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四人目の被害者

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 僕は、花火大会の会場に来ていた。もちろん、彩音と共に。彩音はすごく楽しそうで、そんなに喜ばれるとこっちが恥ずかしくなってしまうほどだった。夏だからべたべたとされるのは不快なはずなのに、そんなことは全く感じない。 「なかなか、会えなくてごめん」 ―――ううん、気にしないで  最後にあったのは、おそらく去年の事だ。いくら勉強が忙しくても、愛し合った二人が半年もの間に中々会えないことは悲劇以外の何物でもなかったけれど、彩音は笑って許してくれる。その笑顔は抱きしめたくて仕方が無くなる。 ―――花火、楽しみだね 「そうだね。まずは、お腹が空いたかな」  僕たちは、屋台を回った。やっぱり、この独特な他では味わえないような雰囲気が焼きそばも、イカ焼き、かき氷も、すべてをより美味しく感じさせる。 ―――はい、あ~ん 「恥ずかしいよ」  僕はそう言いながらも、口を大きく開けるしか選択肢がない。文句をいう口調も、自分でも意識したつもりがなく柔らかくなってしまう。結局、僕は愛の奴隷なんだと、そうして一生を過ごすんだと思う。愛に生きるしかないのだと思う。  彩音の母親が言った、新しい恋人。それは、どうにも想像できない。確かに、僕は翼さんとも千草とも性交をしたけれども、それでも心は常に彩音の下にあった。彩音が嫌がるからと、自分の内に秘めたる黒く鬱屈とした性欲を、彼女らで消費した。  愛情なんて、ほんのこれっぽっちも無かったと証明できる。  こうして、僕らは初めての夜を迎えた。 ―――愛してるよ 「俺も、愛してる」  そう言って俺は、彩音の腰に手を回してその華奢な体を抱き寄せた。  その香りが、僕の心を酷く搔き立てる。  黒い心とピンクの心、その二つがどうともなく混ざり合って、彼女の白い心を浸食する。それは暴力的ながらも、優しく。優しく白を染め上げていく。  永遠の愛が、そこに顕現した。    あまりにもあわただしく過ぎる日常で、「女子高生連続殺人事件」もついには連日のように報道されることはなくなっていた。それは、ここ一か月ほど犯人がなりを潜めていたからだ。ニュース側もあることないことを人の考えとして持ちだすのはいいけれども、ついにネタが尽きたのだろう。 「それで、犯人に心当たりはないかな?」  そして、それは警察もどうやら同じらしい。もはや、どこから犯人までをたどればよいのかわからずに、再び僕の家をこわもての刑事と若い女性刑事が訪れていた。 「すみません。少なくとも、僕の知り合いにはそんなことをする人はいないです」 「そうか……まあ、そうだよな」  僕がきっぱりと言い切ると、こわもては諦めた。それに対して若い刑事はなんだか不満そうだったけれども、何も言ってこない。もう、何も言えないのだろう。  そもそも、警察だってここまで証拠の少ない状態ではどうしようもないだろう。ヒントになりそうなのは、被害者の共通点である茶髪でスタイルのよい女子高生であること。しかし、そんな相手に恨みを持っていそうな相手なんて探せばきりがない。  痴漢の冤罪被害をくらったり、騙されてお金をとられたり、挙句の果てには犯人が学生時代に茶髪の女子高生に拒絶されたことを逆恨みしてほとんど無差別に犯行を繰り返してるのではないかという犯人の異常性がピックアップされていた。  しかし、それは違うと思う。犯人はとてつもなく賢い。でなければ、ここまで少ない証拠で殺人なんて行えるわけがないのだ。だから、素人考えではあるけれどもS殺害の時にサドルを持ち去ったのも犯人の機転だ。  事実、これまでの被害者からはみな体液すらも検出されていない。仮に、それが怨恨や強盗目的であっても、男ならば目の前に暴力で自由にできる見た目の良い女子高生がいればとりあえずは犯すだろう。それがまったくないということは異常だ。 「警察は容疑者の目星はついているんですか?」  僕がそう聞いても、こわもて刑事は横に首を振るばかりだ。果たして、僕にここで質問をしていることに事件解決への手掛かりはあるのだろうか。 「最近は、女性が犯人だという可能性もあるというニュースも見ましたけど」 「いや、最近は警察内部でもそう考える人間も一定数はいるけれども、俺たちはあくまで犯人は男性だと思っているし、その前提を元に捜査している」  確かに、犯人が女性である場合は体液を残せないというのは筋の通った話だ。 「なら、女性なら心当たりのある人物はいるかな?」  まあ、そうなるか。しかし、僕の答えは変わらない。 「すみません。少なくとも、僕の知り合いにはそんなことをする人はいないです」 「そうだよな。ごめんね、嫌なことを聞いて」 「いえいえ、警察のみなさんに協力するのは市民の務めなので」  僕がそういうと、二人は椅子に掛けていたジャケットを掴んで、おずおずと帰っていった。