部屋の中に入ると、突然パッと部屋中の蝋燭の明かりがついたので、ジョージはカバンの中の明かりを取り出そうとした手を止めた。
部屋の中がオレンジ色の光で照らされている。
(部屋には俺ら以外誰もいないのに、なぜ突然明かりがついたんだ……??)
ジョージは隣にいるアーサーを見上げると、心霊系が苦手なアーサーは少し顔を引きつらせていた。
「……ジョージ、なにかしたか?」
「いや? 真っ暗だったから、今明かりを取り出そうとしていたよ」
さっきの部屋といい、この部屋と言い、この別荘には何とも言えない不気味さがあるとジョージは思った。ジョージとアーサーが立てた物音以外、何一つ聞こえない。
「部屋には俺ら以外誰もいないみたいだ……。まぁ、金持ちの別荘なんて、大体どこもこんな感じなんだろう、ジョージ? さぁ、さっそく絵画探しを始めようぜ」
(そんなことって、あるかな……?)
ジョージはアーサーのその様子に苦笑しながら、黙ってうなずいた。
部屋を出ると、そこは玄関ホールだった。天井には煌びやかなシャンデリアがぶら下がっていて、その光が壁のいたるところに飾ってある油彩画を照らしていた。ジョージはふと思い出したように玄関へと足を運び、扉の鍵を開けた。
(よし、これでいざとなったらすぐに脱出できるし、オリバーも中に入ってこられるだろう)
ジョージはホールの奥にある階段まで進んだ。
赤いカーペットが敷かれた階段の両脇には、中世の騎士が身に着けていそうな甲冑が飾ってあった。さっき覗いた部屋にあった甲冑は剣だったが、こっちの甲冑は手に斧を持っていた。
(甲冑はところどころ錆びているのに、斧は錆びていない……)
甲冑自体、だいぶ古いものに見えるのに、斧はまるで最近作られたものに見えた。その斧をしばらく眺めていると、階段のそばで絵画を眺めていたアーサーがジョージに話しかけた。
「噂の絵画、この中にありそうか?」
ジョージはもう一度、壁に飾られた絵の群れを見て言った。
「……ないと思う。ここにある絵画は、偽物が多いんだ。ぱっと見、有名な画家の絵がいくつかあるように見えて驚いたんだが、よく見ると細部が違うんだ。例えば、このアクセサリーの女の子。本物は真珠の耳飾りをしているんだが、これは貝の耳飾りをしているだろう」
そうか、とアーサーは頷いた。
「よし、ほかの部屋を探してみようぜ」
〇●〇
一階を全室見て回ったが、残念なことに、初めに入った部屋と、剣の甲冑があった部屋以外、すべてカギがかかっていた。仕方ないので、二人は二階の部屋を片っ端から調べていくことにした。
二階は全部で四室あった。一番左手側から順に調べていくことにした。
部屋のドアを開けようとレバーを下げるが、開かない。気を取り直して二番目のドアに手をかけたが、開かなかった。
「のこりの二部屋ドアが開かなかったら、下にあった甲冑の斧を拝借しようぜ」
アーサーは大真面目な顔でそう言った。
「そんな乱暴な……」
できるだけ穏便に済ませたい、でも噂の絵画は欲しい。ジョージはそのジレンマにさいなまれた。
ジョージが少しもたついたので、代わりにアーサーが次の扉に手を伸ばした。
ガチャリ、という金属音が静かな空間に寂しく響いた。
「開いたぞ」
アーサーは嬉しそうにニヤリと笑った。
扉が開いたのを見て、ジョージの心拍数が一気に上昇する。
(またこの感じ。いったい、この得体のしれない高揚感は何なのだろう……)
ジョージの様子に気づかなかったアーサーは、先に室内へと入っていく。ふらふらとよろめきながら、ジョージもアーサーの後を追った。
(ここに、例の絵画があるかもしれない)
そう思い、頬を両手でピシャリと打って、背筋を伸ばした。
(よし、俺も探すぞ!!)
そのとき、ふとジョージの頭に疑問が浮かんだ。
(最初の部屋にあった、たくさんの足跡。そういえば、あの足跡は古いものも新しいものも、入ったときの向きをしていた。出たときの向きじゃない。俺が開けるまで、玄関のカギは掛かっていた。一階の部屋は、あの二部屋以外、鍵がかかっていて入れなかった。オリバーの仲間が、どこかの部屋に入って鍵をかけて閉じこもっているとか? まさかな……???)
ジョージは顎に右手をあてた。
(どうして、この別荘はこんなにも静かなんだろうか……??)