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第6話 迫りくる恐怖

ー/ー



 命からがら村を脱出したクロナは、森の中へと逃げ込んでいた。
 木々が多く生えており、背の小さなクロナならば身を隠すには最適だろう。
 幸い、まだ雨が降り続いており、視界もかなり悪い。
 ただ、着ていた服はぬかるんだ地面のせいで泥まみれである。
 子爵令嬢であり、聖女でもあるクロナにとって、これほどまでに全身が汚れたことはまったくの未経験である。
 それでも、今のクロナにはそんなことを気にしていられる状況ではなかった。
 ここで思い出すのは、自分にかばんを渡してきた時のブラナの言葉である。

『角を目標にして、強い害をなそうとするでしょう』

 頭に生えている二本の長い黒い角。これがある限り、クロナはいろんな人から危害を加えられるということなのである。
 雨に打たれながら、恐怖に体を抱え込んで小さくなる。
 成長が遅れて小さな体のクロナだが、それがさらに小さくなってしまう。

(私、これからどうなってしまうのでしょう。ブラナの言う通りでしたら、王国中のみなさんが、私を殺しにやって来るということですよね)

 膝を抱える手に、力が入る。

(お父様、お母様、お兄様、ブラナ……。私は、一体これからどうすればいいというのでしょうか)

 クロナは泣きそうな表情をして、ただじっとし続けていた。

 ところが、クロナの休まる時は長く続かなかった。

「グルルルル……」

 獣の唸り声が聞こえてくる。
 あまりにも突然だったので、クロナの体がびくりと跳ねる。

(そういえば聞いたことがあります。街道の付近は騎士たちによって安全が確保されていますが、森の中などには魔物と呼ばれる危険な存在がいると……)

 泣きそうになっていたクロナだったが、恐怖のあまりに涙が引っ込んでしまった。

(ブラナと約束したんですもの。私は、絶対に生き延びてみせます)

 表情を引き締め、辺りを警戒するクロナ。
 しかし、聖女という立場ゆえか、攻撃的な魔法は何一つとして持ち得ていない。
 どうしたら身を守れるのか。クロナはブラナから渡されたかばんの中を探る。
 かばんの中には、なんと短剣が仕込まれていた。心配のあまり、護身用として忍ばせてくれたのだろう。

(ブラナ……)

 クロナはぎゅっと短剣を握りしめる。

「ホーリーシールド!」

 クロナは防御魔法を展開する。村人の魔の手から逃れた時に使った魔法である。
 相手の侵入を防ぎ、邪な心を持ち合わせていると大きく弾き飛ばすという魔法である。身を守る手段として、最近覚えたばかりの魔法だ。

「ガアッ!」

 飛び出してきたのはウルフだ。雨のせいでよく見えないものの、普通の犬よりも牙などが長く伸びているのが特徴だ。
 前足から伸ばして爪で、クロナへと襲い掛かる。
 ところが、クロナの防御魔法の前には、そんな鋭い爪も意味がない。

「ギャウン!」

 弾き返されてしまい、くるくると宙を舞う。
 クロナは攻撃を受け付けないが、クロナにの手に持った短剣では、攻める手を欠いてしまっている。
 どうしたらいいのだろうか。クロナは真剣に悩んでしまう。

 その時だった。

「いたか?」

「いや、見つからない」

「聖女様に化けていたとは、魔族の小娘め、よくもやってくれたな」

「見つけ次第、死なない程度に痛めつけてやるぞ」

「おおっ!」

 男性の声が聞こえてくる。
 だが、話している内容からして、クロナを助けに来たようではない。むしろ逆のようだった。

(どうしよう、見つかったら殺されてしまいます)

 怯えるクロナだったが、目の前のウルフたちを見ていいことを思いついたようだ。

(そうよ、このワンちゃんたちを擦り付けてしまえばいいのね)

 危機的状況を利用して、自分を探しに来た連中にウルフをぶつけてしまおうと考えたのである。
 聖女らしくない考え方ではあるが、状況ゆえに仕方がない。こんな状況だからといっても、クロナは死にたくないのだ。
 短剣を構え、ウルフたちに向き合うクロナは、何を思ったのかウルフたちへと向かっていく。

