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103 甘美な世界

ー/ー



 藤城皐月(ふじしろさつき)栗林真理(くりばやしまり)の家から帰宅した。時刻は夜の9時だった。
 及川祐希(おいかわゆうき)はもう二階の部屋にいるはずだが、皐月が帰ってきても一階に下りてきてはくれなかった。自分から「ただいま」と祐希の部屋まで言いに行けば良かったが、今は誰にも会いたくない気分だったので、一人でいられることにホッとしていた。
 祐希が気を利かせてくれたのか、エアコンで部屋の湿度が取れていた。冷え過ぎていないのが心地が良い。居間で横になり、ぼんやりと天井を眺めていると、皐月はいつしか目を閉じていた。だが、眠りには落ちてはいなかった。ただただ深く回想に沈んでいた。

 皐月と真理の性的な関係の始まりは、幼かった真理と二人で皐月の家のテレビを見ながら留守番をしていた時のことだった。
 祖母の就寝後に子供が二人だけになってしまうと、眠りにつくまでの間に母のいない寂しさに耐えられなくなるのが常だった。少しでも賑やかにするために、誰でもいいから人の声の聞こえる状態にしておきたかったので、皐月と真理はテレビをつけっぱなしにして蒲団に入っていた。
 遅い時間の番組は子供には全く面白くなかった。だから音楽番組でもない限り、二人はテレビをまともに見てはいなかった。
 ある時、たまたまつけっ放しにしていたドラマの中で男と女のキスシーンが流れた。皐月と真理はそのシーンに目が釘付けになった。
 頬にキスなら母からよくされていたし、皐月と真理でしたこともあった。だが、口から口にはされたことも、したこともなかった。
 好奇心の旺盛な二人はテレビの真似をしてみたくなった。試しにやってみたのが皐月と真理の初めてのキスだった。

 この日以降、二人で母を待っていても取り残されたような気持ちになることはなくなった。寂しい時はいつも抱き合って、キスをしていた。
 キスの味を覚えてからの時間を埋める人の声や映像は、皐月と真理には邪魔でしかなかった。もう寝るからと祖母を安心させ、照明を落としてもらい、部屋を出て行ってもらう知恵を身につけた。
 暗い部屋で二人きりになると、眠くなるまでずっとキスをしていた。その頃はまだ幼くて、ディープキスなんか考えたこともなく、ただ口や頬にキスをしたり、抱き合いながらお喋りをして、ときどきキスをするだけだった。
 二人が寄り添って寝ているところを、お座敷から帰って来た母たちに見られることが多くなった。最初は仲がいいことにほほ笑んでいた母たちだが、いつしか仲が良過ぎることを心配するようになった。凛子(りんこ)がマンションを買うと、真理が皐月の家に泊まりに来ることがなくなった。

 真理に泊まっていってほしいと言われた時、甘い思い出が一瞬で甦った。皐月は泊まるための方策を見つけるために頭脳をフル回転させたが、現実的な答えを見出すことができない。
 今の皐月には冷たく突き放すことしかできなかった。だが、結果的にそれが真理の刺激的な見返りの要求を引き出すことになった。
 最初は幼かった頃のように軽くキスしていたが、皐月の気持ちはいつまでも落ち着かなかった。それは真理も同じだったようで、二人ともだんだん変な気分になってきた。
 口と口を合わせたキスをしていると、子供の頃とは全然違う感覚だった。もう六年生にもなる皐月と真理はこの意味をわかっていた。
 皐月は友達の花岡聡(はなおかさとし)と一緒に見たエロ動画の真似をしてみようと思った。真理の口が開いていた時、皐月は初めて舌を入れた。
 子供の頃は、キスの時に舌を入れたことなんてなかったので、真理はひどく驚いた。だが、実は仕掛けた皐月自身も驚いていた。

 皐月は友達とペットボトルの回し飲みができない。だから、舌を絡めるキスは唾液が混ざって気持ち悪いかもしれないと思っていた。
 だが実際にしてみると全くその逆で、今までに感じたことのないくらい気持ち良かった。真理は最初こそ軽く抵抗したが、すぐに皐月の行為に応えてくれた。ただ舌を受け入れるだけでなく、慣れてくると舌を絡め合うようになった。
 痺れるようなひと時だった。こんな狂おしい体験は二人にとって初めてで、どうして性行為がキスから始まるのかがわかったような気がした。
 皐月にとって意外だったのは、自分よりも真理の方が興奮していたことだ。口を開けながら舌を絡め合っていると、真理の息が荒くなった。口の周りが唾液で濡れるようなキスもしてきた。吐息と唾液の匂いが混ざり合い、動画を見るだけでは知り得ない体験に興奮した。

 皐月はディープキスだけでは我慢できず、キスをしながら真理の体に手を這わせた。真理の体がピクンとなった。
「お母さんもこんなことしているんだ……」
 真理のこの一言が哀しくもあり愛しくもあった。皐月はもうどうにでもなれという気持ちになり、二人は快楽に身を任せ、甘美な世界へと溺れていった。



