「ま、そう言うことだ。ところで俺たちはそろそろ行かなければならないが、君はどうする?」
「あ、いえ、わ、私? 私は……」
「どこかまでお送りいたしましょうか?」
「あ、あの……もう少しここに居たら……ダメ? ですか……?」
モジモジと小さな声で呟いてみる。『ダメって言うだろうな』……頭では分かっている。再び窓からの風が大きくカーテンを揺らし、部屋の中に溜まり込んだ重たい空気を一掃する。
「なんだ行くところがないのか?」
ズバリ、言い当てられる。さっきとは違う種類の恥ずかしさがこみ上げてくる。
「…………、…………」
「ははは、そっかそっか……でも俺たちは君のことを何も知らない、そんな人に自宅の留守を任せられるほど、俺は善人ではない」
「そう、ですよね……」
「社長……」
そう言うと瑞稀が一颯に耳打ちする。
「そうか……うーん……ま、でもおもしろそうだな。よし、いいだろ、任せる。堅実な瑞稀がそんなことを言うのも珍しいしな」
「ありがとうございます」
「んじゃあまぁ、行きますか」
「はい……では……」
『はい』は社長に、『では』は音色に向けられた言葉だった。瑞稀は音色の目の前に手を差し伸べていた。音色は瑞稀の手を取って立ち上がった。