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第12話 自由同盟の前線基地 -2

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「マリア少佐!ユウキくんとリアちゃん、すごいんですよ!アストレイアの力も、二人の連携も!」

ルナは興奮気味に、ユウキたちの活躍を報告する。マリアは微笑みながら、ルナの報告に耳を傾けていた。

自由同盟の軍では、個人を尊重する文化があり、特に竜騎士中隊のような精鋭部隊では、隊員同士の結束を強めるため、姓ではなく名前に階級を付けて呼び合うことが慣例となっていた。
厳格な規律を保ちながらも、互いを「仲間」として認識するための、この部隊独自のやり方だ。

これで竜騎士中隊の主要メンバーが全員揃い、ユウキ、リア、ザラは正式に中隊の一員として迎え入れられた。彼らの新たな戦いが、いよいよ本格的に幕を開けようとしていた。



◇◆◇◆◇


竜騎士中隊への正式加入後、ユウキ、リア、ザラは自由同盟のこの前線拠点での新たな生活を始めた。

ここは、大規模な都市とは異なり、国境付近に位置する防衛のための小規模な軍事施設だ。駐屯している幻晶機も多くはなく、訓練施設も簡素なものだったが、兵士たちの間には独特の活気があった。

ユウキは、正式な訓練が始まるまでの間、基地内を探索したり、他の兵士たちと交流したりする機会を得た。

整備班の兵士たちが幻晶機の装甲を叩き、油まみれになりながら調整する様子。
食堂で交わされる、故郷の家族の話や、戦場の噂話。

それら全てが、ユウキがこれまで知っていた「ゲーム」とは異なる、生々しい「戦争」の現実を突きつけてくる。

ある日、ユウキとリアは格納庫で、整備中の幻晶機を眺めていた。機体の表面には、激しい戦闘の痕跡が生々しく刻まれている。

「これは……」

ユウキは思わず、剥がれ落ちた装甲の隙間から覗く、複雑な配線と油圧システムに触れた。ゲームのポリゴンとは違う、本物の金属の冷たさ。

「アストレイアの修理は見てきたけど、こんな風に他の幻晶機が整備されているのを見るのは初めてです」

リアが隣で、真剣な眼差しで幻晶機を見つめていた。

「おや、珍しい客だね」

背後から声がした。振り返ると、そこには白髪交じりのぼさぼさの髪に眼帯をした男が立っていた。
ベテラン整備士のラルフ・グレイだ。
彼の隣には、大柄でがっしりした体格の整備士長、ロイド・ストーンがいた。

「幻晶機に興味があるかい?坊主、お嬢ちゃんも」

ラルフが煙草の煙を吐き出しながら言った。

「はい。俺の故郷には、こんなに大きな機械はなかったんで…」
「そりゃそうだろうな。お前さんみたいなヒョロい坊主が、こんなモンを動かしてるなんて、信じられねぇよ。だが、アストレイアの動きは確かに凄まじかった。お前さん、本当に『召喚者』ってやつなのかい?」

ラルフはユウキを値踏みするような視線を向けた。ロイドは黙って頷いている。

「はい…」
「まあいい。アストレイアは今、格納庫の奥で眠ってる。お前さんが乗っていたおかげで、結構なダメージを負っちまったがな。だが、応急処置ならすぐにでもできる。戦場に間に合わせるくらいはな」

ラルフの言葉に、ユウキはアストレイアの損傷を改めて実感した。魔竜との戦いでは夢中だったが、あの激戦がアストレイアに与えた負荷は想像以上だったのだろう。

「ラルフさん、ロイドさん、ありがとうございます!アストレイアを、なんとか動かせるようにしてくださって…」

ユウキが深々と頭を下げた。リアも不安げな表情で続いた。

「本当にありがとうございます。私たち、アストレイアが動かせなくなったらどうしようかと…」

「へっ、礼を言われるほどのことじゃねぇよ。俺たちは幻晶機を動かす奴らがいてこそ、飯が食えるんだ。それに、アストレイアは面白い機体だ。腕が鳴るってもんだぜ」

ラルフは照れくさそうに煙草を揉み消した。ロイドは相変わらず無言だが、その表情にはわずかに笑みが浮かんでいた。







◇◆◇◆◇



ユウキは、基地での生活の中で、兵士たちの日常会話にも耳を傾けるようになった。

「また国境で小競り合いがあったらしいぜ」
「ああ、ヴァルキリー帝国の奴ら、最近やけに動きが活発だ。何か企んでるんじゃねぇのか?」
「勘弁してくれよ。この前も、偵察に出てた部隊が全滅したって話だろ?魔獣の仕業だって言ってたが、どうも様子がおかしいって…」