「たああっ!」

 向かってくるクロナに対して、ウルフたちも攻勢に出る。
 ウルフが向かってくると、クロナはぴたりと立ち止まり、何を思ったかその場で寝そべってしまった。
 そうなると、ウルフたちは上空から襲い掛かるしかなく、一斉にクロナに飛び掛かる。

「えーいっ!」

 防御魔法を展開して、ウルフたちを一斉に声の聞こえてきた方向に跳ね飛ばしている。
 とっさなことではあるが、こんなことを思いつくとはなかなかなものである。

「なんだ、何か音がしたぞ」

「ちっ、ウルフかよ」

「いや待て、このウルフたち、俺たちのことを見てないぞ」

「向こうに何かあるのか? おい、探してこい」

「はっ!」

 ところが、ウルフを跳ね飛ばしたのはいいが、ウルフたちの行動があからさまにおかしく、逆に自分の方へと引き付けてしまったようだ。
 予想外な展開に、クロナは動けなくなってしまう。

「はははっ、こんなところにいたのか。魔族め」

 あっさりと見つかってしまい、頭の角をつかまれて持ち上げられてしまう。

「あ、痛っ!」

 角はしっかりと自分の頭から生えており、引っ張られたことで痛みを感じしてしまっている。
 改めて、クロナは自分の頭に角が生えていることを自覚させられてしまう。

「さあ、異端審問のために、王都に戻りましょうね、聖女もどき」

「いやああ、放してっ!」

「暴れないでください、よっ!」

「おぶっ!」

 クロナをつかまえた男は、お腹に強烈な一撃を加えてきた。
 かつて聖女となるべくして勉強してきたというのに、あまりの現実にクロナの顔が苦痛に歪んでいる。

「はははっ、いいですね、その顔。そそりますよ」

「いや、助け……て……」

 クロナがそう願った時だった。

「うわっ、なんだ?!」

 急激にクロナの体が光り出す。
 光が弾けたかと思うと、男につかまれていたはずのクロナの姿は、どこにもなかったのだった。


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次のエピソードへ進む 第7話 侵食された聖女


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 命からがら村を脱出したクロナは、森の中へと逃げ込んでいた。
 木々が多く生えており、背の小さなクロナならば身を隠すには最適だろう。
 幸い、まだ雨が降り続いており、視界もかなり悪い。
 ただ、着ていた服はぬかるんだ地面のせいで泥まみれである。
 子爵令嬢であり、聖女でもあるクロナにとって、これほどまでに全身が汚れたことはまったくの未経験である。
 それでも、今のクロナにはそんなことを気にしていられる状況ではなかった。
 ここで思い出すのは、自分にかばんを渡してきた時のブラナの言葉である。
『角を目標にして、強い害をなそうとするでしょう』
 頭に生えている二本の長い黒い角。これがある限り、クロナはいろんな人から危害を加えられるということなのである。
 雨に打たれながら、恐怖に体を抱え込んで小さくなる。
 成長が遅れて小さな体のクロナだが、それがさらに小さくなってしまう。
(私、これからどうなってしまうのでしょう。ブラナの言う通りでしたら、王国中のみなさんが、私を殺しにやって来るということですよね)
 膝を抱える手に、力が入る。
(お父様、お母様、お兄様、ブラナ……。私は、一体これからどうすればいいというのでしょうか)
 クロナは泣きそうな表情をして、ただじっとし続けていた。
 ところが、クロナの休まる時は長く続かなかった。
「グルルルル……」
 獣の唸り声が聞こえてくる。
 あまりにも突然だったので、クロナの体がびくりと跳ねる。
(そういえば聞いたことがあります。街道の付近は騎士たちによって安全が確保されていますが、森の中などには魔物と呼ばれる危険な存在がいると……)
 泣きそうになっていたクロナだったが、恐怖のあまりに涙が引っ込んでしまった。
(ブラナと約束したんですもの。私は、絶対に生き延びてみせます)
