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#80 天国を目指す者 その10 (テルサ視点)

ー/ー



 しかし、こんな風に異世界に召喚されるのなら、多大なリスクを冒してあの三人を殺す必要など無かったのではないか、などと言われそうだが、それは全くの逆だ。


 全ては試練だったのだ。
 私を『天国』へ押し上げるために、運命が課した試練なのだ。


 最低の宿命を背負わせた悪魔共に天誅を下して『地獄』へ叩き落とし、己が運命を切り拓いて自由を勝ち取ったことへの褒美が、この異世界召喚であり、そして光の極大魔力『旭日』と『聖女』の名誉なのだ。
 やはりこれで正しかったのだと、この道こそ私が歩むべき運命なのだと確信した。


 しかし、好事魔多しと言うように、不都合な出来事もあった。
 召喚されたのは、私一人だけではなかったのだ。


「あなたは……照朝(テルサ)……!?」
輝夜(カグヤ)……な、何でここに……!?」


 そう──私が着せた濡れ衣で逮捕され、拘置所に収容されていたカグヤまでもが『儀式』で召喚されてしまったのだ。


 もう二度と関わることも無いと思っていた相手との予期せぬ再会に、当然ながら肝を冷やした。
 もしかしたら彼女は拘置所生活の間に、自らの無実に──つまり双子の妹である私こそが真犯人だということに気付き、今ここでそれを暴露されてしまうのではないか、と。


 冷汗を掻いたが、しかしこんな時こそ冷静にならなくてはと自分に言い聞かせ、置かれた状況を整理してみた。


『旭日』を宿している以上、私こそが栄耀教会が求めた『聖女』であることは間違い無く、魔力鑑定によってカグヤの魔力は皆無とされ、そして彼女は未だに自分があの三人を殺害したと思い込んでいるようで、再会した私を問い詰めたり、非難するような素振りは見られなかった。


 ならばまだ間に合う。
 一刻も早く、カグヤを消してしまわなくては。


 解放されたカグヤをこのまま生かしておけば、いつか真実に気付く日が来ないとも限らない。
 国家の救世主として期待を懸けられている『聖女』が親殺しなどと知られれば、でなくともそんな悪評が立つだけでもイメージダウンは避けられない。


 カグヤを消すべき理由はもう一つある。


 異世界への転移や転生を描いた作品の中には「追放物」や「復讐物」と呼ばれるものがあった。
 大まかなストーリーとしては、ハズレの能力を持つ主人公が手酷く追放された後、実はその能力がハズレではなく大アタリだったことが判明、瞬く間に成功者となって追放した者たちに復讐して悲惨な目に遭わせる──というようなものだったと記憶している。


 栄耀教会によれば、魔力はこの世界のあらゆる生命に宿るエネルギーであり、カグヤのように「魔力が皆無」というケースなど本来有り得ないのだそうだ。
 だとすれば、魔力鑑定では判明しなかっただけで、私の双子で、かつ『招聖の儀』に選ばれたカグヤもまた『旭日』のような超越的な力を授かったのではないか。
『旭日』を宿す私が「誰の目にも分かるアタリ」なら、魔力皆無と判定されたカグヤは「ハズレに見えるだけの大アタリ」なのではないか、と一抹の不安を覚えた。


 私の考え過ぎかも知れないが、万一そうだったとしたら、私が手にするはずの利益と名誉が横取りされてしまいかねず、加えてカグヤが冤罪(えんざい)に気付きでもしたら、私が両親と教主に復讐したように、今度は彼女がその力で私に復讐してくるかも知れない。


 そんな展開など断じて認められない。
 既に終わった女如きのために、またと無いビッグチャンスを台無しにされてたまるものか。


 忌まわしい過去も、不都合な真実も、不安の芽も、手遅れになる前に永遠の闇に葬らなくては、また私は奪われる側に戻ってしまう。


「──抹殺して下さい、カグヤを」


「賢者」とは、筆記試験の点数や知能指数(IQ)や学歴が高い者でもなければ、知恵や情報を豊富に蓄えた者でもなく、ましてゲームやファンタジー小説などに登場する大魔法使いでもない。
 未来を的確に予見して有効な手を迅速に打てる者、それこそが「真の賢者」だ。


