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第二百六十七話

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 所変わって、新生山梨支部、その内部。
 場所は極少数の有力幹部、そして丙良と信玄の大幹部数名にのみ知らされている、秘密の鋼鉄城であった。
 その内部、明かりが極端に減らされた空間にて、信玄は椅子に縛り付けられていた。千葉支部での一件で、洗脳が溶けかけているのではと言う不信感から、幹部会議にかけられていたのだ。
 タイトな半袖Tシャツに黒のチノパン、ノーデザインのスリッポンを履く、非常に軽装かつ筋骨隆々の男は、腕組みをしながら信玄を見下していた。
「大幹部である丙良慎介(ヘイラ シンスケ)は……外出中ですか。本当なら、同じ大幹部である彼にも『ケジメ』の一つくらいつけてほしいところですが」
 それを嘲笑うは、白のスーツに紫色のワイシャツを着ており、金のネックレスを首に下げた、少々厳つい風貌の男。他でもなく、元々その筋の者だった存在である。
「――まあ、有名(メジャー)なのは小指(エンコ)詰めるくらいか? だがこのご時世、傷害罪(ショウガイ)扱いになっちまって、誰もそんなん受け取る馬鹿居ねえが。まずしくじった大馬鹿野郎の指なんぞ要らねえが」
 続いて現れるは、これまでの厳つい風貌の男たちとは打って変わって、幼いはかなげな印象を抱く二人組。二人とも男物のハットやトップス、ズボンや靴に至るまでスチームパンク染めであるため、どこか浮世離れした雰囲気の、男女の双子であった。
「……所詮、情があると駄目。大人(クソ)を殺すぐらいの気概が無きゃ」
「僕たちは、結局善吉さんの異常性に惹かれているんだから」
 ここに集った存在こそ、新生山梨支部の有力存在。それぞれが、何かしらの存在を裏切った存在である。
「おはこんにちばんわー、今日もお疲れ様でーす」
 そんな連中をよそに、軽口を叩きながら遅れて登場するは、この中で明確な女性として出で立ちをしている、胸元が分かりやすい赤色のインナーにスカートスタイルのビジネススーツを着用、それでいて赤色のピンヒールを鳴らしながらその場に現れるは……この場において最も善吉と付き合いの長い存在であり、現状善吉の秘書同然と言える――もう一人の『大幹部』であった。
「とりあえず、そこの新入り大幹部君は……私たちがどうこうする以前にもう一度洗脳(ブレインウォッシュ)するらしいよ。多分だけど、その子ベースの力が『念』だから効きが弱いみたい。本当憎たらしい」
 その女の一声で、その場の幹部連中が黙った。それはこの支部において、この女の発言権がかなり高いことにも理由があるが、今回ばかりはもう一つの理由であった。
「――皆、揃ったか」
 女の後ろから眼鏡を整えながら現れるは、チーティングドライバーを装着したままの善吉であった。治癒力を向上させていたためか、生傷が多少なり残ったままではあった。しかし、あれから黒縁眼鏡もスーツも何もかも新調。ワインレッドのネクタイがワンポイント。しかし元の物と何ら変化はない、彼なりのスタイルそのままであった。
 そんな善吉が現れた瞬間に、その場の幹部連中は声や呼吸など合わせた訳でもないのにも拘らず、実にスムーズに敬意を以って跪いていたのだ。信玄のみが、拘束されているために何もアクションを取ることが出来なかったが、視線だけは下げていた。
「――計画外の行動をした森の処遇に関しては、私に任せろ。余計なことはするな」
 無防備なままの信玄の側頭部それぞれに、静かに手を置き彼の目を見つめる善吉。待田の時のような、力づくで全ての思考を捻じ伏せていくようなものではなく、的確に当人の心の痛みと向き合っていく。それは善吉が望んだわけではなく、それこそが作戦の遂行にとって最も適している選択だからこそ。
「森信玄、貴様の根底に存在する、『痛み』は何だ」
「――森信之が、死んだこと」
「そうか、ではその痛みを解消するには?」
「――殺した奴への、復讐」
 まるで流れるような洗脳の流れに、次第に信玄本来の思考は遠のいていき、再び顔を見せるのは『新生山梨支部の大幹部』としての彼の表情であった。
 人に対しての情も、期待も、好感度も、何もかもが欠如している善吉にとって、ただ心の内にあるのは『五斂子社の恒久的な繁栄』と、『もう一つの目標』のみ。
「よろしい。ではやるべきことは、分かるな?」
「――ああ。礼安を……殺す」
