第21話 貴族の思惑と新たな出会い -1
ー/ーアークライトへの旅の途中、一行は自由同盟の重要拠点に立ち寄った。
そこは前線基地よりも規模が大きく、兵士たちの往来も激しい。格納庫には整備中の幻晶機が並び、訓練場からは模擬戦の音が響いてくる。
ユウキはリアと共に、基地の中央広場で休憩していた。
そこへ、一際目を引く女性が歩み寄ってくる。落ち着いた金髪をアップにし、高貴なドレスを身につけたその女性は、知的な美しさを湛えていた。彼女の周囲には、何人かの護衛らしき兵士が控えている。
「あなたが、アストレイアのパイロット、ユウキ・サカモト殿ね?」
女性は穏やかな声でユウキに問いかけた。
その声には、どこか底知れない響きがあった。
「は、はい。坂本ユウキです。あの……あなたは?」
ユウキは思わず居住まいを正した。
彼女の纏う高貴な雰囲気に、少しだけ緊張を覚える。
リアがユウキの隣で小さく会釈した。
「私はリア・アルティスです。そのお召し物、とてもお綺麗ですね」
女性は優雅に微笑んだ。
「ご挨拶が遅れましたわね。私はセシリア・エリス。自由同盟の貴族で、竜騎士中隊の支援をさせていただいています」
セシリアはユウキの顔をじっと見つめた。その微笑みの裏に、何かを探るような視線が隠されているのを、ユウキは感じ取った。
「アストレイアの活躍は、前線基地からの報告で伺っています。魔竜を撃退し、ヴァルキリー帝国の猛攻をも退けたと……素晴らしい力ですわね」
セシリアの言葉には、アストレイアの力への強い関心が滲み出ていた。彼女の瞳の奥に、一瞬、深い悲しみのようなものがよぎったのを、ユウキは見逃さなかった。
「いえ、俺はまだ未熟で……リアのサポートと、みんなの助けがあったからです」
ユウキは謙遜する。
「謙虚ですわね。ですが、その純粋さが、アストレイアの力を引き出すのかもしれません」
セシリアはそう言うと、ユウキの瞳をまっすぐに見つめた。
「人との戦いに、まだ躊躇いがあるようにも見えますが……」
ユウキはドキリとした。彼女は自分の内心を見透かしているようだった。
「それは……」
リアがユウキを庇うように一歩前に出た。
「ユウキは、命を奪うことを嫌う優しい人なんです。だから、幻晶機を活動不能にする戦い方を選んでいるんです。それが、この世界に新しい光をもたらすって、私、信じています」
セシリアはリアの言葉に、わずかに目を細めた。その視線は、ユウキからリアへと移る。
「なるほど……。それは、貴女の谷の教えですわね。しかし、戦場は甘くありません。時には非情な決断も必要となるでしょう」
その時、ザラがセシリアの護衛兵たちを警戒しつつ、リアの前に立つように一歩踏み出した。
「貴族様が、そんな理想ばかり語って、戦場の現実を知らないってわけじゃないだろうな?あんたの言う『この戦いを終わらせる』ってのは、一体どういう意味だい?俺たちを、あんたの思惑のために利用しようってのか?」
「ザラ!」
リアが小さく、しかし強い声でザラを制止しようと腕を掴んだ。ザラの言葉に、セシリアの護衛兵がざわめいた。セシリアは表情を変えず、静かにザラを見つめた。
「貴女は、リア殿の護衛の方ね。ご心配はごもっともですわ。ですが、私の目的は、この世界から戦火をなくすこと。そのために、アストレイアの力が必要なのです」
セシリアはそれ以上は追及せず、優雅に手を引いた。
「いずれにせよ、あなた方の力は、この世界に必要とされています。どうか、その力を存分に振るって、この戦いを終わらせてくださいませ」
彼女の言葉は、まるでユウキの純粋な心を、自身の目的のために利用しようとしているかのようにも聞こえた。