 表情を引き締め、辺りを警戒するクロナ。
 しかし、聖女という立場ゆえか、攻撃的な魔法は何一つとして持ち得ていない。
 どうしたら身を守れるのか。クロナはブラナから渡されたかばんの中を探る。
 かばんの中には、なんと短剣が仕込まれていた。心配のあまり、護身用として忍ばせてくれたのだろう。
(ブラナ……)
 クロナはぎゅっと短剣を握りしめる。
「ホーリーシールド!」
 クロナは防御魔法を展開する。村人の魔の手から逃れた時に使った魔法である。
 相手の侵入を防ぎ、邪な心を持ち合わせていると大きく弾き飛ばすという魔法である。身を守る手段として、最近覚えたばかりの魔法だ。
「ガアッ!」
 飛び出してきたのはウルフだ。雨のせいでよく見えないものの、普通の犬よりも牙などが長く伸びているのが特徴だ。
 前足から伸ばして爪で、クロナへと襲い掛かる。
 ところが、クロナの防御魔法の前には、そんな鋭い爪も意味がない。
「ギャウン!」
 弾き返されてしまい、くるくると宙を舞う。
 クロナは攻撃を受け付けないが、クロナにの手に持った短剣では、攻める手を欠いてしまっている。
 どうしたらいいのだろうか。クロナは真剣に悩んでしまう。
 その時だった。
「いたか?」
「いや、見つからない」
「聖女様に化けていたとは、魔族の小娘め、よくもやってくれたな」
「見つけ次第、死なない程度に痛めつけてやるぞ」
「おおっ!」
 男性の声が聞こえてくる。
 だが、話している内容からして、クロナを助けに来たようではない。むしろ逆のようだった。
(どうしよう、見つかったら殺されてしまいます)
 怯えるクロナだったが、目の前のウルフたちを見ていいことを思いついたようだ。
(そうよ、このワンちゃんたちを擦り付けてしまえばいいのね)
 危機的状況を利用して、自分を探しに来た連中にウルフをぶつけてしまおうと考えたのである。
 聖女らしくない考え方ではあるが、状況ゆえに仕方がない。こんな状況だからといっても、クロナは死にたくないのだ。
 短剣を構え、ウルフたちに向き合うクロナは、何を思ったのかウルフたちへと向かっていく。
「たああっ!」
 向かってくるクロナに対して、ウルフたちも攻勢に出る。
 ウルフが向かってくると、クロナはぴたりと立ち止まり、何を思ったかその場で寝そべってしまった。
 そうなると、ウルフたちは上空から襲い掛かるしかなく、一斉にクロナに飛び掛かる。
「えーいっ!」
 防御魔法を展開して、ウルフたちを一斉に声の聞こえてきた方向に跳ね飛ばしている。
 とっさなことではあるが、こんなことを思いつくとはなかなかなものである。
「なんだ、何か音がしたぞ」
「ちっ、ウルフかよ」
「いや待て、このウルフたち、俺たちのことを見てないぞ」
「向こうに何かあるのか? おい、探してこい」
「はっ!」
 ところが、ウルフを跳ね飛ばしたのはいいが、ウルフたちの行動があからさまにおかしく、逆に自分の方へと引き付けてしまったようだ。
 予想外な展開に、クロナは動けなくなってしまう。
「はははっ、こんなところにいたのか。魔族め」
 あっさりと見つかってしまい、頭の角をつかまれて持ち上げられてしまう。
「あ、痛っ!」
 角はしっかりと自分の頭から生えており、引っ張られたことで痛みを感じしてしまっている。
 改めて、クロナは自分の頭に角が生えていることを自覚させられてしまう。
「さあ、異端審問のために、王都に戻りましょうね、聖女もどき」
「いやああ、放してっ!」
「暴れないでください、よっ!」
「おぶっ!」
 クロナをつかまえた男は、お腹に強烈な一撃を加えてきた。
 かつて聖女となるべくして勉強してきたというのに、あまりの現実にクロナの顔が苦痛に歪んでいる。
「はははっ、いいですね、その顔。そそりますよ」
「いや、助け……て……」
 クロナがそう願った時だった。
「うわっ、なんだ?!」
 急激にクロナの体が光り出す。
 光が弾けたかと思うと、男につかまれていたはずのクロナの姿は、どこにもなかったのだった。