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第3話 異世界での邂逅と迫り来る影 -3

ー/ー



ユウキが竜の谷で暮らし始めて数日。

身体を休めながら、リアからこの世界の常識や、谷の文化について教わっていた。

谷の集落は、まだ古びた石造りの建物が並ぶ素朴な場所だったが、人々は温かく、ユウキは少しずつだが、その生活に順応しようと努めていた。

朝には遠くで魔獣の声が聞こえ、夕暮れには香木の煙が空に昇る。すべての音が、匂いが、日本とは違う。それが、彼の五感を常に刺激した。


ある日の午後、谷の広場で、ユウキは不思議な光景を目にした。

木々の間から、金属の巨人が二体、ゆっくりと姿を現したのだ。一体は細身で流線型の機体、もう一体はやや重厚なフォルムをしていた。

ユウキがこれまでゲームで見てきた「リアルロボット」系のデザインとも異なり、どこか有機的で、それでいて機能美を宿している。

「あれは…幻晶機?」

ユウキが思わず呟くと、リアが横から顔を覗き込んだ。

「そう。あれが、自由同盟から派遣された幻晶機よ」

二体の幻晶機から降りてきたのは、ユウキよりも少し年上に見える三人の男女だった。金髪で眉目秀麗な顔立ちの男性が、真っ先にユウキの前に歩み寄る。

「やあ、君が例の『召喚者』かい?俺はジェイ・カーティス。自由同盟が誇る、次世代の『機竜乗り』だ!」

彼は自信満々に胸を張り、眩しい笑顔を向けてくる。その軽薄な態度に、ユウキは少し面食らった。

その背後から、凛々しい顔立ちの女性が続く。彼女の顔にはいくつかの傷跡があり、歴戦の強者であることを物語っていた。

「ジェイ、あまり調子に乗るな。私はエリナ・ロレンス。この竜騎士中隊の隊長だ。こちらはルナ・アークス、私の『後席』よ。」

エリナは口数は少ないが、その瞳には強い意志が宿っていた。ルナは明るいブロンドのショートヘアで、快活な笑顔を浮かべている。

「ルナです!どうぞよろしくね、ユウキくん!」


ユウキは内心で驚きながらも、三人に挨拶を返す。

「あの…坂本ユウキです。すみません、まだこの世界のことに疎くて…」
「フン、異世界から来たっていうんだから、何も知らなくて当然だろ。ま、俺たちが色々教えてやるよ!」

ジェイが肩をポンと叩いてくる。

リアがユウキの隣に立ち、三人に説明を始めた。

「ユウキは、伝説の機竜アストレイアを起動できる唯一の存在なの。今は、アストレイアが眠っているこの谷で、身体を慣らしているところよ」

エリナは、ユウキの言葉を理解する能力と、その瞳の奥に宿る純粋な光を見て、何かを感じ取ったようだった。

「なるほど…アストレイアが。私たちがここを訪れたのも、貴族派との戦いが激化する中で、竜骨山脈の部族連合に協力を求めるためだったからな」

ルナが身を乗り出す。

「ねえねえ、ユウキくんの故郷ってどんなところなの?『幻晶機』とか、私たちと同じような『機竜』はいるの?」

ユウキは一瞬、「ロボット」という言葉が脳裏をよぎったが、ルナの「機竜」という言葉に合わせて答える。

「ええと、俺の故郷には…そういう『機竜』のようなものは…ありませんでした。でも、ゲームの中では、そういうのを動かすのが得意でしたけど…」

ルナは興味津々に相槌を打つ。

「へえ、ゲームで!面白いわね!私たちの幻晶機はゲイル・シリーズの複座型でね。隊長が『機体全体を動かす』役割で、私が索敵や通信を担当するんだ」

ユウキは、彼らとの会話を通して、この世界にも「戦争」というものがあることを、肌で感じ始めた。それは、ゲームの中の戦争とは全く異なる、生々しい現実の匂いだった。

ジェイの軽薄な態度の中に垣間見える戦士としての矜持。
ルナの快活さの裏にある冷静さ。
そして、エリナの厳しさの中に隠された優しさ。

彼らは、ユウキにとって初めて出会う「この世界の住人たち」であり、同時に、この世界の厳しさを教えてくれる存在でもあった。


◇◆◇◆◇


谷の片隅では、年老いた戦士たちが旧式の幻晶機を整備している。

彼らの機体は、表面に無数の傷を刻み、まるで生き物のように鈍い光を放っていた。機体の接続部からは、時折、古い油のような独特の匂いが漂う。
ユウキは彼らに近づき、興味深そうにコックピットを覗き込む。

