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第三部・第4章〜三大配信者 芦宮高校最大の決戦〜②

ー/ー



 〜黒田竜司(くろだりゅうじ)の見解〜
 
「ハァ〜〜〜〜〜」
 
 週明けの月曜日の放課後、オレは、今回の動画コンテストの活動拠点になっている放送室で、ひとり、長いため息をついていた。
 
 授業が始める前、雑談がてらに話していた内容によると、壮馬たちは、ほとんどの取材撮影を終えて、編集作業に入るらしい。
 一方、シロの方はと言えば、活動に関する具体的な進捗報告を彼女が語ったわけではないが、あの余裕のある口ぶりから察するに、動画撮影は順調に進んでいるんだろう。

 いや、他のグループのことを気にしている場合ではない。
 問題は、自分たちの活動のスケジュールが、押せ押せになっていることだ。

 壮馬たちとの連絡会を終えた二週間前から、一日一軒の頻度でクラブを訪問して活動実態を取材し、モモカの演じる芦宮(あしのみや)サクラに、その魅力を語らせるというルーティーンをこなしてきたのだが……。

 多くの提携先を抱えたオレたちは、スケジュール調整が上手くいかず、結果として、バドミントン部の新人戦を現地取材することができない、という事態になってしまった。
 そして、男女合わせて数十名の部員を要するバドミントン部が、壮馬たちとの協力関係を築いたことにより、オレが計画していた取材先のクラブを増やし、基礎票を固めて三分の一以上の得票を獲得する、という目論見は、もろくも崩れさった。

 動画コンテストの投票日に諸事情で欠席する生徒のため、という名目で実施される期日前投票で、提携したクラブの部員から、なるべく多くの票を得たかったのだが、そのプランは、計画どおりに行かなかった。

 あとは、クラブに所属していない生徒が、Vtuberの芦宮(あしのみや)サクラというキャラクターに魅力を感じて投票してくれることを期待するしかない。

 だが、クラブ取材と、その後の音声収録の作業に忙殺されていたオレたちは、とてもではないが、シロたちのグループのような頻度で、活動をアピールする動画やメッセージを投稿することは出来なかった。

 タブレットPCで、Googleカレンダーを確認し、今週末まで、びっしりと詰まったクラブ訪問のスケジュール表をながめながら、

(残りの日程で、取材と動画編集の完了まで到達できるだろうか……)

と、再び、ため息をつくと、

 コンコン

小さく放送室のドアがノックされ、

「くろセンパイ、お疲れさまです」

と、モモカが入室してきた。
 普段は、クラブ活動が始まる放課後に、生き生きとした表情を見せる下級生も、土日も休みなく続いた連日の取材活動で、どこか疲労の色が見えるのは、オレの気のせいではないだろう。

「おつかれ、モモカ……今日はサッカー部の取材日だが……早速、出られるか?」

「大丈夫です! これくらいで、疲れてなんていられませんよ」

 笑顔を見せる彼女の気丈さに、

(うん、オレも負けていられないな……)

と、気合いを入れなおし、ふたりでグラウンドに向かう。

 サッカー部員たちが練習を始めたばかりのグラウンドに到着すると、部長の香川(かがわ)先輩と、オレと同じ学年の堂安(どうあん)が出迎えてくれた。

「おう、黒田! ようやく来てくれたか! 待ってたぞ!」

 上級生の言葉に、恐縮しながら、

「すいません……スケジュールが立て込んで、取材に来るのが遅くなってしまって」

そう返答すると、

「まあ、オレたちは、しばらく試合もないし、気にしなくて良いけどな」

と、香川部長は笑顔を見せてくれる。
 さらに、部長に応じるように語る堂安は、モモカに視線を向けながら、
 
「黒田はともかく、可愛い一年の女子に取材してもらえるなら、ウチは、いつだって大歓迎ッスよ」

豪快に笑う。

(オマエは、先月シロに告白を断られたばかりなのに、ずい分と立ち直りが早いな……)

 自分のことは棚に上げながら、心のなかで同級生にツッコミを入れるが、当のモモカは、慣れたようすで、

「ありがとうございます! 香川先輩、堂安先輩、今日は、よろしくお願いします」

と、丁寧に対応をしている。

 中学生のときは、男子に対しても、気に入らないことがあると、結構トゲのある対応をすることが多かったような気がするのだが、その頃に比べると、モモカの性格もかなり丸くなったように感じる。

「ところで、Vtuberの取材って、ナニをするんだ? もしかして、オレらもゲームのキャラみたいになるのか?」

 最終的な取材交渉を行ったときには不在だった堂安が、当然のように疑問を呈する。

「それには、このキャラクターを見てもらうのが早いかも……」

 オレは、取材用に利用しているタブレットPCを起動して、動画サイトをアクセスする。
 さらに、中部地方の大学生が制作したというサッカークラブの公式Vtuberが語るクラブや学校紹介の映像を取材相手のふたりに見てもらう。

「なるほど……こんな感じなのか。結構、面白そうッスね」

 堂安の言葉に、香川部長も、笑顔でうなずく。

「そうだろ? サッカークラブに公式Vtuberが居るなら、オレたちの学校にそういうキャラクターが居ても良いんじゃないかと思うんだよ」

 実は、体育会系の部員たちには、このテのキャラクターは、受けが良くないんじゃないかという不安もあったのだが、どうやら、そんな心配は必要なかったらしい。
 サッカー部の練習風景を動画で撮影しながら、部の活動や特長について、香川部長と中心選手の堂安に答えてもらい、取材はスムーズに進む。

