼりしてしまいました。
ざんねんだなあ。
リンくんと一緒に海を見に行きたかったなあ。
庵はそう思いました。
するとリンくんが庵に言いました。
「いつか、二人で一緒に海を見に行こう」
「いつかって、いつ?」
「いつか、ぼくたちがおとなになったら」
おとなになったら。リンくんはそう言いました。自分がおとなになるということを、庵はまだうまく想像することができません。
でも、おとなになったら、リンくんと一緒に海を見に行けるんだ。そう思うと、庵はすごくわくわくしてくるのでした。リンくんと一緒に、綺麗ななお魚さんやちょっと変わった生き物たちを見ながら泳いだり、竜宮城に行って海の乙姫さまと会ったりするのを庵は想像しました。
「うん、行こう! いお、おとなになったら、リンくんと一緒に海にいく!」
「それじゃあ、約束だね」
庵はリンくんと指切りをしました。その日はリンくんとバイバイした後も、庵は海のことばかり考えていました。いつかリンくんと一緒に海に行ける日が待ち遠しくてたまりません。
早くおとなになりたいなあ。
お布団の中で、庵はそう願うのでした。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
|庵《いお》には秘密のお友だちがいました。
お友だちの名前はリンくんといいました。リンくんはいつも、どこからかそっと庵の前に現れます。
「リンくん、いつからいたの?」
急に現れるリンくんに、庵はいつもびっくりしてしまいます。
「さっきから、ずっといたよ」
リンくんは笑ってそう答えます。
リンくんと出会う前、庵はいつも一人で遊んでいました。庵にはお友だちがいなかったのです。一人で遊ぶのはあまり楽しくありませんでした。一緒に遊んでくれるお友だちがいたらなあと、庵はいつも思っていました。
もしも自分にお友だちができるなら、こんな子がいいな。庵はよくそんなことを考えました。女の子より、男の子がいい。女の子はお姉さまみたく、わたしをいじめてくるかもしれないから。元気な子より、おとなしい子のほうがいいな。元気な男の子と遊ぶのは楽しそうだけど、わたしは体力がないしのろまだから、そのうち嫌われちゃうかもしれない。おとなしくて、たまにわたしを気づかってくれる、優しい子がいい。それでちょっとかっこいい男の子だったら、嬉しいな。
理想のお友だちのことを考えるのは、庵にとってとても楽しい時間でした。頭の中でずっと考えていると、まるでそんな子が本当にいるみたいな気がしてきました。想像のお友だちを庵はリンくんと呼んでいました。リンくんがいつか本当に自分の前に現れたらなあと庵は考えるようになりました。
するとある日、お友だちは本当に庵の前に現れました。庵が一人で遊んでいるところへ、「ぼくもまぜて」と男の子が急に声をかけてきたのです。男の子の姿を見て、庵はびっくりしました。男の子は庵が想像していた通りの姿をしていたのです。驚いたことに、リンくんという名前まで同じでした。
その日から、庵は毎日リンくんと遊ぶようになりました。お友だちと遊ぶのは一人で遊ぶより、ずっとずっと楽しいことでした。
リンくんは姿や名前だけでなく、優しいところも庵が想像していた通りでした。おにごっこをしていて庵が転んでしまったとき、リンくんは必ず助け起こしてくれました。おままごと用に家から持ってきたお人形を庵が失くしてしまったときには、暗くなるまで一緒に探してくれました。
庵にとって、リンくんは理想のお友だちでした。明日もリンくんに会えると思うと、一人でいる時間もあまり寂しくありません。明日はリンくんと何をして遊ぼうかな。そんなことを考えながら、庵は毎晩幸せな気分で眠りに就くのでした。
お友だちの名前はリンくんといいました。リンくんはいつも、どこからかそっと庵の前に現れます。
「リンくん、いつからいたの?」
急に現れるリンくんに、庵はいつもびっくりしてしまいます。
「さっきから、ずっといたよ」
リンくんは笑ってそう答えます。
リンくんと出会う前、庵はいつも一人で遊んでいました。庵にはお友だちがいなかったのです。一人で遊ぶのはあまり楽しくありませんでした。一緒に遊んでくれるお友だちがいたらなあと、庵はいつも思っていました。
もしも自分にお友だちができるなら、こんな子がいいな。庵はよくそんなことを考えました。女の子より、男の子がいい。女の子はお姉さまみたく、わたしをいじめてくるかもしれないから。元気な子より、おとなしい子のほうがいいな。元気な男の子と遊ぶのは楽しそうだけど、わたしは体力がないしのろまだから、そのうち嫌われちゃうかもしれない。おとなしくて、たまにわたしを気づかってくれる、優しい子がいい。それでちょっとかっこいい男の子だったら、嬉しいな。
理想のお友だちのことを考えるのは、庵にとってとても楽しい時間でした。頭の中でずっと考えていると、まるでそんな子が本当にいるみたいな気がしてきました。想像のお友だちを庵はリンくんと呼んでいました。リンくんがいつか本当に自分の前に現れたらなあと庵は考えるようになりました。