「へえ…こんな風になってるんだ」

ユウキが中を覗き込んでいると、一人のベテラン戦士が彼に気づいた。顔に深く刻まれた古傷が、彼の戦いの日々を物語っている。

「おう、坊主。珍しいもんな。初めて見るのかい?」

男はそう言いながら、ユウキの隣に立った。

「はい。俺の故郷には、こういうのは…ありませんでした。でも、ゲームの中では、こういう人型の機械を動かすのが得意で…」

ユウキは、自分の世界の話をどこまでしていいか迷いながら答えた。
男は「ほう」と興味深そうに頷く。

「ゲーム、ね。まあ、感覚は近いのかもしれねぇな。俺はガゼル。この谷の『機竜乗り』の一人だ」

ガゼルは、屈強な手を差し出してくる。ユウキは慌ててその手を握った。その手は、ゴツゴツと硬く、長年の訓練と戦いの痕跡が刻まれていた。

「坂本ユウキです。あの…ガゼルさんも、これを動かしてるんですか?」

ユウキは、目の前の古びた幻晶機とガゼルを見比べる。

「ああ。昔はな。今はほとんど整備がかりだが、いざとなればいつでも動かせるさ。お前さんも、もしアストレイアが完全に動かせたら、俺たちと同じ『機竜乗り』の仲間だ。その時は、色々教えてやるよ」

ガゼルはそう言って、ニッと笑った。
その瞳の奥には、この谷を守るという誇りが見えた。

アストレイアが起動すれば、このベテラン戦士が同僚になるはずだった――ユウキは漠然とそんなことを考えた。

平和に暮らす谷の住民たちの笑顔も、ユウキの心に温かい光を灯した。子供たちが広場で木製の玩具を転がす音、女性たちが谷の歌を口ずさむ声。彼は、少しずつだが、この異世界の生活に順応していく自分を感じていた。


◇◆◇◆◇

しかし、その穏やかな時間は、唐突に打ち破られる。

漆黒の衣を纏った人影が、遠く離れた丘の上から、静かに竜の谷を見下ろしていた。

闇夜に溶け込むようなその存在は、アビスの幹部、ノワール。彼女の青白い肌には、不気味な模様が刻まれ、その冷たい瞳は、谷の深奥に眠るアストレイアの微かなマナの波動を捉えていた。

「ようやく…『コア』が目覚めの時を迎えたか…」

ノワールは、薄い唇の端に、歪んだ笑みを浮かべる。

ユウキが異世界に召喚されたことで、アストレイア覚醒の「時」が来たのだ。彼女の指先が、空に向けてゆっくりと持ち上げられる。その瞬間、足元の地面から、黒い靄のような瘴気が立ち上り、渦を巻き始めた。

「さあ…目覚めなさい。そして、我が糧となれ!」

瘴気は瞬く間に巨大な塊となり、その中から、禍々しい紅い眼がいくつも光り始めた。

低く、地を這うような唸り声が、森の奥深くから響いてくる。それは、凶暴化した魔竜の群れ。彼らは、ノワールの意志に従うかのように、獲物を狙う獣の瞳で竜の谷を見据えていた。