 こうして、この日の自分たちの活動が順調におわったことに安心しつつ、オレとモモカは、残りの取材に対して、気持ちを新たにするのだった。


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 〜|黒田竜司《くろだりゅうじ》の見解〜
「ハァ〜〜〜〜〜」
 週明けの月曜日の放課後、オレは、今回の動画コンテストの活動拠点になっている放送室で、ひとり、長いため息をついていた。
 授業が始める前、雑談がてらに話していた内容によると、壮馬たちは、ほとんどの取材撮影を終えて、編集作業に入るらしい。
 一方、シロの方はと言えば、活動に関する具体的な進捗報告を彼女が語ったわけではないが、あの余裕のある口ぶりから察するに、動画撮影は順調に進んでいるんだろう。
 いや、他のグループのことを気にしている場合ではない。
 問題は、自分たちの活動のスケジュールが、押せ押せになっていることだ。
 壮馬たちとの連絡会を終えた二週間前から、一日一軒の頻度でクラブを訪問して活動実態を取材し、モモカの演じる|芦宮《あしのみや》サクラに、その魅力を語らせるというルーティーンをこなしてきたのだが……。
 多くの提携先を抱えたオレたちは、スケジュール調整が上手くいかず、結果として、バドミントン部の新人戦を現地取材することができない、という事態になってしまった。
 そして、男女合わせて数十名の部員を要するバドミントン部が、壮馬たちとの協力関係を築いたことにより、オレが計画していた取材先のクラブを増やし、基礎票を固めて三分の一以上の得票を獲得する、という目論見は、もろくも崩れさった。
 動画コンテストの投票日に諸事情で欠席する生徒のため、という名目で実施される期日前投票で、提携したクラブの部員から、なるべく多くの票を得たかったのだが、そのプランは、計画どおりに行かなかった。
 あとは、クラブに所属していない生徒が、Vtuberの|芦宮《あしのみや》サクラというキャラクターに魅力を感じて投票してくれることを期待するしかない。
 だが、クラブ取材と、その後の音声収録の作業に忙殺されていたオレたちは、とてもではないが、シロたちのグループのような頻度で、活動をアピールする動画やメッセージを投稿することは出来なかった。
 タブレットPCで、Googleカレンダーを確認し、今週末まで、びっしりと詰まったクラブ訪問のスケジュール表をながめながら、
(残りの日程で、取材と動画編集の完了まで到達できるだろうか……)
と、再び、ため息をつくと、
 コンコン
小さく放送室のドアがノックされ、
「くろセンパイ、お疲れさまです」
と、モモカが入室してきた。
 普段は、クラブ活動が始まる放課後に、生き生きとした表情を見せる下級生も、土日も休みなく続いた連日の取材活動で、どこか疲労の色が見えるのは、オレの気のせいではないだろう。
「おつかれ、モモカ……今日はサッカー部の取材日だが……早速、出られるか?」
「大丈夫です! これくらいで、疲れてなんていられませんよ」
 笑顔を見せる彼女の気丈さに、
(うん、オレも負けていられないな……)
と、気合いを入れなおし、ふたりでグラウンドに向かう。
 サッカー部員たちが練習を始めたばかりのグラウンドに到着すると、部長の|香川《かがわ》先輩と、オレと同じ学年の|堂安《どうあん》が出迎えてくれた。
「おう、黒田! ようやく来てくれたか! 待ってたぞ!」
 上級生の言葉に、恐縮しながら、
「すいません……スケジュールが立て込んで、取材に来るのが遅くなってしまって」
そう返答すると、
「まあ、オレたちは、しばらく試合もないし、気にしなくて良いけどな」
と、香川部長は笑顔を見せてくれる。
 さらに、部長に応じるように語る堂安は、モモカに視線を向けながら、
「黒田はともかく、可愛い一年の女子に取材してもらえるなら、ウチは、いつだって大歓迎ッスよ」
豪快に笑う。
(オマエは、先月シロに告白を断られたばかりなのに、ずい分と立ち直りが早いな……)
 自分のことは棚に上げながら、心のなかで同級生にツッコミを入れるが、当のモモカは、慣れたようすで、
「ありがとうございます! 香川先輩、堂安先輩、今日は、よろしくお願いします」
と、丁寧に対応をしている。
 中学生のときは、男子に対しても、気に入らないことがあると、結構トゲのある対応をすることが多かったような気がするのだが、その頃に比べると、モモカの性格もかなり丸くなったように感じる。
「ところで、Vtuberの取材って、ナニをするんだ? もしかして、オレらもゲームのキャラみたいになるのか?」
 最終的な取材交渉を行ったときには不在だった堂安が、当然のように疑問を呈する。
「それには、このキャラクターを見てもらうのが早いかも……」
 オレは、取材用に利用しているタブレットPCを起動して、動画サイトをアクセスする。
 さらに、中部地方の大学生が制作したというサッカークラブの公式Vtuberが語るクラブや学校紹介の映像を取材相手のふたりに見てもらう。
「なるほど……こんな感じなのか。結構、面白そうッスね」
 堂安の言葉に、香川部長も、笑顔でうなずく。
「そうだろ? サッカークラブに公式Vtuberが居るなら、オレたちの学校にそういうキャラクターが居ても良いんじゃないかと思うんだよ」
 実は、体育会系の部員たちには、このテのキャラクターは、受けが良くないんじゃないかという不安もあったのだが、どうやら、そんな心配は必要なかったらしい。
 サッカー部の練習風景を動画で撮影しながら、部の活動や特長について、香川部長と中心選手の堂安に答えてもらい、取材はスムーズに進む。
 こうして、この日の自分たちの活動が順調におわったことに安心しつつ、オレとモモカは、残りの取材に対して、気持ちを新たにするのだった。