(はぁ~……やっぱり追い出されるのか……)
ホームレス初日を温かい布団で寝られたことに感謝しよう、そう思うしかなかった。追い出される前にシャワーだけでも浴びればよかった、そんな未練がましいことを思いながら玄関を出る。
後ろで瑞稀が扉を閉めた。
前を行く一颯が玄関前に止めてある車のドアの前で立ち止まる。一颯がそのドアを手にする前に、最後列に居たはずの瑞稀が慌てず素早くそのドアを開く。
音色はその車を見送ることにした。メイドのように『いってらっしゃいませ』と一泊の恩の感謝を込めて……。
しかし一颯が乗り込んでも瑞稀はそのドアを閉めない。
下を向いたままの音色と目が合わない瑞稀は、『春原様、どうぞ』と車の中へと促す。
その声にハッと顔を上げると、瑞稀がにっこりビジネススマイルで微笑む。戸惑いながらも車へと近づくと、『早く乗れ』とばかりに中から手を引かれる。
「我々の言うことに従うのなら、悪いようにはしないよ」
社長がそう言って音色が車の中へと吸い込まれたのなら、瑞稀はドアを閉め、運転席に乗り込む。
『出発致します』とバスの運転手が乗客に告げるように、返答を求めない確認作業を終えると車は動き出す。
時より風は強く吹くが、快晴の空模様であった。