 ラモン教皇たちにカグヤの悪評を涙ながらに聞かせ、未来の危機を回避するための一手を打った。
 依頼を断られたその時は、応じるまで栄耀教会には一切協力しない、と脅すつもりだったが、意外なほどラモン教皇はあっさり承諾、その日の夜の内に実行に移してくれた。


 別に讒言(ざんげん)を鵜呑みにした訳ではなく、断って『聖女』の機嫌を損ねたら今後の活動に支障を(きた)しかねないという合理的判断だったようだが、何にせよカグヤを始末して貰えれば不安は解消、これにて一件落着となる──はずだった。


「カグヤが、消えた……!?」


 戻って来たゼルレーク聖騎士団長たちの報告を受けて、私は驚愕した。
 拘束して首を斬り落とす寸前で、彼女は密室からサウレリオン大聖堂の地下にある冥獄墓所へ転移、そこに葬られていた三百年前の騎士ダスクをヴァンパイア化させ、二人でサウレス=サンジョーレ曙光島を脱出してしまったのだ。


 私が危惧(きぐ)した通り、やはりカグヤにも何らかの力が宿っていたのだ。


 この襲撃が私の意向によるものだということに、彼女も気付いたはず。
 だとすれば、その転移の魔法を使って今度はダスクと共に報復に来るかも知れないと、その後数日は不安に駆られ、聖騎士団に護られて窮屈だった。


 しかし、未だに私の身に何の災難も降り掛かって来ない所を見るに、自らの罪への疑念など芽生えず、仇である自分にテルサが殺意を抱くのは仕方の無いこと、やり返す資格など自分には無い、などと後ろ向きに考えているのだろう。