ユウキは戸惑いつつも、彼女の瞳の奥に秘められた悲しみのようなものを感じ取っていた。
その時、エリナの声が響いた。
「ユウキ!リア!ザラ!訓練の時間だ!いつまで貴族様と話し込んでいるんだ!」
エリナが険しい表情でこちらに歩いてくる。
「セシリア様、ご無沙汰しております」エリナはセシリアに軽く会釈した。
セシリアはエリナの方に視線を向け、微笑んだ。
「あら、エリナ殿。ちょうど良いところに。彼らには、この世界の未来のために、どうかその力を存分に発揮していただきたいものですわね」
エリナはセシリアの言葉に頷き、ユウキたちの方を振り返った。
「お前たち、セシリア様は竜騎士中隊の重要な支援者だ。我々がこうして活動できているのも、セシリア様からの多大な資金援助があってこそだ。それに、セシリア様は、私の……亡くなった婚約者の姉君でもある。我々中隊にとっては、特別な存在だ」
ユウキはエリナの言葉に驚き、セシリアの瞳の奥にあった悲しみの理由を、少しだけ理解した気がした。
「セシリア様、ご配慮ありがとうございます。彼らはまだ未熟者ですので、鍛え直す必要があります。さあ、行くぞ!」
エリナはセシリアに軽く会釈をすると、ユウキたちを促した。
ユウキたちはエリナに促され、セシリアに一礼してその場を離れた。
セシリアは、去っていく彼らの背中を、静かに見つめていた。その瞳の奥には、やはり読めない感情が揺らめいていた。
◇◆◇◆◇
アストレイアがまだ本格的な修理中のため、ユウキは予備機に搭乗し、竜騎士中隊の小規模な偵察任務や、帝国軍の小部隊との迎撃任務に同行することになった。
予備機はゲイル・タイプ1という旧式の量産機だが、複座式に改修されており、リアも管制士として搭乗することができた。アストレイアのような圧倒的な性能はない。
ある日の偵察任務。ユウキはゲイルのコックピットで、リアの管制を受けながら、森の中を進んでいた。
ザラは幻晶機には搭乗せず、中隊の斥候として、地上から情報収集や敵の動向を探る役割を担っていた。彼女は卓越した弓の腕とサバイバル能力を持っている。
「ユウキ、前方、帝国軍の偵察機が2機。シリウス・タイプBのようです」
リアの声が響く。
「偵察機か……。リア、殺さずに無力化する、でいいんだよな?」
ユウキが確認する。
「ええ、もちろんよ。それがユウキの戦い方だもの」リアは優しく答えた。
ユウキはゲイルを慎重に操り、敵機に接近する。
彼の脳裏には、ヴァルキリーとの戦いで感じた「人との戦い」の重さが刻まれていた。魔獣相手とは違う。目の前の敵も、自分と同じ人間なのだ。
「右の機体、左腕の駆動系を狙って!」
リアの指示が飛ぶ。
ユウキは狙いを定め、ゲイルの携行武装であるマシンガンを連射した。弾丸は正確に敵機の左腕を捉え、火花を散らして駆動系を破壊する。敵機はバランスを崩し、森の木々に激突して活動不能となった。
「よし!もう一機も同じように!」
その時、敵機のコックピットから、パイロットの悲鳴が聞こえた気がした。
ユウキの心臓が、ドクリと大きく鳴る。
彼は一瞬、手を止めかけたが、リアの「ユウキ!」という声に我に返り、もう一機のシリウス・タイプBの脚部を無力化した。
任務後、エリナがユウキの戦い方を評価した。
「ユウキ殿の戦い方は、確かに『甘い』と見る者もいるだろう。だが、無駄な犠牲を出さない、効率的な戦い方でもある。幻晶機を破壊し尽くすのではなく、活動不能に追い込む。それは、我々自由同盟の理念にも通じるものだ」
エリナの言葉に、ユウキは安堵した。自分の戦い方が、この世界でも認められる可能性がある。その事実は、彼の心に小さな光を灯した。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
