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第3話 特異曲線

ー/ー



「ハルは天才なのよ」

 共同実験室のシートにスーツを固定して、ボクはケィさんの話を聞いている。老朽化した国際宇宙ステーションにかける予算も昨今は各国まちまちで、ひと月先のランデヴーまではケィさんはハルとふたりだけで運用してるらしい。

「だから早く戻ってきて貰わないと困っちゃうのよ」


「その……ハルさんなんですが」

 ボクの声にケィさんが小首を傾げた。欧米人の歳は不明だけど、アラサーかアラフォーか、だいたいその辺り。

「ボクがここに召喚されたのは彼女の仕業なんですか?今彼女はどこにいるんですか?そもそも、ボクは何人目なんですか?」

 ケィさんは曖昧な笑顔を浮かべた。


「ハルが別世界のハルさんをここに招待したのはあなたで三回目」

 ケィさんは何かの実験を作業を進めながら話を続けた。

「並行世界の存在に関しては物理学の世界でも否定されていなかった。でも証明もされてなかったのよ。ハル以前には。まぁ、その証明を確認してるのは今のところ私だけなんだけどね」


「ハルもね、発見は偶然だったのよ」

 ケィさんの語りは続く。

「世界初の女子高生宇宙飛行士に選ばれた彼女は二か月前にここ、ISSに来たの。マスコット枠とかじゃなくてね。彼女の専門は量子物理学。ここでも疑似無重力空間での量子実験がメインだった。その際に、見つけたのよ。軌道上の特異点を」


「細かいことは私もわかんないから省略するけど、この特異点、点と言ってもピンポイントじゃなくて空間の亀裂みたいなものらしいの。高度四百二キロメートル付近、経度十六.二八度近辺の南北に長さ約二百キロの曲線。これが、並行世界線の束が剥き出しになった特異曲線だっていうの。ハルの計測では」


「周期九十分で地球を一周するISSは、多いときで一日に三回程度特異曲線と交差するの。ハルの実験で判ったことは、他の世界線とのリンク確立は毎回一対一。質量のある物は原子一個でも相互転移はできない。逆に素粒子のスピン向きや回転数のような情報なら対応物さえあれば交換できるんだって」


「その対応物って、もしかして……」

 ボクの呟きをケィさんが引き取った。

「そう。あなたたち。私たちのハルと同じ形を持った並行世界の」

 この世界のハルに及ぶ筈もないけれど、ボクだって腐っても春海だ。概要くらいはケィさんの説明でもわかる。そうか。僕らの個性は素粒子のスピンで変わるんだ。


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「ハルは天才なのよ」
 共同実験室のシートにスーツを固定して、ボクはケィさんの話を聞いている。老朽化した国際宇宙ステーションにかける予算も昨今は各国まちまちで、ひと月先のランデヴーまではケィさんはハルとふたりだけで運用してるらしい。
「だから早く戻ってきて貰わないと困っちゃうのよ」
「その……ハルさんなんですが」
 ボクの声にケィさんが小首を傾げた。欧米人の歳は不明だけど、アラサーかアラフォーか、だいたいその辺り。
「ボクがここに召喚されたのは彼女の仕業なんですか?今彼女はどこにいるんですか?そもそも、ボクは何人目なんですか?」
 ケィさんは曖昧な笑顔を浮かべた。
「ハルが別世界のハルさんをここに招待したのはあなたで三回目」
 ケィさんは何かの実験を作業を進めながら話を続けた。
「並行世界の存在に関しては物理学の世界でも否定されていなかった。でも証明もされてなかったのよ。ハル以前には。まぁ、その証明を確認してるのは今のところ私だけなんだけどね」
「ハルもね、発見は偶然だったのよ」
 ケィさんの語りは続く。
「世界初の女子高生宇宙飛行士に選ばれた彼女は二か月前にここ、ISSに来たの。マスコット枠とかじゃなくてね。彼女の専門は量子物理学。ここでも疑似無重力空間での量子実験がメインだった。その際に、見つけたのよ。軌道上の特異点を」
「細かいことは私もわかんないから省略するけど、この特異点、点と言ってもピンポイントじゃなくて空間の亀裂みたいなものらしいの。高度四百二キロメートル付近、経度十六.二八度近辺の南北に長さ約二百キロの曲線。これが、並行世界線の束が剥き出しになった特異曲線だっていうの。ハルの計測では」
「周期九十分で地球を一周するISSは、多いときで一日に三回程度特異曲線と交差するの。ハルの実験で判ったことは、他の世界線とのリンク確立は毎回一対一。質量のある物は原子一個でも相互転移はできない。逆に素粒子のスピン向きや回転数のような情報なら対応物さえあれば交換できるんだって」
「その対応物って、もしかして……」
 ボクの呟きをケィさんが引き取った。
「そう。あなたたち。私たちのハルと同じ形を持った並行世界の」
 この世界のハルに及ぶ筈もないけれど、ボクだって腐っても春海だ。概要くらいはケィさんの説明でもわかる。そうか。僕らの個性は素粒子のスピンで変わるんだ。