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第31話 ノワール、異世界での目覚めと指令 -1

ー/ー



冷たい風が吹き抜ける、不毛の荒野。

ノワールは、その場所で目を覚ました。全身を襲う、激しい頭痛と吐き気。自分がどこにいるのか、なぜここにいるのか、何も思い出せない。ただ、脳裏に焼き付いているのは、故郷の空を覆い尽くす、終末的な光景だけだった。

炎に包まれる街。崩れ落ちるビル群。悲鳴。そして、すべてを飲み込む漆黒の闇――。
あまりにも凄惨な記憶は、彼女の脳から、名前という記号すら消し去っていた。

「……ここは、どこ?」

かすれた声が、乾いた大地に吸い込まれていく。

視界の端に、白いローブを纏った男の姿が映る。男はノワールに背を向け、虚空に手をかざしている。その指先から、黒い粒子が散り、やがて巨大な影を形作っていく。

それは、かつて故郷で見た、終末の闇に酷似していた。
恐怖と混乱の中、ノワールは男に問いかける。

「あなたは…誰? そして、これは…何?」

男はゆっくりと振り返った。その顔は、影に覆われ、表情を読み取ることができない。
ただ、彼の声だけが、ノワールの脳内に直接響き渡った。

『…歓迎するよ。この世界、ルネアへ。』

「わ、私は…わからない…」

ノワールは力なく呟く。自分の名前すら思い出せない現実に、彼女は絶望しかけた。
男はそんな彼女の様子を静かに見ていた。そして、彼の瞳の奥に、不気味な光が宿る。

『そうか。ならば、私が名付けよう。お前は今日から、ノワールだ。』

男は、自らを「アビスの最高幹部、カオス」と名乗った。

ノワールは、その名に宿る「闇」の意味を感じ取った。それは、故郷を覆い尽くした闇、そして、自分の心を覆う闇そのものだった。彼女は、その名前の響きを確かめるように、小さく口の中で繰り返した。

「……ノワール」

カオスは、冷徹な視線で彼女を観察する。彼の言葉に感情は一切なかった。ただ、故郷を失った絶望だけが、彼女を支配していた。

ノワールは、彼に故郷へ帰る方法があるという言葉に、かすかな希望を見出した。彼女は、カオスの言葉に従い、彼の後を追った。





荒野の先には、黒い岩肌に囲まれた巨大な地下都市があった。

都市の中心には、不気味な光を放つ魔力炉が鎮座し、無数の幻晶機が整備されている。それは、ノワールの故郷を滅ぼした終末の闇と、同じ種類の「力」を宿しているように見えた。しかし、その力は、彼女の故郷を再構築する唯一の希望でもあった。



カオスの後を追って地下都市の中枢へと足を踏み入れたノワールは、そこでカオス以外の人物と顔を合わせた。

一人は、全身に銀色の装甲を纏った男。彼の顔は仮面で覆われ、その姿はどこか機械的で冷たい印象を与えた。

もう一人は、黒い髪を一つに束ね、鋭い目元をした女性。彼女の纏う軍服は、ノワールの知るどの国のものとも異なり、そこには冷徹な戦略家の匂いが漂っていた。


そして、最後に、ユウキの故郷の服装によく似た服を着た少年がいた。彼は、ノワールと同じように、この世界に戸惑いを隠せない様子だった。

『ノワール。紹介しよう。彼らは、お前と同じくアビスの幹部だ。』

カオスが淡々と告げる。

ノワールは、その言葉にわずかに身構えた。自分と同じ「召喚者」なのだろうか?
カオスは、銀色の装甲を纏った男を指し示した。

『彼は、ファントム。情報収集と裏工作のプロだ。』

次に、カオスは鋭い目元の女性に視線を移す。

『彼女は、レギオン。幻晶機部隊の指揮官だ。』

そして、最後に、少年へと視線を向けた。

『彼は、ゼロ。お前と同じく、この世界に召喚された者だ。』

ノワールは、彼らを見て、なぜか胸騒ぎを覚えた。

彼らは、まるで、人間という感情を捨て去った、無機質な機械のようだった。そして、彼らがこの世界で何をしてきたのか、その記憶がないノワールは、彼らに対して警戒心を抱かざるを得なかった。












それから、数ヶ月。

ノワールはカオスとファントムの庇護のもと、この世界、ルネアについて学び始めた。毎日、カオスが用意した膨大な資料と映像データに目を通し、知識を貪欲に吸収していった。

