ファントムとの激闘を終え、決着をつけたヴァルキリーと、その戦いを見守っていたユウキたち竜騎士中隊は、アビスの本拠地へと進軍を続ける。
「ヴァルハラ、損傷なし。いつでも出撃可能だ」
ヴァルキリーは、無傷のヴァルハラのコックピットから、静かに言った。
「ありがとう、ヴァルキリーさん。あなたのおかげで、僕たちはここまで来ることができました」
ユウキは、アストレイアのコックピットから、ヴァルキリーに感謝の言葉を述べた。
「礼などいらん。私はただ、己の信念に従って戦ったに過ぎない」
ヴァルキリーは、そう言って、アストレイアの隣に並び立つ。
「さあ、行くぞ! アビスの本拠地の中心は、もう目の前だ!」
マリアの檄が、全機に響き渡る。
竜騎士中隊の幻晶機は、アストレイアとヴァルハラを先頭に、一斉にアビスの本拠地のさらに奥へと突入した。
ノワールは、アビスの本拠地中枢で、最高幹部であるカオスと対峙していた。
「ようやく来たか、愚かな裏切り者め」
カオスは、不気味な笑みを浮かべ、ノワールを見下ろす。彼の背後には、禍々しい光を放つ巨大な装置が鎮座していた。
「カオス……! 貴様が、故郷を滅ぼした張本人か…!」
ノワールは、震える声でカオスに問いかけた。
「さあな。だが、お前は私に利用されていただけだ。愚かな裏切り者の末路を、その目でよく見るがいい!」
カオスは、そう言い放つと、幻晶機には乗らず、自身の闇の魔力で、ノワールに襲いかかった。
「くっ……! この魔力……まるで、闇そのもの…!」
ノワールは、身一つでカオスの魔力をかわしていく。
だがしかし、カオスの力はノワールの想像を遥かに超えていた。空間を歪めるほどの圧倒的な闇の魔力が、ノワールに襲いかかる。
「そうだ。私は、闇の力そのものだ。お前のような裏切り者が、私に敵うわけがない」
カオスは、ノワールを嘲笑いながら、さらに強力な魔力を放つ。
しかし、その時、ノワールの脳裏に、ユウキたちの笑顔が浮かんだ。
(違う……! 私は、もう一人じゃない…!)
ノワールは、カオスに利用された怒りと、ユウキたちとの出会いで見出した希望を胸に、反撃に転じた。
ノワールは、懐から小型の端末を取り出すと、カオスの魔力に干渉し始めた。
「馬鹿な…! なぜ、私の魔力が…!」
カオスは、驚きと戸惑いを隠せない。
ノワールは、カオスが闇の魔力を操るために利用している装置の設計図を、アビスのデータベースから事前に盗み出していたのだ。
ノワールの緻密なハッキングが、カオスの魔力制御を狂わせていく。
「愚かな……! この世界は、もうすぐ滅びるのだ…!」
「私は、もう貴様の駒ではない! 私は、私の意志で、この世界を守る!」
ノワールは、そう叫ぶと、カオスの隙を突いて、懐から取り出した小型の魔力弾を、カオスの肉体に叩き込む。
一瞬にして、魔道弾が、彼の腹部にめり込んだ。
「ぐぅ… ノワール! 何を…!」
「終わりよ、カオス。その爆弾は30秒で、お前を中心に1mの空間を虚空に変えるわ」
「くそ、くそー!!! 私の崇高な計画が、こんな小娘に!!!」
カオスは、そう叫びながら、最後の力を振り絞り、自身の生命エネルギーを、背後の装置に注ぎ込んだ。
「せめて、貴様らを巻き添えにして…」
カオスは、最後の力を使い、封印されていた不完全なアビス・コアの起動スイッチに指を伸ばす。
その瞬間、カオスの肉体は、闇の魔力と共に消滅した。
言葉は最後まで紡がれなかった。
起動スイッチの上には、彼の人差し指だけが残されていた。
「やった!」
ノワールが一瞬安堵したアビスの本拠地全体が、激しい振動と共に崩壊を始める。
「まずい! 崩壊が始まった!!」
ノワールは、崩壊する部屋から、辛うじて脱出した。
壁がゴロゴロと音を立ててて崩れ落ちていく。
ノワールは脱出しながら、後ろを振り返った。
そこには、彼女の視線の先には、禍々しい光を放つ、巨大なアビス・コアが鎮座していた。
カオスの生命を喰らい、その禍々しい魔力で起動した不完全なアビス・コアは、世界を破壊せんとする異形の神だった。
その姿は、おぞましい魔獣と幻晶機が融合したような、不定形な有機体。巨大な機械の腕が無数に生え、そこから放たれる漆黒の魔力弾が大地を穿つ。絶叫するような金属音を響かせ、その中心に輝くコアは、世界の終焉を告げるかのように禍々しい光を放っていた。
アビスの本拠地は、その圧倒的な力によって瞬く間に瓦礫と化し、ユウキたちはその崩壊した大地で、最後の戦いに挑むことになった。
「くっ…!こんなに強力な魔力、データベースにはない…!」
ノワールは、瓦礫の陰から必死にタブレット端末を操り、アビス・コアの制御システムにハッキングを仕掛けていた。
だが、コアから放たれる魔力の波長は、ノワールの想像を遥かに超え、システムに深刻なダメージを負わせる。
「ノワール!大丈夫か!」
ユウキは、アストレイアのコックピットから叫ぶ。
コアの放つ魔力の奔流は、彼らの幻晶機を容赦なく襲い、機体から悲鳴のような電子音が鳴り響いていた。
「大丈夫…!ただ、魔力が強すぎる…!このままじゃコアの核に攻撃できない…!」
ノワールは、悔しさに声を震わせる。