その姿は、ずいぶんと疲れて小さく見えた。  第一の事件。彩音、良太、翼さんと同じ高校に通う新入生のSが学校近くの雑木林で亡くなっているところをその日のうちに発見された。登下校に使用されていた自転車は雑木林の脇に乗り捨てられていたが、犯人はおそらくサドルをもって逃走。  Sの遺体には、体液などの性的暴行を受けた痕跡もなく、殴打された後も明らかに被害者が抵抗した末のものではなくて、死亡後に激しく遺体を痛めつけたことから犯人は被害者に対してかなりの憎悪を抱いていたことが推測された。  犯人として疑われた雑木林付近に駐車されていた黒いアルファードの持ち主を警察は調べるが、彼にはしっかりとしたアリバイが存在し、以降は警察の動きが明確にスピードを遅くした。大きく混乱し、停滞した。  第二の事件。S殺害の現場からは電車で一本という比較的に近場で同じ犯人と思われる殺人事件が起こる。Rというこれまた茶髪でスタイルの良い女子高生が殺害されたのだ。彼女の遺体にもSと同じく性的暴行の跡は残されておらず、殴打の跡だけが色濃く残っていた。どう見ても、何かしらの恨みがないと不可能だった。  第三の事件。次は僕の住む県でOという少女が殺害された。彼女も同じく、茶髪でスタイルが良かった。もう、この時点でかなりの女子高生が茶髪から黒染めを行うなど、社会全体へと大きな影響を及ぼすようになる。やはり、性的暴行の跡は残されておらず、無抵抗なままに殺害されていた。  第四の事件。Eという少女が、また別の県で殺害された。しかし、もっとも離れているO殺害の現場とE殺害の現場でも高速を飛ばせば二時間で十分に間に合う距離だという事で同一犯だと断定し捜査を始める。  このEという少女だけが、不思議だった。そういうのも、社会全体として茶髪の女子高生が危ないという共通認識がすでに出来上がっているというのに、警察の調べによるとEは直近になって髪を黒から茶色にそめたのだという。それも地毛ではないから、染めた分だけかなり彩音に色が近かった。  この難解な事件に対して、やはり警察は何も手を打てないでいた。  だけど、それは意外な結末をたどることになる。  夏のある日だった。リビングでアイスを食べながらニュースを見ていると、緊急速報が入ってきたのだ。その内容というのが、衝撃だった。 『女子高生連続殺人事件の犯人が現行犯で逮捕』



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 僕は、花火大会の会場に来ていた。もちろん、彩音と共に。彩音はすごく楽しそうで、そんなに喜ばれるとこっちが恥ずかしくなってしまうほどだった。夏だからべたべたとされるのは不快なはずなのに、そんなことは全く感じない。 「なかなか、会えなくてごめん」 ―――ううん、気にしないで  最後にあったのは、おそらく去年の事だ。いくら勉強が忙しくても、愛し合った二人が半年もの間に中々会えないことは悲劇以外の何物でもなかったけれど、彩音は笑って許してくれる。その笑顔は抱きしめたくて仕方が無くなる。 ―――花火、楽しみだね 「そうだね。まずは、お腹が空いたかな」  僕たちは、屋台を回った。やっぱり、この独特な他では味わえないような雰囲気が焼きそばも、イカ焼き、かき氷も、すべてをより美味しく感じさせる。 ―――はい、あ~ん 「恥ずかしいよ」  僕はそう言いながらも、口を大きく開けるしか選択肢がない。文句をいう口調も、自分でも意識したつもりがなく柔らかくなってしまう。結局、僕は愛の奴隷なんだと、そうして一生を過ごすんだと思う。愛に生きるしかないのだと思う。  彩音の母親が言った、新しい恋人。それは、どうにも想像できない。確かに、僕は翼さんとも千草とも性交をしたけれども、それでも心は常に彩音の下にあった。彩音が嫌がるからと、自分の内に秘めたる黒く鬱屈とした性欲を、彼女らで消費した。  愛情なんて、ほんのこれっぽっちも無かったと証明できる。  こうして、僕らは初めての夜を迎えた。 ―――愛してるよ 「俺も、愛してる」  そう言って俺は、彩音の腰に手を回してその華奢な体を抱き寄せた。  その香りが、僕の心を酷く搔き立てる。  黒い心とピンクの心、その二つがどうともなく混ざり合って、彼女の白い心を浸食する。それは暴力的ながらも、優しく。優しく白を染め上げていく。  永遠の愛が、そこに顕現した。    あまりにもあわただしく過ぎる日常で、「女子高生連続殺人事件」もついには連日のように報道されることはなくなっていた。それは、ここ一か月ほど犯人がなりを潜めていたからだ。ニュース側もあることないことを人の考えとして持ちだすのはいいけれども、ついにネタが尽きたのだろう。 「それで、犯人に心当たりはないかな?」  そして、それは警察もどうやら同じらしい。