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現代

ー/ー



「巨大生物が東京湾から隅田川を遡上。永代橋付近で上陸しました!」
「あれは……『ガジラ』!」

 ◆◆◆
 
 二〇二四年一月東日本を襲った巨大地震。福鳥原発を襲った津波は原子炉を暴走させ、炉心融解に至らせた。
 原発周辺には大量の放射性物質が流出した。

 その一部は「福鳥バナナ園」に流入し、園内に飼育されていたオオトカゲを突然変異させた。

 こうして生まれた巨大怪獣が「ガジラ」だ。

 政府は直ちに防衛隊を緊急出動させ、ガジラを攻撃させた。しかし近代兵器の数々はガジラの前に無力だった。
 防衛隊の精鋭をあざ笑うかのように、ガジラは小見浜港から悠然と太平洋の海中に消えた。

「くそっ! いったい俺たちは何をやっているんだ!」

 現場指揮に当たった陸上防衛隊橘一佐は、ヘルメットの下で歯を食いしばった。

 ◆◆◆

「ガジラは永代橋から日本橋方面に進行!」
「いかん! このままでは被害が広がるぞ!」
「長官、ガジラに通常兵器は効きません!」

 自衛庁長官石田吉男は司令部の喧騒に眉を寄せた。

「落ちつけ」

 低い声で告げたが、興奮する幕僚たちの耳には入らなかった。

「とにかく空爆だ!」
「避難が間に合わん!」
「避難より足止めだ。今は非常時だぞ!」

「落ちつけと言っとる!」

 石田の怒号が司令部に響き渡った。

 唾を飛ばして怒鳴り合っていた防衛隊高官たちが、一瞬にして静まり返る。石田の声にはそれだけの気迫が込められていた。

「木更津からアレを出せ」
「いけません、長官! アレはまだ試作段階です!」
「ちょうどいい。ガジラ相手にテストしたらいいだろう」
「ですが、環境への影響が評価できていません」

 石田長官の指示に、研究統括部の早乙女一佐が抗弁した。

「承知の上だ。早乙女君、今はそんなことを言っている場合ではない」

 ガジラが上陸しただけで、その進路は空爆を受けたように破壊されていた。

「このままでは都心は壊滅する。その中には皇居も含まれる。わかるな? ここで止めるしかない!」
「――了解であります! 木更津の『重力波研究所』に至急連絡! 開発名称『D2』を日本橋方面に展開せよ!」
 
「D2でありますか?」

 事情を知らぬ副官が早乙女一佐に聞き返した。

「そうだ。『ディメンション・ディストーター』、次元歪曲砲だ!」

 ◆◆◆

 開発名称D2こと次元歪曲砲は偶然の産物だった。

 地対空攻撃手段として構想された「重力波兵器」の基礎実験中、特定の電磁パターンに時空間に歪をもたらす現象が観測された。
 最高機密管理の下、研究は木更津駐屯地内の重力波研究所に移された。そこで研究されたのは次元に裂け目を発生させる次元歪曲砲のプロトタイプだった。

「D2でガジラを撃退すると?」
「ガジラの体に照準を合わせてD2を照射すれば、発生した次元の裂け目がガジラの生体を破壊する」
「しかし、ミサイルも効かないガジラですぞ!」

「D2は物理的破壊手段ではない。次元そのものが断裂する時、そこに存在するものはどれほどの強度があろうと同一性を保てない。すなわち、完全に破壊される!」

 研究内容に疎い幕僚に対し、早乙女一佐はD2の威力を説明した。

「実験段階と聞きましたが、あれほど巨大な対象に通じるでしょうか?」
「理論上はいける。十分な電源さえ得られれば――」

「東京駅だ」

 目をつぶって腕組みしていた石田自衛長官が言った。

「長官、東京駅でありますか?」
「D2を東京駅に展開! 国家鉄道東日本の車両用電源をD2に振り向けろ!」
「はっ! 直ちにJ-Railイーストと連携します!」

 航空防衛隊が必死のスクランブルでガジラを足止めする傍ら、輸送用ヘリCH-47JAにより東京駅に展開された次元歪曲砲がJ-Railイーストの電力網に接続された。

「長官! D2配備を完了しました。撃てます!」
「よし! 首都圏送電網をJ-Railイーストに優先! 距離100メートルにガジラを引きつけた後、D2最大出力にて照射せよ!」
「距離100メートルにてD2最大出力照射します!」

