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第8話 暗闇の始まり

ー/ー



 神と話を終えたクロナは、どことも分からない場所に立っていた。
 ほんのりと淡く光るからだが、神の加護を受けていることを示している。

「ここはどこなのでしょうか……」

 どことも分からぬ場所に放り出され、不安に表情が曇るクロナは、周りをしっかりと確認する。
 周囲がごつごつとした感じであるので、どうやらどこかの洞窟の中にいるということは分かったようだ。
 そのことを確認したクロナは、ゆっくりと洞窟の中を歩き始める。自分のいる場所を正確に把握するためだ。
 ゆっくりと歩き始めたクロナは、進んだ先が少し明るくなっていることを確認する。なんだろうと走っていくと、そこは洞窟の出口のようだった。

「本当にどこなのですか、ここは……」

 洞窟の外は森が広がっており、いまだに雨が降り続いている。
 先程、兵士につかまりかけた時から、どのくらい経っているのだろうか。クロナはいろいろと疑問が湧いてくる。
 そのまま洞窟の外へと出ようかとしたクロナだったが、洞窟の出口に差し掛かった時、バチンと何かに弾かれるような感触を受けた。

「痛っ」

 弾かれた手を擦りながら、クロナは困惑した様子を見せている。

「外に出てはダメということでしょうか……」

 手を擦りながら、クロナは仕方なく洞窟の中へと引き返していく。

 洞窟の中のちょっと広くなった場所にやってきたクロナは、いろいろとあったせいで疲れたらしく、その場に座り込んでしまった。
 ドレス姿ではあるものの、いちいち汚れるとか気にしていられない。

 ぐぅ~……。

 座り込んだ瞬間、クロナのお腹が鳴り響く。
 お腹を押さえながら、クロナはちょっとだけ恥ずかしそうにする。
 よく思えば、ここまでの間、ろくに食べられずに逃げてばかりだった。今はようやく落ち着いていられる状態にあるので、クロナはブラナから譲ってもらったかばんを取り出してふたを開く。
 一週間分の食事が入っているということで中身を探っていると、何かに手が当たったようだ。

(なんでしょうか、今のは……)

 なんとも不自然な感触だったので、クロナはかばんの中から何かをつかんで引っ張り出す。
 かばんから出てきたのは、大きな紙のようだった。しかも複数出てきた。
 なんだろうかと思って、出てきたものを確認する。

「これは地図のようですね」

 確認してみたところ、クロナの住んでいるイクセン王国の地図のようだった。それと一緒に手紙が入っていたので、クロナはそちらにも目を通す。

『聖女よ、時間がなかったので説明できなかったことを手紙に記す』

 どうやら神からの伝言のようだ。

『緊急事態のために私のところに呼び寄せたが、邪神のせいで魔族化されてしまっていたので、時間が短くなってしまっていたようじゃ』

 神からすれば、もっとゆっくり説明したかったようだ。
 しかし、邪神による浸食のせいで、本来の制限時間よりもかなり早い段階で反発が起きてしまったのだという。

『いろいろと解析してみた結果じゃが、わしがクロナの運命を戻すまでには三年かかるというの話した通りじゃ。
 しかし、それ以外にもいろんなことが分かった。落ち着いて聞いてほしい』

 クロナは神の手紙を読みながら、ごくりと息をのむ。

『邪神のやつは、頭に生えた角にいろいろな呪いを刻み込んでおった。
 その一つが、好感度の反転だ。
 相手がクロナのことを思っていればいるほど、強い憎悪を抱くようになっている。
 そもそも聖女として国民から好かれているクロナにとっては、国中のすべてから憎悪を向けられる状態になっているということだ。なんという恐ろしいことをしてくれたものじゃ』

 この部分を読んで、クロナは自分の家族から受けた仕打ちについて理解をした。つまり、自分を大切に思っている家族だからこそ、あれだけ冷酷になれたというわけなのだ。

「お父様、お母様、お兄様、ブラナ……」

 泣きそうになりながら、家族たちのことを思い出すクロナ。
 だが、手紙はまだ終わっていない。クロナは涙を堪えながら続きを読む。

『元に戻す条件だが、どうやらクロナは命を狙う連中を誰一人として殺してはいけないらしい。聖女であるがために刻まれた制約というものを、あやつは利用してきたようだ。
 つまり、クロナ自身が誰も殺さずに、三年を耐え抜かねばならぬということだ』

「命を狙われているというのに、相手を殺してはならないということですか。そんな……」

 クロナの顔が歪む。

『だが、安心するといい。三年後、やつの呪縛を解き放った際には、すべてが元通りになるようにしてみせる。神の底力というものを見せつけてやろう。
 時間稼ぎにしかならぬが、わしが飛ばした洞窟にいればしばらく身の安全は確保される。
 なんとしても生き延びておくれ、クロナよ』

 神の手紙はそこで途切れていた。

(ありがとうございます、神様。私、必ず生き延びてみせますから)

 手紙を握りしめ、クロナはしばらくの間、祈りを捧げ続けた。
 気持ちを落ち着けたクロナだったが、これからの生活にはまだまだ不安がある。
 なにせ食料はブラナが渡してくれた一週間分しかない。三年間耐え抜くには、外に出て食料をなんとか確保しなければならないのだ。
 十歳という幼いクロナにとっては、厳しい状況である。
 はたして、クロナはこの過酷な環境を生き抜くことができるのだろうか。