そんな会話が、ユウキの心に漠然とした不安を募らせる。彼はまだ「人との戦い」に対する具体的な覚悟ができていなかった。魔竜相手なら、ゲーム感覚で「倒す」ことに躊躇はなかった。

しかし、相手が同じ「人間」となると、話は全く違った。






そんな穏やかな、しかし予感に満ちた日常は、突如として破られた。

「警報!警報!国境付近の魔導センサーが反応!ヴァルキリー帝国軍、国境侵犯!」

けたたましい警報音が基地中に鳴り響き、兵士たちが一斉にざわめき始めた。

「何事だ!?」
「敵襲!?まさか、こんなところに!?」

司令室の扉が勢いよく開き、オペレーターが血相を変えて飛び込んできた。

「敵部隊、この拠点へ向かっています!主力はシリウス・シリーズ、一部レギオン・シリーズを確認!機体数、約30機!」

オペレーターの緊迫した声がスピーカーから響き渡る。司令室のモニターには、赤い点が複数、拠点に向かって高速で移動しているのが映し出されている。

「なっ…30機だと!?馬鹿な!こんな小規模拠点に、そこまでの戦力を差し向けるなど…!」

エリナが叫んだ。その顔には、驚愕と焦りが浮かんでいる。

「こちら側の戦力は!?」
「竜騎士中隊の5機(アストレイア、リベラ、ゲイル、ソフィアの支援機、ディオンの砲撃機)に加え、現地の守備隊の幻晶機が数機、合計約10機ほどです!」

絶望的な戦力差だった。
この小規模拠点単独では、防ぎきることは不可能だ。
アストレイアの投入がなければ、陥落は避けられない。

「くそっ…!アストレイアはまだ完全じゃないのに…!」ジェイが歯噛みする。
「全機、緊急出撃!防衛ラインを死守せよ!これ以上、一歩たりとも通すな!」

エリナの命令が下る。

兵士たちが格納庫へと走り出し、幻晶機に乗り込んでいく。格納庫は一瞬にして喧騒に包まれ、金属の軋む音、エンジンの唸り、兵士たちの怒号が入り混じる。

ユウキもリアと共にアストレイアの格納庫へと向かった。
アストレイアはまだ完全には修理が終わっていないが、動かすことは可能だという。














戦場は、一瞬にして地獄と化した。
地面が轟音と共に揺れ、空は硝煙と土埃で覆い尽くされた。

ヴァルキリー帝国軍の幻晶機、約30機が、自由同盟のわずか10機ほどの戦力に猛烈な勢いで襲いかかった。

その圧倒的な物量差は、まるで巨大な津波が小さな砂の城を飲み込もうとするかのようだった。戦力差は歴然、自由同盟の防衛ラインは瞬く間に崩壊寸前となる。

「くそっ!バリアが持たねぇ!装甲が融けるぞ!」
「右腕がやられた!駆動系に異常!援護を頼む!敵が多すぎる!」

通信からは、友軍パイロットの断末魔が響き渡り、絶望的な報告が次々と飛び交う。

ユウキの目の前で、自由同盟の旧式ゲイル・シリーズが、ヴァルキリー帝国の主力機であるシリウス・シリーズの重砲撃によって一瞬で両断され、爆炎を上げて墜落していく。その残骸が地面に叩きつけられ、黒煙を上げながら、まだ燃え盛る機体からパイロットの悲鳴が微かに聞こえた。

別の守備隊の幻晶機は、重装甲のレギオン・シリーズに組み付かれ、その巨大な腕で胴体を捻じ曲げられ、まるで鉄屑のように握り潰された。内部から飛び散る火花と、金属の断末魔が、ユウキの鼓膜を激しく揺さぶる。