するとある日、お友だちは本当に庵の前に現れました。庵が一人で遊んでいるところへ、「ぼくもまぜて」と男の子が急に声をかけてきたのです。男の子の姿を見て、庵はびっくりしました。男の子は庵が想像していた通りの姿をしていたのです。驚いたことに、リンくんという名前まで同じでした。
その日から、庵は毎日リンくんと遊ぶようになりました。お友だちと遊ぶのは一人で遊ぶより、ずっとずっと楽しいことでした。
リンくんは姿や名前だけでなく、優しいところも庵が想像していた通りでした。おにごっこをしていて庵が転んでしまったとき、リンくんは必ず助け起こしてくれました。おままごと用に家から持ってきたお人形を庵が失くしてしまったときには、暗くなるまで一緒に探してくれました。
庵にとって、リンくんは理想のお友だちでした。明日もリンくんに会えると思うと、一人でいる時間もあまり寂しくありません。明日はリンくんと何をして遊ぼうかな。そんなことを考えながら、庵は毎晩幸せな気分で眠りに就くのでした。
リンくんはいつも、気が付くと庵のそばにいました。いつからいたの、と庵が訊くと、ずっといたよ、とリンくんは言うのです。どこからか突然現れるリンくんを、庵は、アルカナマントみたいだなあと思うようになりました。
アルカナマントは、庵がよく読んでいる『魔法少女メアリ』に出てくるヒーローの名前でした。アルカナマントはいつもメアちゃんを陰でこっそり見守っていて、メアちゃんがピンチのときにはどこからか颯爽と現れ、メアちゃんを救ってくれるのです。
アルカナマントの正体は、メアちゃんと同じクラスの男の子です。かっこよくて優しくて、勉強もスポーツもできる、メアちゃんの憧れの男の子なのでした。
リンくんは、わたしのアルカナマントなんだ。そう思うと、庵はすごく嬉しくなりました。ひとりぼっちの庵を救うために現れたヒーロー。庵はリンくんのことがますます好きになっていきました。
リンくんはかくれんぼが得意でした。
オニになった庵はリンくんを一生懸命に捜しますが、いつも見つけることができません。リンくんは、まるでどこかに消えてしまったかのように隠れるのです。
「リンくーん」
「どこにいるのー」
「お返事してー」
庵はだんだん心細くなってくるのでした。リンくんがどこか別の世界に行ってしまったかのようにも思えてきます。そんなとき、庵はふいに後ろから肩をたたかれます。
「リンくん! いつからいたの?」
庵が訊くと、
「ずっといたよ」
と、リンくんは笑って答えます。
遊び終えてバイバイするときも、少しして振り返るとリンくんはもういなくなっています。リンくんってそんな足早かったかしら、と庵は首を捻ります。
ちょっと不思議なところもあるリンくんですが、そんなリンくんのことが庵は大好きでした。
リンくんはわたしのことをどう思ってるんだろう。
リンくんもわたしのことを好きでいてくれたら、嬉しいな。
そんなふうに庵は思うのでした。
リンくんとお話をするのも、庵は大好きでした。
リンくんは庵が知らないことをたくさん知っていました。たとえば、ある日二人は川で一緒に遊んでいました。まだ一人で遊んでいたころ、庵は川の近くにはあまり行かないようにしていました。溺れるかもしれないから川に行ってはいけませんよ、とお母さまから言われていたのです。
でも、今の庵にはリンくんがいます。リンくんと一緒なら、庵はどこへでも行けるような気がしていました。一人では行ったことのない森深くも、蝙蝠の出る暗い洞窟も、リンくんと一緒ならきっと怖くありません。
庵は、川を泳ぐお魚さんを観察していました。川にあまり来たことのない庵にとって、お魚さんは珍しかったのです。
「川にはきれいなお魚さんがたくさんいるのね」
「海には、もっとたくさんのお魚さんがいるんだよ」
庵は海を見たことがありません。海に住む綺麗なお魚さんや、ちょっと変わった姿をした生き物のことをリンくんはお話してくれました。海の中には竜宮城というお城まであるのだそうです。
「リンくんは物知りなのね」
庵が言うと、リンくんは照れたように笑います。
「でも、本物の海はぼくもまだ見たことがないんだ」
「じゃあ、今から二人で見に行こうよ」
するとリンくんは少し困ったような顔で、今からは無理かな、と笑って言います。
「どうして無理なの?」
「海はここよりもずっと遠いところにあるんだ」
「ずっと遠いって、どれくらい? お空よりも?」
「わかんない。でも、すごく遠いんだって。歩いては行けないくらい」
それを聞いて、庵はしょんぼりしてしまいました。
ざんねんだなあ。
リンくんと一緒に海を見に行きたかったなあ。
庵はそう思いました。
するとリンくんが庵に言いました。
「いつか、二人で一緒に海を見に行こう」
「いつかって、いつ?」
「いつか、ぼくたちがおとなになったら」
おとなになったら。リンくんはそう言いました。自分がおとなになるということを、庵はまだうまく想像することができません。