◇◆◇◆◇


不穏な影が、月の光を遮るように空に広がる。

谷に、異変の兆候が現れ始めた。

遠くから、何か巨大なものが動くような、不気味な地鳴りが響き渡る。
谷の鳥たちが、一斉に鳴きながら空へ舞い上がっていく。

そして、その地鳴りは、徐々に谷全体を揺るがすほどの振動へと変わっていく。


何か、来る。
ユウキは本能的にそう感じた。

「…ッ!」

彼は、空を見上げる。
まさに、漆黒の空に、無数の影が、獲物を狙うように滑空してくるのが瞬間が見えた。



平和な時間が崩れ落ちる。
何か良くないことが起きる。


ユウキは、その音にならない予感の声を聴いた気がした。








みんなのリアクション

ユウキが竜の谷で暮らし始めて数日。
身体を休めながら、リアからこの世界の常識や、谷の文化について教わっていた。
谷の集落は、まだ古びた石造りの建物が並ぶ素朴な場所だったが、人々は温かく、ユウキは少しずつだが、その生活に順応しようと努めていた。
朝には遠くで魔獣の声が聞こえ、夕暮れには香木の煙が空に昇る。すべての音が、匂いが、日本とは違う。それが、彼の五感を常に刺激した。
ある日の午後、谷の広場で、ユウキは不思議な光景を目にした。
木々の間から、金属の巨人が二体、ゆっくりと姿を現したのだ。一体は細身で流線型の機体、もう一体はやや重厚なフォルムをしていた。
ユウキがこれまでゲームで見てきた「リアルロボット」系のデザインとも異なり、どこか有機的で、それでいて機能美を宿している。
「あれは…幻晶機?」
ユウキが思わず呟くと、リアが横から顔を覗き込んだ。
「そう。あれが、自由同盟から派遣された幻晶機よ」
二体の幻晶機から降りてきたのは、ユウキよりも少し年上に見える三人の男女だった。金髪で眉目秀麗な顔立ちの男性が、真っ先にユウキの前に歩み寄る。
「やあ、君が例の『召喚者』かい?俺はジェイ・カーティス。自由同盟が誇る、次世代の『機竜乗り』だ!」
彼は自信満々に胸を張り、眩しい笑顔を向けてくる。その軽薄な態度に、ユウキは少し面食らった。
その背後から、凛々しい顔立ちの女性が続く。彼女の顔にはいくつかの傷跡があり、歴戦の強者であることを物語っていた。
「ジェイ、あまり調子に乗るな。私はエリナ・ロレンス。この竜騎士中隊の隊長だ。こちらはルナ・アークス、私の『後席』よ。」
エリナは口数は少ないが、その瞳には強い意志が宿っていた。ルナは明るいブロンドのショートヘアで、快活な笑顔を浮かべている。
「ルナです!どうぞよろしくね、ユウキくん!」
ユウキは内心で驚きながらも、三人に挨拶を返す。
「あの…坂本ユウキです。すみません、まだこの世界のことに疎くて…」
「フン、異世界から来たっていうんだから、何も知らなくて当然だろ。ま、俺たちが色々教えてやるよ!」
ジェイが肩をポンと叩いてくる。
リアがユウキの隣に立ち、三人に説明を始めた。
「ユウキは、伝説の機竜アストレイアを起動できる唯一の存在なの。今は、アストレイアが眠っているこの谷で、身体を慣らしているところよ」
エリナは、ユウキの言葉を理解する能力と、その瞳の奥に宿る純粋な光を見て、何かを感じ取ったようだった。
「なるほど…アストレイアが。私たちがここを訪れたのも、貴族派との戦いが激化する中で、竜骨山脈の部族連合に協力を求めるためだったからな」
ルナが身を乗り出す。
「ねえねえ、ユウキくんの故郷ってどんなところなの?『幻晶機』とか、私たちと同じような『機竜』はいるの?」
ユウキは一瞬、「ロボット」という言葉が脳裏をよぎったが、ルナの「機竜」という言葉に合わせて答える。
「ええと、俺の故郷には…そういう『機竜』のようなものは…ありませんでした。でも、ゲームの中では、そういうのを動かすのが得意でしたけど…」
ルナは興味津々に相槌を打つ。
「へえ、ゲームで!面白いわね!私たちの幻晶機はゲイル・シリーズの複座型でね。隊長が『機体全体を動かす』役割で、私が索敵や通信を担当するんだ」
