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縁は異なもの味なもの6 Strange Ties and Sweet Bonds.

ー/ー



 1巡目の手順見直し、先生のログ確認、後は全員で2巡目の手順を確認する。
 僕は自分のスクリプトをもう一度見直し、手直しができそうな箇所を見つけ少し変えてみた。
「良いところに目を付けたな」
 急に気配がして、背中に毛布を掛けられる。
 
「休憩を挟もう」
 振り返ると、先生が自分も毛布にくるまって立っていた。

「潔くんが持ってきてくれたんだ」
「総務の諏訪さんが、毛布用意してくれたんですよ」
 と、“保きよし”。

「久美ちゃんも、気が利くよね」
 え? 諏訪さんもご存知で?
「日向、知らなかったの? 久美ちゃんもあたしのゼミ出身」
「はぁああ?」
 思わず画面を見つめてしまった。

「バリッバリの理系女だよ。だから今でも大学とインターンの橋渡ししてるでしょ。論文読めるから人選もできるし」
「先輩と仲良いわけだ」
「久美ちゃんが一期上かな」
 なんか裏事情を知った気分だ。

「一回、休憩を挟むよ~。外出て暖取って。温まったら2巡目行くからね」
 先生の一声で、毛布にくるまった集団がぞろぞろとサーバ室から外の通路へ。
 外ってこんなに暖かかったっけ。でも毛布は離せないな。
「温度差、激しすぎ」
「外に出たら、逆に寒いわ」
 
 なんやかんや喋りながら、自販機のあるフロア休憩室へ向かう。
 先生が「平川からの差し入れ」とか言いながら、小銭を渡してくれた。
 カップのコーヒー、1杯40円なんだよね。

 アッと思い壁の時計を見たら、嘘。
 もう10時を回ってるじゃん。
「平川はやんごとなき用事で、8時には出てったよ」
 間に合ったんだ。紅緒と何食べたんだろう。
「目下、夜の営業中ですかね」
 あーあ、僕は行けなかったか。
「難儀なポジションだよね、アイツも」

 コーヒーを飲み終え、カップをゴミ箱へ投下する。
「2回目行くよ~。今度こそスパッと1回で通すよ!」
 先生が声掛けをする。
「おっす」
 全員で応え、僕の前を通り過ぎる時、みんなが僕の肩を叩いていく。
「頑張れ、亘」
 とジョブ管理の”保つとむ”さん。
「他は任せろ」
 ハード担当の”保まさ”さん。
「な、亘」
 コンソール監視の”保きよし”さん。
「まだ学生なのに、偉いなぁ」
 とサーバ管理の”保ただし”さん。
「ほら、亘、頭下げ」
 そう言われ、下げるとよしよしと頭を撫でられた。
 あはは、気合が入るなぁ。

 サーバ室へ戻り、”保つとむ”の合図を待って、本日2巡目の並列実装テスト開始だ。
「亘、こっちは良いぞ」
「サーバ機器、一式問題無し」
「いつでもどーぞ」
 一斉に声がかかる。

「行きます!」
 頼む! 午後10時14分、エンターキーを叩いた。
 サーバ室内に響いているファンの音が、ひと際大きく唸ったような気がした。
 
 モニターの数値が跳ねあがる。
 さっきと同じ反応なんだけど、イケるのか?
 横で”保きよし”の声がした。
「来たぞ……」
 何が? 後ろの気配が動いた気がして振り返る。
 
 一目瞭然。
 全体の起動状態が見えるよう、ここのサーバ室はサーバラック列がコンソールのテーブルに対し斜めに並ぶよう設計されている。
 正に、HDQ群の列に”保まさ”がラックの中のサーバを睨んでいた。
 
 10分、20分……
 最初の30分が勝負なんだ。

「保まさ、温度は?」
 先生が叫ぶ。
「危ないですね、上限ギリギリです!」

 警告音も鳴らないまま、node 03が温度保護でストンと落ちた。
 エンストしたように機械音が収束し、プツンと切れる。
 合わせてファンの音も止まる。
 でも、最初の失敗とは全然違う空気感だ。
 焦りじゃなく、全員が状況を読んでいる感じ。
 
「node 03 落ちた!」
「NFS遅延! I/O詰まってる! 先生」
「保きよし、ログ回せ。今の落ち方、理由分かったよね亘」
「なんとなく」

 なんかうまく走った気がしたのに、どこで負荷が最大になったんだ?
 先生と一緒にログと状態を確認して。
「あ、スケジュラーここ」
「バッチ組みなおしだな。30分でイケるか?」
「何か先が見えてきた、頑張ります!」

 10時57分原因解明。
 11時25分、バッチ組み直し完了。
 
「できました! 皆さんお願いします」
 そう言って僕はコンソールから直でバッチを流した。
「オーケー。見張っとくからな亘」
「”保まさ”リブートお願い」
 と先生。
 ハード保守担当の”保まさ”が、親指を立てる。

 0時ジャスト。
 低い重低音が唸り、ファンが回りだした。
 数秒の沈黙。

「……動いた!」
 ”保きよし”の声に、モニターの数値が一斉に跳ね上がる。
 後ろのサーバ群を見ると、赤から橙、橙から緑へ。
 ランプが順番に灯り、最後の一つが緑に変わった瞬間、 みんなの息が一度に弾ける。

「通った……」
 誰かが呟き、次の瞬間、拍手が起きた。
 先生が大きく伸びをして、腕時計を見た。

「もう夜が明けたころかな」
 みんな、誰からともなく息を吐き、肩を叩き合っていた。
 ファンの唸りが遠く感じられるほどの静けさが、サーバ室を包んでいる。
 壁時計の針は午前4時を指していた。

「よし、今日はこれで撤収!」


次のエピソードへ進む 恋愛は銘々稼ぎ1 Love finds its way.


