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第9話 安心の終焉

ー/ー



 クロナのサバイバル生活が始まった。
 しかし、貴族令嬢で聖女であるクロナにとって、すべてが初めての経験だった。
 ブラナからもらった食料は一週間分。小分けにして控えめに食べていったとしても、せいぜい倍が限界だろう。
 これまで聖女となるべくして覚えた魔法で、どうにか食料を確保して生きていかねばならない。クロナには不安が付きまとう。

 洞窟から外に出たいが、結界に閉じ込められており、外に出ることはできない。
 だが、逆に外からも侵入できないようになっており、近くまでやってきた魔物も結界に弾かれてやむなく退散していた。
 ひとまずは外界と遮断された安全地帯にいるということであろう。それがいつまでもつかも分からないだけに、クロナには早急な対策が求められていた。

 具体的な対策も立てられないまま、洞窟の中で既に三日が経過していた。
 クロナは外の様子が気になって、洞窟の入口までやって来る。
 外に出ようとするものの、相変わらず結界に阻まれて外に出られない。それでも、外の景色を見ることはできた。
 洞窟の外は森に囲まれており、外の雨は上がって日が照っているだろうと思われるのにかなり暗く感じられた。
 外に出られないことに加え、どこか分からない森の中ということに、クロナは思わず愕然としてしまう。神から地図をもらったとはいえ、これでは方向が分からない。脱出した後の移動先すら決められるような状況になかったのだ。

(私は、これからどうしたらよいのでしょうか……)

 クロナは洞窟の中から外を見ながら、胸が苦しくなってくる。
 だが、いつまでも落ち込んではいられなかった。

(はっ、誰かきます!)

 誰かがやって来る気配を感じ、洞窟の岩場の陰に慌てて身を隠す。

「どうだ、いたか?」

「いや、見当たらない」

 どうやらイクセン王国の兵士のようだ。遠めではあるものの、ちらりと見た感じの鎧兜でクロナは判別できたようだ。
 クロナの行動範囲は少なかったが、それでも王国の兵士を見ることはあった。その時のことをよく覚えているのである。
 本来であれば、彼らを見つければ安心するところだ。ところが、今のクロナにとって、彼らはただ警戒すべき相手なのである。
 なぜなら、神に助けてもらう直前に自分に暴力を振るってきた相手だからである。手加減なしにお腹を殴られたこともあって、クロナは思わずお腹を擦ってしまう。

「まったく、一度つかまえたはずだったんだ」

「だったら、なぜいないんだ」

「知るか! つかんだ手の中から光に包まれるようにして消えたんだからな。目の前で見た俺自身が一番信じられねえよ」

 二人の大きな声での会話で、話をしている片割れが、自分のお腹を殴ってきた兵士だということを知る。

(あの人が……。とても痛かったですよ)

 クロナの気持ちがじんわりと怒りに支配される始める。
 その時だった。

「きゃっ!」

 バチンという音がして、クロナに痛みが走る。

「誰だ!」

 その時に漏れた声で、兵士たちに声が届いてしまった。
 雨の中なら聞こえなかったかもしれないが、よりにもよって今は雨が上がっている。その声は兵士にしっかりと拾われてしまったのである。

(気付かれてしまいました。奥に逃げませんと……)

 兵士の反応に気が付いたクロナは、洞窟の奥へと走っていく。
 ただ怖くて、一心不乱にただ走り続けた。

 その頃、兵士たちは声のした方へと歩み寄っていた。

「洞窟?」

「こんなところにあったか?」

「いや、知らねえな」

 どうやら、兵士たちは初めて見た洞窟らしい。

「声は、こっちの方から聞こえたってことは、おそらく中ってことか」

「分からねえが、ちょっと入ってみるか?」

「だな。確認してから上に報告しよう」

 兵士たちはこくりと頷いて、洞窟の中へと入ろうとする。

 バチンッ!

 ところが、兵士たちも見えない障壁に弾かれていた。

「あでぇっ!」

「おいおい、何をやって……、うべらっ!」

 一人目のことを呆れたように見ていた二人目の兵士は、なんということだろうか、強く弾き飛ばされていた。強く腰を打って、とても痛そうにしている。

「これは、結界か?」

 顔面をぶつけるだけで済んだ兵士が、洞窟の中へと手を入れようとしているが、なぜか入口から中へと押し込むことはできなかった。

「いででで……。こいつは殿下に報告しなきゃいけねえな」

「だな。捜索隊の指揮を執っておられるのはバタフィー殿下だ。怪しい場所を見つけたと、すぐに報告に行かねば」

「それじゃ、俺が報告に行くから、お前は見張ってろ」

「はあ? なんでだよ。俺が行くからお前が見張ってろよ」

 どっちが報告に行くべきかで兵士たちが揉めだす。どうやら、二人揃ってこの不気味な場所に居続けたくないようだ。
 だが、見張りをつけていないと何が起きるか分からないので、どちらかが残らなければならない。
 結局、グーとパーのじゃんけんでバタフィー王子へと報告に行く兵士が決めることになった。
 その結果、大きく弾き飛ばされた兵士が報告に向かうことになったのだった。

