「下着は絶対……パジャマと部屋着、外出用は服も靴も普段使いと仕事用、両方必要よね? スリッパも新しい可愛いのが欲しいかも……これから夏に向けて水着は買ったらダメよね? 後は歯ブラシに、携帯の充電器って使ってないの有ります? あ、ここ一颯さんしか住んでないから、ナプキンとかもおいてないですよね?」
朝から困ったワードが混じっている……。必要なものは全部買えばいい……女性の買い物のテンションに真正面から受け止める程女性を知らない訳でもない。一颯は苦笑いで熱いコーヒーを啜った。
◇◆◇◆
巨大ショッピングモールに来ている。音色がスマホで調べたそうだ。隅から隅まであらゆる店に入った。パジャマの色で悩みに悩み、枕カバーの柄を一颯に聞く。必要の無い雑貨屋で買わない置物を手に取っては『可愛い』と褒め、棚に戻す。
「私用のカップ……ダメ?」
そんなことを言われたら、『食器類は家に今あるので十分だ』なんて言えない。他にも通り過ぎたはずの文房具屋へと戻ったのなら、会社の備品で与えられるはずのボールペンを数本購入する。
軽く一万歩は超えたはずだ。
数々の試着をこなす中で、靴だけは真剣な目を向けて選ぶのはきっと、前職の皮革産業に居たせいであろう。
休憩がてら入ったカフェでついに一颯が愚痴をこぼす。
「こんなに歩き回らなくても、『コンシェルジェ』に頼めば全部一流のモノを揃えてくれるのに……」
「ダメ、ダメ。それじゃあデートにならないでしょう?」
「デート?」
「ごめんなさい、楽しくないかしら?」
音色の声のトーンが湿り気を含んだのなら、一颯は元気を発散させてみせる。
「楽しいに決まってるじゃないか!」