@ 30.5話
ー/ー
「ペットボトルの中を移動した水が足に集まるイメージで……着地……!!」
スキー板が面でしっかりと雪上を捉えたのを、ブーツを通して足裏にしっかり伝わった。
「やったっ!! ……千晶っ!」
初めて『3Dエア』と呼ばれるトリックに成功した。この『1回目』が自信に繋がる。最高にうれしい感覚……これを忘れないうちにもう1回、飛んでおきたい。
* * *
『お前も飛ぶのが好きだったら、難易度の高いトリックを身に付けろよ』千晶は簡単にそんなことを言っていたけど、3Dエアがそんなに甘いはずであるわけない。
けれども……ついにできた! ここまで来るのは簡単ではなかった。
日々の陸上練習が『シーズン時の雪上練習』を支える基礎となる。しかしこの『3Dエア』は、普段通りの陸上のトレーニングだけでは習得が難しい。
飛び出した勢いの推進力を利用して縦回転するだけではダメで、駒のように垂直方向を軸に回転する横回転だけでも不可である。回転軸の感覚の習得には経験という厚みが重要ファクターといえた。
◇◆◇◆
「トランポリンだな。まずは回転して背中落ちから始めて、ウォータージャンプとかで確かめる……ま、そんなところだろ」
千晶に聞くと簡単な答えしか返ってこない。
「そんなことはもう、とっくにやってるよ。千晶は飛べるんだから、もっとコツみたいな……ところでなんで千晶は大会で3D、飛ばないの?」
本番ではなかったけど千晶が3Dエアを飛んだの見たことがあるし、先日の大会でだってフルツイストを飛んだのなら、千晶は最高難度のトリックを飛べることを意味している。
「俺は暖空やお前みたいにモーグルを愉しんでできないタイプなんでね。いつもギリギリストイックに臨んでないと駄目なんだよ、まったくお前らが羨ましいよ」
そんなことを言われたって、羨ましいのは僕のほうだ……。
「……僕の滑りを見ただろ……?」
僕のつぶやきに沈黙が時を奪う。恐らく珍しく真剣に考え込んでいたであろう千晶が口を開いた。
「……初めて会ったとき……そう、お前が初めてエアを飛んだとき。あのとき飛んだ浮遊感、覚えているか?」
「え?!」
「左に揺れてた振り子が、さ、右に触れだす瞬間、振り子の重りが止まる瞬間があるだろ?」
一瞬千晶が何を言い出したのか分からなかった。
「あ、うん」
「その時って『力』が『0』になった瞬間、だよな。それと同じなんだよ」
「?!」
まだ僕には千晶の言わんとすることが分からないでいた。『天才にしかわからない感覚?』なのかと思ったりした。
「初めて会ったあの時、お前はただ愉しくなって回転する意思をもっていないまま飛び出した。上に向かった慣性力と重力が均衡になったあの瞬間の浮遊感だよ」
「フワッと浮いて空中に止まった感……」
「そう、例えばもしその時に腕を回したり足を捻ったりしたら、それが新しい回転方向の推進力を生むわけさ。回転力を生み出す勢いを身体に覚えさせろ、あのときの痛い経験を生かせ、あのときの感覚を思い出せ、お前は怖がらなかった」
「……うん」
「それと、少しだけ水が残ったペットボトルに回転を掛けて放ってみろ。遠心力のイメージと着地はそれで掴め」
「分かった、ありがと千晶」
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「ペットボトルの中を移動した水が足に集まるイメージで……着地……!!」
スキー板が面でしっかりと雪上を捉えたのを、ブーツを通して足裏にしっかり伝わった。
「やったっ!! ……|千晶《ちあき》っ!」
初めて『3Dエア』と呼ばれるトリックに成功した。この『1回目』が自信に繋がる。最高にうれしい|感覚《瞬間》……これを忘れないうちにもう1回、飛んでおきたい。
* * *
『お前も飛ぶのが好きだったら、難易度の高いトリックを身に付けろよ』千晶は簡単にそんなことを言っていたけど、3Dエアがそんなに甘いはずであるわけない。
けれども……ついにできた! ここまで来るのは簡単ではなかった。
日々の|陸上《基礎》練習が『シーズン時の雪上練習』を支える基礎となる。しかしこの『3Dエア』は、普段通りの陸上のトレーニングだけでは習得が難しい。
飛び出した勢いの推進力を利用して縦回転するだけではダメで、駒のように垂直方向を軸に回転する横回転だけでも不可である。回転軸の感覚の習得には経験という厚みが重要ファクターといえた。
◇◆◇◆
「トランポリンだな。まずは回転して背中落ちから始めて、ウォータージャンプとかで確かめる……ま、そんなところだろ」
千晶に聞くと簡単な答えしか返ってこない。
「そんなことはもう、とっくにやってるよ。千晶は飛べるんだから、もっとコツみたいな……ところでなんで千晶は大会で3D、飛ばないの?」
本番ではなかったけど千晶が3Dエアを飛んだの見たことがあるし、先日の大会でだってフルツイストを飛んだのなら、千晶は最高難度のトリックを飛べることを意味している。
「俺は|暖空《のあ》やお前みたいにモーグルを愉しんでできないタイプなんでね。いつもギリギリストイックに臨んでないと駄目なんだよ、まったくお前らが羨ましいよ」
そんなことを言われたって、羨ましいのは僕のほうだ……。
「……僕の滑りを見ただろ……?」
僕のつぶやきに沈黙が時を奪う。恐らく珍しく真剣に考え込んでいたであろう千晶が口を開いた。
「……初めて会ったとき……そう、お前が初めてエアを飛んだとき。あのとき飛んだ浮遊感、覚えているか?」
「え?!」
「左に揺れてた振り子が、さ、右に触れだす瞬間、振り子の重りが止まる瞬間があるだろ?」
一瞬千晶が何を言い出したのか分からなかった。
「あ、うん」
「その時って『力』が『0』になった瞬間、だよな。それと同じなんだよ」
「?!」
まだ僕には千晶の言わんとすることが分からないでいた。『天才にしかわからない感覚?』なのかと思ったりした。
「初めて会ったあの時、お前はただ愉しくなって回転する意思をもっていないまま|飛び出した《・・・・・》。|上《空》に向かった慣性力と重力が|均衡《『0』》になったあの瞬間の浮遊感だよ」
「フワッと浮いて空中に止まった感……」
「そう、例えばもしその時に腕を回したり足を捻ったりしたら、それが新しい回転方向の推進力を生むわけさ。回転力を生み出す|勢い《力点》を身体に覚えさせろ、あのときの痛い経験を生かせ、あのときの感覚を思い出せ、お前は怖がらなかった」
「……うん」
「それと、少しだけ水が残ったペットボトルに回転を掛けて放ってみろ。遠心力のイメージと着地はそれで掴め」
「分かった、ありがと千晶」