「は、早く戻ってきてくれよ? こんな得体の知れない洞窟、俺は見張ってるのは嫌だからな」

「分かったよ。できるだけ早く帰ってくるから、待ってろよ」

 報告役になった兵士はそそくさと捜索隊の本陣へと向けて走っていく。

 予想以上に早く見つかってしまったクロナの隠れる洞窟。
 邪神による執着は、クロナを簡単には逃してくれないようである。


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 クロナのサバイバル生活が始まった。
 しかし、貴族令嬢で聖女であるクロナにとって、すべてが初めての経験だった。
 ブラナからもらった食料は一週間分。小分けにして控えめに食べていったとしても、せいぜい倍が限界だろう。
 これまで聖女となるべくして覚えた魔法で、どうにか食料を確保して生きていかねばならない。クロナには不安が付きまとう。
 洞窟から外に出たいが、結界に閉じ込められており、外に出ることはできない。
 だが、逆に外からも侵入できないようになっており、近くまでやってきた魔物も結界に弾かれてやむなく退散していた。
 ひとまずは外界と遮断された安全地帯にいるということであろう。それがいつまでもつかも分からないだけに、クロナには早急な対策が求められていた。
 具体的な対策も立てられないまま、洞窟の中で既に三日が経過していた。
 クロナは外の様子が気になって、洞窟の入口までやって来る。
 外に出ようとするものの、相変わらず結界に阻まれて外に出られない。それでも、外の景色を見ることはできた。
 洞窟の外は森に囲まれており、外の雨は上がって日が照っているだろうと思われるのにかなり暗く感じられた。
 外に出られないことに加え、どこか分からない森の中ということに、クロナは思わず愕然としてしまう。神から地図をもらったとはいえ、これでは方向が分からない。脱出した後の移動先すら決められるような状況になかったのだ。
(私は、これからどうしたらよいのでしょうか……)
 クロナは洞窟の中から外を見ながら、胸が苦しくなってくる。
 だが、いつまでも落ち込んではいられなかった。
(はっ、誰かきます!)
 誰かがやって来る気配を感じ、洞窟の岩場の陰に慌てて身を隠す。
「どうだ、いたか?」
「いや、見当たらない」
 どうやらイクセン王国の兵士のようだ。遠めではあるものの、ちらりと見た感じの鎧兜でクロナは判別できたようだ。
 クロナの行動範囲は少なかったが、それでも王国の兵士を見ることはあった。その時のことをよく覚えているのである。
 本来であれば、彼らを見つければ安心するところだ。ところが、今のクロナにとって、彼らはただ警戒すべき相手なのである。
 なぜなら、神に助けてもらう直前に自分に暴力を振るってきた相手だからである。手加減なしにお腹を殴られたこともあって、クロナは思わずお腹を擦ってしまう。
「まったく、一度つかまえたはずだったんだ」
「だったら、なぜいないんだ」
「知るか! つかんだ手の中から光に包まれるようにして消えたんだからな。目の前で見た俺自身が一番信じられねえよ」
 二人の大きな声での会話で、話をしている片割れが、自分のお腹を殴ってきた兵士だということを知る。
(あの人が……。とても痛かったですよ)
 クロナの気持ちがじんわりと怒りに支配される始める。
 その時だった。
「きゃっ!」
 バチンという音がして、クロナに痛みが走る。
「誰だ!」
 その時に漏れた声で、兵士たちに声が届いてしまった。
 雨の中なら聞こえなかったかもしれないが、よりにもよって今は雨が上がっている。その声は兵士にしっかりと拾われてしまったのである。
(気付かれてしまいました。奥に逃げませんと……)
 兵士の反応に気が付いたクロナは、洞窟の奥へと走っていく。
 ただ怖くて、一心不乱にただ走り続けた。
 その頃、兵士たちは声のした方へと歩み寄っていた。
「洞窟?」
「こんなところにあったか?」
「いや、知らねえな」
 どうやら、兵士たちは初めて見た洞窟らしい。
「声は、こっちの方から聞こえたってことは、おそらく中ってことか」
「分からねえが、ちょっと入ってみるか?」
「だな。確認してから上に報告しよう」
 兵士たちはこくりと頷いて、洞窟の中へと入ろうとする。
 バチンッ!
 ところが、兵士たちも見えない障壁に弾かれていた。
「あでぇっ!」
「おいおい、何をやって……、うべらっ!」
 一人目のことを呆れたように見ていた二人目の兵士は、なんということだろうか、強く弾き飛ばされていた。強く腰を打って、とても痛そうにしている。
「これは、結界か?」
 顔面をぶつけるだけで済んだ兵士が、洞窟の中へと手を入れようとしているが、なぜか入口から中へと押し込むことはできなかった。
「いででで……。こいつは殿下に報告しなきゃいけねえな」
「だな。捜索隊の指揮を執っておられるのはバタフィー殿下だ。怪しい場所を見つけたと、すぐに報告に行かねば」
「それじゃ、俺が報告に行くから、お前は見張ってろ」
「はあ? なんでだよ。俺が行くからお前が見張ってろよ」
 どっちが報告に行くべきかで兵士たちが揉めだす。どうやら、二人揃ってこの不気味な場所に居続けたくないようだ。
 だが、見張りをつけていないと何が起きるか分からないので、どちらかが残らなければならない。
 結局、グーとパーのじゃんけんでバタフィー王子へと報告に行く兵士が決めることになった。
 その結果、大きく弾き飛ばされた兵士が報告に向かうことになったのだった。
「は、早く戻ってきてくれよ? こんな得体の知れない洞窟、俺は見張ってるのは嫌だからな」
「分かったよ。できるだけ早く帰ってくるから、待ってろよ」
 報告役になった兵士はそそくさと捜索隊の本陣へと向けて走っていく。
 予想以上に早く見つかってしまったクロナの隠れる洞窟。
 邪神による執着は、クロナを簡単には逃してくれないようである。