表示設定
表示設定
目次 目次




第2楽章〜アダージョ〜④

ー/ー



 同日 午前9時〜

 〜白草四葉の想い〜

 前日に突然の連絡をさせてもらったにもかかわらず、後輩の雪乃は、朝から行われるわたしの撮影にも同行してくれた。

 地元の駅から、撮影場所の白咲海洋公園までは、高速道路を使っても2時間はかかる。午前6時集合という厳しいスケジュールだったけれど、雪乃は、イヤな顔ひとつせず、むしろ朗らかな表情で撮影用の機材が積まれたロケ車に揺られていた。

「四葉ちゃんの撮影に立ち会えるなんて、夢のようだべ。きっと、この夏一番の想い出になるべな」

 ウキウキとしながら語るフォロワーの表情を見ると、わたしの顔も自然とほころび、自分の仕事ぶりをファンに身近で見て、感じてもらえるということに喜びを覚え、気持ちが高鳴った。

「ゴメンね。前日になって急に声をかけちゃって……」

「とんでもない! 四葉ちゃんのお仕事の場を見せてもらえるなんて……こんなに嬉しいことは、生まれて初めてかも知れないべさ! けんど、わたすの方こそ、四葉ちゃんの撮影現場に行かせてもらって良かっただか?」

「もともと、お友だちでモデル仲間のリッカちゃんが一緒に来るはずだったからね。ロケ用のお弁当なんかも余らなくなったし、むしろ好都合だったんじゃないかな? そうですよね、藤川さん?」

 わたしは、広告の企画制作を担当し、撮影スタジオや屋外のロケーションコーディネートを手掛ける企業の撮影班の責任者であるコーディネーターさんにたずねる。

「そうやね。この季節やし、お弁当を余らせると処理が大変になるんよ。お弁当ひとつでも、キャンセルになると、それはそれで会計処理がややこしいし……今日は、四葉ちゃんのお友だちに来てもらって、ホンマに助かったわ」

 撮影を取り仕切る藤川さんは、そう言って、雪乃の同行を歓迎してくれた。

 ロケ車に揺られること2時間あまり―――。

 目的地の白咲海洋公園には、事前に見聞きしていたとおり、広告素材のロケーションとしては、これ以上ない、というくらい素晴らしい景色が広がっていた。

 まず、目に入るのが圧倒的な白と青のコントラストだ。

 海岸全体が真っ白な石灰岩で囲まれており、今日のように改正の青空や透明度の高いマリンブルーの海との対比は目に鮮やかで、まるで、異国情緒あふれる別世界のような雰囲気を醸し出している。
 
 そして、海岸を形作る岩場に目を向けると、自然の造形美に圧倒される。この石灰岩は、2億5千万年以上前のものらしく、サンゴや貝殻が固まってできたそうだ。荒々しい奇岩や怪石が作り出す美しさは圧巻で、地球の神秘を感じさせてくれる。

 『日本のエーゲ海』と呼ばれるに相応しい光景に圧倒されたのはわたしだけでなく、一緒に丘に登ってきた雪乃も言葉を失っているようだ。

「すごい景色だすな……故郷の三陸海岸の景色も素晴らしいですけんど、晴れた日の景色は、ここには叶わないかも知れないべ――――――」

「そっか……こうして、雪乃とこの景色を見ることが出来て良かったな」

「わたすも、四葉ちゃんに誘ってもらって、こんなにキレイな景色を見られて感謝しかないべ……あと、広報部の残りの作業をしてくれている佐倉さんにも――――――」

 感激したように語る雪乃に、わたしは、ふたたび「そっか……」と言葉を返す。

 いつもは、わたしに対して目の敵であるかのように突っかかって来て挑発的な態度を取ってくる下級生の存在は気になるところだけど……。
 今回は、自ら作業を買って出て雪乃が、この場に居ることに協力してくれたんだから、今日だけは、感謝してあげても良いかな……と、あの小生意気な顔を思い出しながら考える。

 目を見張るような景色を眺めながら、少しだけ、自分の周囲の人間関係について思いを馳せていると、

「そろそろ撮影に入りま〜す!」

というスタッフさんの声が聞こえてきた。

 屋外でのポスター撮影は、午前9時〜11頃か午後1時〜3時頃が、もっとも適している、とされている。
 これは、この時間帯が、自然光である太陽の日差しが斜めから差し込むため、被写体を明るく自然に写すことができるからだ。

 わたしや、リッカちゃんが依頼されるお仕事も、屋外で撮影を行う場合、当然、この時間での撮影が多くなり、移動時間を考えると、どうしても、出発の集合時間は早朝になったりする。

 寝不足で撮影に支障を来したりしないように、前の日の夜は、早めにベッドに入って十分に睡眠を取ってきた。

 一度、ロケ車に戻って準備を整えたら、いよいよ、わたしのステージが幕を開ける。

 それは、ピットで万全にチューンアップを受けたレーシングカーに乗り込むカーレーサーや、航空母艦で万全の整備を施された戦闘機に乗り込むエースパイロットのような高揚感かも知れない。

 今日は、残念ながら、お仕事でペアを組むはずだったリッカちゃんは居ないものの、代わりに、わたしを慕ってくれている可愛らしい下級生が見守ってくれている。

(雪乃も来てくれたし、恥ずかしいところは見せられないよね!)

