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第二百六十九話

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 エヴァ・クリストフは、テキサス州の出であった。特に裕福という訳ではなく、かといって貧困に喘いでいたわけでもなく、実に慎ましやかな実家であった。
 ただ、世に思い描く「普通」とはかけ離れており、大きな部屋一つが未完成、完成品問わず武器で埋まってしまうほどに、武器に恵まれた環境であった。エヴァの手の届く場所には、両親は危険物を置かないようにしていたが、それでも多種多様な武器のフォルム、そして鉄の焼ける匂いやオイルのフレーバーに、幼子でありながらときめいていたのだ。
 それもそのはず、彼女の両親……主には父親の方であったが、あらゆる英雄が扱う武器のチューンアップや製作を一手に引き受ける存在、まさしく『武器の匠(ウエポンズ・マスタリー)』そのものであったのだ。
 信一郎が世に広めていった『因子』と言うものの解釈が、世界中に伝播していく中で、アメリカが真っ先に『英雄』と言う存在に順応したのだ。それまでは、所謂『ギフテッド』と呼称される存在が、本当は『因子に目覚めた英雄の卵』であると明らかになった後から、アメリカ国内でその選ばれし存在をサポートできる、最高峰の鍛冶師を募ったのだ。
 結果、エヴァの両親とレイジーの両親がそこに当てはまり、アメリカ国内における英雄のバックアップが出来る国公認の証である……『武器の匠』の称号を手に入れたのだ。
 エヴァは、それを心から誇りにしていた。純粋なエヴァ少女は、将来的に彼の仕事を受け継ぐ、そして世界に誇れる存在になるという、非常に大きな目標が出来たのだ。
 さらに、クリストフ家の名前の躍進は、ここで止まらない。それは、エヴァにまつわるものであったのだが、エヴァに『因子』が備わっていることが明らかになったのだ。
 だが、良い話ばかりではないのが現実。突如として身体能力が向上したり、頭脳が向上したり……あらゆる『飛躍』が約束された因子持ちになったエヴァが覚醒したのは……当時、不明のままであった。
(――すみません、ご両親。まだこの子の因子は、解明できないものです。ですが――近いうちに本当の意味で目覚めることでしょう)
 白い髭をたくわえた、恰幅の良い男性医師は、そう言ってクリストフ家を疑問の渦中に堕としたのだ。
 当時、まだ英雄にまつわる法整備なども進んでいない状況であったために、それを見分ける手段、そして因子元の判別手段も拙いものであった。日本に行けば、多少なり制度は上がるだろうが……二千五十年と比べたら実にお粗末なものである。
 因子持ちであると診断されはしたが、その中身が分からないまま、小学校生活に染まっていく。日本と比べ、あからさまなカースト制度が根付くアメリカであったが、エヴァは正体こそ分かっていないものの、将来有望視される因子持ちであることから最上位に。
 だが、エヴァはこんなカースト制度くそくらえ、と言うような珍しい存在であったため、エヴァのいたタイミングだけはそれが無かったことになった。それほどの純真な正義感を持っていたからこそ、今のような彼女が出来上がったのだ。