もはや、どこから犯人までをたどればよいのかわからずに、再び僕の家をこわもての刑事と若い女性刑事が訪れていた。 「すみません。少なくとも、僕の知り合いにはそんなことをする人はいないです」 「そうか……まあ、そうだよな」  僕がきっぱりと言い切ると、こわもては諦めた。それに対して若い刑事はなんだか不満そうだったけれども、何も言ってこない。もう、何も言えないのだろう。  そもそも、警察だってここまで証拠の少ない状態ではどうしようもないだろう。ヒントになりそうなのは、被害者の共通点である茶髪でスタイルのよい女子高生であること。しかし、そんな相手に恨みを持っていそうな相手なんて探せばきりがない。  痴漢の冤罪被害をくらったり、騙されてお金をとられたり、挙句の果てには犯人が学生時代に茶髪の女子高生に拒絶されたことを逆恨みしてほとんど無差別に犯行を繰り返してるのではないかという犯人の異常性がピックアップされていた。  しかし、それは違うと思う。犯人はとてつもなく賢い。でなければ、ここまで少ない証拠で殺人なんて行えるわけがないのだ。だから、素人考えではあるけれどもS殺害の時にサドルを持ち去ったのも犯人の機転だ。  事実、これまでの被害者からはみな体液すらも検出されていない。仮に、それが怨恨や強盗目的であっても、男ならば目の前に暴力で自由にできる見た目の良い女子高生がいればとりあえずは犯すだろう。それがまったくないということは異常だ。 「警察は容疑者の目星はついているんですか?」  僕がそう聞いても、こわもて刑事は横に首を振るばかりだ。果たして、僕にここで質問をしていることに事件解決への手掛かりはあるのだろうか。 「最近は、女性が犯人だという可能性もあるというニュースも見ましたけど」 「いや、最近は警察内部でもそう考える人間も一定数はいるけれども、俺たちはあくまで犯人は男性だと思っているし、その前提を元に捜査している」  確かに、犯人が女性である場合は体液を残せないというのは筋の通った話だ。 「なら、女性なら心当たりのある人物はいるかな?」  まあ、そうなるか。しかし、僕の答えは変わらない。 「すみません。少なくとも、僕の知り合いにはそんなことをする人はいないです」 「そうだよな。ごめんね、嫌なことを聞いて」 「いえいえ、警察のみなさんに協力するのは市民の務めなので」  僕がそういうと、二人は椅子に掛けていたジャケットを掴んで、おずおずと帰っていった。その姿は、ずいぶんと疲れて小さく見えた。  第一の事件。彩音、良太、翼さんと同じ高校に通う新入生のSが学校近くの雑木林で亡くなっているところをその日のうちに発見された。登下校に使用されていた自転車は雑木林の脇に乗り捨てられていたが、犯人はおそらくサドルをもって逃走。  Sの遺体には、体液などの性的暴行を受けた痕跡もなく、殴打された後も明らかに被害者が抵抗した末のものではなくて、死亡後に激しく遺体を痛めつけたことから犯人は被害者に対してかなりの憎悪を抱いていたことが推測された。  犯人として疑われた雑木林付近に駐車されていた黒いアルファードの持ち主を警察は調べるが、彼にはしっかりとしたアリバイが存在し、以降は警察の動きが明確にスピードを遅くした。大きく混乱し、停滞した。  第二の事件。S殺害の現場からは電車で一本という比較的に近場で同じ犯人と思われる殺人事件が起こる。Rというこれまた茶髪でスタイルの良い女子高生が殺害されたのだ。彼女の遺体にもSと同じく性的暴行の跡は残されておらず、殴打の跡だけが色濃く残っていた。どう見ても、何かしらの恨みがないと不可能だった。  第三の事件。次は僕の住む県でOという少女が殺害された。彼女も同じく、茶髪でスタイルが良かった。もう、この時点でかなりの女子高生が茶髪から黒染めを行うなど、社会全体へと大きな影響を及ぼすようになる。やはり、性的暴行の跡は残されておらず、無抵抗なままに殺害されていた。  第四の事件。Eという少女が、また別の県で殺害された。しかし、もっとも離れているO殺害の現場とE殺害の現場でも高速を飛ばせば二時間で十分に間に合う距離だという事で同一犯だと断定し捜査を始める。  このEという少女だけが、不思議だった。そういうのも、社会全体として茶髪の女子高生が危ないという共通認識がすでに出来上がっているというのに、警察の調べによるとEは直近になって髪を黒から茶色にそめたのだという。それも地毛ではないから、染めた分だけかなり彩音に色が近かった。  この難解な事件に対して、やはり警察は何も手を打てないでいた。  だけど、それは意外な結末をたどることになる。  夏のある日だった。リビングでアイスを食べながらニュースを見ていると、緊急速報が入ってきたのだ。その内容というのが、衝撃だった。 『女子高生連続殺人事件の犯人が現行犯で逮捕』



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