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022

ー/ー



 全くわかればわかるほど奇妙な事件だな、と雪枝は考えていた。

 今日はみなが集めた情報を持ち寄る報告会である。

 全ての情報は逐一この地下のスノウセクションルーム(情報資料室)に集積されているので、実質沙希以下の三人と雪枝・葉子、遊撃隊的な立ち位置のなりが情報と思考をすり合わせ、個々の方針を均す場と考えてよいだろう。

 今は一通りの準備は済ませ、人が集まるのを待っている時間。ふと、横にいる大江なりと尾鷹葉子の様子をうかがってみる。

 絶賛暗中模索中。

 両人とも何か言いたいがどう言ったものか、といった複雑な顔をしていた。
 自分も似たようなものだが、困ったことに前進していることは確かなのである。

 道の先に正解らしきものは見えるが、どういう道を進んでいるのかはよくわからない。道は途切れているかもしれないし、想定していたより危険かもしれない。

 ただ、手の届く部分が増え材料は集めやすくなっている。しばらくはこのままやってみようか、と雪枝は考えていた。もちろん皆に相談しなくてはならないが。

「まあ……わりと予想通りではありそうですね。ここまでは」

 雪枝が言うと、尾鷹は〝ふぇっ〟と変な声を出した。どこから出したのその声? と大江なりからツッコミが入る。

「え? 何が?」
「え……あれ? 同じ結論に達してると思ってましたが。いえ、断定は出来ないですけど……」
「ちょちょちょ、ちょっと待って! え? どこ? なに? どこの話?」

 ほんの一瞬、雪枝の鼻がはずむようにヒクヒクと動いたのを、なりは見逃さなかった。

「どうでしょうね……私の思い込みかもしれませんしね」
「いやいやいや! えー、ちょっとまてよ……。どっか見落としてんのかな……」

 葉子は難しい顔をして両方のこめかみに人差し指を当てている。

「……あんたら楽しんでるとこない?」

「そんな。ちゃんとお仕事としてやってますよ」

 雪枝はまったくもって心外という様子だが、どこまで信用できるかはわからない。

「ねえ? こんなに真面目に考えてんのに」 
「考えている、の部分は認めるけどね」

 なりは腕組みし、背後の棚に背中の一部を預けた。

「言っとくけど、あんたらが暴走し始めたら私は沙希たちにつくよ」

「暴走ってそんな……」
「なにか勘違いしてらっしゃる」

 二人ともそそくさとじゃれるのを止める。

『こいつら……』

 なりは油断しないように、ますます神経を尖らせた。

 ヨネプロの広報は他部署と連携、接触することが多い。

 それを専任としては実質一人で回していた秋夢叶を手伝うようになって、なりはスノウセクションを離れ遊撃隊のような立ち位置に変化した。

 おかしなことだが、その結果なりは六ツ院雪枝・尾鷹葉子というこれまた実質スノウの頭脳である二人と一緒にいる時間が他成員に比べ格段に多くなってしまった。

 その結果、葉子について印象はほとんど変わらないのだが、雪枝については若干の訂正を余儀なくされた。

 雪枝は普段みんなに指示を出している時、調査部として動いている時の顔のほか、もう一つ奥に眠っている性格がある。

 もちろんアイドルとしての顔とも別のものだが、なんといったらいいのか非常に子供っぽい部分を持っているのだ。

 一言でいうと多少我儘で好奇心旺盛、ということなのだが、調査部などやっていれば誰にでもこういう部分はある。

 ただ、室長という立場上普段は他の者より抑制されており表に出る時は強烈、ということだろうとなりは考えている。

 そして正直そういう時の雪枝のほうに、なりは魅力を感じていた。

 冷静でどちらかといえば控えめなオフィシャルな顔を表とすると、裏の顔は尾鷹葉子と二人の時に出やすいようである。

 一緒にいる時間が増えてきたせいで、いつの間にかなりもその枠に入れられつつあるらしい。

『……私が手綱握らなきゃってことなのかな』

なりが自分の役割の変化にぼんやりと思いを馳せている時、

「遅れましたー! すいません」
「おまた~」

 岡真銀と海原伊代が入室した。

「沙希は?」
「ちょっと遅れるみたいだよ。数凪さんと一緒に来るって」
「あの人来んの?」
 
 少し驚いたように、葉子が口を開く。

「ええ、今回は共有しておいたほうがいい情報があるかと思いまして……。別件でもちょっと」

 雪枝が思わせぶりな言葉に〝ま、そうか〟と頷き、
「よ~し、じゃあ報告会はじめましょ~、っとその前に。移動移動~!」
と、葉子は多少大袈裟に両手をパンパンと打ち合わせた。

