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疑惑─マリア視点─

ー/ー



 私の夫である西園寺リュウは浮気をしている。誰かは分からない。でも、浮気をしていることは確かだ。

 初めは気のせいだと思っていた。帰るのが遅くなったり、一人で部屋に籠もって鼻歌を歌ったり、急に余所余所(よそよそ)しい態度になったり。

 ――明確な証拠がある訳ではない。

 親が決めた婚約者で、家長の命令で結婚したようなものであったが、それに対して不満はなかった。一緒にいて楽しかったし、それなりに幸せな毎日を過ごしていると思っていた。昨年、子供が産まれるまでは。


※※※※※


 十年前、母を亡くした私の前に現れたのは、後妻のミアだった。

「何をしているんだい?」

 彼女は、滝川家に来る前は別の家で暮らしていた。以前にいた家で何があったのか、私には分からない。でも、使用人達が私のいない場所で、ミアのよくない話をしているのが、それとなく分かった。

 滝川家は、父方のお祖父様(じいさま)が発明家で、いくつもの発明品を作った功績が認められて紫綬褒章を賜っていた。

 しかしながら、父や私に才能は無く、借金返済の為に、家の取り潰しが決まっていた。

 お父様が再婚したミアには、商才があった。やり方は薄汚く、娼婦のようなやり方でお金を稼いでいたが、誰も文句は言えなかった。人の良すぎるお父様では、商売なんて出来るはずもなかった。

 そんなある日、義母(はは)から呼び出しがあった。

「マリア、お前にいい縁談話を持ってきたよ」

 呼び出されて執務室へ行くと、机の前に放り投げるようにして釣書を渡された。

「西園寺家から、成人したお前に婚約の打診だ。お前の顔は見るのも嫌だから、今週中に荷物を纏めて出て行ってくれ」

 私は床に落ちていた釣書を拾うと、中身を見ずに机の上へ置いた。

「今までお世話になりました」

 そんなことは1ミリも思っていなかったが、滝川家を助けてくれたことに対して、私は頭を下げた。




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 私の夫である西園寺リュウは浮気をしている。誰かは分からない。でも、浮気をしていることは確かだ。
 初めは気のせいだと思っていた。帰るのが遅くなったり、一人で部屋に籠もって鼻歌を歌ったり、急に|余所余所《よそよそ》しい態度になったり。
 ――明確な証拠がある訳ではない。
 親が決めた婚約者で、家長の命令で結婚したようなものであったが、それに対して不満はなかった。一緒にいて楽しかったし、それなりに幸せな毎日を過ごしていると思っていた。昨年、子供が産まれるまでは。
※※※※※
 十年前、母を亡くした私の前に現れたのは、後妻のミアだった。
「何をしているんだい?」
 彼女は、滝川家に来る前は別の家で暮らしていた。以前にいた家で何があったのか、私には分からない。でも、使用人達が私のいない場所で、ミアのよくない話をしているのが、それとなく分かった。
 滝川家は、父方のお|祖父様《じいさま》が発明家で、いくつもの発明品を作った功績が認められて紫綬褒章を賜っていた。
 しかしながら、父や私に才能は無く、借金返済の為に、家の取り潰しが決まっていた。
 お父様が再婚したミアには、商才があった。やり方は薄汚く、娼婦のようなやり方でお金を稼いでいたが、誰も文句は言えなかった。人の良すぎるお父様では、商売なんて出来るはずもなかった。
 そんなある日、|義母《はは》から呼び出しがあった。
「マリア、お前にいい縁談話を持ってきたよ」
 呼び出されて執務室へ行くと、机の前に放り投げるようにして釣書を渡された。
「西園寺家から、成人したお前に婚約の打診だ。お前の顔は見るのも嫌だから、今週中に荷物を纏めて出て行ってくれ」
 私は床に落ちていた釣書を拾うと、中身を見ずに机の上へ置いた。
「今までお世話になりました」
 そんなことは1ミリも思っていなかったが、滝川家を助けてくれたことに対して、私は頭を下げた。