 ある日のこと。エヴァが居る、居ない関係なしに、続いて悶着が発生した。それは、エヴァの両親が仕立てる武器に不満を持った存在の台頭であった。
 だが、実際両親が仕立て上げる武器に不備があるか、と言われたら、それは間違いなく根も葉もない噂止まりであった。自分の技量の無さを、自分の力不足を他人のせいにしたがるのだ。そしてそこから多額の金をふんだくってやろうという、薄汚い魂胆が見えていたからこそ、両親はそんな不埒な輩の言うことなど、歯牙にもかけなかった。
 最初、エヴァはそんな両親を変わらず誇らしく思っていた。どこまで行ってもいい意味で頑固オヤジな、職人肌の父親を尊敬していた。
 しかし、次第に誹謗中傷は度を超えていく。国からの援助を受け増設した、両親の武器工房に茶々を入れる有象無象たちだったり、ネット上であることないこと書き込んで名前のブランドを落としにかかっていたり。
 最初は意に介していない様子の両親も、流石に度を越えた誹謗中傷一つ一つに心を痛めるようになっていた。まだ若々しい両親であったが、精神疲労によってどんどん苦労を示す皴が増えていった。
 その波は、やがてエヴァの方にも向くようになり、小学校内でも誹謗中傷を受けることが多くなった。エヴァの日ごろの行いや人望ゆえに、本当に親しい存在はずっとエヴァの見方であり続けたが、因子を持たない存在は下位互換同然である事実を受け止めきれないこれまでのカースト上位陣が寄ってたかってエヴァに傷害行為を働くようになっていたのだ。
 家族も傷つき、エヴァ自身も傷つき。ついに我慢の限界と言わんばかりに、エヴァは父親を責めてしまったのだ。

(――本当は、お父さんの武器は……あの人に卸した奴は大したものじゃあなかったんじゃあないの? それを普段の意固地さで「そうじゃあない」って言い続けているだけじゃあないの??)
(やめなさい、エヴァ! お父さんは……)
(やめない、だって自分にちゃんと自信があるなら、言い返したって良くない!? やり返したらいいじゃん、自分に非が無いなら!!)

 怒声を浴びせるも、父親はただ静かでいた。無口であった。その平静についカッとなってしまったエヴァは、遂に一線を超えるのだった。

(……ッ!! ネットの噂は本当だったの!? 小さい頃から……職人であるお父さんを慕ってきたのに、それは嘘だったの!? そんな、誇りもクソもないだなんて――もう知らない!!)

 遂に、エヴァは父親の在り方を明確に否定した。その瞬間に、父親はショックを受けたような、冷静さが途切れてしまったかのような、悲しそうな表情をしていた。そんなことお構いなしに、家出するエヴァ。そんな彼女を止めることは無く、ただ両親は俯くのみであった。