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 |藤城皐月《ふじしろさつき》は|栗林真理《くりばやしまり》の家から帰宅した。時刻は夜の9時だった。
 |及川祐希《おいかわゆうき》はもう二階の部屋にいるはずだが、皐月が帰ってきても一階に下りてきてはくれなかった。自分から「ただいま」と祐希の部屋まで言いに行けば良かったが、今は誰にも会いたくない気分だったので、一人でいられることにホッとしていた。
 祐希が気を利かせてくれたのか、エアコンで部屋の湿度が取れていた。冷え過ぎていないのが心地が良い。居間で横になり、ぼんやりと天井を眺めていると、皐月はいつしか目を閉じていた。だが、眠りには落ちてはいなかった。ただただ深く回想に沈んでいた。
 皐月と真理の性的な関係の始まりは、幼かった真理と二人で皐月の家のテレビを見ながら留守番をしていた時のことだった。
 祖母の就寝後に子供が二人だけになってしまうと、眠りにつくまでの間に母のいない寂しさに耐えられなくなるのが常だった。少しでも賑やかにするために、誰でもいいから人の声の聞こえる状態にしておきたかったので、皐月と真理はテレビをつけっぱなしにして蒲団に入っていた。
 遅い時間の番組は子供には全く面白くなかった。だから音楽番組でもない限り、二人はテレビをまともに見てはいなかった。
 ある時、たまたまつけっ放しにしていたドラマの中で男と女のキスシーンが流れた。皐月と真理はそのシーンに目が釘付けになった。
 頬にキスなら母からよくされていたし、皐月と真理でしたこともあった。だが、口から口にはされたことも、したこともなかった。
 好奇心の旺盛な二人はテレビの真似をしてみたくなった。試しにやってみたのが皐月と真理の初めてのキスだった。
 この日以降、二人で母を待っていても取り残されたような気持ちになることはなくなった。寂しい時はいつも抱き合って、キスをしていた。
 キスの味を覚えてからの時間を埋める人の声や映像は、皐月と真理には邪魔でしかなかった。もう寝るからと祖母を安心させ、照明を落としてもらい、部屋を出て行ってもらう知恵を身につけた。
 暗い部屋で二人きりになると、眠くなるまでずっとキスをしていた。その頃はまだ幼くて、ディープキスなんか考えたこともなく、ただ口や頬にキスをしたり、抱き合いながらお喋りをして、ときどきキスをするだけだった。
 二人が寄り添って寝ているところを、お座敷から帰って来た母たちに見られることが多くなった。最初は仲がいいことにほほ笑んでいた母たちだが、いつしか仲が良過ぎることを心配するようになった。|凛子《りんこ》がマンションを買うと、真理が皐月の家に泊まりに来ることがなくなった。
 真理に泊まっていってほしいと言われた時、甘い思い出が一瞬で甦った。皐月は泊まるための方策を見つけるために頭脳をフル回転させたが、現実的な答えを見出すことができない。
 今の皐月には冷たく突き放すことしかできなかった。だが、結果的にそれが真理の刺激的な見返りの要求を引き出すことになった。
 最初は幼かった頃のように軽くキスしていたが、皐月の気持ちはいつまでも落ち着かなかった。それは真理も同じだったようで、二人ともだんだん変な気分になってきた。
 口と口を合わせたキスをしていると、子供の頃とは全然違う感覚だった。もう六年生にもなる皐月と真理はこの意味をわかっていた。
 皐月は友達の|花岡聡《はなおかさとし》と一緒に見たエロ動画の真似をしてみようと思った。真理の口が開いていた時、皐月は初めて舌を入れた。
 子供の頃は、キスの時に舌を入れたことなんてなかったので、真理はひどく驚いた。だが、実は仕掛けた皐月自身も驚いていた。
 皐月は友達とペットボトルの回し飲みができない。だから、舌を絡めるキスは唾液が混ざって気持ち悪いかもしれないと思っていた。
 だが実際にしてみると全くその逆で、今までに感じたことのないくらい気持ち良かった。真理は最初こそ軽く抵抗したが、すぐに皐月の行為に応えてくれた。ただ舌を受け入れるだけでなく、慣れてくると舌を絡め合うようになった。
 痺れるようなひと時だった。こんな狂おしい体験は二人にとって初めてで、どうして性行為がキスから始まるのかがわかったような気がした。
 皐月にとって意外だったのは、自分よりも真理の方が興奮していたことだ。口を開けながら舌を絡め合っていると、真理の息が荒くなった。口の周りが唾液で濡れるようなキスもしてきた。吐息と唾液の匂いが混ざり合い、動画を見るだけでは知り得ない体験に興奮した。
 皐月はディープキスだけでは我慢できず、キスをしながら真理の体に手を這わせた。真理の体がピクンとなった。
「お母さんもこんなことしているんだ……」
 真理のこの一言が哀しくもあり愛しくもあった。皐月はもうどうにでもなれという気持ちになり、二人は快楽に身を任せ、甘美な世界へと溺れていった。