 静かに笑うと、善吉は信玄の拘束を手ずから解く。一行の前に存在する玉座に座り、足を組む中で、彼の表情は実に穏やかであった。
「――諸君、単刀直入に言おう、大幹部の一人……丙良が裏切った。だが予定に狂いはない。相手側には戦力にすらならない(メス)が存在する。だがこの有利な状況下でも驕るな、慢心するな、客観的に物事を見ろ。確実に戦力を分散し、それぞれの面子を容赦なく殺せ。もし何かしら危険な動きをするならば……様子見などせず即刻殺せ」
 善吉が宙に手を掲げると、そこに現れるはホログラム。どこにあるか不明の本部が対象外となっているものの、各支部の勢力図となっている。礼安たち英雄陣営に敗北した神奈川支部、埼玉支部、茨城支部、山梨支部は黒く染まっているものの、それ以外の支部は有力者の羅列や資金繰りの規模など、ありとあらゆる情報が一つに詰まっている。
 しかし、現状の新生山梨支部は資金面ではまだ無力ではありながら、人員規模で言うならば流浪の獣(リウラン・ショウ)とトクリュウを用いているために、これまでにない規模にまで成長していたのだ。
「我々……ひいては私の目標は……第二、第三の五斂子社を作り上げた上で新生山梨支部を……この国の頂点に立たせることだ。私が率いるのだ、負けは許されない」
 数ある支部の頂点ではなく、文字通り現行の教会以上の存在にすること。そうした後に狙うは……『日本政府の完全掌握』であった。
 世の人間は、よく多くの政治家を「無能」と呼ぶことが多いのだが、善吉にとってそういった役立たずの政治家が世にのさばっている現状が、堪らなく許せなかったのだ。口だけではない、本当に『無能』と言う存在が心の底から嫌いな善吉だからこそ、至った結論であったのだ。
 ひいては、国力の増強……世界に通用する国にするべく、プランニングは事前に整えた。来栖善吉が目指す場所と言うものは、生半可な覚悟ではたどり着けない場所であるからこそ……『有能』である存在が頂点を取るべきだと考えたのだ。
 突飛と思える計画ではあるが、その突飛な計画を思案し、実行するにはそれなりのカリスマ性も必要不可欠。善吉に着いて来たのは、まさにそのカリスマ性に惹かれたからこそである。本人は部下の存在なんぞ何とも思っていないだろうが。

「「「「「「――仰せのままに、支部長」」」」」」



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 所変わって、新生山梨支部、その内部。
 場所は極少数の有力幹部、そして丙良と信玄の大幹部数名にのみ知らされている、秘密の鋼鉄城であった。
 その内部、明かりが極端に減らされた空間にて、信玄は椅子に縛り付けられていた。千葉支部での一件で、洗脳が溶けかけているのではと言う不信感から、幹部会議にかけられていたのだ。
 タイトな半袖Tシャツに黒のチノパン、ノーデザインのスリッポンを履く、非常に軽装かつ筋骨隆々の男は、腕組みをしながら信玄を見下していた。
「大幹部である|丙良慎介《ヘイラ シンスケ》は……外出中ですか。本当なら、同じ大幹部である彼にも『ケジメ』の一つくらいつけてほしいところですが」
 それを嘲笑うは、白のスーツに紫色のワイシャツを着ており、金のネックレスを首に下げた、少々厳つい風貌の男。他でもなく、元々その筋の者だった存在である。
「――まあ、|有名《メジャー》なのは|小指《エンコ》詰めるくらいか? だがこのご時世、|傷害罪《ショウガイ》扱いになっちまって、誰もそんなん受け取る馬鹿居ねえが。まずしくじった大馬鹿野郎の指なんぞ要らねえが」
 続いて現れるは、これまでの厳つい風貌の男たちとは打って変わって、幼いはかなげな印象を抱く二人組。二人とも男物のハットやトップス、ズボンや靴に至るまでスチームパンク染めであるため、どこか浮世離れした雰囲気の、男女の双子であった。
「……所詮、情があると駄目。|大人《クソ》を殺すぐらいの気概が無きゃ」
「僕たちは、結局善吉さんの異常性に惹かれているんだから」
 ここに集った存在こそ、新生山梨支部の有力存在。それぞれが、何かしらの存在を裏切った存在である。
「おはこんにちばんわー、今日もお疲れ様でーす」
 そんな連中をよそに、軽口を叩きながら遅れて登場するは、この中で明確な女性として出で立ちをしている、胸元が分かりやすい赤色のインナーにスカートスタイルのビジネススーツを着用、それでいて赤色のピンヒールを鳴らしながらその場に現れるは……この場において最も善吉と付き合いの長い存在であり、現状善吉の秘書同然と言える――もう一人の『大幹部』であった。