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 エヴァ・クリストフは、テキサス州の出であった。特に裕福という訳ではなく、かといって貧困に喘いでいたわけでもなく、実に慎ましやかな実家であった。
 ただ、世に思い描く「普通」とはかけ離れており、大きな部屋一つが未完成、完成品問わず武器で埋まってしまうほどに、武器に恵まれた環境であった。エヴァの手の届く場所には、両親は危険物を置かないようにしていたが、それでも多種多様な武器のフォルム、そして鉄の焼ける匂いやオイルのフレーバーに、幼子でありながらときめいていたのだ。
 それもそのはず、彼女の両親……主には父親の方であったが、あらゆる英雄が扱う武器のチューンアップや製作を一手に引き受ける存在、まさしく『|武器の匠《ウエポンズ・マスタリー》』そのものであったのだ。
 信一郎が世に広めていった『因子』と言うものの解釈が、世界中に伝播していく中で、アメリカが真っ先に『英雄』と言う存在に順応したのだ。それまでは、所謂『ギフテッド』と呼称される存在が、本当は『因子に目覚めた英雄の卵』であると明らかになった後から、アメリカ国内でその選ばれし存在をサポートできる、最高峰の鍛冶師を募ったのだ。
 結果、エヴァの両親とレイジーの両親がそこに当てはまり、アメリカ国内における英雄のバックアップが出来る国公認の証である……『武器の匠』の称号を手に入れたのだ。
 エヴァは、それを心から誇りにしていた。純粋なエヴァ少女は、将来的に彼の仕事を受け継ぐ、そして世界に誇れる存在になるという、非常に大きな目標が出来たのだ。
 さらに、クリストフ家の名前の躍進は、ここで止まらない。それは、エヴァにまつわるものであったのだが、エヴァに『因子』が備わっていることが明らかになったのだ。
 だが、良い話ばかりではないのが現実。突如として身体能力が向上したり、頭脳が向上したり……あらゆる『飛躍』が約束された因子持ちになったエヴァが覚醒したのは……当時、不明のままであった。
(――すみません、ご両親。まだこの子の因子は、解明できないものです。ですが――近いうちに本当の意味で目覚めることでしょう)
 白い髭をたくわえた、恰幅の良い男性医師は、そう言ってクリストフ家を疑問の渦中に堕としたのだ。
 当時、まだ英雄にまつわる法整備なども進んでいない状況であったために、それを見分ける手段、そして因子元の判別手段も拙いものであった。日本に行けば、多少なり制度は上がるだろうが……二千五十年と比べたら実にお粗末なものである。
 因子持ちであると診断されはしたが、その中身が分からないまま、小学校生活に染まっていく。日本と比べ、あからさまなカースト制度が根付くアメリカであったが、エヴァは正体こそ分かっていないものの、将来有望視される因子持ちであることから最上位に。
 だが、エヴァはこんなカースト制度くそくらえ、と言うような珍しい存在であったため、エヴァのいたタイミングだけはそれが無かったことになった。それほどの純真な正義感を持っていたからこそ、今のような彼女が出来上がったのだ。
 ある日のこと。エヴァが居る、居ない関係なしに、続いて悶着が発生した。それは、エヴァの両親が仕立てる武器に不満を持った存在の台頭であった。
 だが、実際両親が仕立て上げる武器に不備があるか、と言われたら、それは間違いなく根も葉もない噂止まりであった。自分の技量の無さを、自分の力不足を他人のせいにしたがるのだ。そしてそこから多額の金をふんだくってやろうという、薄汚い魂胆が見えていたからこそ、両親はそんな不埒な輩の言うことなど、歯牙にもかけなかった。
 最初、エヴァはそんな両親を変わらず誇らしく思っていた。どこまで行ってもいい意味で頑固オヤジな、職人肌の父親を尊敬していた。
 しかし、次第に誹謗中傷は度を超えていく。国からの援助を受け増設した、両親の武器工房に茶々を入れる有象無象たちだったり、ネット上であることないこと書き込んで名前のブランドを落としにかかっていたり。
 最初は意に介していない様子の両親も、流石に度を越えた誹謗中傷一つ一つに心を痛めるようになっていた。まだ若々しい両親であったが、精神疲労によってどんどん苦労を示す皴が増えていった。
 その波は、やがてエヴァの方にも向くようになり、小学校内でも誹謗中傷を受けることが多くなった。エヴァの日ごろの行いや人望ゆえに、本当に親しい存在はずっとエヴァの見方であり続けたが、因子を持たない存在は下位互換同然である事実を受け止めきれないこれまでのカースト上位陣が寄ってたかってエヴァに傷害行為を働くようになっていたのだ。
 家族も傷つき、エヴァ自身も傷つき。ついに我慢の限界と言わんばかりに、エヴァは父親を責めてしまったのだ。
(――本当は、お父さんの武器は……あの人に卸した奴は大したものじゃあなかったんじゃあないの? それを普段の意固地さで「そうじゃあない」って言い続けているだけじゃあないの??)
(やめなさい、エヴァ! お父さんは……)
(やめない、だって自分にちゃんと自信があるなら、言い返したって良くない!? やり返したらいいじゃん、自分に非が無いなら!!)
 怒声を浴びせるも、父親はただ静かでいた。無口であった。その平静についカッとなってしまったエヴァは、遂に一線を超えるのだった。
(……ッ!! ネットの噂は本当だったの!? 小さい頃から……職人であるお父さんを慕ってきたのに、それは嘘だったの!? そんな、誇りもクソもないだなんて――もう知らない!!)
 遂に、エヴァは父親の在り方を明確に否定した。その瞬間に、父親はショックを受けたような、冷静さが途切れてしまったかのような、悲しそうな表情をしていた。そんなことお構いなしに、家出するエヴァ。そんな彼女を止めることは無く、ただ両親は俯くのみであった。