カオスを打ち破った喜びも、仲間を救った安堵もなく、ただ無力な自分への苛立ちだけが彼女を支配していた。
「これで、不完全なのか!?」
「全機、距離を取って!!」
マリアが、呆然としている部隊に指示を飛ばす。
これは、まともに相手にすべき相手ではない。
彼女は、本能でそれを感じ取っていた。
「これが、アビス・コア。すべての元凶…」
そんな絶望的な状況を打開しようと、ヴァルキリーはヴァルハラを極限まで酷使し、アビス・コアの物理的攻撃を封じようと奮戦する。
瓦礫を蹴り上げ、雷光を纏うヴァルハラは、まるで舞踏を舞うかのようにアビス・コアの周りを駆け巡り、ユウキに活路を見出させる。
「伝説機の力を合わせれば、不完全なアビス・コアなら破壊できる!!」
ヴァルキリーは、手ごたえを得ていた。
そして、再び雷光をアビス・コアに叩き込む。
それも1発ではない、5発、10発…。
彼女の力が続く限り、あきらめることはない。
「ユウキ!今だ!」
ヴァルキリーの叫び声が響く。彼女はヴァルハラの全身から雷の魔力を放出し、アビス・コアの攻撃を相殺しようと試みる。
「ノワールさん!アビス・コアの防御システムは強固だ!みんなの力を貸してくれ!」
ヴァルキリーの声に我に返ったユウキは、リアとの絆を力に変え、アストレイアのコアの力を最大限に引き出し、アビス・コアの不安定な波動を鎮めようと試みる。
アストレイアのコアから放たれる純粋な光は、アビス・コアの魔力を少しずつ打ち消し、ユウキに活路を見出させていた。
マリアは、一瞬でも諦めかけた自分を恥じていた。
ヴァルキリーもユウキもリアも諦めていない。
彼女にできるのは、伝説機の力を最大限に引き出す支援を、ただただ行うことだけだ。その役割を全うしよう。
「皆!行くぞ!」
マリアの檄が、全機に響き渡る。
「ルナ!アビス・コアの魔力波動を解析!防御システムの僅かな隙を見つけろ!」
「了解、隊長!ノワールさんのハッキングとシンクロします!」
ルナは、コックピット内のモニターを高速で叩き、アビス・コアの魔力波動の解析を始める。彼女の鋭い眼光は、膨大な情報の中から、一瞬の隙を見つけ出そうとしていた。
「ソフィア!ルナを援護しろ!アビス・コアの魔力奔流を打ち消せ!」
「任せて、隊長!ヒーリングボルト!」
ソフィアは、支援機シリウスの魔力砲から、回復魔法を放つ。
それは、アビス・コアの魔力を打ち消し、ルナの解析を助ける。
「ディオンさん!アストレイアとヴァルハラが攻撃態勢に入る!援護をお願いします!」
「わかっている!俺の砲撃で、奴の動きを止める!」
ディオンは、砲撃機から長距離砲撃を放つ。
その砲撃は、アビス・コアの物理的な再生を阻害し、ユウキとヴァルキリーに活路を見出させた。
「ザラ!フィン!エラ!アストレイアとヴァルハラのエネルギー残量が急激に低下しています!魔力供給を!」
マリアは、アストレイアとヴァルハラが魔力の奔流で力を失っていくのを見て、ザラ、エラ、フィンに指示を出した。
「了解です、隊長!」
タクトの艦橋で、エラが叫んだ。
彼女の隣で、フィンは静かに端末を操作する。
「フィン!ユウキとヴァルキリーの機体座標を特定!コアからの魔力干渉を避けて、全機へのエネルギー供給路を確保しろ!」
「…承知!」
フィンは、端末を操り、アビス・コアから放たれる魔力の波長を解析し、ユウキとヴァルキリーの機体へエネルギーを供給するための最適な経路を瞬時に割り出す。
「ザラ!フィンが確保した経路から、魔力供給を開始します! 魔力炉の回路にあなたの魔力を供給して解放してちょうだい! 外からの魔力供給、それが安全装置なの!」
エラの言葉に、ザラはタクトの魔力炉に手をかざし、その膨大な魔力を解放した。
魔力炉のエネルギーが枯渇すれば、タクトは全く動かない鉄の塊と化す。
だが、今はそんなことより、アストレイアとヴァルハラに持てるすべてのエネルギーを供給することに賭けるしかなかった。
「わかった! 全幻晶機へ、エネルギー伝送開始! ユウキ!ヴァルキリー! 私たちの魔力を受け取って!」
タクトのコアから放たれた膨大な魔力が、フィンが確保した経路を通り、アストレイアとヴァルハラへと流れていく。
枯渇寸前だった両機のエネルギーゲージが、瞬く間に回復していく。
ノワールは、最後の力を振り絞り、アビス・コアの防御システムに一瞬の隙を作り出した。
「ユウキさん!今です!ヴァルハラと連携して、コアの核を狙ってください!」
ノワールの叫び声が響く。
彼女は、ただただ、ユウキとヴァルキリーに託した希望を胸に、自らの役目を果たした。
「ヴァルキリーさん!お願いします!」
ユウキの言葉に、ヴァルキリーは、ヴァルハラのコックピットで静かに頷く。
ヴァルハラのコアから、雷の力が迸り、アストレイアのコアから放たれる光と融合する。
アストレイアのコアが放つ純粋な光と、ヴァルハラのコアが放つ強大な雷が融合した光は、アビス・コアへと放たれる。
その一撃は、アビス・コアの核を貫き、その活動を完全に停止させた。
アビス・コアは静かに光を失い、ルネアの世界を覆っていた闇の魔力は消滅した。