しかし、それはすべて、アビスの都合のいいように捻じ曲げられた情報だった。

「この世界、ルネアは、神の力を宿した『コア』によって成り立っている。だが、そのコアの力は不安定で、世界は常に崩壊の危機に晒されている…そうなんですね?」

ノワールは、カオスに問いかけた。
彼の口調は穏やかで、まるで慈愛に満ちた教師のようだった。

『そうだ。我々アビスの目的は、そのコアの力を吸収し、世界を安定させることにある。』

「故郷を救うために…ですか?」

ノワールの瞳は、かすかな希望を宿している。
カオスは、その希望を利用するように、さらに言葉を続ける。

『幻晶機は、そのコアの力を兵器に転用した、愚かな文明の象徴だ。人間は、その力を争いのためにしか使えない。幻晶機が存在する限り、争いはなくならない。』

カオスの言葉に、ノワールは疑問を感じた。

本当に、幻晶機がこの世界の争いを引き起こしているのだろうか?

しかし、故郷の文明が滅んだ過去を持つ彼女には、その言葉を否定する術はなかった。

『…お前を転移させた理由は何だ?』

カオスが問いかける。ノワールは、彼の質問の意図を測りかねていた。

「…私たちを故郷に帰すためではないのですか?」

ノワールの質問に、カオスは静かに微笑んだ。その笑みには、何かを試すような、冷たい光が宿っていた。

『その答えは、お前がアストレイアのコアの力を探る中で、自ずと見えてくるだろう。この機体、アストレイアは、この世界の「神」が残した、強大な力を持つ「コア」を宿している。その力を解放すれば、我々は故郷を覆い尽くした闇を退け、故郷の世界を再構築できる。』

カオスの言葉は、甘く、誘惑的だった。故郷へ帰る。

その言葉は、ノワールの心を強く揺さぶった。


しかし、彼女の心に、わずかな違和感が生まれる。

カオスの言葉は、あまりにも都合が良すぎる。そして、彼の瞳の奥に潜む、冷たい光。彼は、本当に故郷を救うために動いているのか? それとも、何か別の目的があるのか?

