百喰が戦った回想内の敵よりも、圧倒的に人数は多い。あちらが四十人ほどだとしたら、八十人ほどの構成員が、二人を襲っていたのだ。しかし、質はあちらの方が上。百喰を全力で殺しにかかっていたからこそ、ガレスの因子すら持ちだして完全特攻をかけていたのだから。
しかし、待ち伏せしていたのは善吉ではなく、
流浪の獣構成員の数々。しかも、それぞれが特別な武装をしている訳でもないために、一人の漢の生きざまから学んだ加賀美にとっては、手玉に取るようなものであった。さらに千尋もアタッシュケースを携えているために、今の二人にとって敵ではなかったのだ。
即座に顕現させる、片手持ち出来る小型チェーンソーと、重散弾銃である『桂馬』。互いが背中を預け合って、襲い掛かる構成員を蹴散らしていく。
とても一般人とは思えないほどに、ゴム弾入り散弾銃を巧みに扱って近くに寄らせない。何度も発砲し、リロードの際の隙が生じた際には、百喰の異聖剣を用いながらカバーに入る。
構成員たちにないものが、二人に備わっていたのだ。それが、圧倒的連携力。
まだ知り合って間もないのだが、まるでお互いの脳が直で繋がっているかのように、言葉を交わさずとも手を取り合う。その異常性が、一行を恐怖させていたのだ。
ただの一般人であるはずなのに、そこまで一つ一つの動作がプロ程優れている訳でもないのに、それぞれの欠点を補い合っているのだ。
「『何なんだ、アイツら! 総帥がおっしゃっていたが……あそこまで人を成長させるとは!!』」
「『所詮マフィアの力に溺れている程度のアンタらに、本当の強さを持っているアタシたちに敵う訳ないのよ』」
「えッ中国語喋れるんですか!?」
発砲後のリロードをしながら、軽く振り向いて不敵に笑って見せる千尋。もうそこに、未曽有の危機に恐怖していた、ただの一般人同然であった彼女はいない。
「ある程度喋れるし、理解もできる! 学生時代、第二外国語みたいな感じで学んでいたからね! アイツら、アタシらの底力に戦々恐々としているっぽいよ!!」
「――そうですか。それは、何よりです!!」
短刀による攻撃の数々をいなし、時にはチェーンソーを駆動させ力づくで折り、銃弾を肺や肝臓部分、鳩尾部分に叩き込んでいき、無力化していく二人。
しかしそんな二人を疎ましく思ったのか、複数の男が持ちだした部品が、自動で連結されていく。出来上がったのは、青龍偃月刀。それを大柄な男が奪い取り、周りの構成員などお構いなしに振り回して威嚇する。
「まるで三節棍みたいに物騒なものを……それに、正直ちょっと疲れてきちゃったよ加賀美ちゃん! いくら何でも二人の女殺しにかかるのに、大の大人、しかも男を八十人以上も動員する!?」
「それなりに脅威に思われている、とポジティブに捉えましょう! 正直私は厳密には英雄ではないので、長時間の戦闘は不向きですが!!」
青龍偃月刀の一撃が、容赦なく千尋に振り下ろされる。一撃目を何とか側転しながら回避するも、らしくもなく動いたために、その後の隙を考えていなかった。小学生以来の側転にふらつく間に、もう一撃が横薙ぎにやってくる。
そこを何とかカバーする、加賀美の一対の剣。何とか防いでいたものの、剣の持つ力を引き出せていないために、そしてそれを振るう存在が多少なり優れているものの普通の少女に近い加賀美であるために、力負けして二人とも吹き飛ばされてしまう。
何とか着地する加賀美と、受け身が取れない千尋。力負けするこの状況で、戦い続けるのもジリ貧待ったなしであった。
「――何か、策はある? 加賀美ちゃん」
「正直、そこまで優れた存在じゃあないので……突飛な策は思いつけないかもしれませんが……一個だけはあります」
加賀美の小剣……もとい、
小型チェーンソーに、雷の魔力を帯びさせていく。その中で千尋の重散弾銃を拝借し、すぐさまあるモードへ変換させる。そのモードこそ、『金将』であった。
「嘘、単純にタイマン張るわけ!?」
これまで重散弾銃であった見た目が、突如として高性能タワーシールドへと姿を変える。
「現状、ハズレ以外で性能が明らかになっていないもので……この対格差を覆すには博打を張る必要があります。ですので……私があまり言いたくはないのですが……」
「その効果を引き出すための囮になれって!? 別にいいけど!!」
「まだ結論は語っていなかったのですが……まあそういうことです!」
作戦会議をする二人をよそに、青龍偃月刀を振りかぶる男が迫る。咄嗟に防御反応として、盾を構える千尋と、その背後に隠れる加賀美。
どの道、ただの女が手にしているものだと高を括っていたのだが、千尋が目にしたものは、目を疑うような光景であったのだ。
マジックミラー方式で盾の向こう側が見られるようになっているのだが、振り下ろした盾への一撃により、青龍偃月刀が自壊したのだ。
力の伝わり方がとか、力の殺し方がとかではなく、単純に盾があまりにも強固過ぎたがために、武器をも殺したのだ。男の手すら盛大に痺れさせるほどの、盾の堅牢さであったのだ。
「今です、『桂馬』を!!」
「オッケー、多分今が好機って奴なんだろうね!!」
眼前の現実を受け止める前に、この現状を打破するべくすぐさま変換、これまでの
全自動式散弾銃から
点射式散弾銃へワンボタンでモードを変える。
鳩尾に叩き込まれるは、ゴム弾とはいえ大の大人を気絶に追い込む上で要する一撃の、優に五倍以上の
一点衝撃が襲い掛かる。プロの格闘家のストレートだなんて目じゃあない、一度に放たれる五発の衝撃は、文字通り『重』の一撃であったのだ。
一撃で
KOした二人は、すぐさま援軍がやってくるのを見て、これ以上の戦闘は疲労によって出来ないと確信した。
「――すぐに『
香車』に変える! 加賀美ちゃんは後ろに乗って!!」
「承知しました、準備はオーケーです!!」
五発分の衝撃を、手元の補助機ありとはいえ一度に受け止めたために、痺れが取れないままの千尋であったが、そんな弱音を吐いている暇はない。加賀美の手を片腕で掴み、すぐさま後ろに乗せエンジンを急速点火。あらゆる構成員を撥ね退けながら、その場を高速離脱する。
「――百喰って人の置き土産も取れて、追手もある程度減らせて……万々歳かな」
「……ええ、これは我々の勝利ですね」
二人の女が、街道を爆走しながら高らかに勝利宣言。加賀美の涙交じりの笑顔は、劣等感から来る憑き物が、ほぼ全て落ちたように晴れやかであった。