「とりあえず、そこの新入り大幹部君は……私たちがどうこうする以前にもう一度|洗脳《ブレインウォッシュ》するらしいよ。多分だけど、その子ベースの力が『念』だから効きが弱いみたい。本当憎たらしい」
 その女の一声で、その場の幹部連中が黙った。それはこの支部において、この女の発言権がかなり高いことにも理由があるが、今回ばかりはもう一つの理由であった。
「――皆、揃ったか」
 女の後ろから眼鏡を整えながら現れるは、チーティングドライバーを装着したままの善吉であった。治癒力を向上させていたためか、生傷が多少なり残ったままではあった。しかし、あれから黒縁眼鏡もスーツも何もかも新調。ワインレッドのネクタイがワンポイント。しかし元の物と何ら変化はない、彼なりのスタイルそのままであった。
 そんな善吉が現れた瞬間に、その場の幹部連中は声や呼吸など合わせた訳でもないのにも拘らず、実にスムーズに敬意を以って跪いていたのだ。信玄のみが、拘束されているために何もアクションを取ることが出来なかったが、視線だけは下げていた。
「――計画外の行動をした森の処遇に関しては、私に任せろ。余計なことはするな」
 無防備なままの信玄の側頭部それぞれに、静かに手を置き彼の目を見つめる善吉。待田の時のような、力づくで全ての思考を捻じ伏せていくようなものではなく、的確に当人の心の痛みと向き合っていく。それは善吉が望んだわけではなく、それこそが作戦の遂行にとって最も適している選択だからこそ。
「森信玄、貴様の根底に存在する、『痛み』は何だ」
「――森信之が、死んだこと」
「そうか、ではその痛みを解消するには?」
「――殺した奴への、復讐」
 まるで流れるような洗脳の流れに、次第に信玄本来の思考は遠のいていき、再び顔を見せるのは『新生山梨支部の大幹部』としての彼の表情であった。
 人に対しての情も、期待も、好感度も、何もかもが欠如している善吉にとって、ただ心の内にあるのは『五斂子社の恒久的な繁栄』と、『もう一つの目標』のみ。
「よろしい。ではやるべきことは、分かるな?」
「――ああ。礼安を……殺す」
 静かに笑うと、善吉は信玄の拘束を手ずから解く。一行の前に存在する玉座に座り、足を組む中で、彼の表情は実に穏やかであった。
「――諸君、単刀直入に言おう、大幹部の一人……丙良が裏切った。だが予定に狂いはない。相手側には戦力にすらならない|女《メス》が存在する。だがこの有利な状況下でも驕るな、慢心するな、客観的に物事を見ろ。確実に戦力を分散し、それぞれの面子を容赦なく殺せ。もし何かしら危険な動きをするならば……様子見などせず即刻殺せ」
 善吉が宙に手を掲げると、そこに現れるはホログラム。どこにあるか不明の本部が対象外となっているものの、各支部の勢力図となっている。礼安たち英雄陣営に敗北した神奈川支部、埼玉支部、茨城支部、山梨支部は黒く染まっているものの、それ以外の支部は有力者の羅列や資金繰りの規模など、ありとあらゆる情報が一つに詰まっている。
 しかし、現状の新生山梨支部は資金面ではまだ無力ではありながら、人員規模で言うならば|流浪の獣《リウラン・ショウ》とトクリュウを用いているために、これまでにない規模にまで成長していたのだ。
「我々……ひいては私の目標は……第二、第三の五斂子社を作り上げた上で新生山梨支部を……この国の頂点に立たせることだ。私が率いるのだ、負けは許されない」
 数ある支部の頂点ではなく、文字通り現行の教会以上の存在にすること。そうした後に狙うは……『日本政府の完全掌握』であった。
 世の人間は、よく多くの政治家を「無能」と呼ぶことが多いのだが、善吉にとってそういった役立たずの政治家が世にのさばっている現状が、堪らなく許せなかったのだ。口だけではない、本当に『無能』と言う存在が心の底から嫌いな善吉だからこそ、至った結論であったのだ。
 ひいては、国力の増強……世界に通用する国にするべく、プランニングは事前に整えた。来栖善吉が目指す場所と言うものは、生半可な覚悟ではたどり着けない場所であるからこそ……『有能』である存在が頂点を取るべきだと考えたのだ。
 突飛と思える計画ではあるが、その突飛な計画を思案し、実行するにはそれなりのカリスマ性も必要不可欠。善吉に着いて来たのは、まさにそのカリスマ性に惹かれたからこそである。本人は部下の存在なんぞ何とも思っていないだろうが。
「「「「「「――仰せのままに、支部長」」」」」」