「うそだろ…」

ユウキは、突然の展開に戸惑いを隠せない。訓練とは全く異なる、これが現実の「戦争」であること。

そして、目の前の敵が、魔獣ではなく、同じ「人間」であるという事実に、彼の心的動揺は極限に達していた。

操縦桿を握る手が、まるで自分の意思とは関係なく、激しく震える。

「まさか本当に、いきなりこんなことになるなんて…!」

彼の脳裏には、ゲームで敵を倒す感覚と、目の前で人が死んでいく現実の乖離が、巨大な壁となって立ちはだかる。

彼はアストレイアのコックピットの中で、まるで凍りついたかのように動けない。

敵のレギオン・シリーズが、彼らの守備隊の幻晶機を容赦なく踏み潰し、その残骸が血しぶきのように飛び散るのが見えた。




次のエピソードへ進む 第13話 自由同盟の前線基地 -3


みんなのリアクション

「マリア少佐!ユウキくんとリアちゃん、すごいんですよ!アストレイアの力も、二人の連携も!」
ルナは興奮気味に、ユウキたちの活躍を報告する。マリアは微笑みながら、ルナの報告に耳を傾けていた。
自由同盟の軍では、個人を尊重する文化があり、特に竜騎士中隊のような精鋭部隊では、隊員同士の結束を強めるため、姓ではなく名前に階級を付けて呼び合うことが慣例となっていた。
厳格な規律を保ちながらも、互いを「仲間」として認識するための、この部隊独自のやり方だ。
これで竜騎士中隊の主要メンバーが全員揃い、ユウキ、リア、ザラは正式に中隊の一員として迎え入れられた。彼らの新たな戦いが、いよいよ本格的に幕を開けようとしていた。
◇◆◇◆◇
竜騎士中隊への正式加入後、ユウキ、リア、ザラは自由同盟のこの前線拠点での新たな生活を始めた。
ここは、大規模な都市とは異なり、国境付近に位置する防衛のための小規模な軍事施設だ。駐屯している幻晶機も多くはなく、訓練施設も簡素なものだったが、兵士たちの間には独特の活気があった。
ユウキは、正式な訓練が始まるまでの間、基地内を探索したり、他の兵士たちと交流したりする機会を得た。
整備班の兵士たちが幻晶機の装甲を叩き、油まみれになりながら調整する様子。
食堂で交わされる、故郷の家族の話や、戦場の噂話。
それら全てが、ユウキがこれまで知っていた「ゲーム」とは異なる、生々しい「戦争」の現実を突きつけてくる。
ある日、ユウキとリアは格納庫で、整備中の幻晶機を眺めていた。機体の表面には、激しい戦闘の痕跡が生々しく刻まれている。
「これは……」
ユウキは思わず、剥がれ落ちた装甲の隙間から覗く、複雑な配線と油圧システムに触れた。ゲームのポリゴンとは違う、本物の金属の冷たさ。
「アストレイアの修理は見てきたけど、こんな風に他の幻晶機が整備されているのを見るのは初めてです」
リアが隣で、真剣な眼差しで幻晶機を見つめていた。
「おや、珍しい客だね」
背後から声がした。振り返ると、そこには白髪交じりのぼさぼさの髪に眼帯をした男が立っていた。
ベテラン整備士のラルフ・グレイだ。
彼の隣には、大柄でがっしりした体格の整備士長、ロイド・ストーンがいた。
「幻晶機に興味があるかい?坊主、お嬢ちゃんも」
ラルフが煙草の煙を吐き出しながら言った。
「はい。俺の故郷には、こんなに大きな機械はなかったんで…」
「そりゃそうだろうな。お前さんみたいなヒョロい坊主が、こんなモンを動かしてるなんて、信じられねぇよ。だが、アストレイアの動きは確かに凄まじかった。お前さん、本当に『召喚者』ってやつなのかい?」
ラルフはユウキを値踏みするような視線を向けた。ロイドは黙って頷いている。
「はい…」
「まあいい。アストレイアは今、格納庫の奥で眠ってる。お前さんが乗っていたおかげで、結構なダメージを負っちまったがな。だが、応急処置ならすぐにでもできる。戦場に間に合わせるくらいはな」
ラルフの言葉に、ユウキはアストレイアの損傷を改めて実感した。魔竜との戦いでは夢中だったが、あの激戦がアストレイアに与えた負荷は想像以上だったのだろう。
「ラルフさん、ロイドさん、ありがとうございます!アストレイアを、なんとか動かせるようにしてくださって…」
ユウキが深々と頭を下げた。リアも不安げな表情で続いた。
「本当にありがとうございます。私たち、アストレイアが動かせなくなったらどうしようかと…」
「へっ、礼を言われるほどのことじゃねぇよ。俺たちは幻晶機を動かす奴らがいてこそ、飯が食えるんだ。それに、アストレイアは面白い機体だ。腕が鳴るってもんだぜ」