ユウキは、彼らとの会話を通して、この世界にも「戦争」というものがあることを、肌で感じ始めた。それは、ゲームの中の戦争とは全く異なる、生々しい現実の匂いだった。
ジェイの軽薄な態度の中に垣間見える戦士としての矜持。
ルナの快活さの裏にある冷静さ。
そして、エリナの厳しさの中に隠された優しさ。
彼らは、ユウキにとって初めて出会う「この世界の住人たち」であり、同時に、この世界の厳しさを教えてくれる存在でもあった。
◇◆◇◆◇
谷の片隅では、年老いた戦士たちが旧式の幻晶機を整備している。
彼らの機体は、表面に無数の傷を刻み、まるで生き物のように鈍い光を放っていた。機体の接続部からは、時折、古い油のような独特の匂いが漂う。
ユウキは彼らに近づき、興味深そうにコックピットを覗き込む。
「へえ…こんな風になってるんだ」
ユウキが中を覗き込んでいると、一人のベテラン戦士が彼に気づいた。顔に深く刻まれた古傷が、彼の戦いの日々を物語っている。
「おう、坊主。珍しいもんな。初めて見るのかい?」
男はそう言いながら、ユウキの隣に立った。
「はい。俺の故郷には、こういうのは…ありませんでした。でも、ゲームの中では、こういう人型の機械を動かすのが得意で…」
ユウキは、自分の世界の話をどこまでしていいか迷いながら答えた。
男は「ほう」と興味深そうに頷く。
「ゲーム、ね。まあ、感覚は近いのかもしれねぇな。俺はガゼル。この谷の『機竜乗り』の一人だ」
ガゼルは、屈強な手を差し出してくる。ユウキは慌ててその手を握った。その手は、ゴツゴツと硬く、長年の訓練と戦いの痕跡が刻まれていた。
「坂本ユウキです。あの…ガゼルさんも、これを動かしてるんですか?」
ユウキは、目の前の古びた幻晶機とガゼルを見比べる。
「ああ。昔はな。今はほとんど整備がかりだが、いざとなればいつでも動かせるさ。お前さんも、もしアストレイアが完全に動かせたら、俺たちと同じ『機竜乗り』の仲間だ。その時は、色々教えてやるよ」
ガゼルはそう言って、ニッと笑った。
その瞳の奥には、この谷を守るという誇りが見えた。
アストレイアが起動すれば、このベテラン戦士が同僚になるはずだった――ユウキは漠然とそんなことを考えた。
平和に暮らす谷の住民たちの笑顔も、ユウキの心に温かい光を灯した。子供たちが広場で木製の玩具を転がす音、女性たちが谷の歌を口ずさむ声。彼は、少しずつだが、この異世界の生活に順応していく自分を感じていた。
◇◆◇◆◇
しかし、その穏やかな時間は、唐突に打ち破られる。
漆黒の衣を纏った人影が、遠く離れた丘の上から、静かに竜の谷を見下ろしていた。
闇夜に溶け込むようなその存在は、アビスの幹部、ノワール。彼女の青白い肌には、不気味な模様が刻まれ、その冷たい瞳は、谷の深奥に眠るアストレイアの微かなマナの波動を捉えていた。
「ようやく…『コア』が目覚めの時を迎えたか…」
ノワールは、薄い唇の端に、歪んだ笑みを浮かべる。
ユウキが異世界に召喚されたことで、アストレイア覚醒の「時」が来たのだ。彼女の指先が、空に向けてゆっくりと持ち上げられる。その瞬間、足元の地面から、黒い靄のような瘴気が立ち上り、渦を巻き始めた。
「さあ…目覚めなさい。そして、我が糧となれ!」
瘴気は瞬く間に巨大な塊となり、その中から、禍々しい紅い眼がいくつも光り始めた。
低く、地を這うような唸り声が、森の奥深くから響いてくる。それは、凶暴化した魔竜の群れ。彼らは、ノワールの意志に従うかのように、獲物を狙う獣の瞳で竜の谷を見据えていた。
◇◆◇◆◇
不穏な影が、月の光を遮るように空に広がる。
谷に、異変の兆候が現れ始めた。
遠くから、何か巨大なものが動くような、不気味な地鳴りが響き渡る。
谷の鳥たちが、一斉に鳴きながら空へ舞い上がっていく。
そして、その地鳴りは、徐々に谷全体を揺るがすほどの振動へと変わっていく。
何か、来る。
ユウキは本能的にそう感じた。
「…ッ!」
彼は、空を見上げる。
まさに、漆黒の空に、無数の影が、獲物を狙うように滑空してくるのが瞬間が見えた。
平和な時間が崩れ落ちる。
何か良くないことが起きる。
ユウキは、その音にならない予感の声を聴いた気がした。