 カグヤが馬鹿なお人好しで、本当に良かった。
 とは言え、カグヤの抹殺を諦める気は毛頭無く、今も栄耀教会に捜索を続けさせている。


 彼女の存在自体が、私の心を覆う暗雲なのだから。


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 しかし、こんな風に異世界に召喚されるのなら、多大なリスクを冒してあの三人を殺す必要など無かったのではないか、などと言われそうだが、それは全くの逆だ。
 全ては試練だったのだ。
 私を『天国』へ押し上げるために、運命が課した試練なのだ。
 最低の宿命を背負わせた悪魔共に天誅を下して『地獄』へ叩き落とし、己が運命を切り拓いて自由を勝ち取ったことへの褒美が、この異世界召喚であり、そして光の極大魔力『旭日』と『聖女』の名誉なのだ。
 やはりこれで正しかったのだと、この道こそ私が歩むべき運命なのだと確信した。
 しかし、好事魔多しと言うように、不都合な出来事もあった。
 召喚されたのは、私一人だけではなかったのだ。
「あなたは……|照朝《テルサ》……!?」
「|輝夜《カグヤ》……な、何でここに……!?」
 そう──私が着せた濡れ衣で逮捕され、拘置所に収容されていたカグヤまでもが『儀式』で召喚されてしまったのだ。
 もう二度と関わることも無いと思っていた相手との予期せぬ再会に、当然ながら肝を冷やした。
 もしかしたら彼女は拘置所生活の間に、自らの無実に──つまり双子の妹である私こそが真犯人だということに気付き、今ここでそれを暴露されてしまうのではないか、と。
 冷汗を掻いたが、しかしこんな時こそ冷静にならなくてはと自分に言い聞かせ、置かれた状況を整理してみた。
『旭日』を宿している以上、私こそが栄耀教会が求めた『聖女』であることは間違い無く、魔力鑑定によってカグヤの魔力は皆無とされ、そして彼女は未だに自分があの三人を殺害したと思い込んでいるようで、再会した私を問い詰めたり、非難するような素振りは見られなかった。
 ならばまだ間に合う。
 一刻も早く、カグヤを消してしまわなくては。
 解放されたカグヤをこのまま生かしておけば、いつか真実に気付く日が来ないとも限らない。
 国家の救世主として期待を懸けられている『聖女』が親殺しなどと知られれば、でなくともそんな悪評が立つだけでもイメージダウンは避けられない。
 カグヤを消すべき理由はもう一つある。
 異世界への転移や転生を描いた作品の中には「追放物」や「復讐物」と呼ばれるものがあった。
 大まかなストーリーとしては、ハズレの能力を持つ主人公が手酷く追放された後、実はその能力がハズレではなく大アタリだったことが判明、瞬く間に成功者となって追放した者たちに復讐して悲惨な目に遭わせる──というようなものだったと記憶している。
 栄耀教会によれば、魔力はこの世界のあらゆる生命に宿るエネルギーであり、カグヤのように「魔力が皆無」というケースなど本来有り得ないのだそうだ。
 だとすれば、魔力鑑定では判明しなかっただけで、私の双子で、かつ『招聖の儀』に選ばれたカグヤもまた『旭日』のような超越的な力を授かったのではないか。
『旭日』を宿す私が「誰の目にも分かるアタリ」なら、魔力皆無と判定されたカグヤは「ハズレに見えるだけの大アタリ」なのではないか、と一抹の不安を覚えた。
 私の考え過ぎかも知れないが、万一そうだったとしたら、私が手にするはずの利益と名誉が横取りされてしまいかねず、加えてカグヤが|冤罪《えんざい》に気付きでもしたら、私が両親と教主に復讐したように、今度は彼女がその力で私に復讐してくるかも知れない。
 そんな展開など断じて認められない。
 既に終わった女如きのために、またと無いビッグチャンスを台無しにされてたまるものか。
 忌まわしい過去も、不都合な真実も、不安の芽も、手遅れになる前に永遠の闇に葬らなくては、また私は奪われる側に戻ってしまう。
「──抹殺して下さい、カグヤを」
「賢者」とは、筆記試験の点数や|知能指数《IQ》や学歴が高い者でもなければ、知恵や情報を豊富に蓄えた者でもなく、ましてゲームやファンタジー小説などに登場する大魔法使いでもない。
 未来を的確に予見して有効な手を迅速に打てる者、それこそが「真の賢者」だ。
 ラモン教皇たちにカグヤの悪評を涙ながらに聞かせ、未来の危機を回避するための一手を打った。
 依頼を断られたその時は、応じるまで栄耀教会には一切協力しない、と脅すつもりだったが、意外なほどラモン教皇はあっさり承諾、その日の夜の内に実行に移してくれた。
 別に|讒言《ざんげん》を鵜呑みにした訳ではなく、断って『聖女』の機嫌を損ねたら今後の活動に支障を|来《きた》しかねないという合理的判断だったようだが、何にせよカグヤを始末して貰えれば不安は解消、これにて一件落着となる──はずだった。
「カグヤが、消えた……!?」
 戻って来たゼルレーク聖騎士団長たちの報告を受けて、私は驚愕した。
 拘束して首を斬り落とす寸前で、彼女は密室からサウレリオン大聖堂の地下にある冥獄墓所へ転移、そこに葬られていた三百年前の騎士ダスクをヴァンパイア化させ、二人でサウレス=サンジョーレ曙光島を脱出してしまったのだ。
 私が|危惧《きぐ》した通り、やはりカグヤにも何らかの力が宿っていたのだ。
 この襲撃が私の意向によるものだということに、彼女も気付いたはず。
 だとすれば、その転移の魔法を使って今度はダスクと共に報復に来るかも知れないと、その後数日は不安に駆られ、聖騎士団に護られて窮屈だった。
 しかし、未だに私の身に何の災難も降り掛かって来ない所を見るに、自らの罪への疑念など芽生えず、仇である自分にテルサが殺意を抱くのは仕方の無いこと、やり返す資格など自分には無い、などと後ろ向きに考えているのだろう。
 カグヤが馬鹿なお人好しで、本当に良かった。
 とは言え、カグヤの抹殺を諦める気は毛頭無く、今も栄耀教会に捜索を続けさせている。
 彼女の存在自体が、私の心を覆う暗雲なのだから。