「おいおいおいおい、また寝ちゃダメだよ。ほら立って」
男は慌てて身体を支えると女は倒れ掛かるようにしてベンチから尻を外す。男はそのまま抱きかかえるようにして立ち上がった。女性特有の甘い香りは控えめだったが、女性の頭が肩に乗るその距離は鼻孔をくすぐった。
再び胸の携帯電話が鳴った。ここからなら通りもすぐそこだが、車通りはまばらで、酔っぱらいを運んでいるタクシーくらいしか走っていないようだ。ヘッドライトの明かりが遊歩道まで迷い込んでくるのも時折でしかない。川沿いの遊歩道、その静けさに似つかない電子音が耳に障る。
「もしもしもしもし?」
「どこにいるんですか?!!」
思わず耳を離すほどの大声だった。アラジンの魔法のランプのように電話口からニョキッと身体が出てきそうな勢いだ。
大型トラックが側を走り抜けたようだ、小さな振動と共に大きな騒音が離した電話口からの声を掻き消す。
「ちょっと、きいてますか?!」
「……会場からちょっと行った川沿いの遊歩道……」
「そこから動かないでくださいね、すぐ行きます」
「あいあい!」
男は女の腕を自身の肩に回して半分引きずるように通りへと向かった。