旅の始まりは、いつだったろう。
明確に思い出すことはできなかった。
視界を遮る白い嵐は、依然として激しく吹き荒れている。
冷え切った手足に、既に感覚はない。
僕は自由の利かない棒切れを無理に動かすような感覚で四肢を引きずりながら、終わりの見えない道を歩き続けていた。
標高二千を超える高原地帯。見渡す限り、生き物の姿はない。
この先に、生き残った人々が暮らす集落があるという。
僕はその集落を目指して旅を続けてきた。
けれど、もう限界は近い。
視界が暗く霞み、風の音が遠のいていく。
足がもつれ、身体が平衡を失う。
(ここで終わりか……)
そう思った瞬間だった。
フワ、と身体が浮き上がるような感覚がした。
僕は誰かに抱きかかえられていた。
「ようし、よく辿り着いた!」
「たった一人か? よくサンドマンに見つからなかったな」
「安心しろ。ここまで来ればもう大丈夫だ」
いくつかの声が口々に叫ぶ声が聞こえた。
彼らは、僕の周りに集まってきているようだった。薄ぼんやりとした視界に、いくつかの影が動いているのが見える。
その中に一際目立つシルエットがあった。
真っ赤なアルパインウェアを着ている。
その影は機敏に動き、周囲に絶え間なく指示を出し続けていた。
鳶色の瞳が、ふと僕の方に向けられる。
「ようこそ、雲の町へ。……私たちはあなたを歓迎します」
女性の声だった。凛とした、力強い声。
何故か僕はとても穏やかな気持ちになって、そのままゆっくりと目を閉じた。