 日本中が固唾を飲んで見守る中、ついにその時が来た。

「D2照射!」

 音も光もない攻撃がガジラを襲った。
 ガジラの周辺空間が漆黒に染まり、一瞬後には元に戻った。

「D2照射完了!」

 司令部は静まり返っていた。

「――ガジラはどこに行った?」

 石田長官は呆然とつぶやいた。


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「巨大生物が東京湾から隅田川を遡上。永代橋付近で上陸しました!」
「あれは……『ガジラ』!」
 ◆◆◆
 二〇二四年一月東日本を襲った巨大地震。福鳥原発を襲った津波は原子炉を暴走させ、炉心融解に至らせた。
 原発周辺には大量の放射性物質が流出した。
 その一部は「福鳥バナナ園」に流入し、園内に飼育されていたオオトカゲを突然変異させた。
 こうして生まれた巨大怪獣が「ガジラ」だ。
 政府は直ちに防衛隊を緊急出動させ、ガジラを攻撃させた。しかし近代兵器の数々はガジラの前に無力だった。
 防衛隊の精鋭をあざ笑うかのように、ガジラは小見浜港から悠然と太平洋の海中に消えた。
「くそっ! いったい俺たちは何をやっているんだ!」
 現場指揮に当たった陸上防衛隊橘一佐は、ヘルメットの下で歯を食いしばった。
 ◆◆◆
「ガジラは永代橋から日本橋方面に進行!」
「いかん! このままでは被害が広がるぞ!」
「長官、ガジラに通常兵器は効きません!」
 自衛庁長官石田吉男は司令部の喧騒に眉を寄せた。
「落ちつけ」
 低い声で告げたが、興奮する幕僚たちの耳には入らなかった。
「とにかく空爆だ!」
「避難が間に合わん!」
「避難より足止めだ。今は非常時だぞ!」
「落ちつけと言っとる!」
 石田の怒号が司令部に響き渡った。
 唾を飛ばして怒鳴り合っていた防衛隊高官たちが、一瞬にして静まり返る。石田の声にはそれだけの気迫が込められていた。
「木更津からアレを出せ」
「いけません、長官! アレはまだ試作段階です!」
「ちょうどいい。ガジラ相手にテストしたらいいだろう」
「ですが、環境への影響が評価できていません」
 石田長官の指示に、研究統括部の早乙女一佐が抗弁した。
「承知の上だ。早乙女君、今はそんなことを言っている場合ではない」
 ガジラが上陸しただけで、その進路は空爆を受けたように破壊されていた。
「このままでは都心は壊滅する。その中には皇居も含まれる。わかるな? ここで止めるしかない!」
「――了解であります! 木更津の『重力波研究所』に至急連絡! 開発名称『D2』を日本橋方面に展開せよ!」
「D2でありますか?」
 事情を知らぬ副官が早乙女一佐に聞き返した。
「そうだ。『ディメンション・ディストーター』、次元歪曲砲だ!」
 ◆◆◆
 開発名称D2こと次元歪曲砲は偶然の産物だった。
 地対空攻撃手段として構想された「重力波兵器」の基礎実験中、特定の電磁パターンに時空間に歪をもたらす現象が観測された。
 最高機密管理の下、研究は木更津駐屯地内の重力波研究所に移された。そこで研究されたのは次元に裂け目を発生させる次元歪曲砲のプロトタイプだった。
「D2でガジラを撃退すると?」
「ガジラの体に照準を合わせてD2を照射すれば、発生した次元の裂け目がガジラの生体を破壊する」
「しかし、ミサイルも効かないガジラですぞ!」
「D2は物理的破壊手段ではない。次元そのものが断裂する時、そこに存在するものはどれほどの強度があろうと同一性を保てない。すなわち、完全に破壊される!」
 研究内容に疎い幕僚に対し、早乙女一佐はD2の威力を説明した。
「実験段階と聞きましたが、あれほど巨大な対象に通じるでしょうか?」
「理論上はいける。十分な電源さえ得られれば――」
「東京駅だ」
 目をつぶって腕組みしていた石田自衛長官が言った。
「長官、東京駅でありますか?」
「D2を東京駅に展開! 国家鉄道東日本の車両用電源をD2に振り向けろ!」
「はっ! 直ちにJ-Railイーストと連携します!」
 航空防衛隊が必死のスクランブルでガジラを足止めする傍ら、輸送用ヘリCH-47JAにより東京駅に展開された次元歪曲砲がJ-Railイーストの電力網に接続された。
「長官! D2配備を完了しました。撃てます!」
「よし! 首都圏送電網をJ-Railイーストに優先! 距離100メートルにガジラを引きつけた後、D2最大出力にて照射せよ!」
「距離100メートルにてD2最大出力照射します!」
 日本中が固唾を飲んで見守る中、ついにその時が来た。
「D2照射!」
 音も光もない攻撃がガジラを襲った。
 ガジラの周辺空間が漆黒に染まり、一瞬後には元に戻った。
「D2照射完了!」
 司令部は静まり返っていた。
「――ガジラはどこに行った?」
 石田長官は呆然とつぶやいた。