砂嵐が辺り一面に小麦色のフィルターをかけている。幸運なのはここが都市公園の跡地で平たく整備されていることだが、視界は恐ろしく不良。すぐ近くには放射能汚染地域もあり、一歩間違えれば、想定外の事態に巻き込まれかねない状況だ。ネオは闇市で手に入れた中古の無線機にスイッチを入れ、相方の動向を確かめた。
「こちらJB1N。聞こえますか? どうぞ」
ザーという雑音混じりに、ミッテの声が聞こえてくる。
「こちらJC1M。聞こえますがかなり不明瞭。対象物回収次第、即撤退します」
「もしかしてもう見つけたの?」
ミッテの応答はない。ネオは電池の節約をするために、無線機の電源をオフにした。
待つのは苦手だ。持って五分だと思っている。それ以上になると、幼い頃に生き別れた母を思い出して落ち着かなくなる。
ペアを組んで三年。プラントハントでミッテがヘマをしたことは一度もないが、やはり胸がざわざわする。
「ミッテなら大丈夫。必ず帰ってくる」
ネオは声に出してつぶやいたが、余計に緊張が高まっただけだった。胸の早鐘に拍車がかかり、めまいがする。たまらず防護服のヘッド部を外そうとした瞬間、何者かに制止された。
無遠慮な腕のつかみ方でわかる。ミッテだ。透明な防護シールド越しに見える彼の水色の瞳は、ネオをたった数秒で安心させるのに十分な輝きをたたえている。
乱れていた呼吸が収まると、ネオはか細い声で謝罪した。
「ごめん、ミッテ」
「いや、いい。歩けるか?」
うん、と答えたが、足元がふらついた。ミッテに支えられながら砂嵐で霞む地を歩くこと三十分。ようやく目的地までたどり着くことができた。
かつてはさまざまな宗教を受け入れるモスクとして使われていた建造物である。周囲は砂漠と化してしまったが、定期的に手入れされている内部はまだ十分に美しい。最も、信じる神のないネオとミッテにとっては、鮮やかな彩色を施されたフレスコ画もステンドグラスも、単なる装飾の一部でしかないのだが。
短い言葉を交わした二人はそれぞれ小さな個室に入った。レンタルした防護服は無人の預かり所に返却し、シャワーを浴びてから清潔な服に着替える。憔悴しきっていたネオだが、人心地がつくとようやく生来の明るさがよみがえった。ロビーでミッテと合流すると、さっそく採取した植物について訊ねた。
「それでどんなヤツなの? 古代茶の若木って」
「お腹が空いてるから、あまり話したくない」
「そっか、了解」
ミッテのリュックサックから小枝が覗いて見えるが、査定を依頼する時にでもたっぷり観察することができるはずだ。
ネオは、それにしても今日の砂嵐はひときわキツかったと思いながらほの暗い通路を進む。最奥にある重い石扉を押し開けた先が、地下世界への入口である。入口とはいえ、通路はまだ続いていて、街はその先にある。