 聖女のサバイバル生活が始まりを告げる。


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次のエピソードへ進む 第9話 安心の終焉


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 神と話を終えたクロナは、どことも分からない場所に立っていた。
 ほんのりと淡く光るからだが、神の加護を受けていることを示している。
「ここはどこなのでしょうか……」
 どことも分からぬ場所に放り出され、不安に表情が曇るクロナは、周りをしっかりと確認する。
 周囲がごつごつとした感じであるので、どうやらどこかの洞窟の中にいるということは分かったようだ。
 そのことを確認したクロナは、ゆっくりと洞窟の中を歩き始める。自分のいる場所を正確に把握するためだ。
 ゆっくりと歩き始めたクロナは、進んだ先が少し明るくなっていることを確認する。なんだろうと走っていくと、そこは洞窟の出口のようだった。
「本当にどこなのですか、ここは……」
 洞窟の外は森が広がっており、いまだに雨が降り続いている。
 先程、兵士につかまりかけた時から、どのくらい経っているのだろうか。クロナはいろいろと疑問が湧いてくる。
 そのまま洞窟の外へと出ようかとしたクロナだったが、洞窟の出口に差し掛かった時、バチンと何かに弾かれるような感触を受けた。
「痛っ」
 弾かれた手を擦りながら、クロナは困惑した様子を見せている。
「外に出てはダメということでしょうか……」
 手を擦りながら、クロナは仕方なく洞窟の中へと引き返していく。
 洞窟の中のちょっと広くなった場所にやってきたクロナは、いろいろとあったせいで疲れたらしく、その場に座り込んでしまった。
 ドレス姿ではあるものの、いちいち汚れるとか気にしていられない。
 ぐぅ~……。
 座り込んだ瞬間、クロナのお腹が鳴り響く。
 お腹を押さえながら、クロナはちょっとだけ恥ずかしそうにする。
 よく思えば、ここまでの間、ろくに食べられずに逃げてばかりだった。今はようやく落ち着いていられる状態にあるので、クロナはブラナから譲ってもらったかばんを取り出してふたを開く。
 一週間分の食事が入っているということで中身を探っていると、何かに手が当たったようだ。
(なんでしょうか、今のは……)
 なんとも不自然な感触だったので、クロナはかばんの中から何かをつかんで引っ張り出す。
 かばんから出てきたのは、大きな紙のようだった。しかも複数出てきた。
 なんだろうかと思って、出てきたものを確認する。
「これは地図のようですね」
 確認してみたところ、クロナの住んでいるイクセン王国の地図のようだった。それと一緒に手紙が入っていたので、クロナはそちらにも目を通す。
『聖女よ、時間がなかったので説明できなかったことを手紙に記す』
 どうやら神からの伝言のようだ。
『緊急事態のために私のところに呼び寄せたが、邪神のせいで魔族化されてしまっていたので、時間が短くなってしまっていたようじゃ』
 神からすれば、もっとゆっくり説明したかったようだ。
 しかし、邪神による浸食のせいで、本来の制限時間よりもかなり早い段階で反発が起きてしまったのだという。
『いろいろと解析してみた結果じゃが、わしがクロナの運命を戻すまでには三年かかるというの話した通りじゃ。
 しかし、それ以外にもいろんなことが分かった。落ち着いて聞いてほしい』
 クロナは神の手紙を読みながら、ごくりと息をのむ。
『邪神のやつは、頭に生えた角にいろいろな呪いを刻み込んでおった。
 その一つが、好感度の反転だ。
 相手がクロナのことを思っていればいるほど、強い憎悪を抱くようになっている。
 そもそも聖女として国民から好かれているクロナにとっては、国中のすべてから憎悪を向けられる状態になっているということだ。なんという恐ろしいことをしてくれたものじゃ』
 この部分を読んで、クロナは自分の家族から受けた仕打ちについて理解をした。つまり、自分を大切に思っている家族だからこそ、あれだけ冷酷になれたというわけなのだ。
「お父様、お母様、お兄様、ブラナ……」
 泣きそうになりながら、家族たちのことを思い出すクロナ。
 だが、手紙はまだ終わっていない。クロナは涙を堪えながら続きを読む。
『元に戻す条件だが、どうやらクロナは命を狙う連中を誰一人として殺してはいけないらしい。聖女であるがために刻まれた制約というものを、あやつは利用してきたようだ。
 つまり、クロナ自身が誰も殺さずに、三年を耐え抜かねばならぬということだ』
「命を狙われているというのに、相手を殺してはならないということですか。そんな……」
 クロナの顔が歪む。
『だが、安心するといい。三年後、やつの呪縛を解き放った際には、すべてが元通りになるようにしてみせる。神の底力というものを見せつけてやろう。
 時間稼ぎにしかならぬが、わしが飛ばした洞窟にいればしばらく身の安全は確保される。
 なんとしても生き延びておくれ、クロナよ』
 神の手紙はそこで途切れていた。
(ありがとうございます、神様。私、必ず生き延びてみせますから)
 手紙を握りしめ、クロナはしばらくの間、祈りを捧げ続けた。
 気持ちを落ち着けたクロナだったが、これからの生活にはまだまだ不安がある。
 なにせ食料はブラナが渡してくれた一週間分しかない。三年間耐え抜くには、外に出て食料をなんとか確保しなければならないのだ。
 十歳という幼いクロナにとっては、厳しい状況である。
 はたして、クロナはこの過酷な環境を生き抜くことができるのだろうか。
 聖女のサバイバル生活が始まりを告げる。