みんなのリアクション

 1巡目の手順見直し、先生のログ確認、後は全員で2巡目の手順を確認する。
 僕は自分のスクリプトをもう一度見直し、手直しができそうな箇所を見つけ少し変えてみた。
「良いところに目を付けたな」
 急に気配がして、背中に毛布を掛けられる。
「休憩を挟もう」
 振り返ると、先生が自分も毛布にくるまって立っていた。
「潔くんが持ってきてくれたんだ」
「総務の諏訪さんが、毛布用意してくれたんですよ」
 と、“保きよし”。
「久美ちゃんも、気が利くよね」
 え? 諏訪さんもご存知で?
「日向、知らなかったの? 久美ちゃんもあたしのゼミ出身」
「はぁああ?」
 思わず画面を見つめてしまった。
「バリッバリの理系女だよ。だから今でも大学とインターンの橋渡ししてるでしょ。論文読めるから人選もできるし」
「先輩と仲良いわけだ」
「久美ちゃんが一期上かな」
 なんか裏事情を知った気分だ。
「一回、休憩を挟むよ~。外出て暖取って。温まったら2巡目行くからね」
 先生の一声で、毛布にくるまった集団がぞろぞろとサーバ室から外の通路へ。
 外ってこんなに暖かかったっけ。でも毛布は離せないな。
「温度差、激しすぎ」
「外に出たら、逆に寒いわ」
 なんやかんや喋りながら、自販機のあるフロア休憩室へ向かう。
 先生が「平川からの差し入れ」とか言いながら、小銭を渡してくれた。
 カップのコーヒー、1杯40円なんだよね。
 アッと思い壁の時計を見たら、嘘。
 もう10時を回ってるじゃん。
「平川はやんごとなき用事で、8時には出てったよ」
 間に合ったんだ。紅緒と何食べたんだろう。
「目下、夜の営業中ですかね」
 あーあ、僕は行けなかったか。
「難儀なポジションだよね、アイツも」
 コーヒーを飲み終え、カップをゴミ箱へ投下する。
「2回目行くよ~。今度こそスパッと1回で通すよ!」
 先生が声掛けをする。
「おっす」
 全員で応え、僕の前を通り過ぎる時、みんなが僕の肩を叩いていく。
「頑張れ、亘」
 とジョブ管理の”保つとむ”さん。
「他は任せろ」
 ハード担当の”保まさ”さん。
「な、亘」
 コンソール監視の”保きよし”さん。
「まだ学生なのに、偉いなぁ」
 とサーバ管理の”保ただし”さん。
「ほら、亘、頭下げ」
 そう言われ、下げるとよしよしと頭を撫でられた。
 あはは、気合が入るなぁ。
 サーバ室へ戻り、”保つとむ”の合図を待って、本日2巡目の並列実装テスト開始だ。
「亘、こっちは良いぞ」
「サーバ機器、一式問題無し」
「いつでもどーぞ」
 一斉に声がかかる。
「行きます!」
 頼む! 午後10時14分、エンターキーを叩いた。
 サーバ室内に響いているファンの音が、ひと際大きく唸ったような気がした。
 モニターの数値が跳ねあがる。
 さっきと同じ反応なんだけど、イケるのか?
 横で”保きよし”の声がした。
「来たぞ……」
 何が? 後ろの気配が動いた気がして振り返る。
 一目瞭然。
 全体の起動状態が見えるよう、ここのサーバ室はサーバラック列がコンソールのテーブルに対し斜めに並ぶよう設計されている。
 正に、HDQ群の列に”保まさ”がラックの中のサーバを睨んでいた。
 10分、20分……
 最初の30分が勝負なんだ。
「保まさ、温度は?」
 先生が叫ぶ。
「危ないですね、上限ギリギリです!」
 警告音も鳴らないまま、node 03が温度保護でストンと落ちた。
 エンストしたように機械音が収束し、プツンと切れる。
 合わせてファンの音も止まる。
 でも、最初の失敗とは全然違う空気感だ。
 焦りじゃなく、全員が状況を読んでいる感じ。
「node 03 落ちた!」
「NFS遅延! I/O詰まってる! 先生」
「保きよし、ログ回せ。今の落ち方、理由分かったよね亘」
「なんとなく」
 なんかうまく走った気がしたのに、どこで負荷が最大になったんだ?
 先生と一緒にログと状態を確認して。
「あ、スケジュラーここ」
「バッチ組みなおしだな。30分でイケるか?」
「何か先が見えてきた、頑張ります!」
 10時57分原因解明。
 11時25分、バッチ組み直し完了。
「できました! 皆さんお願いします」
 そう言って僕はコンソールから直でバッチを流した。
「オーケー。見張っとくからな亘」
「”保まさ”リブートお願い」
 と先生。
 ハード保守担当の”保まさ”が、親指を立てる。
 0時ジャスト。
 低い重低音が唸り、ファンが回りだした。
 数秒の沈黙。
「……動いた!」
 ”保きよし”の声に、モニターの数値が一斉に跳ね上がる。
 後ろのサーバ群を見ると、赤から橙、橙から緑へ。
 ランプが順番に灯り、最後の一つが緑に変わった瞬間、 みんなの息が一度に弾ける。
「通った……」
 誰かが呟き、次の瞬間、拍手が起きた。
 先生が大きく伸びをして、腕時計を見た。
「もう夜が明けたころかな」
 みんな、誰からともなく息を吐き、肩を叩き合っていた。
 ファンの唸りが遠く感じられるほどの静けさが、サーバ室を包んでいる。
 壁時計の針は午前4時を指していた。
「よし、今日はこれで撤収!」