 そう決意したわたしは、頭をお仕事モードに切り替えた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第2楽章〜アダージョ〜⑤


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 同日 午前9時〜
 〜白草四葉の想い〜
 前日に突然の連絡をさせてもらったにもかかわらず、後輩の雪乃は、朝から行われるわたしの撮影にも同行してくれた。
 地元の駅から、撮影場所の白咲海洋公園までは、高速道路を使っても2時間はかかる。午前6時集合という厳しいスケジュールだったけれど、雪乃は、イヤな顔ひとつせず、むしろ朗らかな表情で撮影用の機材が積まれたロケ車に揺られていた。
「四葉ちゃんの撮影に立ち会えるなんて、夢のようだべ。きっと、この夏一番の想い出になるべな」
 ウキウキとしながら語るフォロワーの表情を見ると、わたしの顔も自然とほころび、自分の仕事ぶりをファンに身近で見て、感じてもらえるということに喜びを覚え、気持ちが高鳴った。
「ゴメンね。前日になって急に声をかけちゃって……」
「とんでもない! 四葉ちゃんのお仕事の場を見せてもらえるなんて……こんなに嬉しいことは、生まれて初めてかも知れないべさ! けんど、わたすの方こそ、四葉ちゃんの撮影現場に行かせてもらって良かっただか?」
「もともと、お友だちでモデル仲間のリッカちゃんが一緒に来るはずだったからね。ロケ用のお弁当なんかも余らなくなったし、むしろ好都合だったんじゃないかな? そうですよね、藤川さん?」
 わたしは、広告の企画制作を担当し、撮影スタジオや屋外のロケーションコーディネートを手掛ける企業の撮影班の責任者であるコーディネーターさんにたずねる。
「そうやね。この季節やし、お弁当を余らせると処理が大変になるんよ。お弁当ひとつでも、キャンセルになると、それはそれで会計処理がややこしいし……今日は、四葉ちゃんのお友だちに来てもらって、ホンマに助かったわ」
 撮影を取り仕切る藤川さんは、そう言って、雪乃の同行を歓迎してくれた。
 ロケ車に揺られること2時間あまり―――。
 目的地の白咲海洋公園には、事前に見聞きしていたとおり、広告素材のロケーションとしては、これ以上ない、というくらい素晴らしい景色が広がっていた。
 まず、目に入るのが圧倒的な白と青のコントラストだ。
 海岸全体が真っ白な石灰岩で囲まれており、今日のように改正の青空や透明度の高いマリンブルーの海との対比は目に鮮やかで、まるで、異国情緒あふれる別世界のような雰囲気を醸し出している。
 そして、海岸を形作る岩場に目を向けると、自然の造形美に圧倒される。この石灰岩は、2億5千万年以上前のものらしく、サンゴや貝殻が固まってできたそうだ。荒々しい奇岩や怪石が作り出す美しさは圧巻で、地球の神秘を感じさせてくれる。
 『日本のエーゲ海』と呼ばれるに相応しい光景に圧倒されたのはわたしだけでなく、一緒に丘に登ってきた雪乃も言葉を失っているようだ。
「すごい景色だすな……故郷の三陸海岸の景色も素晴らしいですけんど、晴れた日の景色は、ここには叶わないかも知れないべ――――――」
「そっか……こうして、雪乃とこの景色を見ることが出来て良かったな」
「わたすも、四葉ちゃんに誘ってもらって、こんなにキレイな景色を見られて感謝しかないべ……あと、広報部の残りの作業をしてくれている佐倉さんにも――――――」
 感激したように語る雪乃に、わたしは、ふたたび「そっか……」と言葉を返す。
 いつもは、わたしに対して目の敵であるかのように突っかかって来て挑発的な態度を取ってくる下級生の存在は気になるところだけど……。
 今回は、自ら作業を買って出て雪乃が、この場に居ることに協力してくれたんだから、今日だけは、感謝してあげても良いかな……と、あの小生意気な顔を思い出しながら考える。
 目を見張るような景色を眺めながら、少しだけ、自分の周囲の人間関係について思いを馳せていると、
「そろそろ撮影に入りま〜す!」
というスタッフさんの声が聞こえてきた。
 屋外でのポスター撮影は、午前9時〜11頃か午後1時〜3時頃が、もっとも適している、とされている。
 これは、この時間帯が、自然光である太陽の日差しが斜めから差し込むため、被写体を明るく自然に写すことができるからだ。
 わたしや、リッカちゃんが依頼されるお仕事も、屋外で撮影を行う場合、当然、この時間での撮影が多くなり、移動時間を考えると、どうしても、出発の集合時間は早朝になったりする。
 寝不足で撮影に支障を来したりしないように、前の日の夜は、早めにベッドに入って十分に睡眠を取ってきた。
 一度、ロケ車に戻って準備を整えたら、いよいよ、わたしのステージが幕を開ける。
 それは、ピットで万全にチューンアップを受けたレーシングカーに乗り込むカーレーサーや、航空母艦で万全の整備を施された戦闘機に乗り込むエースパイロットのような高揚感かも知れない。
 今日は、残念ながら、お仕事でペアを組むはずだったリッカちゃんは居ないものの、代わりに、わたしを慕ってくれている可愛らしい下級生が見守ってくれている。
(雪乃も来てくれたし、恥ずかしいところは見せられないよね!)
 そう決意したわたしは、頭をお仕事モードに切り替えた。