アークライトへの旅の途中、一行は自由同盟の重要拠点に立ち寄った。
そこは前線基地よりも規模が大きく、兵士たちの往来も激しい。格納庫には整備中の幻晶機が並び、訓練場からは模擬戦の音が響いてくる。
ユウキはリアと共に、基地の中央広場で休憩していた。
そこへ、一際目を引く女性が歩み寄ってくる。落ち着いた金髪をアップにし、高貴なドレスを身につけたその女性は、知的な美しさを湛えていた。彼女の周囲には、何人かの護衛らしき兵士が控えている。
「あなたが、アストレイアのパイロット、ユウキ・サカモト殿ね?」
女性は穏やかな声でユウキに問いかけた。
その声には、どこか底知れない響きがあった。
「は、はい。坂本ユウキです。あの……あなたは?」
ユウキは思わず居住まいを正した。
彼女の纏う高貴な雰囲気に、少しだけ緊張を覚える。
リアがユウキの隣で小さく会釈した。
「私はリア・アルティスです。そのお召し物、とてもお綺麗ですね」
女性は優雅に微笑んだ。
「ご挨拶が遅れましたわね。私はセシリア・エリス。自由同盟の貴族で、竜騎士中隊の支援をさせていただいています」
セシリアはユウキの顔をじっと見つめた。その微笑みの裏に、何かを探るような視線が隠されているのを、ユウキは感じ取った。
「アストレイアの活躍は、前線基地からの報告で伺っています。魔竜を撃退し、ヴァルキリー帝国の猛攻をも退けたと……素晴らしい力ですわね」
セシリアの言葉には、アストレイアの力への強い関心が滲み出ていた。彼女の瞳の奥に、一瞬、深い悲しみのようなものがよぎったのを、ユウキは見逃さなかった。
「いえ、俺はまだ未熟で……リアのサポートと、みんなの助けがあったからです」
ユウキは謙遜する。
「謙虚ですわね。ですが、その純粋さが、アストレイアの力を引き出すのかもしれません」
セシリアはそう言うと、ユウキの瞳をまっすぐに見つめた。
「人との戦いに、まだ躊躇いがあるようにも見えますが……」
ユウキはドキリとした。彼女は自分の内心を見透かしているようだった。
「それは……」
リアがユウキを庇うように一歩前に出た。
「ユウキは、命を奪うことを嫌う優しい人なんです。だから、幻晶機を活動不能にする戦い方を選んでいるんです。それが、この世界に新しい光をもたらすって、私、信じています」
セシリアはリアの言葉に、わずかに目を細めた。その視線は、ユウキからリアへと移る。
「なるほど……。それは、貴女の谷の教えですわね。しかし、戦場は甘くありません。時には非情な決断も必要となるでしょう」
その時、ザラがセシリアの護衛兵たちを警戒しつつ、リアの前に立つように一歩踏み出した。
「貴族様が、そんな理想ばかり語って、戦場の現実を知らないってわけじゃないだろうな?あんたの言う『この戦いを終わらせる』ってのは、一体どういう意味だい?俺たちを、あんたの思惑のために利用しようってのか?」
「ザラ!」
リアが小さく、しかし強い声でザラを制止しようと腕を掴んだ。ザラの言葉に、セシリアの護衛兵がざわめいた。セシリアは表情を変えず、静かにザラを見つめた。
「貴女は、リア殿の護衛の方ね。ご心配はごもっともですわ。ですが、私の目的は、この世界から戦火をなくすこと。そのために、アストレイアの力が必要なのです」
セシリアはそれ以上は追及せず、優雅に手を引いた。
「いずれにせよ、あなた方の力は、この世界に必要とされています。どうか、その力を存分に振るって、この戦いを終わらせてくださいませ」
彼女の言葉は、まるでユウキの純粋な心を、自身の目的のために利用しようとしているかのようにも聞こえた。
