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1話 静かに狂い始める

ー/ー



この村には近づくべきじゃなかった。
穏やかで、優しくて、安心できる――
そう思っていたのに。
俺の選択で、仲間までも……。
けれど、もう遅い。

花が咲いたそのとき、俺たちの理想は
――ただ静かに散っていった。




「おーい。この村もいいけど、そろそろ別の村に行ってみよう。
 爺さん、お手伝いはこれで終わりか?泊めてくれてありがとな!」
後ろを振り向くと仲間が笑いかけてくれた。
ピョコピョコ跳ねながら走り回る、イエローブラウンの双子はリンネとネロン。
見てるだけで、こっちまで少し笑えてくる。

……そういや、昔孤児院に入ってきた外の子が言ってたな。
「あの双子、レモンパイみたいだね」って。
 食べたことなんて一度もないし、見たのもほんの一度だけ。
それも、先生たちの机に置かれていたのをちらっと見かけたくらいだ。
 
それでも、その子の言いたいことはなんとなくわかった気がした。

 リンネはふわふわとした雰囲気で、まるで甘いメレンゲみたいにやわらかい。


 一方ネロンはリンネと同じように柔らかそうで、笑えばやっぱりふわっとして見える。
 でも、ふとした瞬間に鋭い目をするときがある。そのギャップが、たぶん“レモンの部分”なんだろう。
 ……甘さと酸っぱさ、ふたりでひとつ。

 俺にはレモンパイの比喩がどれほどあっているかは食べたことがないからわからない。
だが、あのふたりはそういうもんなんだろう。
 
この二人が何を考えているのかは、いまだによくわからない。
でも、いつも俺たちの先を見ているような目で、迷わず言葉をくれる。
歳は9つ。子どもらしいはずなのに、
ときどき俺よりずっと、周りを見ているんじゃないかと思うんだ。
それでも、俺は17歳で最年長。
だからきっと、重要なとき先導してみんなを守るのは俺しかできないんだと思った。

今近くにいるのはこの二人だが、他の3人のメンバーは各々この村のお手伝いをしている。
というのも村を転々としながら、安心して暮らせる場所を探してる俺たちは、


寝泊まりさせてもらう代わりに、お礼としてお手伝いをしているからだ。



俺たち6人はみんな、孤児だ。
正直に言って、育った孤児院は“地獄”だった。


ご飯は一日一回。固くてカビたパン。
先生たちは「金がない」と言いながら、毎日、酒とご馳走を楽しむ。
毎日、よく売れる編み物を100個も作らされた。
市に売りに出るのも俺たち。
でも金は全て孤児院へ集められ、先生の懐へ。
ある日…孤児院に新しく入ってきた子が言った。
「こんなの、普通じゃない! 狂ってる!」
その時初めて、俺は気づいたんだ。
間違ってる…。そう、きっと‥これは普通じゃない。
鳥籠の中の俺たちは、外の世界を知らなかっただけだって。
だから、俺たちはあの”地獄”から脱出した。
抜け出すのは案外簡単だった。
先生たちはお酒やご馳走を食べたあとすぐ寝るのは知っていたから。


「カイルたちお手伝いありがとな。……お前さんたちを見てると、息子を思い出すのう。」

「え、爺さんに息子がいたのか?」

「ああ、10年前に“世界で一番美しい村”を探すんだって出ていったんじゃ。
最初のうちは手紙も来てたんじゃが……そのうち、ぱったりと。
どこで何しとるのやら……まったく、親の心子知らずとはよう言ったもんじゃ」

「ハハハ、まあそれはさておき、、そんな村、あるのか?」
胸が高鳴った。仲間と、安心して暮らせる場所かもしれない。

「ふむ……ただの噂話かもしれんよ?
 ただ、その村には”鈴の音“や”村の者からの招待”がないと入れないそうじゃ。」

 ”世界で一番美しい村”
簡単に信じるほど馬鹿じゃないが、少し興味が湧いてきた。
それに、そろそろ地に足をついて暮らせないと
俺たちは冬が来たとき息絶えてしまうだろう。

それぞれ村のお手伝いを終えたのか俺の周りに集まっていた仲間の方を見ると
俺の思っていたことが伝わったのか笑っていた。
まあ、少し不安げな表情をしているやつもいたが。

「行ってみようか」
そう口に出すと、

「でもでも、問題ひとつ!リンネたちはその場所、知らないよ?」
「そうそう。招待も受けないといけないが、ない。」

リンネとネロンがぴょこっと後ろから飛び出してきていった。
「それに、即決なんてカイルらしくない。僕達と相談も必要不可欠だ。」
振り返ると、セルリアンブルーの髪にメガネをかけたドルカ・スランが静かに立っていた。
いつものように、冷静な目だった。

ああ、さっき不安げな表情を浮かべていたな。
俺が無理やり引っ張っていくのは違う。ちゃんと話し合わないと。
いつもなら問題点をすぐ思いつけるのに、今のは俺らしくない。

――チリン。

耳にかすかに響いた鈴の音が、俺の思考を止めた。
思わず後ろを振り向くと、
「ふふっ、みんな、興味あるんだよね?あの村のこと。」
といって怪しげに微笑んだ少女がいた。
その瞬間だけ、時間がゆっくりと流れ出す。
まるで、何かに囚われたみたいに。

少女が、静かに一歩、俺に近づく。……何かが、おかしい。
理由のない、強い違和感が背筋を這った。

少女の肌――いや、白いワンピースのすき間から
体のあちこちに、小さな白い花が咲いていた。
スズランだ。
飾られているんじゃない。根を張り、
まるで少女の体から生まれてきたように、そこに咲いていた。

