「今井の動きは?」
「別に? 変わったところはないよ」
時巻の軽い返事に事の重大さが分かって居なようでスッキリしない。
しかし自分が頼んだのだから、その時巻がそう言うのだから、それが全てだ。気持ちを切り替える。
「優香ちゃんは?」
「優香ちゃん? あぁ来栖さんの様子も見るように言われてたんだっけ?」
『ゴメン忘れてた』と言う素直さが言葉からも感じ取れる。
「いいや……言ってない。相変わらずかな、と思って」
「あ、何だ……良かった……恭吾の好きな来栖さんのまんま変わってないと思うよ」
「そっか……」
『好き』という言葉が恭吾に何となく引っ掛かった。時巻には好きな人はいないのだろうか?
「それだけ?」
「それだけだ。ありがとう」
時巻の言葉に恭吾はA組へと向きを変える。業間休みのように短い時間しかないわけではない。
それなのに用件しか会話がないのは、『異性』という存在が割って入って来たせいなのかも知れない。
「あ、恭吾。昨日衒学(げんこく)の授業あったでしょ?」
子供のころと違って遊ぶことや話すことさえも『理由』が必要で距離が遠くなって行く……『事情』を見つけて呼び止めた。
「ん? ああ、あったよ」
「課題のことなんだけど……ちょっと頼みがあるんだ」
「頼み? 貸しにしとくぞ」
「サンキュ、恩に着るよ」