ユウキは戸惑いつつも、彼女の瞳の奥に秘められた悲しみのようなものを感じ取っていた。
その時、エリナの声が響いた。
「ユウキ!リア!ザラ!訓練の時間だ!いつまで貴族様と話し込んでいるんだ!」
エリナが険しい表情でこちらに歩いてくる。
「セシリア様、ご無沙汰しております」エリナはセシリアに軽く会釈した。
セシリアはエリナの方に視線を向け、微笑んだ。
「あら、エリナ殿。ちょうど良いところに。彼らには、この世界の未来のために、どうかその力を存分に発揮していただきたいものですわね」
エリナはセシリアの言葉に頷き、ユウキたちの方を振り返った。
「お前たち、セシリア様は竜騎士中隊の重要な支援者だ。我々がこうして活動できているのも、セシリア様からの多大な資金援助があってこそだ。それに、セシリア様は、私の……亡くなった婚約者の姉君でもある。我々中隊にとっては、特別な存在だ」
ユウキはエリナの言葉に驚き、セシリアの瞳の奥にあった悲しみの理由を、少しだけ理解した気がした。
「セシリア様、ご配慮ありがとうございます。彼らはまだ未熟者ですので、鍛え直す必要があります。さあ、行くぞ!」
エリナはセシリアに軽く会釈をすると、ユウキたちを促した。
ユウキたちはエリナに促され、セシリアに一礼してその場を離れた。
セシリアは、去っていく彼らの背中を、静かに見つめていた。その瞳の奥には、やはり読めない感情が揺らめいていた。
◇◆◇◆◇
アストレイアがまだ本格的な修理中のため、ユウキは予備機に搭乗し、竜騎士中隊の小規模な偵察任務や、帝国軍の小部隊との迎撃任務に同行することになった。
予備機はゲイル・タイプ1という旧式の量産機だが、複座式に改修されており、リアも管制士として搭乗することができた。アストレイアのような圧倒的な性能はない。
ある日の偵察任務。ユウキはゲイルのコックピットで、リアの管制を受けながら、森の中を進んでいた。
ザラは幻晶機には搭乗せず、中隊の斥候として、地上から情報収集や敵の動向を探る役割を担っていた。彼女は卓越した弓の腕とサバイバル能力を持っている。
「ユウキ、前方、帝国軍の偵察機が2機。シリウス・タイプBのようです」
リアの声が響く。
「偵察機か……。リア、殺さずに無力化する、でいいんだよな?」
ユウキが確認する。
「ええ、もちろんよ。それがユウキの戦い方だもの」リアは優しく答えた。
ユウキはゲイルを慎重に操り、敵機に接近する。
彼の脳裏には、ヴァルキリーとの戦いで感じた「人との戦い」の重さが刻まれていた。魔獣相手とは違う。目の前の敵も、自分と同じ人間なのだ。
「右の機体、左腕の駆動系を狙って!」
リアの指示が飛ぶ。
ユウキは狙いを定め、ゲイルの携行武装であるマシンガンを連射した。弾丸は正確に敵機の左腕を捉え、火花を散らして駆動系を破壊する。敵機はバランスを崩し、森の木々に激突して活動不能となった。
「よし!もう一機も同じように!」
その時、敵機のコックピットから、パイロットの悲鳴が聞こえた気がした。
ユウキの心臓が、ドクリと大きく鳴る。
彼は一瞬、手を止めかけたが、リアの「ユウキ!」という声に我に返り、もう一機のシリウス・タイプBの脚部を無力化した。
任務後、エリナがユウキの戦い方を評価した。
「ユウキ殿の戦い方は、確かに『甘い』と見る者もいるだろう。だが、無駄な犠牲を出さない、効率的な戦い方でもある。幻晶機を破壊し尽くすのではなく、活動不能に追い込む。それは、我々自由同盟の理念にも通じるものだ」
エリナの言葉に、ユウキは安堵した。自分の戦い方が、この世界でも認められる可能性がある。その事実は、彼の心に小さな光を灯した。