ラルフは照れくさそうに煙草を揉み消した。ロイドは相変わらず無言だが、その表情にはわずかに笑みが浮かんでいた。
◇◆◇◆◇
ユウキは、基地での生活の中で、兵士たちの日常会話にも耳を傾けるようになった。
「また国境で小競り合いがあったらしいぜ」
「ああ、ヴァルキリー帝国の奴ら、最近やけに動きが活発だ。何か企んでるんじゃねぇのか?」
「勘弁してくれよ。この前も、偵察に出てた部隊が全滅したって話だろ?魔獣の仕業だって言ってたが、どうも様子がおかしいって…」
そんな会話が、ユウキの心に漠然とした不安を募らせる。彼はまだ「人との戦い」に対する具体的な覚悟ができていなかった。魔竜相手なら、ゲーム感覚で「倒す」ことに躊躇はなかった。
しかし、相手が同じ「人間」となると、話は全く違った。
そんな穏やかな、しかし予感に満ちた日常は、突如として破られた。
「警報!警報!国境付近の魔導センサーが反応!ヴァルキリー帝国軍、国境侵犯!」
けたたましい警報音が基地中に鳴り響き、兵士たちが一斉にざわめき始めた。
「何事だ!?」
「敵襲!?まさか、こんなところに!?」
司令室の扉が勢いよく開き、オペレーターが血相を変えて飛び込んできた。
「敵部隊、この拠点へ向かっています!主力はシリウス・シリーズ、一部レギオン・シリーズを確認!機体数、約30機!」
オペレーターの緊迫した声がスピーカーから響き渡る。司令室のモニターには、赤い点が複数、拠点に向かって高速で移動しているのが映し出されている。
「なっ…30機だと!?馬鹿な!こんな小規模拠点に、そこまでの戦力を差し向けるなど…!」
エリナが叫んだ。その顔には、驚愕と焦りが浮かんでいる。
「こちら側の戦力は!?」
「竜騎士中隊の5機(アストレイア、リベラ、ゲイル、ソフィアの支援機、ディオンの砲撃機)に加え、現地の守備隊の幻晶機が数機、合計約10機ほどです!」
絶望的な戦力差だった。
この小規模拠点単独では、防ぎきることは不可能だ。
アストレイアの投入がなければ、陥落は避けられない。
「くそっ…!アストレイアはまだ完全じゃないのに…!」ジェイが歯噛みする。
「全機、緊急出撃!防衛ラインを死守せよ!これ以上、一歩たりとも通すな!」
エリナの命令が下る。
兵士たちが格納庫へと走り出し、幻晶機に乗り込んでいく。格納庫は一瞬にして喧騒に包まれ、金属の軋む音、エンジンの唸り、兵士たちの怒号が入り混じる。
ユウキもリアと共にアストレイアの格納庫へと向かった。
アストレイアはまだ完全には修理が終わっていないが、動かすことは可能だという。
戦場は、一瞬にして地獄と化した。
地面が轟音と共に揺れ、空は硝煙と土埃で覆い尽くされた。
ヴァルキリー帝国軍の幻晶機、約30機が、自由同盟のわずか10機ほどの戦力に猛烈な勢いで襲いかかった。
その圧倒的な物量差は、まるで巨大な津波が小さな砂の城を飲み込もうとするかのようだった。戦力差は歴然、自由同盟の防衛ラインは瞬く間に崩壊寸前となる。
「くそっ!バリアが持たねぇ!装甲が融けるぞ!」
「右腕がやられた!駆動系に異常!援護を頼む!敵が多すぎる!」
通信からは、友軍パイロットの断末魔が響き渡り、絶望的な報告が次々と飛び交う。
ユウキの目の前で、自由同盟の旧式ゲイル・シリーズが、ヴァルキリー帝国の主力機であるシリウス・シリーズの重砲撃によって一瞬で両断され、爆炎を上げて墜落していく。その残骸が地面に叩きつけられ、黒煙を上げながら、まだ燃え盛る機体からパイロットの悲鳴が微かに聞こえた。
別の守備隊の幻晶機は、重装甲のレギオン・シリーズに組み付かれ、その巨大な腕で胴体を捻じ曲げられ、まるで鉄屑のように握り潰された。内部から飛び散る火花と、金属の断末魔が、ユウキの鼓膜を激しく揺さぶる。
「うそだろ…」
ユウキは、突然の展開に戸惑いを隠せない。訓練とは全く異なる、これが現実の「戦争」であること。
そして、目の前の敵が、魔獣ではなく、同じ「人間」であるという事実に、彼の心的動揺は極限に達していた。
操縦桿を握る手が、まるで自分の意思とは関係なく、激しく震える。
「まさか本当に、いきなりこんなことになるなんて…!」
彼の脳裏には、ゲームで敵を倒す感覚と、目の前で人が死んでいく現実の乖離が、巨大な壁となって立ちはだかる。
彼はアストレイアのコックピットの中で、まるで凍りついたかのように動けない。
敵のレギオン・シリーズが、彼らの守備隊の幻晶機を容赦なく踏み潰し、その残骸が血しぶきのように飛び散るのが見えた。