「移動?」
「あ、そうか。数凪さん来るから……」

 スノウセクションのメンバー以外でここに入れるのは、ヨネプロ戦略的マネジメント担当部局統括部長・長尾伊都のみである。

 皆ゾロゾロといつものカラオケBOXに移動しはじめた。

 沙希にはもう連絡しており、数凪を連れて直接カラオケBOXの方へ行くそうである。海原伊代も当然おとなしく入ってきたばかりの部屋を出て行く。

 の、だが……

 どうもひっかかる。モヤモヤする。有り体にいうと気に食わない。

 雪枝と葉子がここの首脳部であり、なりは部署を横断して動いているので彼女たちとほぼ同等の情報を手にしている。

 沙希や真銀は気にならないようだが、伊代にとってはどうもこの情報の格差が気になるところなのであった。

『そりゃここがスノウセクションの情報中枢センターなんだから、私らとタイムラグがあるのはしょうがないんだけどさ……』

 葉子は伊代の複雑な心中には気付かない様子で、ファイリングされた書類を手に取り鼻歌を歌いながらバッグの中に押し込んだ。



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 全くわかればわかるほど奇妙な事件だな、と雪枝は考えていた。
 今日はみなが集めた情報を持ち寄る報告会である。
 全ての情報は逐一この地下のスノウセクションルーム(情報資料室)に集積されているので、実質沙希以下の三人と雪枝・葉子、遊撃隊的な立ち位置のなりが情報と思考をすり合わせ、個々の方針を均す場と考えてよいだろう。
 今は一通りの準備は済ませ、人が集まるのを待っている時間。ふと、横にいる大江なりと尾鷹葉子の様子をうかがってみる。
 絶賛暗中模索中。
 両人とも何か言いたいがどう言ったものか、といった複雑な顔をしていた。
 自分も似たようなものだが、困ったことに前進していることは確かなのである。
 道の先に正解らしきものは見えるが、どういう道を進んでいるのかはよくわからない。道は途切れているかもしれないし、想定していたより危険かもしれない。
 ただ、手の届く部分が増え材料は集めやすくなっている。しばらくはこのままやってみようか、と雪枝は考えていた。もちろん皆に相談しなくてはならないが。
「まあ……わりと予想通りではありそうですね。ここまでは」
 雪枝が言うと、尾鷹は〝ふぇっ〟と変な声を出した。どこから出したのその声? と大江なりからツッコミが入る。
「え? 何が?」
「え……あれ? 同じ結論に達してると思ってましたが。いえ、断定は出来ないですけど……」
「ちょちょちょ、ちょっと待って! え? どこ? なに? どこの話?」
 ほんの一瞬、雪枝の鼻がはずむようにヒクヒクと動いたのを、なりは見逃さなかった。
「どうでしょうね……私の思い込みかもしれませんしね」
「いやいやいや! えー、ちょっとまてよ……。どっか見落としてんのかな……」
 葉子は難しい顔をして両方のこめかみに人差し指を当てている。
「……あんたら楽しんでるとこない?」
「そんな。ちゃんとお仕事としてやってますよ」
 雪枝はまったくもって心外という様子だが、どこまで信用できるかはわからない。
「ねえ? こんなに真面目に考えてんのに」 
「考えている、の部分は認めるけどね」
 なりは腕組みし、背後の棚に背中の一部を預けた。
「言っとくけど、あんたらが暴走し始めたら私は沙希たちにつくよ」
「暴走ってそんな……」
「なにか勘違いしてらっしゃる」
 二人ともそそくさとじゃれるのを止める。
『こいつら……』
 なりは油断しないように、ますます神経を尖らせた。
 ヨネプロの広報は他部署と連携、接触することが多い。
 それを専任としては実質一人で回していた秋夢叶を手伝うようになって、なりはスノウセクションを離れ遊撃隊のような立ち位置に変化した。
 おかしなことだが、その結果なりは六ツ院雪枝・尾鷹葉子というこれまた実質スノウの頭脳である二人と一緒にいる時間が他成員に比べ格段に多くなってしまった。
 その結果、葉子について印象はほとんど変わらないのだが、雪枝については若干の訂正を余儀なくされた。
 雪枝は普段みんなに指示を出している時、調査部として動いている時の顔のほか、もう一つ奥に眠っている性格がある。
 もちろんアイドルとしての顔とも別のものだが、なんといったらいいのか非常に子供っぽい部分を持っているのだ。
 一言でいうと多少我儘で好奇心旺盛、ということなのだが、調査部などやっていれば誰にでもこういう部分はある。
 ただ、室長という立場上普段は他の者より抑制されており表に出る時は強烈、ということだろうとなりは考えている。
 そして正直そういう時の雪枝のほうに、なりは魅力を感じていた。
 冷静でどちらかといえば控えめなオフィシャルな顔を表とすると、裏の顔は尾鷹葉子と二人の時に出やすいようである。
 一緒にいる時間が増えてきたせいで、いつの間にかなりもその枠に入れられつつあるらしい。
『……私が手綱握らなきゃってことなのかな』
なりが自分の役割の変化にぼんやりと思いを馳せている時、
「遅れましたー! すいません」
「おまた~」
 岡真銀と海原伊代が入室した。
「沙希は?」
「ちょっと遅れるみたいだよ。数凪さんと一緒に来るって」
「あの人来んの?」
 少し驚いたように、葉子が口を開く。
「ええ、今回は共有しておいたほうがいい情報があるかと思いまして……。別件でもちょっと」
 雪枝が思わせぶりな言葉に〝ま、そうか〟と頷き、
「よ~し、じゃあ報告会はじめましょ~、っとその前に。移動移動~!」
と、葉子は多少大袈裟に両手をパンパンと打ち合わせた。
「移動?」
「あ、そうか。数凪さん来るから……」
 スノウセクションのメンバー以外でここに入れるのは、ヨネプロ戦略的マネジメント担当部局統括部長・長尾伊都のみである。
 皆ゾロゾロといつものカラオケBOXに移動しはじめた。
 沙希にはもう連絡しており、数凪を連れて直接カラオケBOXの方へ行くそうである。海原伊代も当然おとなしく入ってきたばかりの部屋を出て行く。
 の、だが……
 どうもひっかかる。モヤモヤする。有り体にいうと気に食わない。
 雪枝と葉子がここの首脳部であり、なりは部署を横断して動いているので彼女たちとほぼ同等の情報を手にしている。
 沙希や真銀は気にならないようだが、伊代にとってはどうもこの情報の格差が気になるところなのであった。
『そりゃここがスノウセクションの情報中枢センターなんだから、私らとタイムラグがあるのはしょうがないんだけどさ……』
 葉子は伊代の複雑な心中には気付かない様子で、ファイリングされた書類を手に取り鼻歌を歌いながらバッグの中に押し込んだ。