人間に、花が咲くなんて――。


きっと、
このときから俺たちのたどる道は決まってたんだ。





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この村には近づくべきじゃなかった。 穏やかで、優しくて、安心できる――
そう思っていたのに。
俺の選択で、仲間までも……。
けれど、もう遅い。
花が咲いたそのとき、俺たちの理想は
――ただ静かに散っていった。
「おーい。この村もいいけど、そろそろ別の村に行ってみよう。
 爺さん、お手伝いはこれで終わりか?泊めてくれてありがとな!」
後ろを振り向くと仲間が笑いかけてくれた。
ピョコピョコ跳ねながら走り回る、イエローブラウンの双子はリンネとネロン。
見てるだけで、こっちまで少し笑えてくる。
……そういや、昔孤児院に入ってきた外の子が言ってたな。
「あの双子、レモンパイみたいだね」って。
 食べたことなんて一度もないし、見たのもほんの一度だけ。
それも、先生たちの机に置かれていたのをちらっと見かけたくらいだ。
それでも、その子の言いたいことはなんとなくわかった気がした。
 リンネはふわふわとした雰囲気で、まるで甘いメレンゲみたいにやわらかい。
 一方ネロンはリンネと同じように柔らかそうで、笑えばやっぱりふわっとして見える。
 でも、ふとした瞬間に鋭い目をするときがある。そのギャップが、たぶん“レモンの部分”なんだろう。
 ……甘さと酸っぱさ、ふたりでひとつ。
 俺にはレモンパイの比喩がどれほどあっているかは食べたことがないからわからない。
だが、あのふたりはそういうもんなんだろう。
この二人が何を考えているのかは、いまだによくわからない。
でも、いつも俺たちの先を見ているような目で、迷わず言葉をくれる。
歳は9つ。子どもらしいはずなのに、
ときどき俺よりずっと、周りを見ているんじゃないかと思うんだ。
それでも、俺は17歳で最年長。
だからきっと、重要なとき先導してみんなを守るのは俺しかできないんだと思った。
今近くにいるのはこの二人だが、他の3人のメンバーは各々この村のお手伝いをしている。
というのも村を転々としながら、安心して暮らせる場所を探してる俺たちは、
寝泊まりさせてもらう代わりに、お礼としてお手伝いをしているからだ。
俺たち6人はみんな、孤児だ。
正直に言って、育った孤児院は“地獄”だった。
ご飯は一日一回。固くてカビたパン。
先生たちは「金がない」と言いながら、毎日、酒とご馳走を楽しむ。
毎日、よく売れる編み物を100個も作らされた。
市に売りに出るのも俺たち。
でも金は全て孤児院へ集められ、先生の懐へ。
ある日…孤児院に新しく入ってきた子が言った。
「こんなの、普通じゃない! 狂ってる!」
その時初めて、俺は気づいたんだ。
間違ってる…。そう、きっと‥これは普通じゃない。
鳥籠の中の俺たちは、外の世界を知らなかっただけだって。
だから、俺たちはあの”地獄”から脱出した。
抜け出すのは案外簡単だった。
先生たちはお酒やご馳走を食べたあとすぐ寝るのは知っていたから。
「カイルたちお手伝いありがとな。……お前さんたちを見てると、息子を思い出すのう。」
「え、爺さんに息子がいたのか?」
「ああ、10年前に“世界で一番美しい村”を探すんだって出ていったんじゃ。
最初のうちは手紙も来てたんじゃが……そのうち、ぱったりと。
どこで何しとるのやら……まったく、親の心子知らずとはよう言ったもんじゃ」
「ハハハ、まあそれはさておき、、そんな村、あるのか?」
胸が高鳴った。仲間と、安心して暮らせる場所かもしれない。
「ふむ……ただの噂話かもしれんよ?
 ただ、その村には”鈴の音“や”村の者からの招待”がないと入れないそうじゃ。」
 ”世界で一番美しい村”
簡単に信じるほど馬鹿じゃないが、少し興味が湧いてきた。
それに、そろそろ地に足をついて暮らせないと
俺たちは冬が来たとき息絶えてしまうだろう。
それぞれ村のお手伝いを終えたのか俺の周りに集まっていた仲間の方を見ると
俺の思っていたことが伝わったのか笑っていた。
まあ、少し不安げな表情をしているやつもいたが。
「行ってみようか」
そう口に出すと、
「でもでも、問題ひとつ!リンネたちはその場所、知らないよ?」
「そうそう。招待も受けないといけないが、ない。」
リンネとネロンがぴょこっと後ろから飛び出してきていった。
「それに、即決なんてカイルらしくない。僕達と相談も必要不可欠だ。」
振り返ると、セルリアンブルーの髪にメガネをかけたドルカ・スランが静かに立っていた。
いつものように、冷静な目だった。
ああ、さっき不安げな表情を浮かべていたな。
俺が無理やり引っ張っていくのは違う。ちゃんと話し合わないと。
いつもなら問題点をすぐ思いつけるのに、今のは俺らしくない。
――チリン。
耳にかすかに響いた鈴の音が、俺の思考を止めた。
思わず後ろを振り向くと、
「ふふっ、みんな、興味あるんだよね?あの村のこと。」
といって怪しげに微笑んだ少女がいた。
その瞬間だけ、時間がゆっくりと流れ出す。
まるで、何かに囚われたみたいに。
少女が、静かに一歩、俺に近づく。……何かが、おかしい。
理由のない、強い違和感が背筋を這った。
少女の肌――いや、白いワンピースのすき間から
体のあちこちに、小さな白い花が咲いていた。
スズランだ。
飾られているんじゃない。根を張り、
まるで少女の体から生まれてきたように、そこに咲いていた。
人間に、花が咲くなんて――。
きっと、
このときから俺たちのたどる道は決まってたんだ。