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021

ー/ー



『やっぱ売り出し中の人は色々あったんだろうな~……』
 
 沙希自身でいえば、芸能活動以外のお勤めもしているので(どちらかというとそちらの配分のほうが多いが)これくらいの資料の束は見慣れてはいるのだが、普通のアイドルとしての仕事でこれだけの資料を貰ったことはなかった。

『会議とかで使うのかな』

 率直にいって中を見てみたい。が、沙希は誘惑に負けなかった。

 ヨネプロのためにはなるかもしれないが、今追っている件とは関係ない。

 ざっと見てみたが変わったモノはなさそうだ。詳しく精査すれば何か出てくるかもしれないがそんな余裕はない。

『このへんが限界か……』

 沙希はロッカー内部に視線を走らせながら嘆息した。

 まあしょうがない。いつものことだ。

 九割方はこんなものなのだ。全てが奇跡的に上手くいって掴んだチャンスで成果が出ないことなどいくらもある。

 アイドル仕事のことはともかく、少なくともこの類の調査業務ではそうだった(アイドルは順調という意味ではなく、アイドル関連だとSNOWにはそもそもチャンス自体が少ないのである)。

 それでも一歩ずつ進んでいくしかない。いつか落ちるまで続く綱渡りなのだ。

 もう閉めようか、と思い再度中を確認して、何か奇妙なものが沙希の視界に入った気がした。 

『んんん?』

 膝下十センチくらいのところにある、もう一つの網棚。 雑然と替えの上履きなどが置かれた場所に違和感を感じた。

 上履きの下に敷かれている百均で買ってきたようなカラフルな板。綺麗に畳まれたタオル。

 それらのさらに下に何かのぞいている。ダンボールか何かのように見えたのだが、どうも違う。

 軽く引っ張り出してみると、スケッチブックというか学校で使っていたようなクロッキー帳のように見えた。金属製のリングで綴じてある。

『なんこれ……?』

 ロッカーの中にあってそれほど不自然なものではない。だが、その微妙に秘匿したい気持ちが表れているような置かれかたが気になる。

『見てみるか』

 それだけの価値はあるように思えた。そのまま帳面を引っ張り出そうとして、
『ヤバッ』
 さっと押し込み、急いで戸を閉める。

 廊下に人の気配がしたのだ。鍵を閉めなおしている余裕はない。

 音を立てないように移動し、取り合えずロッカーの影に身をひそめた。側面にほっぺたをくっつけていると、ほのかに真新しい金属の匂いがする。

 外の気配を確かめつつ、向こう側のドアが開くタイミングに合わせ、入ってきたのと反対のドアを開いて廊下に出た。誰もいない。

 部屋の中から聞こえてくる声からして、来たのは大人数ではないようだった。

 セーフ。 

 心中で呟き、階段のほうへ向かって歩き始める。

 たいした時間は経ってないと思うが、そろそろ上へ行ったほうがいいだろう。

『どうしたもんかね……』

 さっきのアレ。アレの中身は見ておいたほうがいい気がするが、自分ではもう、ちょっと無理だろう。

 こういう時にチームはありがたいのだ。


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『やっぱ売り出し中の人は色々あったんだろうな~……』
 沙希自身でいえば、芸能活動以外のお勤めもしているので(どちらかというとそちらの配分のほうが多いが)これくらいの資料の束は見慣れてはいるのだが、普通のアイドルとしての仕事でこれだけの資料を貰ったことはなかった。
『会議とかで使うのかな』
 率直にいって中を見てみたい。が、沙希は誘惑に負けなかった。
 ヨネプロのためにはなるかもしれないが、今追っている件とは関係ない。
 ざっと見てみたが変わったモノはなさそうだ。詳しく精査すれば何か出てくるかもしれないがそんな余裕はない。
『このへんが限界か……』
 沙希はロッカー内部に視線を走らせながら嘆息した。
 まあしょうがない。いつものことだ。
 九割方はこんなものなのだ。全てが奇跡的に上手くいって掴んだチャンスで成果が出ないことなどいくらもある。
 アイドル仕事のことはともかく、少なくともこの類の調査業務ではそうだった(アイドルは順調という意味ではなく、アイドル関連だとSNOWにはそもそもチャンス自体が少ないのである)。
 それでも一歩ずつ進んでいくしかない。いつか落ちるまで続く綱渡りなのだ。
 もう閉めようか、と思い再度中を確認して、何か奇妙なものが沙希の視界に入った気がした。 
『んんん?』
 膝下十センチくらいのところにある、もう一つの網棚。 雑然と替えの上履きなどが置かれた場所に違和感を感じた。
 上履きの下に敷かれている百均で買ってきたようなカラフルな板。綺麗に畳まれたタオル。
 それらのさらに下に何かのぞいている。ダンボールか何かのように見えたのだが、どうも違う。
 軽く引っ張り出してみると、スケッチブックというか学校で使っていたようなクロッキー帳のように見えた。金属製のリングで綴じてある。
『なんこれ……?』
 ロッカーの中にあってそれほど不自然なものではない。だが、その微妙に秘匿したい気持ちが表れているような置かれかたが気になる。
『見てみるか』
 それだけの価値はあるように思えた。そのまま帳面を引っ張り出そうとして、
『ヤバッ』
 さっと押し込み、急いで戸を閉める。
 廊下に人の気配がしたのだ。鍵を閉めなおしている余裕はない。
 音を立てないように移動し、取り合えずロッカーの影に身をひそめた。側面にほっぺたをくっつけていると、ほのかに真新しい金属の匂いがする。
 外の気配を確かめつつ、向こう側のドアが開くタイミングに合わせ、入ってきたのと反対のドアを開いて廊下に出た。誰もいない。
 部屋の中から聞こえてくる声からして、来たのは大人数ではないようだった。
 セーフ。 
 心中で呟き、階段のほうへ向かって歩き始める。
 たいした時間は経ってないと思うが、そろそろ上へ行ったほうがいいだろう。
『どうしたもんかね……』
 さっきのアレ。アレの中身は見ておいたほうがいい気がするが、自分ではもう、ちょっと無理だろう。
 こういう時にチームはありがたいのだ。