ノワールは、警戒しながらも、カオスの提案を受け入れる。

故郷へ帰るという希望に、すがるしかなかった。







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冷たい風が吹き抜ける、不毛の荒野。
ノワールは、その場所で目を覚ました。全身を襲う、激しい頭痛と吐き気。自分がどこにいるのか、なぜここにいるのか、何も思い出せない。ただ、脳裏に焼き付いているのは、故郷の空を覆い尽くす、終末的な光景だけだった。
炎に包まれる街。崩れ落ちるビル群。悲鳴。そして、すべてを飲み込む漆黒の闇――。
あまりにも凄惨な記憶は、彼女の脳から、名前という記号すら消し去っていた。
「……ここは、どこ?」
かすれた声が、乾いた大地に吸い込まれていく。
視界の端に、白いローブを纏った男の姿が映る。男はノワールに背を向け、虚空に手をかざしている。その指先から、黒い粒子が散り、やがて巨大な影を形作っていく。
それは、かつて故郷で見た、終末の闇に酷似していた。
恐怖と混乱の中、ノワールは男に問いかける。
「あなたは…誰? そして、これは…何?」
男はゆっくりと振り返った。その顔は、影に覆われ、表情を読み取ることができない。
ただ、彼の声だけが、ノワールの脳内に直接響き渡った。
『…歓迎するよ。この世界、ルネアへ。』
「わ、私は…わからない…」
ノワールは力なく呟く。自分の名前すら思い出せない現実に、彼女は絶望しかけた。
男はそんな彼女の様子を静かに見ていた。そして、彼の瞳の奥に、不気味な光が宿る。
『そうか。ならば、私が名付けよう。お前は今日から、ノワールだ。』
男は、自らを「アビスの最高幹部、カオス」と名乗った。
ノワールは、その名に宿る「闇」の意味を感じ取った。それは、故郷を覆い尽くした闇、そして、自分の心を覆う闇そのものだった。彼女は、その名前の響きを確かめるように、小さく口の中で繰り返した。
「……ノワール」
カオスは、冷徹な視線で彼女を観察する。彼の言葉に感情は一切なかった。ただ、故郷を失った絶望だけが、彼女を支配していた。
ノワールは、彼に故郷へ帰る方法があるという言葉に、かすかな希望を見出した。彼女は、カオスの言葉に従い、彼の後を追った。
荒野の先には、黒い岩肌に囲まれた巨大な地下都市があった。
都市の中心には、不気味な光を放つ魔力炉が鎮座し、無数の幻晶機が整備されている。それは、ノワールの故郷を滅ぼした終末の闇と、同じ種類の「力」を宿しているように見えた。しかし、その力は、彼女の故郷を再構築する唯一の希望でもあった。
カオスの後を追って地下都市の中枢へと足を踏み入れたノワールは、そこでカオス以外の人物と顔を合わせた。
一人は、全身に銀色の装甲を纏った男。彼の顔は仮面で覆われ、その姿はどこか機械的で冷たい印象を与えた。
もう一人は、黒い髪を一つに束ね、鋭い目元をした女性。彼女の纏う軍服は、ノワールの知るどの国のものとも異なり、そこには冷徹な戦略家の匂いが漂っていた。
そして、最後に、ユウキの故郷の服装によく似た服を着た少年がいた。彼は、ノワールと同じように、この世界に戸惑いを隠せない様子だった。
『ノワール。紹介しよう。彼らは、お前と同じくアビスの幹部だ。』
カオスが淡々と告げる。
ノワールは、その言葉にわずかに身構えた。自分と同じ「召喚者」なのだろうか?
カオスは、銀色の装甲を纏った男を指し示した。
『彼は、ファントム。情報収集と裏工作のプロだ。』
次に、カオスは鋭い目元の女性に視線を移す。
『彼女は、レギオン。幻晶機部隊の指揮官だ。』
そして、最後に、少年へと視線を向けた。
『彼は、ゼロ。お前と同じく、この世界に召喚された者だ。』
ノワールは、彼らを見て、なぜか胸騒ぎを覚えた。
彼らは、まるで、人間という感情を捨て去った、無機質な機械のようだった。そして、彼らがこの世界で何をしてきたのか、その記憶がないノワールは、彼らに対して警戒心を抱かざるを得なかった。
それから、数ヶ月。
ノワールはカオスとファントムの庇護のもと、この世界、ルネアについて学び始めた。毎日、カオスが用意した膨大な資料と映像データに目を通し、知識を貪欲に吸収していった。
しかし、それはすべて、アビスの都合のいいように捻じ曲げられた情報だった。
「この世界、ルネアは、神の力を宿した『コア』によって成り立っている。だが、そのコアの力は不安定で、世界は常に崩壊の危機に晒されている…そうなんですね?」
ノワールは、カオスに問いかけた。
彼の口調は穏やかで、まるで慈愛に満ちた教師のようだった。
『そうだ。我々アビスの目的は、そのコアの力を吸収し、世界を安定させることにある。』
「故郷を救うために…ですか?」
ノワールの瞳は、かすかな希望を宿している。
カオスは、その希望を利用するように、さらに言葉を続ける。
『幻晶機は、そのコアの力を兵器に転用した、愚かな文明の象徴だ。人間は、その力を争いのためにしか使えない。幻晶機が存在する限り、争いはなくならない。』
カオスの言葉に、ノワールは疑問を感じた。
本当に、幻晶機がこの世界の争いを引き起こしているのだろうか?
しかし、故郷の文明が滅んだ過去を持つ彼女には、その言葉を否定する術はなかった。
『…お前を転移させた理由は何だ?』
カオスが問いかける。ノワールは、彼の質問の意図を測りかねていた。
「…私たちを故郷に帰すためではないのですか?」
ノワールの質問に、カオスは静かに微笑んだ。その笑みには、何かを試すような、冷たい光が宿っていた。
『その答えは、お前がアストレイアのコアの力を探る中で、自ずと見えてくるだろう。この機体、アストレイアは、この世界の「神」が残した、強大な力を持つ「コア」を宿している。その力を解放すれば、我々は故郷を覆い尽くした闇を退け、故郷の世界を再構築できる。』
カオスの言葉は、甘く、誘惑的だった。故郷へ帰る。
その言葉は、ノワールの心を強く揺さぶった。
しかし、彼女の心に、わずかな違和感が生まれる。
カオスの言葉は、あまりにも都合が良すぎる。そして、彼の瞳の奥に潜む、冷たい光。彼は、本当に故郷を救うために動いているのか? それとも、何か別の目的があるのか?
ノワールは、警戒しながらも、カオスの提案を受け入れる。
故郷へ帰るという希望に、すがるしかなかった。