木々のざわめきがピタリと止まる。
そして、彼女はそこに現れた。
「ふふっ。来たんだ。じゃあ、さっそく“招待”してあげる。」
スズランの甘い香りが、妖しく漂う。
少女は目を閉じた。
その瞬間、
少女の、彼女の、纏う雰囲気が
別のナニかに変わったのが肌で感じられた。
タン―。
一歩
タン―。タタン―。
彼女の全身が軽やかに優雅にしなり、
絹が風に煽られ、落ちていくような足の動きが俺たちの視線を奪っていく。
”繰り返される
いにしえの記憶
禁忌の侵された
人々は美しさを求め
囚われ、やがて朽ちるだろう”
小鳥のさえずりのような美しい歌声が響く。
もっと聞いていたいのに霧がかかってように視界がぼやけていく。
思考も水に入れた絵の具のようにドロドロと溶けていくようだ。
そんな中でも彼女の歌声を聞きたくて、
仲間のことは浮かんでこない。
思考が支配される。
”責任から逃げても良いんだぞ”
そんな甘言を囁いてくる
これは俺の声なのか、それとも―。
あぁ、そんなことはどうでもいい。
もし、責任から逃れても良いってなったら―。
一瞬、受け入れても良いと思ってしまった。
その途端―。
黒い異質な気配が俺に覆いかぶさり
俺の主導権を無理やり奪ってきた。
冷たい手で俺の脳髄が強く鷲掴みされているようだ。
顔が勝手に歪む。
吐き気とともに苦痛に悶える。
―いっそのこと楽になりたいな。アッハㇵ。
喉が詰まって、吐けそうなのに吐けない。
吐き気だけが込み上がってくる。
全身から暑くもないのに汗が溢れ、
よくわからない寒気が襲い震えが止まらない。
本能的にこれは危険だとやめるべきだと警報が響く。
チカチカと点滅する視界。
涙が溢れ、這いつくばりを地面を見ることしかできない。
げほっ。はーっ。はっ⋯。はっ…。
現実だろうか、幻想だろうか―。
2色の境が混ざり続けてグルグルと回っている。
変わらないのは、
歌が耳を塞いでいること。
限界で意識を手放す寸前
キーン―――――。
脳に響くほどの音がして視界が暗転した。
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暗転する直前、
少女の声が暗闇を切り裂く一矢のように脳に突き刺さる。
「カイル、惑わされないで。私じゃ”コノコ”をどうすることもできないから。」