日が傾いてきた……どれほどここに居たのであろうか。初めは通っていく人たちの視線が恥ずかしかったが、今はもう気にもならない。
(誰も私のことなんて気付きもしない。ましてや私が宿なしの一文無しだなんて分かるはずもない)
そう思うと通り行く人たちは音色にとってもただの景色となった。
「お嬢ちゃん、ここでずーっと何してんだい」
景色の中から声が飛び出してきた。ハッとなって声の主を認知すると小汚いおじさんだった。
「あ、いえ、別に……特に何も……」
「まだ水は冷たいよ、死ぬなら別の方法の方がいい」
「あ……そうですか、御親切にどうも……」
『死ぬ』って言う選択肢も有なのか……音色は改めてその選択肢を考えた。おじさんは手応えのなさと物思いに入った音色に興味を失ったのか、立ち去って行った。
『はぁー』声に出してため息がまた一つ。オレンジ色でもない薄暮の明かりは夜の闇と混ざり合って、辺りをぼやかしていく。ため息がよく似合う夕暮れだ。
手摺〔柵〕から川を眺めていると、吸い込まれそうになる。柵は音色の胸下程あって簡単には乗り越えられやしないのに、魂が抜き取られたかのように腕と頭を乗り出してもたれて脱力すると、頭の重みでズルズルと柵を軸に重心が入れ替わっていく。
(水……冷たそうだな……最後にチョコレートケーキ、食べたかったなぁ……あ~あ……お金欲しいなぁ……)
死を覚悟したのだと思う……靴、揃えた方が良かったのかな? ふとそんなことが脳裏を過った。