でも、おとなになったら、リンくんと一緒に海を見に行けるんだ。そう思うと、庵はすごくわくわくしてくるのでした。リンくんと一緒に、綺麗ななお魚さんやちょっと変わった生き物たちを見ながら泳いだり、竜宮城に行って海の乙姫さまと会ったりするのを庵は想像しました。
「うん、行こう! いお、おとなになったら、リンくんと一緒に海にいく!」
「それじゃあ、約束だね」
庵はリンくんと指切りをしました。その日はリンくんとバイバイした後も、庵は海のことばかり考えていました。いつかリンくんと一緒に海に行ける日が待ち遠しくてたまりません。
早くおとなになりたいなあ。
お布団の中で、庵はそう願うのでした。
アルカナマントは、庵がよく読んでいる『魔法少女メアリ』に出てくるヒーローの名前でした。アルカナマントはいつもメアちゃんを陰でこっそり見守っていて、メアちゃんがピンチのときにはどこからか颯爽と現れ、メアちゃんを救ってくれるのです。
アルカナマントの正体は、メアちゃんと同じクラスの男の子です。かっこよくて優しくて、勉強もスポーツもできる、メアちゃんの憧れの男の子なのでした。
リンくんは、わたしのアルカナマントなんだ。そう思うと、庵はすごく嬉しくなりました。ひとりぼっちの庵を救うために現れたヒーロー。庵はリンくんのことがますます好きになっていきました。
リンくんはかくれんぼが得意でした。
オニになった庵はリンくんを一生懸命に捜しますが、いつも見つけることができません。リンくんは、まるでどこかに消えてしまったかのように隠れるのです。
「リンくーん」
「どこにいるのー」
「お返事してー」
庵はだんだん心細くなってくるのでした。リンくんがどこか別の世界に行ってしまったかのようにも思えてきます。そんなとき、庵はふいに後ろから肩をたたかれます。
「リンくん! いつからいたの?」
庵が訊くと、
「ずっといたよ」
と、リンくんは笑って答えます。
遊び終えてバイバイするときも、少しして振り返るとリンくんはもういなくなっています。リンくんってそんな足早かったかしら、と庵は首を捻ります。
ちょっと不思議なところもあるリンくんですが、そんなリンくんのことが庵は大好きでした。
リンくんはわたしのことをどう思ってるんだろう。
リンくんもわたしのことを好きでいてくれたら、嬉しいな。
そんなふうに庵は思うのでした。
リンくんとお話をするのも、庵は大好きでした。
リンくんは庵が知らないことをたくさん知っていました。たとえば、ある日二人は川で一緒に遊んでいました。まだ一人で遊んでいたころ、庵は川の近くにはあまり行かないようにしていました。溺れるかもしれないから川に行ってはいけませんよ、とお母さまから言われていたのです。
でも、今の庵にはリンくんがいます。リンくんと一緒なら、庵はどこへでも行けるような気がしていました。一人では行ったことのない森深くも、蝙蝠の出る暗い洞窟も、リンくんと一緒ならきっと怖くありません。
庵は、川を泳ぐお魚さんを観察していました。川にあまり来たことのない庵にとって、お魚さんは珍しかったのです。
「川にはきれいなお魚さんがたくさんいるのね」
「海には、もっとたくさんのお魚さんがいるんだよ」
庵は海を見たことがありません。海に住む綺麗なお魚さんや、ちょっと変わった姿をした生き物のことをリンくんはお話してくれました。海の中には竜宮城というお城まであるのだそうです。
「リンくんは物知りなのね」
庵が言うと、リンくんは照れたように笑います。
「でも、本物の海はぼくもまだ見たことがないんだ」
「じゃあ、今から二人で見に行こうよ」
するとリンくんは少し困ったような顔で、今からは無理かな、と笑って言います。
「どうして無理なの?」
「海はここよりもずっと遠いところにあるんだ」
「ずっと遠いって、どれくらい? お空よりも?」
「わかんない。でも、すごく遠いんだって。歩いては行けないくらい」
それを聞いて、庵はしょんぼりしてしまいました。
ざんねんだなあ。
リンくんと一緒に海を見に行きたかったなあ。
庵はそう思いました。
するとリンくんが庵に言いました。
「いつか、二人で一緒に海を見に行こう」
「いつかって、いつ?」
「いつか、ぼくたちがおとなになったら」
おとなになったら。リンくんはそう言いました。自分がおとなになるということを、庵はまだうまく想像することができません。
でも、おとなになったら、リンくんと一緒に海を見に行けるんだ。そう思うと、庵はすごくわくわくしてくるのでした。リンくんと一緒に、綺麗ななお魚さんやちょっと変わった生き物たちを見ながら泳いだり、竜宮城に行って海の乙姫さまと会ったりするのを庵は想像しました。
「うん、行こう! いお、おとなになったら、リンくんと一緒に海にいく!」
「それじゃあ、約束だね」
庵はリンくんと指切りをしました。その日はリンくんとバイバイした後も、庵は海のことばかり考えていました。いつかリンくんと一緒に海に行ける日が待ち遠しくてたまりません。
早くおとなになりたいなあ。
お布団の中で、庵はそう願うのでした。